2024年1月27日土曜日

探究力をはぐくむ授業とは(歴史を学ぶ)

 

   前回は「探究力をはぐくむ理科の授業」というタイトルで、理科授業について考えました。

 今回は社会・歴史の授業について考えてみたいと思います。

 社会の歴史の授業というと、みなさんはどんなことを思い浮かべますか? おそらく、「年号やできごとの暗記ばかり」「どこかのだれかの話を聞かされた時間」といった答えが多いように思います。

私にとって中学・高校の歴史の時間は非常に楽しいものでした。それは私自身が歴史に興味をもっていたことに加え、担当の先生の授業がとても楽しいものだったからです。一つには、授業の冒頭で先生から出される「問い」がとても興味を引くようなものであったことにありました。

戦後初期にはアメリカの経験主義の影響を受けて、課題解決学習が志向されましたが、その後1958年の学習指導要領で、系統主義への転換が図られました。しだいに歴史学研究が精度を上げたために、専門分化による研究成果は教科書の本文の追加やコラムの増量に反映されることになりました。そのため、戦後初期の高校世界史の教科書の索引に収録された用語は1300語程度でしたが、2000年代に入るとそれが約3500語に膨れ上がりました。これにより、世界史・日本史という高校の歴史授業が「大学入試のための暗記科目」になってしまったわけです。当然、中学校の社会科もその趨勢に逆らうことはできませんでした。

しかし一方で、年号やできごとの暗記に終始する授業から抜け出して、生徒一人ひとりが歴史と向き合う授業を模索した教師がいました。長野県の高校教師である小川幸司さんによると、東京都立広尾高校の吉田悟郎さんや都立町田高校などで教壇に立った鈴木亮さんなどがこうした授業に取り組んだとのことです。詳しくは、『世界史とは何か』(岩波新書・2023)102~103ページをご覧ください。

 

先ほどの『世界史とは何か』の著者である小川さんはそうした先達の挑戦の延長線上に2022年度から全国の高校で始まった新教科「歴史総合」を捉えています。(小川さんはこの「歴史総合」の科目を立ち上げる際の中央教育審議会の専門委員として、学習指導要領の作成にかかわりました。)その小川さんが「世界史の主体的な学び」を構想するにあたり、影響を受けた一人として東北大学大学院の小田中直樹さんの名前を挙げています。( 『世界史とは何か』岩波新書・2023年・113ページ)

実はこの小田中さんは2022年に『歴史学のトリセツ』(ちくまプリマ―新書)を出されていますが、その本の第1章「高等学校教科書を読んでみる」の中で次のように書かれています。(22ページから24ページ)

 

教科書は、歴史の専門家である歴史学者が、自分たち歴史学者コミュニティの大多数が事実と認めたことを、歴史の専門家でない生徒や学生のみなさんにむけて「これが事実です」と教え込む、という構造をもっているわけです。  ~途中省略~

専門家によって書かれた事実が並ぶ歴史を一方的に「正しい」知識として受けとることは、面白いでしょうか。それとも、読者ができるのは単なる消費行動としての読書だけなのでイマイチというべきでしょうか。

いろいろ意見はあるだろうと思いますが、ぼくは、ここでもやはり「う~む、ちょっと・・・」です。だって「これって本当なんですか?」といった疑問を感じる余地がないじゃないですか。

 

つまり、専門家集団が認めた歴史叙述をただ他人事として眺めているだけでは、今を歴史主体として生きる生徒・学生には単なる事実の羅列に過ぎないということです。これは以前ここで紹介した『歴史をする(Doing History)(新評論)にも登場した「エイジェンシー」に関わってくることでもありますが、歴史主体の立場から過去のできごとを描くという主体性が学習者にも必要であるということです。

そもそも歴史とは何でしょうか?『歴史をする』には、冒頭に「歴史とは解釈することである」と書かれています。(17ページ)

つまり、誰かによって語られる歴史は、その人の立場、時代性、視点などによって左右されるということです。そうであれば、私たち一人ひとりも歴史を実践している主体そのものですから、私たちが「歴史を学ぶ」ということは、過去の歴史叙述の内容を検討したり、因果関係や類似性、連関性などを探究したりすることにほかなりません。そして、検証や解釈を経て、他者(授業であれば他の生徒や教師)とともに協働して、探究を続けることになります。最終的には、その結果を参照しながら、自分の進むべき道を見いだして、歴史主体として生きることになると思います。この最後の部分を先ほどの小川幸司さんなどは「歴史実践」と呼んでいます。つまり、「歴史叙述」から「歴史実践」に至る一連の活動が社会科における「歴史の授業」であると言えます。

