2022年9月24日土曜日

算数・数学は抽象的な概念を学ぶためのもの

 

週に何回か小学生と一緒に算数を学ぶ機会があります。そのなかで、算数は学んでいく上で大きなポイントがいくつかあることを改めて感じています。

まず、小学校1年生で学習する「繰り上がりのあるたし算」をやっていくのに必要な「たして10になる数」、たとえば3+□=10の□に入る数が何か、これがすぐに出てくると繰り上がりのあるたし算の計算がスムーズにいくわけです。ですから、1~9までの数字に何を足せば10になるのかをかけ算九九のように暗記できればその後の計算が楽になるということです。

それから、2年生で扱う「かけ算九九」があります。これができていないと小学校の後半及び中学校の数学が非常につらくなります。また、小学3,4年生で学習する小数も小数点の位置などをしっかり押さえておかないと先に進めません。また5,6年生で習う分数の四則計算も「通分」といった概念が理解できていないと正しく計算できません。

ただこのような計算技術が身につけばよいかというと、そうではなくて「計算の意味」を理解することもまた大切です。しかも子どもたちが自分で納得して、理解することがポイントです。そのために算数では、具体物の操作を通して理解するために様々な教具がこれまで開発されてきました。それによって、「具体」から「抽象」へと理解が進んでいくわけです。

そして最終的な目標と言うのは、「抽象的な概念・思考を学ぶ」ことになります。そして、小学校高学年以降の算数・数学は目に見える具体物への応用がなくても、抽象的な思考(想像力)を可能にする学問と言えるでしょう。このあたりのことについては、『数学にとって証明とは何か』(瀬山士郎・講談社ブルーバックス2019)が参考になります。この抽象的な思考力は人間の特長であり、人間の考え方の基礎となるものです。

たとえば「分数」を学ぶことは、その概念理解と、計算技術を学ぶことを通して、抽象的な経験をすることになります。また、数学の「証明」という分野もあらゆるものごとを論理的に判断する基礎力となります。算数・数学が嫌いという子どもたちも多いと思いますが、教師としてはこのような背景があることを理解して、指導に当たることが必要でしょう。 

現在では計算技術を身につけることは、AIで最適化されたコンテンツ学習をICT利用によって学ぶことで充分可能です。そして、先ほども述べたように、大切なのは「計算の意味」を子どもたち自身が納得する形で理解することです。それは子どもたちの問いを出発点として、小グループでの学びを中核に据えた授業によって可能になると思います。 

昔読んだ数学の本の中で、数学は中学→高校と進むにつれて、ちょうど山を登っていくように上に行くほど景色がよくなり、山の様子がよくわかると書いてあったことを思い出します。中学校での因数分解、平方根、二次方程式があまり興味を持てない内容だとしても、高校数学になるとそれらを活用した問題、さらには微分・積分に話が進むと一気に視界が開ける感じです。そんな面白さを子どもたちに味わってもらえるように、「計算技術」と「計算の意味」が納得できるような学びを大切にしたいものです。今、定期的に教えている小学生の子どもたちを見ていて日々そんなことを考えています。

 

 

2022年9月21日水曜日

教師が生き生きすれば、子ども(や社会全体)も生き生きするはず!

以下は、明日発売の『教師の生き方、今こそチェック! あなたが変われば学校が変わる』(アンバー・ハーパー著、新評論)の「訳者あとがき」からの引用です。

 あなた自身の、そしてあなたの職場の「働き方改革」は進んでいますか?

 最近は、これまでの教職員の働き方の現状を示す言葉として「定額働かせ放題」「やりがい搾取」などが広く聞かれるようになりました。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、教師の仕事が増えたことも大きく取り上げられています。さらに、中学校の土日の部活動を地域に移行するという大きな計画が始まっています。こうした背景があって、どの学校でも、いわゆる「働き方改革」を進めようという動きが強まっています。

 しかし、本当に「働き方改革」は進んでいるのでしょうか? ただ早く帰ることだけを「よし」としているのではありませんか? 本来は、それぞれの生活(人生)にゆとりをもち、有益な時間の使い方をすることが目的だったはずなのに、早く帰ることそのものが目的となっていることも多いのではないでしょうか? 本書は、そういう人にこそおすすめしたい本です。早く帰れるようになったからこそ、時間の使い方を考える必要があります。本書では、仕事と成長が両立できるようなあり方を目指しています。

