2026年6月28日日曜日

管理職はもちろん、教師も教育書を読む時間はつくれる!

弁護士も本を読みますし、医者も本を読みます。でも教師や管理職はどうでしょう。「忙しすぎて読む時間なんてない」「授業や学校運営で手一杯で、専門的な読書なんて無理だ」とよく言われます。

しかし、教師や管理職の仕事がいつか落ち着く日を待っていても、その日は来ません。必要なのは、学び続ける姿勢を自分たちがもつことです。生徒には学びを求めるのに、私たち自身にはそれを求めないことが多いです。でも、学校を「学び続ける組織」にしたいなら、まず教師や管理職がその姿を示すことが欠かせません。

『7つの習慣』でスティーブン・コヴィーは、時間をより生産的に使うための「時間管理マトリックス」を示しています。これは、目の前の仕事がどれだけ「緊急」か、そしてどれだけ「重要」かを整理して考えるための枠組みです(PLC便り: トリックスの検索結果参照)。 

管理職も教師も、いわゆる「緊急」の仕事に埋もれがちです。困っている保護者からの電話、急に入る教育委員会の会議、食堂での小競り合いの対応、さらには疲れ切った先生のためにコピー機を直すことまであります。

けれど、教師や管理職として本当に大事な仕事――つまり授業と学びをよくするための仕事――は、目の前の火消しほど急ぎには見えません。管理職や教師は、こうした「緊急ではない」という感覚のせいで、どうしても事務や対外対応など、授業や学びに直接関わらない仕事に多くの時間を取られてしまいます。スタンフォード大学の研究でも、校長が授業に関わる仕事に使っている時間は、全体のわずか13%ほどだと報告されています。

そして、専門的な読書もまさに同じことが起きます。生徒の学びをよくするためには欠かせないのに、残念ながら「緊急」ではありません。

でも幸いなことに、校長をはじめ教師たちは読書を習慣にすることで、その時間を取り戻すことができます。習慣は、「緊急だけれど実はそれほど重要ではない仕事」の誘惑に負けないための、最も強力な方法だと私は思っています。ここでは、ジェームズ・クリアーの『複利で伸びる1つの習慣』の考え方を参考にしています。彼は、科学的な知見に基づいて「習慣を続ける方法」を示しています。私はその考え方を、忙しい学校の先生たちがどうすれば専門的な読書を習慣化できるか、という課題に当てはめてみました。

以下で紹介するのは、私が特に気に入っている「専門的な読書を習慣にするための4つの方法」です。

 

方法1:既存の習慣に新しい習慣をくっつける

新しい習慣を身につけたいときは、すでにある習慣のすぐ後にくっつけると続きやすくなります。「今ある習慣のあとに、新しい習慣をする」という形です。

私は、校長が日常的な短い授業観察を習慣化するために、この方法をうまく使っているのを何度も見てきました。たとえば、毎朝の生徒へのあいさつや、職員室にカバンを置くといういつもの行動の直後に、数分だけ2クラスを見に行く、というようにします。

「毎朝、生徒にあいさつしたら、そのまま(職員室に寄らずに)二つの授業を数分ずつ見に行く」読書を習慣化したい場合も同じです。

  • 「朝コーヒーを淹れたら(すでにある習慣)、この掲載誌『Educational Leadership』の記事を一つだけ読む」
  • 「水曜の夜、娘をサッカー練習に送ったあと、家に帰る前に車の中で専門的な読書をする」

このように、すでにある行動読み始めるきっかけをくっつけることで、読書が自然と生活の一部になっていきます。

 

方法2:わかりやすく、取りかかりやすくする

読書を「やるべきこと」として見える化すると、続けやすくなります。たとえば、枕の上に本を置いておけば、寝る前に必ず目に入ります。または、オンラインで見つけた気になる記事をコピーして、明るい色のフォルダーに入れて持ち歩くのもよい方法です。