次回は、「歴史叙述」と授業について考えてみたいと思います。

 

 

2024年1月21日日曜日

『「学びの責任」は誰にあるのか』を読んで

 神奈川県の山賀先生が、本を読んでのメモを送ってくれましたので、紹介します。

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 職員室の先生方にこの本を紹介します。子どもたちに「学びを渡す」方法が分かります。一緒に読んでみませんか?

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『「学びの責任」は誰にあるのかー「責任の移行モデル」で授業が変わる』(新評論) 


1.段階的に責任を移行させる

 子どもたちに任せる部分が少ない一斉授業中心の授業では、教師にほぼ100%責任があります。学習計画や目標、学び方、成果物、評価、これをすべて教師がやっている場合です。なるべく失敗させないように、手厚くフォローして、テストの点数を上げ「させる」というのが今までの教育です。

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 P5「効果的な教え方は、教師が段階的に自分のすることを減らし、生徒達が学習の責任をより多く担うように移行することである。生徒たちが段階的により多くの責任を担う。このプロセスによって有能で自立した学習者になって行くのである。」

 「子どもに任せる」のは放任、丸投げではなく、段階的に子どもたちに学びを渡していくイメージです。最終的な目標は、学習内容の理解だけではなく、「自立した学習者」にすることです。そのためには、教師が責任を負っていてはいけないのです。

2.どうやって責任を移行させるか

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出典『「学びの責任」は誰にあるのか: 「責任の移行モデル」で授業が変わる』
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3.それぞれの段階

①焦点を絞った指導

 この段階では、授業の目的を設定することが含まれています。「学習内容」だけではなく、「言語」と「社会的な側面」の目標も含みます。何を学ぶか、どんな言葉を使うか、どんな社会的スキルを身に付けるか★、ということです。そして、子どもたちに実際に見本を示します。行動だけでなく、考え方の見本を見せる「考え聞かせ」をします。
 通常、クラス全体に対して、15分以内で行います。

②教師がガイドする授業

 ほとんど小グループに対して行います。(もうこの時点で一斉授業ではない。)形成的評価を基に編成された同じ目的をもった子どもたちが対象。そのグループに適した情報を、教師は周到に準備します。(いやー結構大変そう…。)

③協働学習

 ①②で学んだことをもとに、友だちと考えや情報について話し合ったり、ほかのメンバーと探究に取り組んだりします。すでに知っていることを応用する段階です。問題に立ち向かうことが協働学習の必要条件なので、順調に課題をこなしているときは、個別学習に取り組ませるほうがよい。

④個別学習

 他人が提供した情報やアイディアに依存しないで、自分で学んでいける段階です。(こうなったら最強だなぁ。)①②が不十分のまま、もしくは、①②がないままに、個別学習に入ると、学びが起こらないし、定着しません。

4.個別学習における教師の役割

 子どもたちが個別学習に取り組んでいる間、教師の役割は、子どもたちを継続的に観察して、フィードバックをすることです。フィードバックは個別学習の間に行われるもので、後に行われるものではありません。フィードバックの種類があります。

①課題についてのフィードバック(矯正のため)

 子どもが間違ったときだけに効果がある。

②課題のなかのプロセスについてのフィードバック

 子どもが使っている方法を分析させるという投げかけをするので、効果的。

③自己調整についてのフィードバック

 生徒の自己効力感を活用する。「あなたが書いたこのレポートからは、一生懸命取り組んだことや学んだことが身に付いていることが伝わっていきます。」自己決定、粘り強さ、レジリエンスなどを伸ばすので、とても効果的。

④その人自身に対するフィードバック

「よくできました!」というただの誉め言葉。ほとんど意味がないどころか、逆効果。

(要約ここまで)

 それぞれの段階でどういうことを心がけるか、どんな実践をすればいいかが書いてあります。ぜひ一緒に読みましょう!

5.考えたこと① 急にはできない!

