先週に引き続き、AI時代における教え方と評価(フィードバック)の仕方がテーマ★6です。
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1949年、教育学者ラルフ・タイラーは、今でも教師に響く二つの問いを投げかけました。「私は生徒に何を学んでほしいのか?」「その学びをどう証明できれば、学んだと言えるのか?」★1
タイラーの問いは、20世紀のカリキュラム設計を方向づけました。つまり、明確な目標を定め、その達成度を評価するという考え方です★1。当時は、知識の習得や暗記、手順の正確さが重視されていたため、このモデルはうまく機能していました。しかし現在では、タイラーの二つ目の問い――「学びの証拠として何を認めるのか」――に答えるのが難しくなっています。★2
AIが発達した今、生徒はエッセイを書いたり、数学の問題を解いたり、ビジュアルを作ったりと、生成AIを使って多くの成果物を作れてしまいます。そのため、何を評価するのか、どう評価するのか、そして何を「学びの証拠」とみなすのかを見直す必要があります。こうした環境では、単なる知識ではなく、考える力、問いを立てる力、解釈する力、状況に応じて適応する力がこれまで以上に重要になっています。★2
以下に紹介するのが、AIと共に学ぶ時代に、学習者が自立して判断し、選び取り、行動するための基盤スキルです。
1. インフォメーション・リテラシー(情報リテラシー)
情報を探し、評価し、責任をもって活用する力。信頼できる情報と、AIが生み出すノイズや誤情報を見分ける助けになる。
2. データ・リテラシー
データを読み取り、分析し、意味のある形で伝える力。AIが示す統計や傾向を鵜呑みにせず、誤解を見抜き、判断できるようになる。
3. 質問する力
目的に応じて、焦点の定まったオープン/クローズドな質問をつくる力。AIとの対話を深め、自分の学びを主体的に進めるために不可欠。
4. プロンプト★3・エンジニアリング
AIに正確で明確な指示を出し、望む結果を得るための入力の仕方を工夫する力。自分の目的に合った回答を引き出すためのコミュニケーション能力。
5. 対話力(ダイアログ)
AIとやり取りを重ねながら、意味を深めたり考えを整理したりする力。質問→回答→再質問の往復で理解を深めていく。
6. 検証する力(ベリフィケーション)
AIが出した情報の正確性・信頼性・出典を確かめる力。偏りや誤情報を見抜くためのクリティカルな姿勢を育てる。
7. クリティカルな解釈力
AIの出力を、論理性・明確さ・関連性の観点から読み解く力。表面的に受け取るのではなく、内容の妥当性を判断する。
8. 好奇心
不確かさを探求し、新しい知識を求め続ける姿勢。AIを「近道」ではなく、思考を広げる道具として使うための原動力。
9. メタ認知
自分の考え方を振り返り、必要に応じて学び方を調整する力。AIを「いつ・どのように使うか」を自分で判断できるようになる。
10. 認知的柔軟性(コグニティブ・フレキシビリティ)
考え方を切り替え、視点を変え、複数のアプローチで問題に向き合う力。状況や目的が変わっても、創造的かつしなやかにAIを活用できる。
これらのスキルが教える/評価する際に意味するもの
AIに関するこれらのスキルは、従来の学習基準に“追加”されるものではありません。今や、生徒が学ぶべき基盤そのものになっています。その力を育てるためには、教師は「何を教えるか」「どう評価するか」を見直す必要があります。エッセイ、テスト、プロジェクトなどの従来型の課題にも価値はありますが、AIにプロンプトを出す、AIの出力をクリティカル★4に検討する、学習プロセスを振り返るといったタスクを重ねていくことが求められます。
授業設計には、生徒がAIを意図的かつ責任をもって使う方法を組み込む必要があります。生徒には、自分がしていることを説明するように促すべきです。
- どのようにAIを使って思考を始めたのか
- AIの出力のどの部分を採用し、どの部分を却下・修正したのか
- 追加でどんな検証を行ったのか
評価基準やルーブリックも変わらなければなりません。最終成果物だけでなく、生徒のプロンプトの質、修正の論理性、仲間との対話で示した思考の筋道などを評価することが考えられます。★5
出典: https://www.ascd.org/el/articles/10-ai-skills-every-student-needs
(この記事を書いたダグラス・フィッシャーとナンシー・フレイには、『「学びの責任」は誰にあるのか : 「責任の移行モデル」で授業が変わる』『学びは、すべてSEL : 教科指導のなかで育む感情と社会性』『コレクティブ・エフィカシー : 自立的で相互依存的な学習者を育てる』『学校に対話と尊重の文化をつくる修復的実践プレイブック』の邦訳本が出ています。)
★1 これらの問いが掲載されているのは、『現代カリキュラム研究の基礎 : 教育課程編成のための』R.W.タイラー著、金子孫市監訳、日本教育経営協会、1978年です。カリキュラム設計と、明確な目標を定めて教えた/学んだことをしっかり評価しているかを今の日本がどれだけ行えているかは、はなはだ怪しいです!
★2 日本では、「学びの証拠として何を認めるのか」に答えるのは難しくなっているでしょうか? 何を評価するのか、どう評価するのか、そして何を「学びの証拠」とみなすのかを見直す動きはあるでしょうか? 単なる知識ではなく、考える力、問いを立てる力、解釈する力、状況に応じて適応する力にどれだけ目が行っているでしょうか?
★3 プロンプトとは、教師が生徒に、あるいはAIにしてほしいことを伝えるための“指示文”や“お願いの言葉”や質問のことです。対AIということでは、プロンプトは単なる技術ではなく、①自分の目的を言語化する、②必要な情報を選び取る、③AIを道具として主体的に使う、という学習者の思考そのものを可視化する行為です。
★4 上の6番目と7番目にある「クリティカル」も同じですが、下の箇条書きの2番目と3番目の項目などを含むので、単に「批判的」と辞書訳してしまうと誤りになります。autonomyを辞書訳した「自律」がほとんどの場合、誤りなのと同じように! ほとんどの場合、「自立」の方が妥当です。子どもたちに過剰に「自分を律すること」を教えるべきではありませんから、
★5 本文には一切登場しませんでしたが、すでに「テスト」という形式は評価の形態として過去のものと思った方がよさそうです。
★6 日本で、このテーマはほとんど脚光を浴びませんが、欧米ではここ2~3年スゴイ量の情報が飛び交っています。
