2026年5月24日日曜日

AI時代に「確かめて読み解く力」を育てる5つの方法

 毎日、正しい情報も誤った情報も大量に流れ込む時代だからこそ、生徒には「何が本当か」を自分で確かめられる力が必要です。

「次の見出しがネット上で話題になっていますが、この中で本当に起きたのはどれでしょう?

  • 「フロリダ沖で人魚が目撃される」
  • AIが生成した画像が主要な写真賞を受賞」
  • 「高校生がChatGPTで全文を書いたエッセイでA評価を取る」

 (ヒント:本当なのは一つだけです。)」

人工知能が数秒で説得力のある文章や画像、さらには動画まで作り出せる時代において、クリティカル★に読む力は欠かせません。今の生徒たちは、これまでのどの世代よりも早く答えを見つけられますが、情報にアクセスできることと、それを理解することは同じではありません。教師にとっての課題は、生徒を「情報を消費する段階」から「情報を問い直す段階」(さらには、「情報をつくり出し、発信する段階」・筆者補記★★)へと導くことです。

AI の登場によって、従来の読解指導の枠組みを、クリティカル・リテラシー★の領域へと拡張する必要があります。これは、さまざまな形式・プラットフォーム・視点にまたがる情報を分析し、評価し、真偽を見極める力のことです。

 

「解読」から「見極め」へ

10年前の課題は、生徒に「ページの上の言葉を読み取らせること」でした。今の課題は、生徒に「世界そのものを読み解かせること」です。

AI ツールは文章を要約したり、言い換えたり、さらには分析しているように見せることもできます。しかし AI は、本当の意味で読み取ったり、証拠を比べたり、偏りを見抜いたりすることはできません。だからこそ、人間の読者である生徒の力が必要であり、教師は生徒が「自分で考える主体としての力」を取り戻す手助けができるのです。

 クリティカル・リテラシーは、すべての情報源を疑うことではありません。本当かどうかを確かめる方法を学ぶことです。この力は、生徒に次のような問いを立てることを教えます。

  • このメッセージは誰が、何のために作ったのか?
  • この話の「このバージョン」には、何が書かれていないのか?
  • これは本物だと、どうやって確かめられるのか?

 クリティカル・リテラシーは、単に情報を評価するだけの力ではありません。生徒が、日々出会うメッセージに対して「問い」、「分析し」、そして 「振り返る」ことを学ぶための力です。AI が当たり前になった世界では、生徒は表面だけを読むのではなく、偏りを見抜き、欠けている視点に気づき、よく考えて倫理的に判断する力が求められます。こうした力があることで、生徒は自分で選択し、自分のまわりの世界を形づくっていくことができるようになります。

 以下に紹介する四つの方法は、生徒が責任をもって考え、情報を見極め、世界とかかわる力を育てる思考習慣★★★づくりに役立ちます。

 

1. 横読み(Lateral reading):ファクトチェッカーのように考える

プロのファクトチェッカーが情報の真偽を確かめるとき、一つの記事を上から下まで読むのではなく、複数の情報源を横に読み比べます。これを「横読み(lateral reading)」と呼び、生徒はどの教科でも練習できます。

やってみよう:

生徒に、ネットで広まった話題の主張を一つ提示します(例:「洪水でできた道路をサメが泳いでいた」など)。そのうえで、生徒に一つの記事をスクロールさせるのではなく、新しいタブを開いて次のような問いを調べさせます。

  • ほかの情報源では何と言っているか?
  • 信頼できるメディアも取り上げているか?
  • 最初にこの主張を出したのは誰か?

ポイント

縦に読むのではなく、横に読み比べるという小さな変化が、「自信ありげに書かれているから信じる」のではなく、「裏付けがあるから信じる」という姿勢を生徒に育てます。

 

2. ディープフェイクを見抜く:画像を文章のように読む力

AI が作り出す画像や動画がますます精巧になる中で、ビジュアル・リテラシー(視覚的なものを見て、何が大切で、何は大切でないかを見極める力)がとても重要になっています。生徒は、文章を読むときと同じように、細部を観察し、本物かどうかを問い、情報を確かめることで、画像を「読む」力を身につけます。

やってみよう:

本物の動画と、AI が作った動画をそれぞれ短く見せます。そのうえで、生徒に次のような手がかりを探させます。

  • 光の当たり方が不自然ではないか?
  • 口の動きと音声がずれていないか?
  • 影が一貫しているか?
  • 背景がゆがんでいないか?

次のステップ

その後、信頼できる確認ツールの使い方を一緒に学びます。こうしたプロセスを通して、生徒は画像や動画も、文章と同じように見極める目で扱うことを学びます。これは、従来のファクトチェックの力と並行して、視覚的な読み取りの力を育てることにつながります。

 

3. 「本物? それともフェイク?」チャレンジ

クリティカル・リテラシーは、本来もっとおもしろく学べるものです。生徒が、実際に出回っているあやしい情報を見分ける練習をすると、信頼できる情報と、誤情報やAIが作った文章を区別する自信がどんどん育っていきます。

やってみよう:

「本物? フェイク?」チャレンジを行います。生徒に、記事・SNSの投稿・AIが作った文章などを持ち寄らせます。小グループで話し合いながら、

  • どれが信頼できる情報か?
  • その理由は何か?