会議が遅れたり、どこかで待ち時間ができたりしたとき、そのフォルダーが手元にあればすぐ読めます。「どこかにあったはずの記事をメールから探す」「ネットをスクロールして見つける」といった手間がなくなるので、とても取りかかりやすくなります。

 

方法3:予定に入れる

優れた校長は、授業観察やフィードバックの時間をきちんと予定に組み込み、その時間を大切に扱うよう周囲にも伝えています。ならば、専門的な読書も同じように予定に入れてしまうのがよい方法です。

たとえば、金曜日の9:4510:0015分だけ、読書の時間として確保します。カレンダーに入れたら、その時間になったら静かな場所へ移動します。図書室でも、使われていない理科室でも構いません。

もちろん、ときどき予定が崩れることはあります。でも、年間36週のうち毎週この時間を確保していれば、最初から読書の時間をまったく取らない場合に比べて、読める量は大きく変わります。

 

方法4:仲間をつくる

6時のランニングや夜8時のヨガに行けるのは、「誰かが待っているから」という人は多いものです。この誰かと約束しているから続く仕組みを、専門的な読書にも取り入れられます。

まずはリーダーシップチームと始めてもよいでしょう。

「金曜日に、Educational Leadership(またはあなたが読んでいる別の雑誌)の最新のインストラクショナル・コーチングの記事について話そう。読んで、意見をもってきてね」

あるいは、他校のリーダーたちと月1回のゆるやかな読書会をつくり、教育に関する本を一冊選んで語り合うのもよい方法です。こうした仕組みは、読書の習慣を後押ししてくれるだけでなく、読んだ内容をより深く理解できますし、何より楽しくなります。

 

習慣にする

4つすべてを使う必要はありません。どれか一つ、あなたが「これならできそう」と思えるものを選べばよいのです。

一つの方法。一つの新しい習慣。それだけで、あなたの専門的な読書は確実に広がっていきます。

 

出典・https://ascd.org/blogs/yes-principals-can-make-time-to-read

(書き手は、教育コンサルタントのジェン・デイビッド-ラングで、毎月『The Main Idea』を通して教育関連書の要約を提供し、さらに学校や教育委員会のリーダーたちと「マスターマインド」と呼ばれる学習グループを運営している。)

2026年6月21日日曜日

授業時間を一秒もムダにしない

  あなたの教室や学校では、「説明ないし指示(instructions)」と「実際の学習(instruction)★★★」のどちらに、どれくらい時間を使っているでしょうか。少し計算してみましょう。

もし中学校や高校の教師が、1コマ50分の授業で毎回10分を説明に使い、それが年間180日続くと、合計で36コマ分が「指示を伝える時間」になります。

また、小学校の教師が、1日の流れを説明するのに5分、学習センター★の説明に10分、さらに算数・理科・社会などでさまざまな課題の説明にもう5分使うと、1日あたり約45(あるいはそれ以上)が説明に費やされます。これは年間にすると22日分に相当します。

11回の説明や指示は大した時間に見えませんが、積み重ねると、実際の学習以外のことに使われる時間が大きくなってしまうのです。

 もちろん、生徒が「自分に何が求められているのか」を知ることは大切であり、課題や期待を説明するために時間を使う必要はあります。もし説明が一度で完全に理解されるのであれば、その時間は良い投資と言えるでしょう。しかし実際にはどうでしょうか。教師が説明を終えた直後に、生徒が確認の質問をしてくることはどれくらいありますか。また、課題や活動、宿題に取り組む途中で、追加の説明を必要とする生徒はどれほどいるでしょうか。

Doug がある3年生のクラスを観察したとき、教師は学習センター★で生徒が何をするのかを説明するのに13分を費やしていました。しかも説明を始めたのは、子どもたちが休み時間から戻ってきて4分後のことでした。これらは生徒にとって初めての課題でした。いざ活動を始めようとしたとき、Marco は「どのセンター★に行けばいいの?」と尋ね、Jiovanni は語彙の課題が理解できず手を挙げ、Karina は自分のジャーナルを探して教室内を歩き回っていました。生徒たちが実際に活動を始められたのは、合計17分が経過した後でした。

