2023年6月24日土曜日

クラスの一体感をつくる

 私の担当する回は、ここ数回続けて学級経営の話をしてきていますが、今回もそれに関連して「クラスの一体感をつくる」を取り上げます。

前回も取り上げた『「居場所」のある学級・学校づくり』(新評論・2022)でも第2章「居場所は信頼関係で育まれる」において、「方法13・クラスの一体感をつくる」が取り上げられ、いくつかの具体的な方法を示されています。

「クラスで行うサービス・プロジェクト」「クラスで作品を創造する」「クラスのシンボル」です。「クラスで作品を創造する」では、「ジグソー・アート」や「クラスでつくる詩」「大きな壁画」など魅力的な活動が並んでいます。

私もかつて中学校で担任をしていたときに、クラスで「詩をつくる」活動を何度もやりました。ちょうど環境問題に注目が集まり始めた時期でしたので、「環境」をテーマとした詩をクラス全員でつくる活動をやりました。できあがったものは、学級だよりに掲載したり、私の担当する理科の授業と連動させて、酸性雨の測定をクラス全員でやってみたり、学校近くの河川に行って、水質測定などにも挑戦しました。今考えれば、教科書の内容をカバーする授業だけではなく、実社会とかかわりのあるテーマを扱うことで、本物の学びに近づこうとしていたのだと思います。生徒も私もそうした活動が楽しくてしかたがなかったというのが当時の印象です。

また、「短編小説を書く」ということもやりましたが、中学生の感性に驚かされる作品がいくつもありました。これは今でも大切に保管してある私の宝物の一つです。

詩と同様に、ふだんの様子からはわからないような生徒の内面がこの活動で少し見えたように思いました。前回も書きましたが、生徒理解はなかなか難しいものです。表面だけを見ていてはわからないことがあることを自覚する必要があります。さまざまな機会を通して、生徒を少しずつ理解するということです。 

 教師の発することばが生徒の心に届くかどうかは、そのことばがその教師の内面から本当に出たものなのか、うわべだけのものなのかによると思います。うわべだけのものは、小学生でも見抜いてしまいます。

これから先行き不透明な時代を生き抜かなければならない生徒にとって、必要なものは何よりもひたむきに生き、学び続ける教師の姿と成長のマインドセットだと思います。そのためのヒントはこの「PLC便り」に満載です。ぜひ、一人でも多くの先生方に利用していただき、学級づくり、授業づくりに活かしていただければ幸いです。 

 

 

2023年6月18日日曜日

よりよい教師になるための「11の習慣」

 成功する人がもっている『7つの習慣』★(スティーブン・R.コヴィー著)を読んだことがありますか? まだの方は、一読の価値はあります。この本は、2000年以降、ティーンや学校や家族などを対象にしたたくさんのスピンオフ作品も出ています。

 今回紹介するのは、(上記の本とは一切関係ない)教師版です。

1. 教えることを楽しんでいる

 あなたが楽しんでいなければ、生徒たちも楽しめる(よく学べる)はずはありません。教科書をカバーするだけの授業ではなく、生徒たちが相互にやり取りし(話し合い)、夢中で取り組める工夫をしましょう。この点に関しては、『「おさるのジョージ」を教室で実現―好奇心を呼び起こせ!』や『あなたの授業が子どもと世界を変える』などが参考になります。

2. 違いを生みだしている

 教師として、あなたは大きな責任を担っています。その一つが、教えている生徒たちの違いを生みだすことです。どうやって? あなたのクラスにいるときは、安心安全であると同時に、特別な存在であると思えることです。あなたは、家庭や学校の外のことに影響をもつことはできませんが、教室のなかでは生徒たちにプラスの影響を与える存在であり続けてください。

3. 前向き

 可能な限りハッピーで笑顔のある雰囲気を発信(クラス中、学校中に伝染)し続ける存在であるようにしましょう。誰もが、その逆よりは、気分よく過ごせますから!

4. 個人レベルでつながる

 個人レベルでつながれるように、生徒こと(興味関心、こだわり、学習スタイル、家族)をよく知りましょう。もちろん、それには自分のことを伝えることも含まれます。同僚(や、いまの時代は同業者とネットで)個人レベルでつながれれば、いろいろな可能性も膨らみます!