を判断し、最後にグループごとに発表します。

生徒が身につけていくこと

続けていくうちに、生徒は次のようなパターンに気づき始めます。

  • 本物の報道は、確認された情報源をきちんと示している
  • 誤情報は、感情をゆさぶる表現を使ってくることが多い
  • AIが作った文章は、文脈が薄かったり、具体性に欠けたり、感情操作のような表現が混ざることがある

こうした気づきが、生徒の「見極める力」を確かなものにしていきます。

 

4. クリティカル・リテラシーへのAI統合

AIは敵である必要はありません。むしろ、学びのパートナーになり得ます。生徒がAI生成テキストを評価する方法を学ぶと、AIという道具の強みと限界を見極める力が育ちます。これは、生徒が自分の生活の中でAIを責任をもって使うための土台になります。

やってみよう:

生徒にSchoolAIツールを使って1段落の文章を生成させ、その内容を次の観点から分析させます。

  • 正確性はどうか
  • あいまいな表現はないか
  • 偏り(バイアス)は含まれていないか
  • どんな証拠があれば文章がより強くなるか

この活動は、AIを「避けるべきもの」ではなく、評価の対象として扱う道具へと位置づけ直します。そして、最も深い学びはAIが話し終えた後、人間の読者が考え始める瞬間に生まれることを強調します。

 

クリティカル・リテラシーとは、情報があふれる世界で責任ある生き方をするための姿勢です。それは生徒に次のことを求めます。

  • 立ち止まる
  • 問い直す
  • その情報がどう作られ、誰に利益があり、自分の生活にどう影響するかを深く見る

意図をもって情報を読み解く力を身につけることで、生徒はより良い読者になり、日常の意思決定を支える気づきの習慣を育てていきます。

 

どんな場面でも役立つ力

  • 見出しを読むとき
  • SNSをスクロールするとき
  • AI生成コンテンツに触れるとき

クリティカル・リテラシーは、生徒が世界を好奇心と自信をもって歩むための力になります。AIはこれからも進化し続けます。しかし、問い、つなげ、意味づける人間の思考力こそが、いつの時代も究極のリテラシーであり続けます。

 

本物らしさは大切!

冒頭で紹介した見出しをもう一度振り返ってみましょう。どれも少し怪しげに見えますが、そのうち二つ目だけは実際に起きた出来事です──AI生成画像が主要な写真賞を受賞」というものです。これは2023年に起き、作者本人は受賞を辞退しました。

作者の意図は、「本物らしさ(オーセンティシティ)とは何か」について議論を生み出し、人々が自分たちが受け取るコンテンツについて深く考えるきっかけをつくることでした。そしてその試みは見事に成功しました。

 

出典・https://www.edutopia.org/article/teaching-media-literacy-age-ai

 (この記事を書いたキャスリン・ギボンズは、20年以上の経験をもつリーディング・スペシャリストで、ニュージャージー州の Gateway Regional High School712年生)で教えている。18年間にわたり大学院レベルのリテラシー科目も担当し、読みの指導と特別支援教育の実践を基盤に教えてきた。さらに10年間、夏季リテラシー・プログラムを運営し、学校外での読書の楽しさを育んできた。現在の研究テーマは、AI を活用してリテラシー専門職を支援する方法である。私生活では3児の母であり、ランニングを趣味としている。)

 

★クリティカルを「批判的」と訳してしまうと、4分の1ぐらいしか当たっていません。より大きな部分は、「大切なものとそうではないものを見極め(その判断に基づいて行動す)る」ことですから。よく見極めるためには、従来ないし既成の枠組みに基づく視点を鵜吞みにせず、批判的/複眼的にみることは欠かせません。

 クリティカル・リテラシーは、そのことを意識して書かれている『言葉を選ぶ、授業が変わる!』では、「人間関係に内在する力関係、不平等や不公正を理解し、それらを少なくするために行動することを重視した『読む・書く・聞く・話す』を教えたり、学んだりするアプローチ」と注をつけましたが、「テキストや情報を、権力関係・価値観・前提を見抜きながら読み解き、自分の判断で行動につなげる力」としていいかなと思っています。

日本では、こういう視点で国語や他の教科は教えられているでしょうか?

★★この点については、『あなたの授業が子どもと世界を変える』(特に、第7章「生徒は誰もがつくり手(メイカー)~消費することから、つくり出すことへの転換」)をご覧ください。

★★★ 今の学校で「生徒が責任をもって考え、情報を見極め、世界とかかわる力を育てる思考習慣」の練習ができているでしょうか? 興味のある方は、https://wwletter.blogspot.com/2023/05/blog-post.html をご覧ください。

 

紹介者の追記: この記事は去年の暮に用意してありましたが、掲載しそびれていました。その間、紹介者自身のAIへの依存度はますます高まっていることを痛感しています。ほとんどは、ネット上に流通している情報を提供してもら(ったり、整理してもら)うことにしか使っていませんが。それでも、結構インチキ情報を平気で(あたかも正しいものとして)提供してくることがあります。「生成AIが提供してくれる情報だから間違いない」と鵜呑みにしてしまうと危ないと思うことは結構頻繁にあります。既存にあるものの紹介や整理ですら、このレベルですから、生成AIにつくらせた場合は当然それ以上の注意が必要だと思うのですが、あなたはどう思いますか?