一方、別のクラスでは、子どもたちが教室に入った瞬間、教師はすぐに行動に移りました。生徒たちに、すでに慣れているタスクを思い出させ、センター★に移動して作業を始めるよう促しました。その後、4人の生徒の名前を呼び、教師の机に来るように指示しました。生徒たちは教室に入ってから2分以内に学習に取りかかっていました。

 生徒が学習に使える時間を最大化するために、優れた教師たちは次の三つのことを実践しています。

  1. 時間通りに始めること。
  2. 授業のために割り当てられた時間をすべて使い切ること。
  3. 生徒が理解し、慣れている一貫した指導方法を活用すること。

 

 最初の二つは、かなり常識的かと思いますので、簡潔バージョンで紹介します。

1. 時間通りに始める

 授業の最初の数分をどう使うかは、学習時間の確保に直結します。実際、多くの生徒は授業開始を待つだけの時間を過ごしており、その積み重ねは大きなロスになります。一方、優れた教師は、授業がスタートした瞬間から学習が始まるようにルーティンを整えています。出欠確認が必要でも、(教師の説明を待たずに)「Do Now」やチャレンジ課題、ジャーナルなど、生徒がすぐ取り組める活動を用意し、待ち時間を最小限にしています。こうした工夫が、年間を通して大きな学習時間の差を生むのです。

2. 1分たりともムダにしない

授業が予定より早く終わってしまうことは、誰にでもあります。しかし、そのときに何の準備もなければ、せっかくの学習時間が失われてしまいます。教育者 Madeline Hunter は、この問題に対して「スポンジ活動(sponge activity)」という言葉を作りました。これは「本来失われてしまう貴重な時間を吸収する学習活動」のことです。彼女は、スポンジ活動には次の二つが必要だと考えていました。

  1. 既習内容の復習に焦点を当てること
  2. 分散練習(繰り返しの練習)の機会を提供すること

優れた教師は、残り数分を「吸収」するための工夫をいくつも持っています。

 

3. ルーティンを確立し、それを使い続ける

授業に唯一の正しい方法があるわけではなく、どんな指導法でもすべての生徒に必ず効果があるとは限りません。しかし、指導のルーティンを頻繁に変えると、生徒は混乱し、何をすればよいのかを説明するために貴重な時間を使わざるを得なくなります。特に小学校では、教師がセンター活動を「新鮮さを保つため」に毎週、あるいは隔週で変えることがよくあります。その結果、生徒は活動に慣れる前に次の新しい活動に移ってしまい、上達する機会がほとんどありません。

例えば、ある2年生の教師はリスニング(聴くことで学ぶ)センターを導入し、毎日同じ手順で使い続けました。変えるのは内容だけで、活動そのものは変えませんでした。教師は最初に、機器の使い方や求められる成果物について丁寧に説明し、生徒が理解できるように時間をかけました。しかし、その後はもう説明する必要がなくなり、何週間も生徒たちは追加説明なしでリスニング・センターに取り組むことができました。

 学校全体でルーティンを統一している場合もあり、一度生徒が覚えれば、どの教師でも同じ方法を使うことができます。私たちが知っているある小学校では、学年ごとに協働学習のルーティンを三つ決め、同じ学年の教師全員がその三つを必ず教えることに合意しました。ほかのルーティンを教えることは自由ですが、この三つは必須とされました。

たとえば、幼稚園年長チーム(日本の小1に相当)が採用したルーティンは次の三つです。

● Busy bees(忙しい蜂たち)