 何事にも急にはできません。私は、4月から少しずつ子どもに「学びを渡す」ことを続けていたので、3学期の今、自分たちで学ぶことがスムーズに自然にできるようになってきました。この段階を知っているだけで、教師の取り組みもかなり変わります。そして、「この段階は行きつ戻りつ」と書いてあったので、授業のねらいによって、どの段階にするかを考えることが大事だと思いました。

6.考えたこと② 教師の役割が変わる!

 教師は、教室の前に立って教える役割は縮小されます。これからは、教室を歩き回って質問する役割になります。また、教材研究も変わりますね。教え方を一つに決めて考えるのではなく、それぞれの子どもたちに合わせて、様々な情報を集めておく必要があります★★。

出典: https://note.com/enchant_teacher/n/n8cd5bd71f38f

★ SELのことです。https://selnewsletter.blogspot.com/を参照ください。なお、この本の著者たちもSELの本を書いています。https://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html

★★この点については、『教科書をハックする』が参考になります。

2024年1月14日日曜日

OECDが目指す共同エージェンシーの実現

最新のPISAテストの結果では★、日本は読解力で15位から3位に、数学リテラシーで5位に、科学リテラシーで2位にそれぞれランクアップしました。この成果は、他国に比べて短かったコロナ学校閉鎖期間と、教育活動への積極的な対応が大きな要因とされています。日本の生徒は比較的短い期間の学校閉鎖しか経験しておらず、OECD平均の50.3%に対してわずか15.5%でした。これが数学を中心としたPISA評価で高いスコアにつながったと分析されているようです。

OECD生徒の学習到達度調査2022年調査(PISA2022)のポイント

https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf

一方で教育の先進国と呼ばれていたフィンランドの凋落が大変気になるところです。読解力で14位、数学リテラシーで20位、科学リテラシー9位)に。過去最高だった2006年と比べて64ポイントもの大きな落ち込みが見られました。これは数学だけでなく、読解力や科学リテラシーにおいても同様の傾向が見られ、特に読解力では30ポイントの減少が見られました。

そこでフィンランド政府は基礎教育への投資増加、学習を支援するサービスの改革、数学や母国語の教育時間の増加など、教育成果の低下に逆転しようとしています。特に、小学1年生と2年生には、文学と母国語の授業時間が週に2時間増やされ、3年生から6年生には週に1時間の算数が202581日から追加される予定です。今後も注目していく必要があります。

 

 

OECDのラーニング・コンパス2030では★★、PISAテストのスコアを上げることを目的とせずに、個人が自らのウェルビーイングを追求するための「エージェンシー」の能力を強調しています。この概念は、個人が自分の目標を設定し、それに向けて行動し、その過程を振り返り、結果に責任を持つ能力を意味します。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる現代社会の特徴において、このエージェンシーは特に重要です。それは、単に誰かの指示に従うのではなく、主体的に考え、目標を設定し、必要な変化を起こしていくことを要求されるからです。

★★OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030

https://www.oecd.org/education/2030-project/teaching-and-learning/learning/learning-compass-2030/OECD_LEARNING_COMPASS_2030_Concept_note_Japanese.pdf

 

エージェンシーには、個人の社会的責任意識も含まれており、自分の行動が社会にどのような影響を与えるかを理解し、自覚することが求められます。個人が自分自身を振り返り、目的を持って行動することによって、社会全体のウェルビーイングに寄与することができるのです。

ラーニング・コンパスにおいて特にエージェンシーが重視される理由は、従来の教師主導の一方的な授業が、実社会の変化や不確実性への適応に十分でないという危機感からでした(リードビーター2016)。エージェンシーは、個人だけでなく地域や社会との相互関係の中で育ちます。これは直線的なものではなく、協力して発揮される「共同エージェンシー」として理解されます。

 

ロジャー・ハートの梯子モデルは、子どもたちの参加を評価するためのフレームワークで、彼らの意見がどの程度尊重され、実際の決定過程に影響を与えているかを8段階で示しました。子どもたちが単に活動に参加するだけでなく、その活動を主導し、意思決定プロセスに影響を与えることができるレベルまで関与することを目指しています。              



白井俊『OEDE Education2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)P.96

 