2026年5月17日日曜日

「新プロジェクトX~挑戦者たち」で紹介された方法が参考になる!

それは、5月9日の夜に放送された「不屈の酒~福島 日本一への逆転劇」のことです。全国新酒鑑評会の金賞受賞数で9回連続日本一となった福島の酒。しかし、かつては「安いがまずい」とさげすまれていたそうです。そんな状況を打破するため、金賞日本一を目指しライバル同士だった酒蔵たちが結集。研究者とともに技とデータの力合わせた新たな酒造りをはじめたというのです。

 東北地方の5県でも足を引っ張る存在と酷評され、返す言葉がなかった状態だったのを、当初は数軒の酒蔵と研究者が互いの酒を飲み合いコメントし合う会を定期的にもち始めました。最初は、あまりコメントも出なかったようです。しかし、目的ができるだけ多くの金賞を受賞することですから、うまい酒を造らなければならないので、回を重ねるごとにコメント/フィードバックは効果的になっていったそうです。と同時に、参加する酒蔵も増え、そういう地道な努力が結果的に「全国新酒鑑評会の金賞受賞数で9回連続日本一」につながったわけです。

 これを見ながら、私が思ったのは、この方法を教師の授業改善に使えるのでは、ということでした。基本的な状況は、日本の先生たちが行っている授業も、福島県の酒蔵が30年ぐらい前に抱えていた問題と同じです。決して自慢できるものではありません。そういう状況のなかで、全国各地で研究授業+研究協議が行われてきましたが、それが授業をよくするために貢献してきたかというと、ひょっとしたら、まずい授業を維持する役割の方がはるかに大きいのではないかと思ってしまうぐらいです。一斉指導を前提とした指導案や教材研究が大事にされていることからも、明らかです。それは、生徒たちの存在やニーズは二の次、三の次を宣言しているようなものですから!

 それでは、授業をよくし続けるための会はどのようなものなのか?

 ヒントは、福島県の酒蔵と研究者が互いの酒を飲み合いコメントし合う会にあります。それも、「技とデータの力合わせた新たな酒造り」が大きなヒントになります。授業は「技」とは捉えられてきたのかもしれませんが、データの部分が弱いというか、ほぼ皆無の状態が続いてきたと思います。新プロジェクトXの番組ではっきり紹介されていましたが、しっかりした数値がよりよい酒造りの大きなきっかけになっていました。研究者が、「味に関する指標を1%変えるだけで、おいしい酒になります」と言い切り、それを踏まえた酒造りをした結果、確かにおいしい酒ができたのです。また、温度や時間をこれまでは杜氏の「技」だけでやってきたのを、科学的なデータとして考えるようになったことも紹介されていました。

 授業でも「技」の部分は大事であり続けます(なにせ、生徒と教師、生徒と生徒、生徒と学習材とのやりとりで成り立ちますから! さらには、場所と時間、対象と天気等によってやりとりの内容は違ったものになりますし、違わなければなりません!!)が、科学的なデータの部分も大事にしないと、よくなるものがよくならないことも事実です。

 この点で参考になるのが、『インストラクショナル・コーチング』です。特に、「データ」丸一章扱っている第5章は、研究授業+研究協議のあり方自体を変えるヒントを提供しているかもしれません(もちろん、そのような使い方よりも、『インストラクショナル・コーチング』に書かれているほうがはるかに効果的ですが★)!

 

★研究授業+研究協議は問題山積み★★です。その一つは、それがサイクルとして捉えられていないことです。もう何十年も、イベント(1回やったら、それでOK)として捉えられていますが、よくするためには、サイクルにしないと無理です。それは、授業も同じです(https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/01/blog-post_15.html

https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/11/vs.htmlを参照)。授業改善も『インストラクショナル・コーチング』の第4章「インパクト・サイクル」で詳しく説明されているように、サイクルとして取り組まないと!


★★ 研究授業+研究協議が、もう何十年もほとんど何も変更されずに続いていること(同じようなことが他にもたくさんありますが、その代表は大学の授業です。一コマ15時間! それで学びは成立するでしょうか? なぜ大学の先生たちは謀反を起こさないの?!)が不思議でなりません。それほど問題は、多いし大きいです(研究授業+研究協議の問題についてお知りになりたい方は、pro.workshop@gmail.comに連絡ください。)

2026年5月10日日曜日

考えることを楽しむ算数「数学者の時間」のはじまり

 新学期が始まってしばらく経つこの時期、算数の授業でも、子どもたちは少しずつ新しい学年の学び方に慣れてきます。教科書の問題を解き、答え合わせをし、新しい計算や考え方を身につけていく。もちろん、それは算数の大切な学習です。しかし、どこかで「また問題を解いて、また答えを出すのか」という感覚が生まれてくることもあります。できる子は早く終わり、苦手な子は遅れを感じる。算数が「できる/できない」という基準だけで語られてしまうと、考えることそのものの面白さが見えにくくなってしまいます。