子どもたちはハチの羽音やゆっくりした動きをまねしながら教室内を歩き回り、パートナーを探します。教師が「Busy bees, fly!」と言うと動き始め、「Busy bees, land!」と言った瞬間に近くにいる子がパートナーになります。その相手と、意見交換・質問への回答・簡単な算数などの短い学習活動を行います。

● Language experience(言葉の体験)

子どもたちは、絵や共通体験を説明する言葉やフレーズを出し合い、教師がそれを模造紙に書き留めます。ペアでその言葉を使って文を作り、教師が記録します。次に、教師が文を並べ替えて段落にまとめる過程を示し、子どもたちは発音練習・音読・書き写しを行います。文をカードに書いて段落を組み立て直したり、単語に切り分けて再構成したり、新しい段落を作ったりすることもできます。

● Inside/outside circles(内側と外側のサークル)

内側と外側の二重円をつくり、向かい合って立つ(または座る)活動です。教師が質問を出し、向かい合ったペアが短く意見を交わします。合図があったら外側の円が一つ左に回り、新しい相手と話します。これを数回繰り返します。毎回同じ質問でも、関連する別の質問でもよく、教師のねらいに応じて調整できます。

 

 子どもたちがこの三つのルーティンをしっかり学び、練習していたおかげで、この学校の幼稚園チームは、代替教員が来た日でも授業が途切れずスムーズに進むことに気づきました。さらに、メディア・スペシャリスト(図書担当)や美術の先生も、同じルーティンをそのまま活用できました。

時間がたつにつれ、チームは翌年の1年生の初日がより効率的になることにも気づきました。どの先生のクラスに進級しても、子どもたちはすでに協働の仕方を理解しているため、学習がスムーズに始められるからです。

 

別の例として、サンディエゴの Health Sciences High(健康科学を重視した高校;筆者二人がディレクターを務めている)の教師たちは、生徒全員が身につけるべき五つの協働学習ルーティンを決めました。もちろん、教師が他のルーティンを使うこともできますが、そのたびに説明が必要になり、貴重な時間が失われてしまいます。そこで、次の五つを共通ルーティンとして選びました。

● Reciprocal teaching(互いに教え合う)

4人グループで同じ文章を読み、各自が「要約者」「質問者」「明確化する人」「予測する人」という役割を担当します。これらの役割は、説明文を理解するために必要な方法★★に対応しています。文章は短い区切りに分けられ、グループはその都度立ち止まって話し合います。

● Jigsaw(ジグソー)

生徒は「ホームグループ」と「専門家グループ」の二つに所属します。まずホームグループで文章を分担し、同じ担当をもつ生徒同士が専門家グループに集まります。専門家グループでは自分の担当部分を読み、理解し、ホームグループでどのように教えるかを練習します。その後ホームグループに戻り、互いに専門家グループで学んだことを教え合い、最後に再び専門家グループに戻って、自分の担当が全体の中でどう位置づけられたかを話し合います。

● Discussion roundtable(意見交換ラウンド)

4人グループになり、紙を四つの区画に折ります。まず左上に(読書や動画の感想などの)自分の考えを書き、その後、他のメンバーが話した内容を残りの3区画にメモします。最終的に、グループ全員の視点が一枚の紙に整理されます。

● Text rendering(重要表現の抽出と共有)

文章を読み、重要な点に注目します。読み終えたら、まず「理解に役立つ一文章」を共有し、次に「印象に残ったフレーズ」、最後に「心に響いた一つの言葉」を共有します(それぞれ記録します)。その後、出てきた文章・フレーズ・言葉をもとにグループで内容を深めます。

● Five-word summary(五つの言葉で要約)

文章を読み、内容を表す五つの言葉を選びます。まずペアで話し合って五つの言葉に合意し、次に別のペアと合流して四人で再度五つ言葉を決めます。最後に、その五つの言葉を使ってグループとしての要約文を作成します。

 