現在置かれている環境に安住せず、成長を求めてチャレンジをしていくあなたの姿、それこそがあなたの目の前にいる生徒にとって一番のお手本になると思います。ぜひ、本書を読んで、書き込みなどをしていただくとともに、自分自身を振り返ってください。改めて時間の使い方を考えれば、きっとすばらしい成果が現れるはずです。

 また、学校での仕事量が減らず、人から割り振られる仕事が多すぎて困っている人にもおすすめです。本書では「ノー」と言うことの難しさについても書かれていましたが、日本ではさらにその傾向は一層強いように思われます。あなたも自分の人生を大事にして、上手に断ること、時間をかける必要がないと思われる仕事はやめるようにしてください。

このように、日本で働くすべての教師に向けて、働き方のヒントが段階を追って、具体的に書かれているのが本書です。言ってみれば、働き方改革ではなく「生き方改革」だと思います。本書を翻訳して、その思いを強く抱きました。ちなみに、タイトルやサブタイトルを原書とは異なる表現としました。

本書が多くの方の手に渡り、ご自身の生き方を少しでも変えるきっかけとなり、生き生きとした教師が増えれば、きっと日本全体がもっとよくなるはずです。そんなことを夢見て、本書の翻訳を仕上げました。

 ****

飯村さんの奥さんが、各章にイラストを添えています。たとえば、

 

◆本ブログ読者への割引情報◆

 1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2400円(消費税・送料サービス)

3冊以上/1冊あたり、         2112円(特価=定価の20%引き・送料サービス)


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

 ※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますの

  で、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでくだ

  さい。

2022年9月18日日曜日

サイクルを回し続けることで自立的な学びの姿勢を育てる『社会科ワークショップ』とは

『社会科ワークショップ』を中心になってまとめた横浜市の冨田明広先生が、その核である「探究のサイクル」の大切さについて書いてくれたので紹介します。


                    *****


 社会科ワークショップで学ぶ子どもたちは、自ら調べ、考え、表現し、問いを導き出していきます。どうしてそのような主体的な学習が可能なのでしょうか? 「探究のサイクル」を中心に説明し、社会科ワークショップの魅力についてご紹介したいと思います。


 一般的な社会科の授業というと、教師が問いや資料を提示し、子どもたちが調べたり考えたりして、意見を重ねていく活動が一般的です。このような学習ならまだ良い方で、教師が情報や資料を独り占めにし、それを少しずつ子どもたちに分け与えていくような授業も見られます。つまり、子どもたちが教師によって飼い慣らされてしまっているような学習です。これでは、主体性が育つどころか、受動的学習姿勢を主体的に身につけてしまうような(ないし、忖度するのが得意な)子どもが育ってしまいます。

 毎回教師の出す問いや資料によって子どもの学習が始まるのであれば、教師の問いや資料がないと学習をスタートすることができない子どもになります。主体性とは、教師の敷いた学習計画通りに従順に学んでいく力のことではありません。


(出典:『社会科ワークショップ』P83)

 社会科ワークショップでは、社会科の学習プロセスを「探究のサイクル」という図で説明しています。これが円環という形で示され、各ステップを往還しながら向上していくことがポイントです。自分のペースで次のステップに進むことができるので、じっくり取り組みたいところに時間をかけたり、残された時間によって簡単に済ませたりすることも、その子どもに任せられています。

 また、戻ることができるのもポイントです。私たち大人も、調べていたら新しい疑問が湧いてきたり、発表資料を作っていたら良い考えが思い付いたりすることがあります。子どもの頭の中で起こった思考のチャンスを、子ども自らが成果に変えていきます。教師が「まずはテーマを作りましょう」や「次に調べてまとめましょう」と明確に区切り過ぎると、子どもたちの学びのチャンスや可能性を制限してしまうことになります。

 学習プロセスが「1 単元の見通しを持つ」「2 〇〇について調べる」「3 〇〇について自分の意見を発表する」のような単線型(ないし、一方通行)の学習計画の場合、全員が同じ活動を行っていることで、教師にとっては一斉の支援を行いやすくなるメリットはあるでしょう。しかし、子どもにとってみれば、教師が学習進度を調整するために「待て!」を食らったり、もっと立ち止まって丁寧に理解したいのに「次!」と急かされたりすることを意味します。これでは主体者意識をもって学べる子はごく少数になることでしょう。教師の進むスピードと偶然に波長が合う子ならばよいですが、教師と波長を合わせることで過適応(忖度?!)してしまう子を育ててしまうことになるでしょう。