そこで、毎年この時期に始めているのが、算数科の「数学者の時間」です。これは子どもたちが小さな数学者として、一つの良問にじっくり向き合う時間です。目指しているのは、単に問題を解けるようにすることではありません。問題と出会い、条件を整理し、試し、失敗し、もう一度考え、友だちと話し、やがて自分なりの説明や新しい問題をつくっていく。その一連の過程を通して、「考えることって面白い」と感じられる算数の時間をつくりたいのです。

最初の単元では、「川渡り問題」に取り組みます。オオカミ、ヤギ、キャベツを川の向こう岸に渡す有名な論理問題です。ただし、船には一度に一人と一つの荷物しか乗せられません。オオカミとヤギを一緒に残すとヤギが食べられてしまい、ヤギとキャベツを一緒に残すとキャベツが食べられてしまいます。この条件の中で、子どもたちは行ったり来たりしながら、最小の手順を探っていきます。



面白いのは、最初からすぐに正解へ向かう子ばかりではないということです。ある子はオオカミの絵を丁寧に描き始め、ある子は「わかった、7回だ」と答えだけを言いに来ます。またある子は、何から書き始めればよいのかわからず、じっと問題文を見つめています。一見するとバラバラな姿ですが、ここにこそ「数学者の時間」の大切な学びがあります。

答えだけを言いに来た子には、「どうしてそう考えたのか、その足跡を数学者ノートに残してみよう」と声をかけます。算数では、答えが合っていること以上に、自分の思考を可視化し、相手に伝わるように整理する「説明のアート」としての側面が重要だからです。また、絵に凝りすぎてしまう子には、「簡単な記号や言葉に置き換えると、もっと考える時間が増えるかもしれないよ」と伝えます。詳しいイラストからシンプルな図へと表現を変えていくことは、思考の道具を獲得していく過程そのものです。問題の意味がつかめない子には、おはじきなどの半具体物を使い、動かしながら一緒に条件を確認します。こうした個別のやり取りから子どもたちのつまずきを見取ることが、教師にとっても次の支援をつくる大切な時間になります。

「数学者の時間」では、一つの問題を解いて終わりにはしません。解けた子には、「条件を変えて、自分でも問題をつくってみよう」と投げかけます。ここから子どもたちは一気に夢中になります。登場人物や船の定員を変えながらオリジナルの問題をつくり始める姿は、これまでの「与えられた問題を解く人」から「問題をつくる人」への大きな転換です。元の構造を深く理解していなければ良い問題はつくれません。問題づくりは、算数の構造を深く見直す高度な学びなのです。

さらに、子どもたちがつくった問題はクラスで「出版」され、友だち同士で解き合います。自分の考えがクラスの学びの素材になる経験は、子どもにとって大きな自信になります。解いた後には、作者に「ここが面白かった」「この条件がよく考えられている」といったファンレターを書きます。互いの思考を認め合い、学びを祝福する時間が教室に流れます。

若い先生方に特にお伝えしたいのは、この実践は「自由にやらせる時間」ではないということです。むしろ、教師の見取りと支援が成否を分けます。丁寧な条件確認、答えだけでなく説明を求める声かけ、図や記号への橋渡し、そして友だち同士が「答えを教え合う」のではなく「一緒に考える」関係になれるよう支えること。こうした小さな手立ての積み重ねが、子どもの安心感につながります。

算数を学ぶ意味は、素早く正解を出すことだけではありません。条件を整理し、見通しを持ち、失敗を恐れず、自分の考えを言葉にする。これらはすべて、算数を通して育てたい大切な生きる力です。「数学者の時間」は、子どもたちにその力を実感させてくれるだけでなく、教師にも授業を違った角度から見直す機会を与えてくれます。教科書を進める日常の中で、ときには一つの問題にじっくり向き合い、子どもたちが考えることそのものを楽しむ時間をつくってみませんか。

興味のある先生がいれば、ぜひコメント欄にてお知らせください。最初の単元「川渡り問題」の3回分の授業実践のモニターを募集しています。子どもたちがどのように考え、どのように夢中になっていくのかを、ぜひ一緒に考え合えたらと願っています。

 

2026年5月3日日曜日

チームの文化と学び

集団には個性がある。これは、教師なら誰でも経験していることだと思います。去年のクラスと今年のクラスは当然異なるし、同じ年度内でも、クラスの様相は実に様々。

新年度の授業が始まって1ヶ月が経過しました。徐々に、クラスの様子が分かってきた頃です。今年一番のポジティブなクラス。ディスカッションをしても、積極的。クラスの仲間を活かそうと、みんなが心掛けているのがよくわかる。一方で、終始よどんだような空気が支配し、居心地の悪いクラスもある。グループ・ワークも停滞気味。もちろん、どんな集団であれ、平等に接するべきだと思いつつ、どうしても良い関係性のあるクラスに肩入れしがち。教師も人間だなあと思う。この違いに効果的に対処できていない自分を責めたりもするけれど、手立ても必死で考える。

私は、授業で、数名の学生リーダーを募り、様々な役割を担ってもらっている。その学生リーダーの持ち味によっても、授業の空気は変わる。とても和やかでいい感じの学びのコミュニティーになることもあれば、最後までしっくりこないこともある。毎年度、良い学びが生まれるコミュニティーづくりを目指してはいるが、その結果は一様ではない。リーダーや構成員によって、学びのコミュニティーの「性格」は変化するように思う。