 ここで大事なのは、紹介した特定のルーティンをそのまま真似することではありません。むしろ、ルーティンが「instruction(教えること)」と「instructions(やり方の説明)」のバランスにどんな影響を与えるかを考えることです。生徒が「何をすればよいのか」を理解していれば、授業のやり方の説明ではなく、学ぶ内容に集中しやすくなります。

 

時間を味方につける授業 ~ 教師の説明よりも生徒の学びに時間を使う

学習成果を高めるための新しいアイディアは世の中にたくさんあります。しかし、上で紹介したアイディアは、一見シンプルに見えても、実は非常に価値があります。熟練した教師は、時間がどれほど貴重かを理解しており、時間の使い方には自分の価値観や期待が表れることを知っています。説明に時間を掛けすぎたり、もっと悪いのは、生徒を「何かが始まるのを待つだけの時間」に置いてしまうことです。これでは、「学びが大切だ」「与えられた時間を大事にしている」というメッセージは伝わりません。優れた教師は、時間を味方につける方法を理解しており、その結果、生徒はより多くのことを学べるようになるのです。

 *****

 ここでのポイントは、もちろん、教師の説明よりも生徒の学びに時間を使う授業を心がけるということですが、同じレベルで、いくつもの事例で紹介されているように協同/協働学習(日本流に言えば、「対話的(協働的な学び)」)をとってつけたように実践するのではなく、ルーティン化しておくことかと思います。付け足し的な位置づけでは、「対話的(協働的な学び)」の効力は発揮しませんから、やるのが当たり前のレベルに落とし込んでおく必要があります(それこそ、ルーティン化して!)。その意味でも、『「学びの責任」は誰にあるのか』の①焦点を絞った指導、②教師がガイドする指導、③協働学習、④個別学習のバランスが大切になります。 https://projectbetterschool.blogspot.com/2017/11/blog-post_19.html

 このバランスを見いだすことが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」が相乗的に機能する状態になるとさえ言えます(そのほかの方法は、考えられますか?)

 

★学習センターは、教室内に複数(人数にもよりますが、1グループが3~5人ぐらいになるように)の学習センターを設置し、生徒が選んで学べるようにする学習方法です。詳しくは、『一斉授業をハックする』を参照ください。「個別最適な学び」と「協働的な学び」を同時に実現する手立てと考えられるかもしれません。

★★理解(解釈)のための方法には、関連づける、イメージする、質問する、推測する、要約する、何が重要かを判断する、自分の理解をモニタリングし続ける、クリティカルに読むなどが含まれます。詳しく紹介されている本に、『「読む力」はこうしてつける』と『理解するってどういうこと?』があります。

 また、生徒が「互いに教え合う」方法については、同じ著者たちによる『「学びの責任」は誰にあるのか』の145~150ページで詳しく紹介されています。

★★★後者のinstructionは「実際の学習」と訳しましたが、「生徒の学び」の方が理解しやすいと思います。

 

出典・https://www.ascd.org/el/articles/no-instructional-minute-wasted

 執筆者の二人は、共にサンディエゴ州立大学の教育リーダーシップの教授であると同時に、Health Sciences High(健康科学を重視した高校)のディレクター=共同校長を務めており、『「学びの責任」はだれにあるのか』や『学びは、すべてSEL』などの共著者です。

2026年6月14日日曜日

主体性とは、揺れながら相談し続ける力

 主体性という言葉は、教育や保育の中でとても大切にされてきました。その意味を「自分で選ぶこと」「自分で決めること」「自分から行動すること」とだけ捉えてしまうと、子どもの姿を少し狭く見てしまうのではないかと感じています。

 

自分で選び、決め、行動することは大切です。しかし、子どもはいつもはっきりとした意思をもって動いているわけではありません。やりたいけれど不安。入りたいけれど怖い。友だちと同じようにしたいけれど、自分のやり方も捨てたくない。そうした揺れの中にいることがたくさんあります。





 