5. 全力投球する

 生徒に全力投入しなさい/ベストを尽くしなさい、と教師はよく言いますが、自分は全力投球していますか? 生徒に、生徒の家族に、同僚に、学校に、自分のベストを提供してください。

6. スケジュール管理がうまい

 仕事が溜まってしまう状況は、ベストが尽くせない状況ですから、避けてください。計画を立てることはもちろんですが、前倒しで動くことも大切です。ジャーナル(メモ)を常に持って、思いついたアイディアをいつでも書きとれるようにしましょう。そうすれば、計画でそれを活かせます。

7. オープニングマインド

 あなたは、管理職、同僚、生徒や保護者から絶えず評価され、それに基づいたフィードバックを得ています(それが、常に全力投球する理由でもあるわけですが)。誰かが、あなたの授業やほかのことに対しての(主に、批判的な)コメントをしてきたら、心を広くもって聞いてください。そして、活かせると思ったところは活かしてください。(習慣11も参照)

8. 自分にも、生徒にも期待をもっている

 これは年度当初が肝心です。具体的な実例として、『イン・ザ・ミドル』の92~104ページと『「居場所」のある学級・学校づくり』(特に、56~7ページ)が参考になります。

9. 創造的である

 優れた教師は創造的ですが、すべてを自分で考えだす必要はありません。すでに、たくさんのいい実践が行われており、それらにアクセスして、ヒントをもらい、自分なりのアレンジを加えることも、十分に創造的な行為です。

10. 変化をすすんで受け入れ、活用する

 計画通りに進まないのが物事であり、それは特に教えることに言えることです。そんな時に大切なのが「柔軟性」です。何か予期しないことが起こって変更を余儀なくされた時でも、それを何とかいい方向に利用してください。

11. 振り返り(=修正・改善し)続ける

 いい教師は、よりよい教師になろうと常に振り返っています。何はよくて、何はまずかったのか? そして次回はどう改善・修正できるのか? 私たちは誰も授業での失敗経験があります。しかし、それを「失敗」と捉えるのではなく、「さらによくなるための学びの機会」と捉えればいいのです。この点に関しては、『あなたの授業が子どもと世界を変える』(https://www.yodobashi.com/product/100000009003252588/ で目次が見られます。特に、9列目の第9章ですが、ほかの章も魅力的なタイトルだと思いませんか?)を参考にしてください。

 あなたは、ほかにどんな習慣が浮かびますか? あなたが見習いたいと思った先生はいませんか? その先生は、どのような習慣をもっていたでしょうか? 最初から、全部の習慣を見習う(自分のものにする)ことは荷が重いですが、一つずつ押さえていくことならやれます。ぜひ、挑戦してみてください。

出典: https://www.edutopia.org/discussion/11-habits-effective-teacher

 

★「習慣」ではなくて「特徴」を使ってしまうと、なかなか身につけられるとは思えませんが、習慣なら不可能ではありません! なお、私にとってこの本の最大のヒットは、6つとか7つの自分について書ける手帳(スケジュール表)をもつ、というところでした。自分の自分。夫としての自分。父親としての自分。仕事人としての自分。地域住民としての自分。市民(ここには県民・国民も含まれる)としての自分、そして地球市民としての自分。これら7つの自分にバランスよく日程が組めるようになりたい/なるべき、というものです。実際、そういう手帳も売っています! みんながこのスケジュール表を埋められるようになったら、ワークライフ・バランスはもちろん、「働き方改革」などと言う必要もなくなると思いませんか?

 また、このブログの左上に「習慣」で検索したら、次のようなのが出てきました。https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E7%BF%92%E6%85%A3

 

2023年6月11日日曜日

学びの本質を問う 〜ChatGPTの教育利用と見せかけの理解にだまされないために〜

 

対話型AIChatGPTが近年、大きな注目を集めています。このAIは非常に自然な文章生成を実現し、人間が投げかける質問の意図を理解しているかのように反応してくれます。さらにその応用範囲は驚くほど広く、翻訳から数学問題の解答、プログラム作成、さらには小説の執筆までこなすことが可能となります。専門的なプログラム言語での指示を必要とせず、日常の自然言語で指示を出すだけでAIが適切に応答してくれるため、これによりAIとのコミュニケーションが一層簡単になりました。

 

ChatGPTは自然な言語を生成する能力と、人間が求めた答えを追求する能力の二つの側面を持ち合わせているようです。これは具体的な文脈に応じて適切な言葉を使用し、あたかも相手の意図を理解しようとする姿勢を示しています。これらの特徴は今後の教育現場におけるAIの活用において大いに期待できる要素といえるでしょう。

 

しかし、AIはこの人間が意図することを、本当に理解しているのでしょうか?