学びの場は実にダイナミックだと思う。

集団凝縮性(group cohesiveness)という言葉があります。「集団の親密さとメンバーが共有する「私たち」という感覚」と定義されています。★1 思春期から青年期にかけての子どもたちを対象とした大規模な調査によると、学習の成果は、約33%が学習者同志の良好な関係に起因すると報告されているのです。思春期から青年期の若者の学習成果を高めたいのであれば、彼らの「友情」を深めるようにすることが重要だとまで言っています。★2 精神論のように見えますけど、チームづくりの大切さが浮き彫りになる研究のように思います。

「チーム」とは、明確に定義された重要な目標を共有し、強い結束力をもつメンバーによって構成される小集団のことと言われています。強いスポーツチームは、この二つを備えていますね。

学びの集団づくりのヒントも、このあたりにありそうです。集団の結束力やチームワークは、強制して生まれるものではないでしょうから。共通の目標に向かって、共に歩むことが求められる活動やタスクを設定できるか。自分たちが達成したことを、よろこび合えて、祝福しあえる場面をどうつくるか。そのような工夫が求められそうです。

チームが変化し、成長していくプロセスを見るのはとても楽しいことです。そのために、何を、どう仕組んでいくか。教師にとっても、ワクワクする時間ですね。


★1 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.),p.112.

★2.Johnson D.W & Johnson F.P. (2017) Joining Together: Group Theory and Group Skills (12th ed.) New York, Pearson. 同研究については、前掲書 pp.112-113で紹介されています。

2026年4月26日日曜日

学校で教員チームをつくる際の10の真実

 学校のチームは、自分たちの「何を・なぜ・どのように」をつくり上げる時間と、 メンバー同士の関係を築く時間が必要です。

 私★1はこの10年間、教育者のチームに所属したり、効果的なチームをつくろうと試みたりしてきました――成功したこともあれば、そうでないこともありました。そしてこの1年は、チーム開発について多く書いてきました。数年前にあるチームをコーチしたとき、私は自分自身のために、次の「10の真実」を初めて言語化しました。

これらは、困難な状況でもしなやかに、高いパフォーマンスを発揮できるチームをつくるために、自分が何を大切にすべきかを思い出すための指針でした。「真実」と呼ぶことには少しためらいもありましたが、これらの考え方は実際に試され、検証され、チームづくりにおいて他のどんな考えよりも「真実味」を感じています。では、その10項目を紹介します。

1. 学校で働く、あるいは学校と関わるチームは、子どもたちの社会的・感情的・学習面のニーズに応えるために存在する。

私たちが取り組むことは多岐にわたりますし、関わる大人たちのケアも必要です。それでも、私たちが存在する理由は 子どもたちのためです。

2. すべてのチームの中心的な仕事は「学び」である。

リーダーシップチームであれ、データチームであれ、カリキュラム設計チームであれ、あなたの仕事は学び続けることです。学校が直面する山のような課題に少しでも食い込んでいくためには、教育者である私たちが学びを止めないことが唯一の道です。

3. リーダーとしての「あなた自身」が、チームに最も大きな影響を与える。

リーダーのEQは、あらゆる知識やスキルの土台となる鍵です。リーダーは、自分の感情を認識し、扱えるようになる必要があります。そして、他者の感情を認識し、適切に関わる力も求められます。

私たちは 感情と仲良くなる必要があります。感情は存在します。それと戦ったり避けたりすればするほど、状況は複雑になります。感情に正面から向き合うことで、健全なチームづくりや子どもたちのニーズに応えるための前進が可能になるのです★2。

4. すべてのチームは、システムと権力構造の中に存在している。

チームが本当に変革的な力を発揮できるのは、こうしたシステムを理解しているときだけです。権力に目を向けなくても、チームはそこそこの成果を出すことはできます。しかし、もし変革をめざすのであれば、メンバーもリーダーも、権力とは何か、組織や構造(チーム構造を含む)の中でどのように現れるのかについて理解を深める必要があります。不平等を断ち切るためには、この理解が欠かせません。これはとても大きなテーマです。★3

5. チームは、信頼によって力を発揮する。

信頼があると、チームはしなやかで強いコミュニティーになります。だからこそ、チームリーダーは信頼のレベルに細心の注意を払い、意図的に信頼を築く必要があります。信頼はつかみにくく、維持するのも難しいものです。年度当初の「アイスブレイク」のような活動だけで築けるものではありません。大人同士の信頼を育てる計画こそ、リーダーが立てられる最も戦略的なプランのひとつと言えるでしょう。

6. チームづくりには時間がかかる。

チームは、自分たちの「何を」「なぜ」「どのように」を育てるための時間、そして関係性を築くための時間が必要です。

これは避けて通れない厳しい現実です。「チームづくりに必要な時間をどう確保するのか?」その答えは、他のことを削り、優先順位をつけることです。優先すれば、必要な時間は確保できます。

7. 会議の健全さは、チームの健全さを映し出す。

どんな会議でも、最初の10分を観察すれば、そのチーム全体の健康状態がわかります。★4 もしあなたがリードするチームを強くしたいなら、魅力的で、振り返りがあり、意味のある会議をデザインすることに集中してください。

  • 会議で扱う内容が本当に関係のあることになっているか?
  • あなたのリーダーシップに対するフィードバックは得られているか?
  • 参加者が「なぜ集まっているのか」「自分は何をするのか」を理解しているか?

