教師という仕事を続けていると、希望を失いそうになることがあります。子どもたち一人ひとりの可能性を大切にしたい。子どもたちが自分で考え、選び、自分たちの力で学びをつくっていける教室にしたい。けれど、目の前には、簡単には変えられない学校の仕組みや、これまでの慣習、日々の仕事に追われる現実があります。「学校はなかなか変わらない」「自分一人が頑張っても、どうにもならない」。そんな思いを抱くこともあるでしょう。
では、教師はどうすれば希望を失わずに仕事を続けていけるのでしょうか? 米国の教育者エリーナ・アギラー(Elena Aguilar)★は、教育情報サイト
Edutopia の記事でこの問いに答えるべく、自分が希望やインスピレーションを得ている本、人物、映像などを紹介しています。彼女が取り上げるのは、困難な状況にあっても、人々とともに行動し、社会に変化を生み出してきた人たちです。そのなかには、日本語で読める本を通して、その経験に触れられる人物もいます。
人々をつなぎ、社会を変える――リーマ・ボウィー
リベリアの平和活動家リーマ・ボウィーは、内戦が続くなか、女性たちを結びつけ、平和を求める運動を率いました。彼女は2011年にノーベル平和賞を受賞しています。その歩みを知ることができるのが、キャロル・ミザーズとの共著『祈りよ力となれ――リーマ・ボウィー自伝』(東方雅美訳、英治出版、2012年)です。
彼女の経験から学べるのは、困難な状況を前にしても、誰かが解決してくれるのを待つのではなく、人々がつながり、力を合わせることで変化を起こせるということです。学校でも、一人の教師ができることには限界があります。しかし、同じ問題意識をもつ仲間と出会い、互いの実践を見合い、対話を重ねることで、それまで難しいと思っていたことが動き始めるかもしれません。変化は、必ずしも大きな組織や制度の決定から始まるわけではないのです。
小さな行動から、変化を生み出す――ワンガリ・マータイ
ケニアの環境活動家ワンガリ・マータイは、植林活動を通して環境保全に取り組み、地域の人々、とりわけ女性たちの力を生かした社会変革を進めました。2004年にはノーベル平和賞を受賞しています。彼女の歩みを知るための本として、次の2冊があります。
- 『へこたれないUNBOWED――ワンガリ・マータイ自伝』(小池百合子訳、小学館、2017年)
- 『モッタイナイで地球は緑になる』(福岡伸一訳、木楽舎、2005年)
マータイの活動が示しているのは、目の前にある大きな問題に圧倒されるのではなく、自分たちにできることから始めることの意味です。一本の木を植えることは、森林破壊や貧困といった問題を一挙に解決するものではありません。それでも、一人ひとりが行動を起こし、その行動が周囲の人々に広がることで、地域社会を変える力になっていきます。
学校でも同じではないでしょうか? 子どもたちが自分で学び方を選ぶ機会をつくる。子どもの考えをじっくり聴く。同僚の教室を訪れ、子どもたちが実際にどのように学んでいるかを見取る。気づいたことを持ち寄り、次の実践を少し変えてみる。
こうした取り組みは、一見すると小さなことかもしれません。しかし、教師と子どもたちの行動が変わり、それが仲間へと広がっていけば、学校のあり方そのものを変えるきっかけになります。大切なのは、変化の必要性を語るだけでなく、実際に行動を起こすこと。そして、行動から得た気づきを次の一歩につなげることです。
対立や不正義に向き合い、未来をつくる――デズモンド・ツツ
南アフリカの宗教指導者デズモンド・ツツは、アパルトヘイトに反対する運動に取り組み、民主化後は和解のためにも力を尽くしました。1984年にノーベル平和賞を受賞しています。アギラーが紹介している著書の一つが、No Future Without Forgiveness です。そのタイトルが伝えるのは、過去の対立や傷つきを抱えたままでは、よりよい未来を築くことが難しいという考え方です。
学校でも、子ども同士の対立や、教師と子どもの間に生じた不信感、教職員同士の意見の違いなど、簡単には解決できない問題があります。そうした問題に対して、誰が悪いのかを決めたり、表面的に収束させたりするだけでは、同じことが繰り返されるかもしれません。必要なのは、何が起きていたのかを理解し、関係を築き直し、これからどうするかを一緒に考えることです。もちろん、和解を求めることは、不正義や不適切な行為を見過ごすことではありません。問題にきちんと向き合いながら、よりよい関係と未来をつくる道を探すことです。★★
希望は、どこから生まれるのか
アギラーが紹介しているのは、ここで取り上げたノーベル平和賞を受賞した人物や本だけではありません。『Walk Out, Walk On』では、世界各地のコミュニティーが、人々のつながりや地域にすでにある力を生かして、困難な状況を乗り越えていく姿が紹介されています。また、希望や社会正義をテーマにしたエッセイや詩のアンソロジー、学生たちが不正義に抗議する姿、思いやりを行動に移す人々なども取り上げています。これらに共通するのは、困難な現実を見ないふりをするのではなく、そのなかで実際に変化を生み出している人々に目を向けていることです。
希望とは、きっと何とかなると信じることだけではありません。人々が行動することで、現実を変えられる。そのことを、実際に変化を生み出してきた人々の経験から学ぶことです。
学校がなかなか変わらないと感じるとき、私たちは、変わらない理由を考えるだけでなく、変化を生み出してきた人々から学ぶこともできます。誰とつながればよいのか? 自分たちにできることは何か? どのような小さな一歩なら、今日から始められるのか? そうした問いを持つことが、次の行動につながります。
そして、行動を起こし、仲間と経験を共有し、そこから学んで次の実践を変えていく。その積み重ねが、希望を単なる気持ちで終わらせず、現実を変える力にしていくのではないでしょうか?
教師が希望やインスピレーションをもち続けるために必要なのは、いつも前向きでいることではありません。困難な現実に向き合いながらも、変化の可能性を信じ、仲間とともに一歩を踏み出すことなのだと思います。
希望を失いそうになったとき、あなたはどうやって希望を取り戻していますか? あなたの信念や希望を支え、力を与えてくれるお気に入りの本(小説でもノンフィクションでも)、映画、詩、動画、音楽、芸術作品などはありますか? もちろん、それ以外のものでもかまいません。ぜひ、あなたのお気に入りを教えてください!(ちなみに、いま思い浮かんだ紹介者のリストは・・・・本は『ギヴァー』(ロイス・ローリー著)、映画は『サン・ジャックへの道』、詩は長田弘の「世界は一冊の本」、動画は https://x.gd/xhVO5 と https://x.gd/PgEIrMでした。)
出典・https://www.edutopia.org/blog/inspirational-materials-teachers-elena-aguilar
★執筆者のアギラーさんのアプローチについては、コーチング便り(https://note.com/coachingletter/m/ma24c24afc5bd)で紹介し続けていますので、覗いてみてください。
★★これを具体的に学校レベルで実践している例が、『生徒指導をハックする』に描かれていますので、ぜひ参考にしてください。




