これまで、数ヶ月にわたり、学ぶことのエンゲージメントについて考えてきました。★1 ここ数年、注目されてきてもいますし、これからの教育を考えていくうえで、キーとなる考え方だろうと思います。エンゲージメントが生じているかどうかが、主体的な学びの中核にあると言えるでしょう。
2025年7月6日日曜日
エンゲージメントを探し求める旅
2025年4月6日日曜日
エンゲージメントを実現するための教師の行動
これまで、数回にわたって学習者のエンゲージメントについて考えてきました。★1 今回は、そのまとめ。生徒たちのエンゲージメントを実現するために教師はどのように行動すべきかということを考えたいと思います。
先日、仲間の英語教員と、エンゲージメントに関する本のブック・クラブをやりました。参加者の一人、高校教員の振り返りです:
「エンゲージメントとは?という問いに戻って、もう一度1章を見直したことでした。生徒に何ができるようになってほしいか、何を考えてほしいか、を考えてゴールを設定しますが、夢中になっているか?満足しているか?を踏まえて授業を考えていたかと言われれば、Yesと言えません。教科書を進めること、単元末のゴールとなる活動をやりきることに必死になっていることの方が多いです。教科書の内容をどう進めるのか、評価や定期テストのためではなく、エンゲージメントのための授業づくりをする時間が欲しい。。。今、次年度の「論理・表現」★2 の授業を変えようと勤務校の英語科教員で話し合っています。定期テストはなくてもいいかも? 教科書は必要か?など、話し始めたところです。」
エンゲージメントという考え方の大切さは分かるけれど、自分自身の授業の中で、実現できているのか確信がもてないでいるようです。「今でもそれなりにがんばっている。この上にさらに何ができるんだろうか」といった声もありました。
これまで参照してきた、マーサーさんとドルニュイさんは、エンゲージメントを生み出すマインドセットを、生徒たちの中に創り出すために、教師が行動すべき5つのことを紹介しています。★3
行動1 コーチのように考え、行動する
学習者が自らの力で、目標を達成できるように、パートナーして行動する。あくまで、目標達成の主体者は学習者本人。
行動2 学習者の進歩を可視化する
学習者に進歩を実感させること。それにより、満足感や有能感をもたせる。
行動3 信念について明示的 ★4 に話し合う
学習についての、後ろ向きな考え方をやめさせ、前向きで健全な考え方を育む。
行動4 選択や意見を取り入れる
学習のプロセスに、学習者自身の選択や意見を組み込むことで、学びへの自律性と積極性を育てる。
行動5 学び方を教える
自分の学び方の特徴、学習課題の性質、効果的な学習ストラテジーへの意識を高める。
ここから、見えてくるのは、生徒たちが学びに対する主体者意識や当事者意識、あるいは、自らがコントロールしているといった感覚がもてるようにするために、生徒との対話を進めていく、そのような姿でしょうか。従来であれば、教師が生徒に伝えて(押し付けて)いたようなことを、生徒自身が自分自身で見出し、自分自身の学びの世界を切り開いていく。それを教師が後押ししていくといったイメージが浮かびます。
これらの行動を、授業の中でどうやって実現していけば良いのか、まずは探っていく必要がありそうです。
先に紹介したブッククラブのメンバーは、経験サンプリング★5 という方法を使って、授業中の生徒たちのエンゲージメントがどのような場面で高まり、どのような場面で低下するか、そのタイミングを探ってみることにしました。その結果をもとに、これからの授業づくりを考えていきたいと言っています。教師のエンゲージメントの探究の始まりです。
メンバーの一人は、エンゲージメントに関するブッククラブの振り返りで、次のように書いています:
「本当に授業が楽しかった時は、授業の後に、「今日の授業たのしかったぁ」と言ってくれる子がいます。また、年度末や異動で変わる時にメッセージで授業のことを書いてくれる子がいます。色々と工夫してがんばって授業をしていたことは子ども達は見てくれています。」
子供たちが夢中で授業に取り組む姿をみることが、教師のエンゲージメントにつながる。これは、いつの時代でも不変の真実のようです。
★1 PLC便り
2025年2月 「エンゲージメントの周辺」
https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/02/blog-post.html
2025年3月 「エンゲージメントを決定づける要因」 https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/03/blog-post.html
★2 現行の学習指導要領にある高等学校の英語の科目名。旧「英語表現」に代わって導入されたもの。
★3 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク, pp.61-75.