 さらに、サイクルがまた最初に戻ることにも良いことがあります。それは、最初にサイクルを回し始めた自分と、2回目や3回目にサイクルを回す自分との違いを感じることで、自らの成長に気がつけるということです。最初に心配しながらテーマを選んだり発表準備をしたりしていた子でも、次のサイクルを回す時には、少し余裕をもって問いをつくり発表に臨んでいるはずです。子どもは同じサイクルで学んでいるからこそ、自己の成長を振り返りに書き留めることができますし、教師もそれに気づいて子どもの変化を一緒に喜ぶことができます。毎回、学び方の違う打ち上げ花火のような学習方法では、自分の変化に気づく「自己評価の機会」をつくることは難しいでしょう。

 探究のサイクルを使って、行きつ戻りつしながら自分のペースで学び、学習の主体者性を育んでいくことができるのが、「社会科ワークショップ」をはじめとしたワークショップの教え方・学び方の魅力の一つであります。

 

 一つ一つのプロセスの詳細については、『社会科ワークショップ』第4章をご覧ください。具体的な子どもたちの活動を例に挙げて、紹介しています。


 さて、この探究サイクルを子どもたちが自分の力で回すことにより、教師には時間の余白が生まれます。今まで、子どもたち全員に向かって「さて、学習問題はこれです」や「今日みんなで考える資料はこれです」のような全体に向けての発問や指示を行う機会が激減するからです。また、学習を始める前に、自分で手に取れる本や資料のコーナーを設置します。つまり、学習環境から自分の意思で支援を受け取れるように場の工夫を行います。学習環境はもう一人の教師です。

 これにより、教師にさらに余白が生まれます。その余白で教師が行うべきことが、カンファランスです。

 カンファランスとは、「教師が一人ひとりの子どもの様子を観察し、話をしっかりと聞くことでその子どもの学習状況を把握し、子どもにあった助言や指導を行っていく方法のことです。さらに、その助言や指導の成果を評価し、指導の仕方を調整しながら支援していきます。」(『社会科ワークショップ』P172より)です。

 社会科ワークショップでは、基本的に一人ひとりがそれぞれの興味関心や体験などに応じたテーマを設定します。それにより、学習の主体者性を涵養し、主体的な学習姿勢を経験していきます。しかし、これにはもちろん個に応じた指導が必要になります。子ども一人ひとりの学習状況を理解し、それに応じた支援を行っていくことが大切です。

 探究のサイクルは、年間を通じて回していくので、子どもたちは社会科ワークショップの学習の仕方に慣れていきます。また、カンファランスを通じて、知識以上に、「探究のサイクルを回す」という学び方についての助言や指導が行われるので、段々と自分だけの力で探究という学び方に熟達していきます。そして、子どもたちの振り返りも、「探究のサイクルがうまく回せたかどうか」という視点で行います。こうして、4月から始まって前期の終わりの10月頃には、探究のサイクルを中心に据えた社会科ワークショップでも安心して学べるようになり、本質的な問いを探したり、聞き手に届く発表になるよう工夫したりと、探究の質を高める方向へと舵を切っていくことになります。

 教師は、子どもを学習させるために支援をするのではなく、探究のサイクルを活かして動き始めた子どもたちが、自分の決めた目的地へと近づけるように支援をしていきます。もうすでに動いている子どもたちに対して、助手席からその子の自己実現へと方向性を指し示すように、子どもと同じ方向を向いて支援をしていくのです。


 大人も子どもも、私たちが経験する自然な探究では、誰にも教えられることなく、このサイクルを機能させています。探究したい事象との素晴らしい出会いがあり、心が動き、問いが起こり、体は自然とその事象を探し求めてしまいます。仮説はトライ&エラーを生み、「あんな時は? こんな場合は?」と抽象化させていきます。気づいたときには、子どもたちはまた新しい事象と出会い、初めて経験することへのワクワクで居ても立ってもいられずに、対象を自分なりに表現しようとしているはずです。そう、本質的には、探究のサイクルは生得的で本能的なものであるとも言えます。