OECDは、教育システムにおける学生のエージェンシー育成を推進し、ロジャー・ハートの梯子モデルを改良しています。この取り組みにより、生徒は自らの学習環境と経験に積極的に関与し、教育プロセスにおいて自分の意見を反映させることができるようになります。共同エージェンシーの発揮を通じて、生徒は自分たちのウェルビーイングを追求し、包括的かつ参加的な教育環境を実現し、民主的な社会づくりの一歩を練習することができるのです。





白井俊『OEDE Education2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)P.98

 

エージェンシーを育むことで、個人は自分の人生においてより意味のある選択を行い、社会の中で積極的な役割を果たしていくことができるようになります。生徒たちは未来のあらゆる変化に適応し、よりよい社会をつくる一因となるための基礎を築くことができるのです。

 

 

2024年1月7日日曜日

変化は来ることを確信して

明けましておめでとうございます。また新しい一年が始まりました。本年もよろしくお願いします。


学校に行く機会が増えてきました。コロナ禍で控えられていた接触も普通に戻りつつあり、授業を見る機会、公開の授業研究会に参加することも増えました。その中で、最近実感することは少しづつですが授業の様子が変わりつつあるということです。

英語で言えば、生徒たちが英語を使うことへの抵抗感のようなものが、なくなってきています。先日、参観した高等学校の授業でも、先生が投げかけた結構難しい問いに、生徒たちは英語で議論をしていました。しかも、楽しげに。小グループでのディスカッションやペア・ワークをやっても、実に自然に活動しているように見受けられるのです。

高等学校で、「オーラル・コミュニケーション」という科目が導入され、聞く・話すなど「使える英語」をめざした英語教育改革が本格的にスタートしてのは、1990年代でした。まだ、訳読式の授業が多かったころです。英語授業に関する賛否両論はありながらも★1 、それから約30年。その間、実に様々な施策が実施されてきましたし、学校での教育実践、教育研究の場でも、様々なことが試されてきました。

成功も失敗もあったと思いますが、一つだけ言えることは、当時、掲げられていたビジョンの一部は、教室の中で実現しているということでしょう。一貫したビジョンを掲げ、やり続けることで、変化は必ず訪れる。改めて、それを実感しているところです。

一方で、教育の環境という点でも私たちは様々な変化を目撃しています。

◯生成AIの衝撃
おそらくここ数年でもっとも大きなインパクトがあったのは、ChatGPTに代表される生成AIの登場でしょう。これまで、教室で学習者に求められていたことは、ほぼ全てAIが自然言語で答えることができます。むしろ、大多数の学習者より、優れた解答を出してくれる。少し前までは、AIやコンピューターの発達によって、多くの単純労働が失われるだろうと言われてきましたが、今や単純労働に留まらない。裁判における判例の検索や病例を元にした病気の診断などは、新米弁護士や新米医師よりもAIの方が的確であると言われます。

これを活用しない手はないと思います。危険性がないわけではないでしょうが、新しい、今よりも豊かなものを生み出せる可能性も秘めている。人間にしかできないことは何か、それを見極めたうえで、教室はどう変わっていくべきなのか、考える必要があるのでしょう。しかも、かなり早急に。

◯あふれる学びのリソース
今やYouTubeなどの動画を見れば、ほぼ何でも学ぶことができます。日曜大工的なこと、料理、スポーツ、とにかくジャンルを問わず、必要な情報は、簡単に入手できるのです。2021年佐々木紀彦氏によって創業された、PIVOTという会社は、「ビジネス」+「学び」に特化した映像コンテンツを毎日無料で配信することを目的としています。同社のホームページには、「日本がピボット(方向転換)して、新たな事業や希望を生み出すために大事なのは、「大人がいきいきと学び続けて、自分と時代に合った仕事に挑むこと」だと思います。PIVOTは、日本の社会、企業、個人のピボットを、コンテンツを通じて支援していきます。」とあります。★2 

今は、学ぶためのリソースは、手のひらのうえのスマートフォンで、ほぼ手に入る時代に入りました。そして、それらを使って学ぼうとしている人は、増えていてる。「主体的な学び」などと声を大にして言わなくても、学びたいこと、知りたいことがあれば、いつでも学べる時代なのです。