久保健太さんの『写真と動画でわかる!主体性が湧き出ちゃう保育』を読んで、特に大事だと感じたのは、主体性を二つに分けて考える見方です。一つは「感じる主体性」です。「やりたい」「やりたくない」「なんかいい」「なんか嫌だ」といった感覚が、その子の内側に湧き出ている状態です。もう一つは「考える主体性」です。湧き出てきた感覚を自分なりに確かめながら、するかしないかを決めたり、どのように表すかを調整したりする働きです。

 

これまで主体性というと、後者の「考える主体性」が中心に語られてきました。大人が選択肢を用意し、子どもが選ぶ。子どもが自分で決める。自分から行動する。それは確かに主体性の一部です。ただ、それだけでは、まだ行動として表れていない子どもの内側の動きを見落としてしまいます。

 

冷たい海を前にして立ち止まっている子がいるとします。入りたい。でも冷たい。楽しそう。でも怖い。その子は何もしていないように見えるかもしれません。実際には、世界を感じ、自分の体の声を聞き、自分の中に湧いてくる感覚と向き合っています。そこにも、主体性はあります。

 

主体性を大切にする教育とは、子どもにただ選ばせることではありません。子どもの中から何かが湧き出てくる時間を保障することです。迷う時間、立ち止まる時間、試す時間を奪わないこと。そして、大人がすぐに「こうしなさい」「こっちが正しい」と決めず、その子が何を感じているのかを一緒に受けとめること。

 

子どもが没頭しているときにも、この二つの主体性は重なっています。最初のアイデアが次のアイデアを生みます。やってみたら、また別の考えが出てきます。最初に大人が用意した選択肢をきっかけにしながらも、子どもの中から新しい選択肢が生まれていく。そこでは、「感じること」と「考えて表すこと」が絡み合っています。この状態こそ、主体性が豊かに働いている姿だと教えてもらいました。

 

もう一つ大事なことは、主体性を自己発揮だけで考えないことです。主体的であるというと、自分の思いをどんどん出すことのように思われがちです。実際の子どもの育ちはそれだけではありません。「やりたい」というアクセルだけでなく、「今は止めておこう」「相手はどう感じているだろう」というブレーキも、自分で預かれるようになっていくことが大切だからです。

 

誰かに止められるから我慢するのではなく、自分で感じ、自分で考え、自分で調整する。これは、自己抑制でありながら、同時に主体性の働きでもあります。主体性とは、何でも自分の思い通りにすることではありません。自分の願いと、相手の願いと、その場の状況を感じながら、どうするかを考えていく力なのです。

 

その意味で、主体性は一人で育つものではありません。人との関係の中で育ちます。自分の自由を感じると同時に、相手の自由も感じる。自分のやりたいことを出しながら、友だちのやりたいことにも触れる。そこでぶつかったり、迷ったり、相談したりする。その中で、少しずつ自分たちの決まりをつくっていく。ここに、主体性の育ちがあります。

 

大人は、つい先回りして答えを渡したくなります。「こうすればいいよ」「そこは違うよ」「こうした方が早いよ」と言いたくなります。もちろん、安全に関わる場面では大人の介入が必要です。しかし、子どもの試行錯誤まで奪ってしまうと、主体性が湧き出る余地は小さくなります。

 

主体性とは「自分で決める力」だけではなく、「揺れながら、自分や他者や世界と相談し続ける力」かもしれません。自分の中のさまざまな声と相談する。隣にいる友だちの声と相談する。ここにはいない人の声とも相談する。その中で、自分たちで決めていくことが、主体的に生きることなのだと考えています。

 

教育の中で主体性を大切にするとは、子どもに任せきることではありません。大人が導きすぎることでもありません。子どもの揺れを信じ、関係の中で共に考え、必要な支えを差し出しながら、決まりや学びを一緒につくっていくこと。主体性は、個人の内側に最初から完成した力としてあるのではなく、安心して感じ、迷い、試し、失敗し、誰かと笑い合う関係の中で、少しずつ湧き出てくるものなのだとこの本から学びました。