これらを確実にすることが大切です。

そして、会議1時間につき、23時間の準備が必要です(そう、そこまで準備が必要なのです。それが現実です)。

8. チーム全体のEQは、そのパフォーマンスを決める最重要要因である。

この点については、https://selnewsletter.blogspot.com/2026/04/eq.html で詳しく書きました。

9. チームメンバー間のコミュニケーションは、すべてをつなぐ「糸」である。

結局のところ、私たちが「何を言うか」と「どう言うか」に行き着きます。しかし学校のチームは、自分たちがどんなコミュニケーションをめざすのかについて、立ち止まって話し合うことがほとんどありません。裏で愚痴を言ったり、いつも不機嫌な同僚や話を独占する同僚について嘆いたりはしますが、正面から向き合うことはしません。もう向き合う時です。チームのコミュニケーションについて、互いに使う言葉のレベルにまで踏み込んで扱う必要があります★5。

10. コンフリクト(対立)は自然で、普通で、健全にもなり得る。しかし、生産的でない対立はマネジメントが必要である。

そして最後の真実:私たちはコンフリクト(対立)に向き合わなければなりません。チームが集まる場にいつも潜んでいる、あの「見て見ぬふりをされる大きな問題」に★6。

 

 もし、あなたが「学校でのチームづくり」に関して付け加えたいことや疑問・質問があれば、ぜひ教えてください。下のコメント欄でシェアしてもらえると嬉しいです。

 

★1=出典:https://www.edutopia.org/blog/ten-truths-about-building-school-teams-elena-aguilar

 ここの私は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんのことで、彼女が2015年の7月24日に書いた記事です。

★2 これがEQ(いまは、SEL)が大切な理由です。https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=EQ と https://selnewsletter.blogspot.com/ を参照ください。

★3 『教師のためのアート・オブ・コーチング』のハイライトの一つは教員研修をする際に大切な(欠かせない!)6つのレンズを提示してくれていることです。その中に、このシステム思考と権力構造もレンズが含まれています。他の4つは、探究、変化の管理、成人学習、そして感情的知性(EQ)です。日本の教員研修でちゃんと扱われているのはどれでしょうか? 抜け落ちているのが多いと、あまり効果を上げないことを意味します。

★4 同じことは、授業にも教員研修にも言えませんか?

★5 これに役立つのが『好奇心のパワー:コミュニケーションが変わる』ですので、ぜひ参考にしてください。

★6 これには『生徒指導をハックする:育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』が役に立ちます。

2026年4月19日日曜日

教師の力を引き出すチームの5つの特徴

学校を変革へと導く力のあるリーダーシップチームを育てるヒントを紹介します

 

 私★★は最近、「学校の中でのよいチームとは何か」についてよく考えています。これから私自身の考えを少し共有しますが、ぜひあなたの意見も聞かせてほしいと思います。

正直に言うと、私が「チームの力」を信じられるようになるまでには、かなり時間がかかりました。つい最近まで、私はチームで良い経験をしてこなかったのです。一人でやったほうが、必要なものをより良く、より早く作れると感じていました。チームで仕事をすると、いつもプロセスが遅くて、面倒に思えてしまったのです。結局、自分が(任されるか、自分で引き受けるかして)仕事の大部分を担うことが多いと感じていました。そもそも、どんなチームが「よく機能するチーム」なのか、どう協働すればいいのか、そしてチームで働くことにどんな利点があるのか、よくわかっていなかったのです。

 しかしここ数年、いくつかの異なるチームでの経験が、私の考えを大きく変えました。今の私は、「よいチームをどうつくり、どう育てていくのか」、そしてその過程でコーチやファシリテーターがどんな具体的な働きかけをしているのかを明らかにしたいと思うようになっています。学校を変革できるような、力のあるチームをどう育てられるのかを探りたいのです。

なぜ力を生み出すチームが重要なのか

私たちが「よいチーム」についての考え方や実践を言語化する必要があると思う理由は、次のとおりです。

学校の中に「強いチーム」があることは、教師を定着させ、長く働き続けてもらうために欠かせない!

離職率の低い学校(たとえ都市部の厳しい環境であっても)では、教師たちは同僚とのつながりや支えを感じていると語ります。また、自分が「同じ使命を果たそうとしている仲間の一員だ」と感じられるとも言います。こうした文脈で生まれる感情こそ、困難な取り組みに長く関わり続ける力になります。今、公教育はとても厳しい状況にあります。だからこそ、私たちには、感情的なレジリエンスを育てる仕組み(強いチームなど)が必要なのです。

効果的に機能するチームであれば、メンバーは互いから学び合える。

一人では到底できないようなことを達成できます。互いに刺激を与え、挑戦し合うこともできます。個々の強みを最大限にいかすことができ、苦手なことを無理に一人で抱え込む必要もありません。これは、学校改革のような大きなプロジェクトに取り組むうえで、とても効率的なアプローチであり、何より気持ちがいいものです。

 

良いチームとは何か?