このような変化の中で、必然的に学校の役割も、教員の役割も変化せざるを得ない。それは、学習者を、より深く、魅力的な学びの入り口にまで案内をするガイド的な役割かもしれない。あるいは、探究心や好奇心を刺激したり、学ぶ意欲を喚起する応援団のような役割かもしれません。あるいは、一人一人の個性や能力、適性を見極めて、一緒に方向性を考えるコーチやメンターのような役割かもしれません。2024年は、教師の役割が、実質的に変容していく節目の年になるかもしれません。

より良い変化。素晴らしいイノベーションをもたらすことができるように、私たちも学び続けたいものです。


★1  平泉渉・渡部昇一 (1995)『英語教育大論争』文春文庫.といった興味深い本も出版されています。

★2 Pivot https://pivot.inc

2023年12月30日土曜日

探究力を育む理科の授業とは

 

 今回は2020年出版の『だれもが<科学者>になれる!』(新評論)を手掛かりに「探究力を育む理科の授業」について考えてみたいと思います。

 第1章「探究―次のフロンティア―」の最後に「探究実践例」として「火星に生命は存在するのか?」が紹介されています。1997年にアメリカの火星探査機によって、火星の表面にかつて大量の水が存在したことがそこで撮影された写真から判明しました。実は、この本の著者であるチャールズ・ピアス先生の小学校5年生の教え子の二人が、その5年前に浸食模型を自分たちで作って、その模型の川床の写真とそれ以前に撮影された火星表面の写真の間に類似性があることに気づきました。そればかりでなく、彼らは水があれば堆積岩があると推測し、生命の痕跡があればその堆積岩の中にあることも示唆していたのです。その5年後に探査機が送ってきた写真は太古の川床と堆積岩らしい岩石があることを示していました。まさに本物の科学者の研究と言っても過言ではありません。これが小学校の理科の時間に子どもたちの探究活動によって生み出されたものなのです。

 私も長年、中学校で理科を担当しましたが、中学校理科はどうしても高校入試を意識して、教え込みの授業スタイルが多くなってしまいがちです。今でもこの点は変わらないように思いますが、「本物の科学者」として生徒が探究する授業づくりは机上の空論なのでしょうか。

 理科の時間を探究中心に変えていくためには、それなりの準備が必要になります。

 まず、「問い」づくりから始めるのがよいでしょう。『だれもが<科学者>になれる!』によると、ここで「クエスチョン・ボード」という仕掛けを用意します。これは教室の一角にホワイトボードを用意して、子どもたちがマーカーを使って自由に思いついた「問い」を書けるようにしたものです。こうすることで、ふと思いついた問いをすぐに書きこめるわけですから、そこにはいろいろな問いが集まってくると思います。それをそのままにしておいては宝の持ち腐れです。

 次にやるべきことは、このボードに書かれた問いを「調べてわかる問い」と「実証できる問い」に分けることです。「調べてわかる問い」とは、本やウェブのなかで、その答えを見つけることができるものです。最初はここに分類される問いの方が多いかもしれません。もう一つの「実証できる問い」とは、子どもたちが観察することや簡単な実験で答えが見つかるものです。この二つをきちんと分類できる力を子どもたちが身に付けていくことは、次の段階で「探究活動」を実践していくために、欠くことのできない力となります。これまでの総合的な学習などで行われてきた活動の多くは「調べてわかる問い」が圧倒的に多かったように思います。日本でも優れた教育実践者はこの「問い」の重要性に気づき、大切にしてきた歴史があります。私が若いころに参考にさせてもらった有田和正さんなどの授業はまさにそうした問いから生まれたものでした。

 私も40代のころ、「問い」の研究に夢中になっていた時がありました。教師の仕事の面白さは授業にあると思いますが、特によい「問い」を見つけられ、私も生徒も前のめりの感じで授業が進んでいった時の喜びは何にも替えがたいものでした。

それから20年以上も経ちますが、かつて考えていた「問い」を思い出すことがあります。以前に理科の教師をしていたときからの問いの一つは次のようなものです。

 

「恐竜が繫栄した白亜紀には大量の植物が地球上を覆いつくしていたが、その原料となる炭素はどこから供給されたのか」

 

その問いを解くカギが最近偶然わかりました。東京大学大気海洋研究所名誉教授の川幡穂高(かわばた・ほたか)さんが『週刊ダイヤモンド』(2023/11/25)の「大人のための最先端理科」に寄稿されていた記事のなかで紹介されていました。