 

対話型AIChatGPTが教育現場でどのように扱われるべきか、大きな議論のテーマとなっています。ちょっと前にもある小学生がChatGPTを使って読書感想文を書いたという事例が話題となりました。この子は、この新たなツールに興味津々で手を伸ばしたのでしょう。その担任は、「書き方を模倣するだけでも学習になる」とAIの利用を認めていました。ただし、単に文章を書き写すだけでは、真の学習にはつながらず、それだけでは不十分でしょう。書き手の意図をもって修正するプロセスこそが学びであり、成果物である読書感想文を完成させることが教育の目的ではないからです。

 

しかし、今やこのAIの普及という流れを止めることは困難といえます。ここで重要なことは、教育の本質を見失わないことです。学びは本来、自己向上のためのプロセスであり、それは個々の自己責任によって進められるべきです。chatGPTの規制があっても抜け道を探す生徒や学生たちの行為や、規則を破ろうとする欲求は、人間の持つ自然な傾向です。結果として、その行動が自身に損をもたらすかどうかは、個々の判断に委ねられることとなります。もし、AIの活用が取り組むべき作業を楽にし、それが良いと感じるなら、それもまた一つの選択肢となるかもしれませんが。

 

『世界』20237月号で紹介された対談「わかりたいヒトとわかっているふりをするAI」には、慶應義塾大学教授の今井むつみさんと言語学者兼作家の川添愛さんの間で行われ、AIの能力とその限界についてこれらの深い洞察が語られていました。

 

大規模言語モデルであるChatGPTは、ネット上から取得した膨大な文章データを学習し、「この単語の次にはどんな単語がくるのか」を予測します。それにより、私たちはAIが我々の要求を理解していると感じますが、chatGPTは単に機械が膨大なパターンを学習して、そのパターンを再現しているだけです。実はChatGPTには個々の単語の意味を理解する能力がありません。それよりは、繰り返し指示を受け、回答された文章が望ましいものに近づくように微調整することで強化学習を行っているだけのことです。

 

重要なことは、このAIが「意味論」、つまり言葉と現実世界を関連付けるレベルの理解を持たないという点です。それは単に単語を自然に並べ、人間の質問の意図に合った答えを生成するだけです。ただし、この非対称なプロセスがなぜうまく機能しているのかは、興味深いところですが。

 

古くから「AIは身体が必要だ」という主張があります。これは学習には五感と身体を通じた経験が必要であるという意味です。AIの進化と可能性を理解するためには、これらの違いを理解し、人間とAIがどのように異なるかを認識することが重要です。この認識はAIをより効果的に利用し、その限界を認識する上で重要となるのです。★

 

例えばヘレン・ケラーの学習過程は、現在のAIを理解するための示唆に富むエピソードです。彼女がポンプから出る冷たい水に触れた瞬間、「water」という指文字で学んでいた綴りが実際の水を表していることを理解した瞬間です。それまでの彼女の状況は、現在のchatGPTの状況とよく似ています。つまり、言葉が何かを表すものであるというメタ的な認識を持てていなかったのです。

 

ChatGPTは、人間がある問題を解決するためにどのような論理的な考え方を経てきたかを理解する能力を持っているように見えます。しかし、これは単に大量のデータから得た手がかりを使って、人間が次に何を期待するかを予測しているだけにすぎません。chatGPT自体が人間が答えた通りの推論を内部で行っているわけではありません。

 

人間が意図を理解するとき、私たちは文化的な慣習や常識を適用し、言葉以外の情報も大量に動員して理解を深めることが必要なのです。しかしchatGPTのようなAIは、この人間固有の推論過程を持つことは今のところできていません。言葉と実世界の間の深いつながりを理解し、体験する能力がAIにはないからです。AIの進化と可能性を理解するためには、このような人間とAIの間の基本的な違いを理解することが重要なことなのです。

 

子どもたちに対しては、ChatGPTのようなAIが答えを全て持っているという誤った認識を育てないように注意が必要です。子どもたちが自分自身で思考し、直感を育む能力を阻害する可能性があるからです。一方で、十分なスキルと知識を持つ人々にとって、ChatGPTは作業効率を大幅に向上させる道具となることでしょう。しかし、その使い方によっては、AIは諸刃の剣ともなりうるということを忘れてはなりません。これらのことを踏まえ、我々はAIを適切に使いこなすための理解と教育が必要だと言えます。そして、その過程でAIがどのように人間による制御を受けているかを常に意識することが重要となっていきます。

 

みなさんはどのようにAIの活用/禁止を考えていますか。よかったら教えてください。

 

 

 

★「記号設置問題」

言語を学ぶときには、生活を通して感覚と共に獲得することを「記号設置問題」といいます。具体的な感覚と抽象的な記号体系がどうつながっているのかを明らかにしようとする試みです。人間は、物事を感じ取ることなく学習することは基本的にできません。人間は日常的に数を表す言葉を使いますが、その実体を直接視覚化することはできないのです。

 