私が考える「良いチーム」の主な特徴をいくつか挙げます★。

1. 良いチームは、自分たちが「なぜ存在するのか」を知っている。

「私たちは6年生担当の教師チームです」と言うだけでは不十分です。それは単に属性(同じ学年を教えている)を示しているだけであって、チームが存在する理由ではありません。チームとしての存在目的の一例は、次のようなものかもしれません。
「私たちは互いを支え合い、学び合い、6年生の子どもたちのニーズによりよく応える方法を見つけるために集まっています。」それを「目的」と呼んでも「ミッション」と呼んでも構いません。大切なのは、参加する人が「また会議か」という義務感で集まるのではなく、その目的が自分にとって意味があり、価値があり、明確であると感じられることです。

2. 良いチームは、学びの場をつくる。

学校で働く私たちがチームとして集まる理由はさまざまですが、私はそのどれにも「互いに学び合う機会」が含まれているべきだと考えています。学びたくない教育者に、私はほとんど出会ったことがありません。私たちは本来とても好奇心が強く、教育について学ぶべきことは尽きません。だからこそ、よく機能するチームでは、安心できる文脈の中で学びが起こります。失敗してもいいし、リスクを取って挑戦してもいいし、どんな質問でも遠慮なく投げかけることができます。

3. 良いチームには、健全な対立がある。

もし私たちが一緒に学び、何かのプロジェクトに取り組んでいるのであれば、意見のぶつかり合いは避けられないし、むしろ不可欠です。アイディアについて異なる見方をし、建設的な対話や異議が交わされ、互いの思考が押し広げられていきます。

4. 良いチームのメンバーは、互いを信頼している。

信頼があるということは、避けられない対立が起きたときにも、それをきちんと扱えるということです。メンバー同士が互いをよく知り、耳を傾け合い、どのように関わり合うかについて合意をもち、その合意を大切にしながら活動します。また、ファシリテーターのように、場の安全性を確保する役割を担う人もいます。さらに、信頼を育むためには、強いチームの中で公平な参加意思決定の共有が見られることが重要です。そこには、社会に存在する不平等なパターン(たとえば、男性が発言を支配するような構造)が再現されることはありません。

5. 良いチームには、ファシリテーターやリーダー、またはリーダーシップを共有する仕組みがある。

チームには、舵を取る人――あるいは持ち回りでその役割を担う人――が存在します。そのおかげで、チームが高いレベルで機能するために欠かせない、意図的な運営・計画・その場でのファシリテーションが確保されます。

 

次に何をするのか?

この最後のポイントこそ、私がこの秋ずっと考えてきたテーマです。良いチームリーダーは何をするのか? 具体的にどのようにファシリテートするのか? リーダーシップはどのようにローテーションしたり、共有したりできるのか?

私は今、素晴らしいインストラクショナル・コーチのチームと一緒に働いており、私たちはこの問いについて共に考えています。このチームの存在には本当に感謝しています。

私たちは現在、コーチのための「ファシリテーション・ルーブリック」を作成しています。これは、学びにとって目的が明確で安全なチームを育て、私たちが支える子どもたちの成果や経験をより良くするために、コーチがどんな具体的な働きかけをしているのかを特定し、言語化するツールです。このツールが私たち自身の実践に役立つだけでなく、他の人にも有益なものになることを願っています。

 次の投稿では、私たちが行っているファシリテーションの具体的な工夫について紹介する予定です。その間に、ぜひコメント欄で、あなたが「よく機能するチーム」で働いた経験や、「良いチームとは何か」についての考えを共有してください。

 

★「良いチームの特徴」で思い出すのは、IT大手のグーグルが実施したプロジェクト・アリストテレスというプロジェクトを2012年に実施していたことです。そこでは、次の5つの条件が挙げられました。

  1. 心理的安全性(安心して発言・質問・失敗できる)
  2. 信頼性(メンバーが責任を果たす)
  3. 構造と明確さ(役割・目標・計画が明確)
  4. 仕事の意味(個人にとって意義がある)
  5. 仕事の影響(自分の仕事が価値を生んでいると感じる)

なお、グーグルはその前に「よいリーダーとはどんな特徴をもっているか」を明らかにするProject Oxygen(プロジェクト・オキシジェン)も行っており、次の8つが挙がっていました。

  1. よきコーチである。
  2. チームを後押し、細かいマネジメントはしない。
  3. チームのメンバーの成功や生活に対し、関心がある。
  4. 臆病にならない――生産的で結果主義である。
  5. よいコミュニケーター――とくに、よい聞き手である。
  6. 部下のキャリア形成を助ける。
  7. 明確なビジョンと戦略をもっている。
  8. チームにアドバイスできるだけの技術的な専門知識をもっている。(出典:『最高の授業~スパイダー討論が教室を変える』の20~24ページを参照)

 

★★=出典: https://www.edutopia.org/blog/5-characteristics-effective-school-team-elena-aguilar

 この記事は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんが2015年の6月22日に書いた記事です。SEL便りで紹介した「学校で『機能するチーム』をつくる鍵 ― 感情的知性(EQ)」https://selnewsletter.blogspot.com/2026/04/eq.html)も参考になりますので、ぜひご覧ください。