 子どもの探究の質を、さらに磨いていくためには、自分自身を振り返る視点が必要で、その時の有効な言語の一つが探究のサイクルで使われている言葉になるでしょう。

 子どもたちの体験を大切にするユニットの場合には、サイクルは自然に起こるものなので、教師が探究のサイクルをあえて明示する必要がないですし、子どもの思考とはそぐわないものを示すことでかえって子どもには違和感しか感じられないかもしれません。3・4年生でサイクルを示すのであれば、言葉を優しくしたり、シンプルにしたりすることもできます。「記者になろう」や「観光親善大使になろう」などの専門家に成り切る設定にして、その仕事のプロセスから探究のプロセスを生み出すことも可能です。

 大切なことは、探究のサイクルは、子どもたちがいきいきと学習するために活用されたり、アセスメント(評価)を行う教師の視点の一つとして活用されることが大切で、子どもたちの学習を無理に定義付けたり、区分したりするために活用されてしまうことがないように気を付けなければなりません。

中学年の社会科ワークショップで冨田が活用した探究のサイクル


 探究のサイクルは、子どもの主体性を育み、教師を黒板の前から解放する、子どもにとっても教師にとっても主体者意識を高める仕組みとなります。それは、本来、生得的に人が持っている知的活動を表現したもので、学校という人工的なカリキュラムと自然でオーセンティックな(本物の)学習との橋渡しになる役割があるでしょう。子どもたちが、学校や教室で学習の主人公となれるように、是非とも、探究のサイクルを生かして学習環境を構築して欲しいと思います。


 サイクルの学び方は、特別支援学級でも効果を発揮しています。こちらも参照してください。

https://tommyidearoom.com/%e7%89%b9%e5%88%a5%e6%94%af%e6%8f%b4%e5%ad%a6%e7%b4%9a%e3%81%a7%e4%bd%9c%e5%ae%b6%e3%81%ae%e6%99%82%e9%96%93/



2022年9月11日日曜日

形成的評価できてますか?

この夏に読んだ教育関連の本でよかったものを紹介します。洋書ですが、形成的評価について書かれた本で、実践づくりにとても役立つはずです。

 

Dylan Wiliam, Embedded Formative AssessmentBloomington, Indiana : Solution Tree Press, 2018

 

形成的評価とは「教師と生徒によって行われる学習活動を修正するため、フィードバックに必要なすべての活動」(Paul BlackWilliam,1998)のことです。教師と生徒、その仲間たちが、次の学習に向けた根拠ある意思決定を行うために使われ、生徒がどこまで到達しているのかその証拠を見つけて解釈し、利用するための評価です。テストのための評価ではありません。もし、教師が形成的評価を効果的に使用するならば、1年間で2倍の進歩を遂げられる(Wiliam, Lee, Harrison, & Blade, 2004)強力な教育ツールなのです。

 

著者であるDylan Wiliamは、ロンドン大学教育研究所の元副所長やロンドン大学チェルシー・カレッジ教授を歴任し、形成的評価の第一人者として世界的に活躍してきました。この本は、教育の質を高めるには教師の質を高めることが最善であることを様々な証拠を示し(12章)、形成的評価を日々の授業にどのように組み込むのか「学習目標の明確化とその共有(3章)」「学習したその証拠を引き出すこと(4章)」「学習を前進させるフィードバック与え方 (5章)」「学習者同士が学び合う共同学習(6章)」「学びのオーナーシップをもつ自己評価(7章)」について、それぞれその具体的な実践テクニックを紹介しています。この章立てで、すでに形成的評価の要素が広くカバーされていることがわかります。

 

すべての教育は、①学習者の学習状況を把握し、②学習者がどこに向かっているのかを確認し、③そこに到達するための方法を決定するために(★これはワークショップ授業でおこなわれるカンファランスアプローチそのものです!)、以下の5つの視点で章立てられ説明されています。

 

1.     学習目標の共有

 

学習には、生徒が、その学習の意図や目標を理解することが重要です。それには生徒と教師が協働して、達成基準が明確であるルーブリック共につくると効果的といわれます。より詳細に分割されたルーブリックは、生徒自身が自分の学習が達成基準にどう向かって進んでいるのか、理解するのに役に立つものとなります。以下、日本の教育実践で使えそうな実践テクニックをいくつか紹介していきます。

 

l  長所と短所の話し合い:生徒がつくった作品を見せ、その長所と短所を話し合い、ルーブリック基準をつくる。

l  直後と遅めのテスト:時期をずらして、2回の単元末テストを2週間後に実施する。

 

 

 