例えば、「五つのリンゴ」や「三つのアメ」など具体的な物体を数えることは可能ですが、""そのものを視覚的に捉えることはできません。""は具体的な物体から抽象化された概念です。初期の学習は、感覚に基づく知覚から始まりますが、それから推論を用いて、単一の記号の意味だけでなく、記号全体が形成するネットワークや文法を自己発見していきます。3歳から5歳の間に、子どもたちはすでにかなりの知識体系を築き上げます。自分で発見するからこそ理解し、納得できます。これは「記号設置」という考え方の一部であり、それは自分が何を学び、どのように学び、そしてなぜ学んだのかを理解する過程を含んでいます。この自己発見と理解の過程はAIにとって高いハードルとなります。AIは抽象的な概念を理解し、それを自己の経験や知識と結びつける能力を持たないからです。それは、人間が経験から学び、新たな知識を作り出す能力があることと対比しているのです。

 

 

 

 

 

2023年6月4日日曜日

学校にはアンラーンが不可欠

私の周りでも、教員をやめたいとなげく人が増えてきたように感じます。日常的な職場や上司へのぐちといったレベルではなく、真剣に職を辞したいというのです。私の家族に、中学校の教員がいますが、4月から今までに、すでに講師が一人やめ、退職を考え始めた教諭も複数人いるらしいのです。

教員を志す学生も減っているようです。教員採用試験の志願倍率も驚くような低い数字に留まっているようですし、文部科学省も「教師不足に関する実態調査(令和4年1月31日公表)」★1 をやらざるを得なくなっています。教員確保のために、涙ぐましい努力を続ける地方自治体について、マスコミなどで報じられない日はないほどです。★2

教員の働き方改革はここ数年の大きなトピックです。部活動のあり方も大きな問題として取り上げられていますし、教員の待遇、特に、給与制度のあり方についても、やっと本格的に議論が始まったところです。残業代支給なのか、教職調整額のアップか、手当増かといった問題です。現状の問題解決のために、いろいろな選択肢があがってきてますが、果たして根本的な解決策は出てくるのでしょうか。

ある現職教員が、ブログで教員をやめようと思った理由をあげています。★3

・自分のやりたいことに十分時間をとることができないから
・時間外勤務が長すぎるから
・給料の仕組みに不満があるから
・教員でない選択肢も見えてきたから

現在の学校という職場や働き方への不満や疑問だけでなく、すでに他の選択肢を視野に入れている点が、やや気になります。私のような古いタイプの人間には、教職を志したら、生涯教育に身を捧ぐといった考え方が染み付いているのかもしれません。

この問題への特効薬は、そう簡単に見つかりそうにはありません。また、大きな制度改革が終わるまで、じっと待ちますか?

いや、まずは、自分たちができることから始めるしかないと思います。

まずすべきことは、アンラーン(unlearn)することではないかと思います。

アンラーンという言葉を、柳川範之さんがとても分かりやすく説明してくれています。★4

「「アンラーンを分かりやすく言い換えるとすれば「これまでに身につけた思考のクセを取り除く」です。「思考のクセ」というのは、環境に適応してパターン化した思考のことです。」

パターン化された思考のくせが柔軟が発想を妨げるといった事例は、特に、学校の場合、顕著ではないかと思います。子どもたちのことを考えて、リスクを取ることに躊躇しがちです。学校教育が、保守的になりがちなのは、当然といえば当然なのかもしれません。

それが積み重なって、やることが増えすぎで、もう学校は完全に「機能不全」に陥ってしまっているかのようです。

このままでは、学校は大変なことになってします。みなさんは、どこからアンラーンを始めますか?★5

★1  https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf

★2 「「教員不足」でピンチ!名古屋市で初めての事態 公立学校の教員が配置基準を15人下回る 「ペーパーティーチャー」を現場に呼び戻せるか」

https://news.yahoo.co.jp/articles/4e23ce35ae0ce2fad7ed9705f7e8473c7c7be69d など多数

★3 「教員をやめたいと思った理由【現役教師が語る、ブラックな職場・闇】」https://nottiyblog.com/my-reason-of-retire/

★4  柳川範之「新しい学びの技術「アンラーン」が、今こそ必要な理由」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00424/011700001/

★5  教師の学びは、校内研修や学校外での研修など様々な形があります、従来の学び方を「上書き」することが中心で、学んできたことをアンラーンすることにはほとんど貢献していません。アンラーンに貢献するのが、一連の教育ハックシリーズです。興味ある一冊を手にとって、みなさんのアンラーンの取り組みをスタートさせませんか。

https://www.shinhyoron.co.jp/wp/wp-content/uploads/20211108-books_that_create_new_lessons.pdf

2021年冬以降の本は、   https://www.hanmoto.com/bd/search/author/%E5%90%89%E7%94%B0%E6%96%B0%E4%B8%80%E9%83%8E/order/desc で見られます。