★4 直接、口に出して話し合うという意味で用いられているようです。原著では、”Discuss Beliefs Explicitly”となっています。
★5 授業中に10分ごとにチャイムのならし、その時点での認知エンゲージメントのレベルを生徒の自己評価させる方法。『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2025、近刊予定)第5章に紹介されています。
2025年3月2日日曜日
エンゲージメントを決定づける要因
私たちは、これまでは学ぶ動機ついて考えてきました。カタカナでいえば、モチベーションです。では、モチベーションとエンゲージメントの違いは何なのでしょうか。従来からある動機付けだけでなく、エンゲージメントも考えていくべきなのはなぜなのでしょうか。
原則2 成長マインドセットを育む
原則3 学習者の当事者意識と自己統制感を高める
原則4 積極性を育てる
原則5 粘り強さを育てる
「自分の努力で獲得した真の成功」をおさめる体験をする。ろくに努力もせずに、転がり込んできた成功では有能感は育たない。
すでに達成されていることに焦点化し、学習者の進歩を肯定的に評価すること。そして、学習者が自分の力で達成できるように課題を細分化するなどの足場がけを行うこと。
自分と似た立場の人がうまくやっているところを見たり、思い描いたりすることで自己効力感が高まると言われている。ロールモデルとなるような人を観察し、その人たちの体験を通して学ぶ代理学習も役に立つ。
4 感情調整
授業内の活動を通じて、楽しさや自尊心のような肯定的感情を得ることができること。授業の中で、豊かで、ポジティブな感情を味わうことができれば、有能感が高まる可能性は高い。一方で、授業で不安や心配、恥ずかしさを感じると、有能感はぐらついてしまう。
生涯にわたって学び続ける意欲やスタミナを支える土台は、学習者の心に芽生える、このような自信や前向きな感情なんだろうと思います。
★1 「エンゲージメントの周辺」PLC便り, 2025年2月2日 https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/02/blog-post.html
2025年2月2日日曜日
エンゲージメントの周辺
エンゲージメントという言葉を聞くことが多くなりました。これからの教育を考えるうえで、重要なキーワードの一つだと言えるでしょう。エンゲージメントは、生徒たちの学習成果、成績、さらには、生涯学び続ける姿勢を身につけるためにも、重要な土台であると考えられ始めているのです。
ビジネスの世界でも注目されているようです。ビジネス界で、エンゲージメントとは、「従業員の会社に対する「愛着」や「愛社精神」のことを言います。従業員が会社の理念・ビジョンに共感し、会社に貢献する意欲を持っている状態はエンゲージメントの高い状態だと言えます。」★1 人材の確保や会社の業績の向上にとってエンゲージメントを高めることは不可欠と考えられていて、従業員のエンゲージメントを向上させる要素として、働きやすさ、やりがい、指針への共感などがあると言われています。
教育の分野において、「学習者エンゲージメント」とは一般に、ある活動に積極的に参加していること(active participation)あるいは特定の行動に関与していること(involvement)を指しています。学校での活動や学習課題に「夢中でとりくんでいる状態」と言えるでしょう。
エンゲージメントということが注目されているのは、主体的な学びを、実現するうえでは、避けてとおることができない考え方だからだと思います。
一見、その活動に夢中になって取り組んでいるように見えても、心の中ではその学びに意義を感じていないこともあります。また、真に没頭しているのではなく、外部から期待に応えるために、夢中で取り組んでいるような素振りを見せるていることもあるでしょう。「うわべだけのエンゲージメント(‘shallow’ engagement)」★2 や「戦略的コンプライアンス(strategic compliance)」★3 といった言葉で表される状態です。
動機づけ、モチベーションが必要であることは間違いありませんが、何かに興味をもち、学びたいという気持ちはあっても、それを阻害する要因や誘惑は数限りなくあると言えます。学ぶためのリソースも、時間も、方法もすべてあるのに、それよりも刺激的で、愉快なことが、私たちの周りには溢れています。
学ぶ必要性は認識しているけれど、実際に行動に移すことができない学習者は、数多くいます。モチベーションが高い人が、必ずしもエンゲージメントが高いわけではないのです。なぜ、その行動をするかという理由や動機はあったとしても、その行動にどの程度深く自分自身が関与するかは別物であるということでしょう。
サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイは、前掲の著書で次のように述べています。★2
「学習者をエンゲージさせるとは、学習者のモチベーションを喚起し、同時にそのモチベーションを実現するということに他ならない」(p.18)
これこそが、問題の核心であり、エンゲージメントという考え方が重要視されている理由でしょう。
学習者エンゲージメントの周辺には、私たちがこれまで考えてきた意欲や動機といったものに加えて、学習者のマインドセットや学校文化などの学ぶ環境、教師やクラスメートの人間関係、学習行動を引きだすタスクや活動の設定など、実に多くの要因が作用していると言われています。
モチベーションや意欲を超えて、高いエンゲージメントを達成するには、どのような働きかけや環境づくりが必要なのか、これから考えていくべき重要なテーマとなりそうです。
★1 人材育成・組織開発 お役立ち情報・用語集,リクルート・マネジメント・ソリューションズ https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000185/
★2 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク
★3 Phillip C. Schlechty (2011) Engaging Students: The Next Level of Working on the Work , Jossey-Bass.
★4 廣森 友人/ 小金丸 倫隆(2024) 『エンゲージメント×英語授業 「やる気」と「意欲」を引き出す授業のつくり方 』 明治図書出版