2026年4月12日日曜日

安心して『まちがえ』や『わからない』を出せるために よい聴き手を育てる前に大切な事

怒濤の新学期が始まり、ちょうど一週間が過ぎた頃ですね。多くの先生方が、少しずつ疲れを感じ始めている時期ではないでしょうか。僕もまったく同じです。学期の初めは、学級のルールを決めたり、子どもたち同士の関係づくりを進めたり、とても密度の濃い時間が続きます。その分、子どもたちとの関わりに、たくさんのエネルギーを使ってこられたことと思います。

学校生活はこれから一年間続いていきます。最初の頑張りをそのまま保ち続けるのは、なかなか難しいもの。だからこそ、この時期に大切にしたいのは、無理を重ねることではなく、日々の授業を少しずつ豊かにしていくことです。毎日の積み重ねの中で、子どもたちの学びが深まっていくような土台をつくっていきたいところ。

その土台として欠かせないのが、「ききあう」という営みです。子どもたち同士が互いの考えに耳を傾け、受け取り、言葉を返していく。そのやりとりの積み重ねが、関係を育て、学びをより深いものにしていきます。教室の安定や成長は、こうした日々の小さな関わりの中から生まれてくるのだと思うのです。

子ども同士の対話を考えるとき、東京大学准教授の一柳智紀さんから学んだ「発表的会話」と「探索的会話」という二つの見方が参考になります★。発表的会話は、考えを整理して分かりやすく伝えるやりとりです。まずは、よくある「教える/教わる」関係になりやすい例を見てみましょう

Aさん「この計算、よくわからないんだけど…(2517を示しながら)」

Bさん「2517を足すだけだよ。まず5712になるでしょ。そして、2を書いて1をくり上げる。簡単じゃん!」

Aさん「うん

Bさん「次に2114になるから答えは42。こうやればできるはず」

Aさん「そう、そうなんだ(じつはまだよくわからない)」

「できた人が説明する」という場面は、まさにこれにあたります。考えをまとめる力や伝える力を育てるうえでは、とても大切な時間です。ただ、このやりとりだけに偏ってしまうと、「正しい答えを発表する場」になりやすく、考えの途中にいる子どもたちの思考が表に出にくくなってしまいます。

それに対して、探索的会話は、まだまとまりきっていない考えを出し合いながら、少しずつ理解をつくっていくやりとりです。

Aさん「この計算、よくわからないんだけど2517を示しながら)」

Bさん「じゃあ、一緒に考えよう。2517を足すんだよね。まず、どこからたすんだっけ?」

Aさん「うーん、57から? だから12、かな」

Bさん「うんうん、12だね。5712。それで、次にどうするんだっけ?」

Aさん「2を答えに書くでしょ。繰り上がりどうするんだっけ?」

Bさん「うーんと、1をくり上げるんだったよね。で、残りは十の位の21

Aさん「くり上がりがあるから、211で、4になるの?」

Bさん「そうそう!そうだね。4になる。だから答えは…」

Aさん「あぁ!42だ。自分でも少しわかってきた!」

「うーん、こうかな」「ちょっと違うかも」といった迷いや試行錯誤を含んだ言葉が行き交います。結論を急ぐのではなく、過程を共有しながら、一緒に考えをつくっていく時間です。子どもたちの思考が本当に動いているのは、こうした場面だと感じることが多いのではないでしょうか。

ここで一つ考えてみたいのが「良い聞き手」とは何かということです。たとえば、分からない問題に出会ったAさんに対して、Bさんが「じゃあ一緒に考えよう」と声をかけ、少しずつ考えを引き出していく場面があります。Bさんは答えを教えるのではなく、「次はどうするんだっけ?」と問いかけながら、Aさんの理解を支えています。

こうした姿を見ると「Bさんのような聞き方を育てたい」と思うのは自然なことです。しかし、ここで見落としてはいけないのは、そもそもAさんが「よく分からない」と言えていることです。この一言があるからこそ、対話が始まり、学びが動き出します。

もし、分からないことを言いにくい教室だったらどうでしょうか。

まちがいを避けたり、できているふりをしたりする中では、このようなやりとりは生まれません。だからこそ、本当に大切なのは「良い聴き手を育てること」だけではなく、「分からないと言っても大丈夫だと思える教室をつくること」です。

人とちがう考えでもいい。途中の考えでもいい。はっきり分からなくてもいい。そうした思いをそのまま出せる安心感があるとき、子どもたちは少しずつ言葉を出し始めます。そして、その声に応じて周りの子どもたちが関わることで、探索的に対話が自然と深まっていきます。

そのために、まずできることはとてもシンプルです。小さな声でもきちんと届く「(音として)聞く」教室をつくることです。静かにしてから話し始めるという基本を大切にし、一人ひとりの声を丁寧に受け止めていくこと。そして何より、教師自身が子どもたちの言葉を受け止めて「(受容的に)聴く」姿を見せていくことです。

新学期で忙しい日々が続く中ではありますが、授業づくりを考えるとき、こうした「ききあい」を少しずつ練習し、積み重ねていくことが、結果的に教室全体の学びを支えていきます。焦らず、一歩ずつ取り組んでいければと思います。教室の中に、あたたかな「ききあい」の文化が育っていくことを願っています。

子ども同士の対話の質を問い直す「発表的会話」と「探索的会話」

https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/09/blog-post_14.html