その内容はおおよそ次のようなものです。

地球の表面を覆う地殻の下には、マントルという岩石でできている層があります。これは岩石と言いながらも移動するので、それが大規模に上昇すると地表では火山活動が活発になるという関係があります。ちょうど白亜紀中期はこの活動により当時の大気中には火山から噴出した二酸化炭素で充満していたようです。現在は大気中の二酸化炭素は0.04%程度ですが、当時は0.1%を超えており、これが大量の植物の光合成の原材料となっていたようです。結果として、植物が繁茂し、それを餌にする恐竜が大型化したとのことです。

また、この時代の二酸化炭素過剰の現象が「石油」生成へとつながりました。現在の石油資源の半分はこの白亜紀につくられたもののようです。それを現代の私たちが消費し、その結果、二酸化炭素を大気に放出し、温暖化問題を引き起こしているというわけです。そして、川幡さんのこの記事はこのように締めくくられています。

 

カーボンニュートラルとは、「人類による地球白亜紀化」の流れをストップする活動なのだ。

『週刊ダイヤモンド』(2023/11/25号、73ページ)

 

こういう見方もあったのかと改めて科学(理科)の面白さに気づかされます。およそ1億年前のできごとと現在を結びつけるスケールの大きな問いを理科の授業で扱ってみたいものです。一般的には地質時代ごとの特徴的な化石を順番に確認して終りで済ませてしまうのが定番ですが、「中生代の二酸化炭素濃度の上昇」という切り口から、植物と動物、地球環境・資源などいくつもの視点から問いを追究していくことができます。社会科との関連で言えば、石油資源の偏在による経済の非対称性や先進国とグローバル・サウスとの関係など、まさに今日的な課題にも切り込むことが可能です。

このように「問い」は探究活動の出発点です。ふだんから問いを大切にした授業づくりを考えていきたいものです。

今年1年「PLC便り」をお読みいただきありがとうございました。

また、来年もよろしくお願いします。

2023年12月24日日曜日

「変わること/変えること」を理解する!

 「学校はいろいろな意味で変わらなければならない」と言われ続けています。しかし一方で、何をどう変えていいのか分からない状態も続いています。今回は「何を★」はおいて、「どう」の部分についてです。

 何かを変えたいと思ったときに、どのようなことに気をつけたり、どのように進めていったらいいのかのヒントです。

1. 一つの方法がどこにも、誰にも同じように効果を上げることはない。

 構成メンバーが異なれば、たとえどこかほかで成功した事例でも、そのまま持ってきて成功することは期待薄です。自分なりのアレンジを工夫しなければ。

2. 構成メンバー全員がみんな同じスピードで変わることはあり得ない。

 人は一人ひとり受け入れ方、理解や咀嚼の仕方、アクションの起こし方等、違うので、みんなが同じスピードで同じように変われることはあり得ません。しかし、私たちの進め方の多くは、そのあり得ないことを前提にしています。★★

3. 変化は、個人的なものである。

 教育は、単に頭だけを使うのではなく、心も使います。教えることは、内容を教えるだけでなく、その人をも教えます。ということは、変わること/変えることを求められた人は、自分を変えることを意味しますから、抵抗も予想されます。★★★

4. 変化を、小分けする。

 大きな変化は、脅威に思われがちです。小さく分けることで、脅威は減り、より容易に取り組みやすくなります。それによって、最初に取り組む人たちが、後の人のモデルになったり、サポートすることも可能になります。また、なぜ変わることが必要なのかの理由を明確にしたり、変わることで得られるメリットを確認したりすることも大切です。さらに、異なるスピードで取り組むメンバーにどれだけ寄り添える(個別サポートが提供できる)かがポイントです。これがないとうまくいかないでしょう★★★★。そして、達成できたことは「祝う」(褒める)ことの大切さです。それは、みんなの前で発表してもらったり、何かに書いてもらったりする形でもできます。

5. 関わる人全員のウェルネスを重視する。

 ウェルネスは、身体的な健康のみならず、精神的な健康も視野に入れた捉え方です。具体的には、これまで以上に忙しくしないことを意味します。変えるために何かを増やすなら、減らす必要があるということです。しかし、単に時間面だけでなく、身体的にも精神的にも、ワクワクする/元気になることを大事にしてください。

