最新のPISAテストの結果では★、日本は読解力で15位から3位に、数学リテラシーで5位に、科学リテラシーで2位にそれぞれランクアップしました。この成果は、他国に比べて短かったコロナ学校閉鎖期間と、教育活動への積極的な対応が大きな要因とされています。日本の生徒は比較的短い期間の学校閉鎖しか経験しておらず、OECD平均の50.3%に対してわずか15.5%でした。これが数学を中心としたPISA評価で高いスコアにつながったと分析されているようです。
★OECD生徒の学習到達度調査2022年調査(PISA2022)のポイント
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf
一方で教育の先進国と呼ばれていたフィンランドの凋落が大変気になるところです。読解力で14位、数学リテラシーで20位、科学リテラシー9位)に。過去最高だった2006年と比べて64ポイントもの大きな落ち込みが見られました。これは数学だけでなく、読解力や科学リテラシーにおいても同様の傾向が見られ、特に読解力では30ポイントの減少が見られました。
そこでフィンランド政府は基礎教育への投資増加、学習を支援するサービスの改革、数学や母国語の教育時間の増加など、教育成果の低下に逆転しようとしています。特に、小学1年生と2年生には、文学と母国語の授業時間が週に2時間増やされ、3年生から6年生には週に1時間の算数が2025年8月1日から追加される予定です。今後も注目していく必要があります。
OECDのラーニング・コンパス2030では★★、PISAテストのスコアを上げることを目的とせずに、個人が自らのウェルビーイングを追求するための「エージェンシー」の能力を強調しています。この概念は、個人が自分の目標を設定し、それに向けて行動し、その過程を振り返り、結果に責任を持つ能力を意味します。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる現代社会の特徴において、このエージェンシーは特に重要です。それは、単に誰かの指示に従うのではなく、主体的に考え、目標を設定し、必要な変化を起こしていくことを要求されるからです。
エージェンシーには、個人の社会的責任意識も含まれており、自分の行動が社会にどのような影響を与えるかを理解し、自覚することが求められます。個人が自分自身を振り返り、目的を持って行動することによって、社会全体のウェルビーイングに寄与することができるのです。
ラーニング・コンパスにおいて特にエージェンシーが重視される理由は、従来の教師主導の一方的な授業が、実社会の変化や不確実性への適応に十分でないという危機感からでした(リードビーター2016)。エージェンシーは、個人だけでなく地域や社会との相互関係の中で育ちます。これは直線的なものではなく、協力して発揮される「共同エージェンシー」として理解されます。
ロジャー・ハートの梯子モデルは、子どもたちの参加を評価するためのフレームワークで、彼らの意見がどの程度尊重され、実際の決定過程に影響を与えているかを8段階で示しました。子どもたちが単に活動に参加するだけでなく、その活動を主導し、意思決定プロセスに影響を与えることができるレベルまで関与することを目指しています。
白井俊『OEDE Education2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)P.96
OECDは、教育システムにおける学生のエージェンシー育成を推進し、ロジャー・ハートの梯子モデルを改良しています。この取り組みにより、生徒は自らの学習環境と経験に積極的に関与し、教育プロセスにおいて自分の意見を反映させることができるようになります。共同エージェンシーの発揮を通じて、生徒は自分たちのウェルビーイングを追求し、包括的かつ参加的な教育環境を実現し、民主的な社会づくりの一歩を練習することができるのです。
白井俊『OEDE Education2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)P.98
エージェンシーを育むことで、個人は自分の人生においてより意味のある選択を行い、社会の中で積極的な役割を果たしていくことができるようになります。生徒たちは未来のあらゆる変化に適応し、よりよい社会をつくる一因となるための基礎を築くことができるのです。
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