 

2026年6月7日日曜日

学校の壁を取り払うーネガティブな情報をポジティブに出そう

 地域の小学校で開かれた会議での一コマです。参加者は、教育委員会や地域の有識者など。学校から、本年度の取り組みの概要説明があったあと、質疑応答の時間がありました。


「掃除の時間が週に3回しか計画されていません。子どもたちには、自分の学校を大切に思うようになってほしいので、掃除をさせてほしい。」

「児童の下校時間が、月曜日は14:20に設定されています。大切な週の始まりですよ!他の日は、15:30以降です。あまり早く下校させると、家庭も困るのではないですか?」

「新学期の家庭訪問は無くなったのですか?」

これらの質問に対する学校側の回答は、どれも納得いくものでした。全て教員の働き方改革の一環として、熟慮の上決めたというのです。

子どもたちが自分の学校を掃除して、きれいに保ち、愛着を持てるようにする。そのことの価値は、十分に分かるけれど、少しでも、教員が子どもたちと向き合い、教材と向き合う時間を確保したい。

15:30から勤務時間終了までは、およそ一時間しかない。小学校では、基本的に担任はクラスに張り付いて1日を過ごすので、様々な校務をできるのは、この時間帯しかない。

しかし、今のままでは、学校の現状や今後の進め方について、同僚と意見を交換する時間はほとんど取れない。せめて、週の初めの1日くらいは、自分たちの教育実践を振り返り、課題や成果を共有し、次に向かうエネルギーと指針を得たい。新規採用教員を含めた若年教員の成長を支援するための時間もほしい。

家庭訪問を取りやめる学校は増えているらしい。きっかけは、コロナ禍だったようですが、その後、正式に取りやめる学校が増えた。いわば「昭和スタイル」の家庭訪問は、現在のライフ・スタイルや価値観にそぐわなくなってきているというが理由です。そのために浮いた時間で、子どもたちにとってプラスになることをやりたい。

いずれも、賛否両論あることだと思います。子どもたちや家庭のサポートは、丁寧に、親身に、労を惜しまずやる方がいいに決まっている(と多くの人が思っている)。

しかし、あえて、そのような一時代前の価値観に決別をしたことを支持したいと思ったのです。

その上で、もっと積極的に、このような情報を発信してはどうかと思ったのです。

今回の決断は、一見、後ろ向きに見えるものです。これまで、やってきた、丁寧で、行き届いた配慮を止めるわけですから。ネガティブな情報は、出しづいらいものです。

しかし、その決断が最終的には、教職員一人ひとりの日々の過ごし方を変え、ウエルビーイングを実現するものだとしたら。その確信をもった上で決断したのだとしたら。その決断は、必ず共感を得られるはずです。このことが、学校コミュニティーを創っていく上での、強い味方づくりにつながれば、とても素敵なことです。

学校のリーダーシップの革新を迫った『学校のリーダーシップをハックする』の、ハック4にある、次の一節は、私にとって忘れられないものです ★:

「学校のストーリーを語るのは学校文化をつくることにつながり、学校コミュニティーのメンバーとしての一体感をすべての人にもたせてくれます。リーダーが語り手になること、そして学校の成功を祝おうと決めたときに初めて、学校はルールで縛られた訓練をするだけの場所という保護者の認識が改まり、楽しむべき学習コミュニティーへと転換するのです!学校の壁を取り払えば、あなたの学校とコミュニティーが変わるはずです。」

ネガティブな情報を含めて、学校のことをもっと自ら語るようにすれば、少しづつ学校の壁は崩れていくはずです。



★ ジョー・サンフォリポ&トニー・シナシス (2021) 『学校のリーダーシップをハックするー変えるのはあなた』新評論, p.106. 同書ハック4「学校の壁を取り払う」をご一読ください。