6. 自分も一緒に取り組む。

 リーダー的な人が支持をするだけで、あとはお任せでは、残りの人たちがやる気になれるはずはありません(よく、校内研修等で、管理職に見られる行動?!)。そうではなく、自分が率先して「変化のモデル」であり続けない限りは。

7. 率先して変わる人たちに「変化の担い手」になってもらう。

 リーダー一人で全部できるはずがありませんから(さらには、学びと変化のコミュニティーをつくるためにも)、変化を率先して起こしている人たちを元気づけ、「変化の担い手」★★★★★になってもらいます。


参考:https://www.eschoolnews.com/educational-leadership/2023/09/18/8-lessons-to-help-school-leaders-manage-change/

★「何を」については(そして、それらを具体的に変える方法についても)、このブログでは継続的に扱ってきました。たとえば、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.htmlなど。

★★この点を含めて、『校長先生という仕事』のパート3「学校の改革の担い手としての校長としての仕事」の第3章に詳しく「変化」ついて書かれていますので、ぜひ参照してください。タイトルは「校長先生」になっていますが、あらゆる集団やチームのリーダー的なポジションにある人が知っておくべき/すべきことが整理されているのがパート3です。

★★★この点については、『SELを成功に導くための五つの要素』がおすすめです。

★★★★この点について、授業で対生徒に行っている『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』で紹介されている「一人ひとりをいかす教え方」と、https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.htmlに書かれている方法が参考になります。別な言葉でいえば、「個別最適な学び」を実現するための具体的な方法です。

★★★★★『「学び」で組織は成長する』の17番目の方法を参照してください。

 

2023年12月17日日曜日

覚えておくと得する「学びの原則」

これまで2回連続で『歴史をする』(の第2章)から紹介した「理論 vs. 実践」のスピンオフです。

 授業をよりよいものにするため、授業を生徒たちにとって忘れられないもの(身につくもの)にするために役立つ理論や原則が紹介されている他の本を紹介します。

 その意味で、3回連続の「学びの原則」の第3弾と言えます。(タイトルは、「覚えておく」だけで実践しなくては得しませんから、「“実践する”と得する学びの原則」がより正しいです!)

①まず、『イン・ザ・ミドル』(特に、第1章)には、著者が「教える(側の)論理」から「学ぶ(側の)論理」に転換した経緯が詳しく紹介されています。教師なら誰もが体験を通してすでに知っていることですが、教師(教科書)が良かれと思って考えたプログラム(一斉指導の指導案や単元案)では、せいぜい教室の3分の1ぐらいの生徒にしか届きません。この本の第2章以降では、著者が「学ぶ(側の)論理」に転換して以降の約30年間の実践が詳しく紹介されています。それに合わせた評価の仕方も(第8章)。

 

②『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』は、教室のなかに座っている生徒たちは、そのレディネスも、もっている興味関心も、学習履歴(もっている知識・情報・体験)も、学び方も学ぶスピード、学んだことの表現の仕方も違うという歴然とした事実からスタートした教育実践です。(これに対して、一斉指導はあたかもこれらすべてが同じと仮定して行われる授業でしょうか?)

 次の図2.2が、このことを分かりやすく描き出しています。あなたが、特に共鳴するものはどれですか? 逆に、反論したくなるものはありますか?


  原則は、図には5つしか書かれていませんが、本文では8つ紹介されており、違いがあるものは次の通りです。

・教師は一人ひとりの違いにしっかり注意を払う

・評価と指導は切り離せない

・生徒の多様性をもとに、内容や方法や成果物を変える ~ 教師が教え、生徒が学ぶ内容や方法、そして学んだ結果を表現する成果物につくり方に選択肢を提供する、という意味です(上の「評価と指導は切り離せない」も実現しています!)

・教師と生徒は学習について協働する

・教師はクラスの到達基準と個人の到達基準のバランスをとる

 

③最後は、これまでこのブログで何回となく紹介したことがある「学びの原則」https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/03/plc_18.htmlです。これは、近年の脳の研究や認知心理学等からわかったことをまとめたものです。

 

他にも、理論、原則、特徴等の観点で、よりよい授業を常に模索し続ける先生におすすめの本には、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』と『「学びの責任」は誰にあるのか』に2冊がありますので参考にしてください。