教育書を読んでいると、「これはぜひ自分の教室でもやってみたい」と思う実践に出会うことがあります。海外の教育実践について書かれた本から、新しい授業の方法を知ることも増えました。私自身も、そうした本から多くのことを学び、自分の授業に取り入れてきました。
ただ、実際にやってみると、本に書かれていたようにはうまくいかないことが多々あります。そこで、「この実践は日本の子どもには合わない」「自分のクラスでは無理だった」と考えてしまうこともあります。けれども、ここにはもう少し考えてみるべき問題があります。
そもそも、ある国、ある学校、ある教室で成立していた実践を、別の教室へそのまま移すことはできるのでしょうか?
StiglerとHiebertは、授業を「文化的な活動」として捉えています★。私たちは長い学校生活を通して、「授業とはこういうものだ」という暗黙のイメージを身につけています。教師と子どものやり取りや問題の扱い方など、授業の進め方について、教師も子どももある程度共通した「授業の脚本」をもっています。
この視点に立つと、海外の実践を取り入れる難しさが見えてきます。目に見えるやり方だけを持ち込んでも、その活動は、自分たちがすでにもっている「授業の脚本」の中で解釈されてしまうからです。
海外の授業で、子ども同士の話し合いが大切にされていたとします。それを見て、ペアトークやグループ活動を取り入れることはできます。しかし、教師が「正解に早くたどり着くこと」を授業の中心に置いたままであれば、話し合いは単なる答え合わせになるかもしれません。子どもたちも、教師が求めている答えを探す時間として受け取るかもしれません。同じ形を再現しても、同じ実践になるとは限らないのです。
では、海外の実践を学ぶことには意味がないのでしょうか。そうではありません。大切なのは、実践の「形」をそのまま再現することではなく、その実践が何を大切にし、何を実現しようとしているのかを理解することです。
ここで参考になるのが、「fidelity(大事なところを守ること)」と「adaptation(目の前の子どもや教室に合わせて変えること)」という考え方です。DeBargerらは、実践をまったく変更せずに再現することだけを重視するのではなく、その実践の重要な考え方を保ちながら、現場に合わせて調整していく「productive adaptation(生産的適応)」を論じています★★。
教室には、それぞれ異なる子どもがいて、異なる学校文化があります。時間や教材などの条件も違います。実践は、どこかで必ず調整されます。問題は、「変えるか、変えないか」ではありません。「何を守り、何を変えるのか」です。
算数の問題について話し合う実践の目的が、「子どもが他者の考えを手がかりに、自分の考えをつくり直すこと」にあるとします。その場合、グループの人数やワークシートの形式、活動時間まで同じにする必要はないかもしれません。一方で、教師がすぐに考えをまとめたり、一つの正解へ誘導したりすれば、活動の形は残っていても、その実践が大切にしていたものは失われてしまいます。
ここで大切なのは、「守ること」と「変えること」を対立させないことです。私は、実践の形式をそのまま守ることよりも、その実践が果たしていた役割や、背後にある考え方を失わないことの方が重要なのではないかと思います。そのために、活動の形や教材、時間、教師の関わり方を変える必要がある場合もあります。
では、何を守り、何を変えればよいのでしょうか? 海外の実践を読むとき、私はWhy・How・Whatの三つに分けて考えると分かりやすいと思っています。
① Why:なぜ、その実践を行うのか?
Whyは、「子どもにどのような学びを起こしたいのか」「何を大切にしているのか」という、実践の目的や価値です。ここは、その実践の核にあたる部分なので、簡単には変えない方がよいところです。
ただし、Whyは本を読んだだけですぐに分かるとは限りません。実際にやってみて、子どもの姿を見たり、授業を振り返ったりする中で、「この実践が本当に大切にしていたことは何だったのか」が少しずつ見えてくることもあります。Whyは最初に決めて終わるものではなく、実践しながら確かめ、見つけ直していくものでもあります。
② How:その目的を、どのように実現しているのか?
Howは、教師と子どもの関係、学級の文化、教師の働きかけなど、その実践を成立させている条件や原理です。ここは自分の教室に合わせて変えることができますが、Whyとのつながりを考えながら慎重に扱う必要があります。
③ What:具体的に、何をしているのか
Whatは、活動の手順、教材、時間、グループのつくり方など、目に見える実践の形です。ここは、目の前の子どもや学校の状況に合わせて、比較的柔軟に変えることができます。
つまり、海外実践を取り入れるときに大切なのは、Whatをそのまま真似することではありません。Whyを確かめながらHowを考え、Whatを自分の教室に合わせてつくり直していくことです。
そのためには、自分の教室にある暗黙の脚本に気付くことが必要になります。自分の授業には、どのような「当たり前」があるのか。子どもたちは、授業とは何をする場所だと思っているのか。教師である私は、無意識のうちに子どもに何を求めているのか。
海外実践との違いを見ることは、自分たちの授業文化を見直すことでもあります。海外の優れた実践を知ると、ついその方法を手に入れたくなります。しかし、他者の実践から学ぶことは、方法を集めることだけではありません。その実践を手がかりに、自分たちの授業の「当たり前」を問い直すことでもあるのだと思います。
★ ジェームズ・W・スティグラー/ジェームズ・ヒーバート著、湊三郎訳
『日本の算数・数学教育に学べ――米国が注目するjugyou kenkyuu』
日本・ドイツ・アメリカの算数・数学授業を比較し、授業のあり方が文化の中でつくられていることを示した本です。日本の授業研究にも注目し、授業を継続的に研究し、改善していく仕組みの重要性を論じています。
★★ DeBarger, A. H., Choppin, J., Beauvineau, Y., & Moorthy, S. (2013). “Designing for Productive Adaptations of Curriculum Interventions.”
カリキュラムや教育実践を現場に導入するとき、元の実践をそのまま再現するのではなく、その重要な考え方を保ちながら、教室の状況に応じて調整していく「productive adaptation(生産的適応)」について論じた論文です。
あわせて読むなら、Jeffrey Choppin (2013), “Connecting Teaching and Learning in Curriculum Adaptations” もおすすめです。全文8ページと短く、教材をそのまま使うのではなく、子どもの考え方やつまずきに合わせて、学びの大事な部分を残しながら授業を変えていくことの重要性を具体的に考えることができます。