2.     学習の進み具合をつかむ

 

生徒が理解できたと評価する前に、生徒が「何を、どう考えているのか」を探ることが不可欠です。正答のみへ焦点を当てるのではありません。生徒の考えを知ろうとして、生徒を解釈するために評価があります。

 

l  質問するとき以外手をあげない「ランダムくじ」:すべての生徒が参加する場とすることを示せる。

l  質問の貝殻:「23は素数?」より「なぜ23は素数?」「なぜ17は素数で15は素数ではない?」と発問をかえる。

 

 

 

3.     学習を前進させるフィードバック

 

形成的評価(効果サイズ0.56)には、生徒に回答の正否のみを提供するフィードバック(効果サイズ0.14)の4倍にも及ぶ効果があるとわかっています。生徒が思い出そうとする作業を助けるため、答えよりもヒントの方が効果があります(Finn & Metcalfe, 2010)。

 

フィードバックは、焦点を絞り生徒と共有した学習目標に関連づけ、与える教師側よりも受け取る生徒側こそがより多くの仕事・学習をするものにしなければなりません。教師のみが忙しくコメントし続けることは効果的ではなく時間の浪費でしかなく、生徒がもらったフィードバックを自身の学びを向上させるために活用して初めて効果が生まれます。教師からの賞賛の言葉はより頻度が少なく、偶発的であることが望ましく、具体的で信頼性があれば、はるかに効果的なのです(Brophy, 1981)。また、学習の結果や才能、能力を賞賛するよりも、その不安定な努力プロセスに焦点を当てる(Dweck, 2006, 2015)ほうがより生徒を伸ばすことができます 

 

l  フィードバック活用術 :4人グループに、4つの作品と4つのコメントが書かれた付箋を渡す。どのコメントがどのエッセイに当てはまるかをグループで決めるため、コメント内容を読み取り、他の人の作品のよさを読み取る。

l  成績低下を許容する評価:期間内であればいつでも、生徒は再チャレンジできる。

 

 

 

4.     学習者を互いの教育資源としていかす協働学習

 

効果的な協働学習には、①グループとしての目標、②一人ひとりを責任もつこと、フリーライダーを許さないことで、大幅に学力は向上します。答えやその手順を教えるよりも、なぜこの答えが正しいのかを説明したほうが、教える側と教わる側の両方にメリット生まれます。特に支援を行う側の学習効果が大きく、少なくとも50%増加することがわかってきました(Webb1991)。なんと、その効果が教師による11の個別指導とほぼ同じ強さになる場合もあるほどでした。

 

l  宿題のピア改善:採点基準のルーブリックを事前に渡し、ペアでチェック。

l  星と願い:良いところ2つと改善点1つを付箋で伝える。教室で付箋を共有し、そのコメントが自分にとって役に立つと思うかどうか、クラスで投票するように求めることでその質が高まる。

l  I-You-we:グループ活動の終わりに、自分の貢献(I)、他の人の貢献(you)、グループ全体の仕事の質(we)に関する評価を記録するため、相互評価の動機付けになる。

 

 

 

5.     学習者自身の学びのオーナーシップ

 

生徒が学ぼうとしないのは、そもそもやる気のないのではありません。生徒の能力と課題のレベルが合致していないからであり、それを調整する必要があるのです(チクセントミハイのフロー理論)。もし、学習者が自分の学習をうまく管理することができればできるほど、学習効果が高まるのは当然のことです。生徒に自己評価をさせることが、生徒の学力を高める最も簡単でコストがかからない方法の1つだという証拠が増えています(ButlerSchnellert& Perry2017)。 自己評価の中でも、最も効果が高かったものに「模擬テスト(記憶の想起練習)」と「時間のおかれた分散テスト(記憶の強度を高める)」がありました。

 

l  色付きカップ:赤(質問あり)、黄(速すぎるのでまって)、緑(OKわかってる)のカラーカップを示す。

l  学習記録:授業の最後に生徒に学習記録を記入してもらう方法。

    今日、私は...を学びました

    私は...に驚きました 

    私が今日の授業から得た最もよかったことは、...

    私は...に興味があります

    私がこの授業で最も好きなものは... 

    私がまだよく理解していないことは...

    私がもっと知りたいと思うことは... 

    授業が終わって、私は...感じています

    もし~だったら、今日の授業でもっと多くのことを学べたかもしれない

 

 

 

いかがでしたか。2学期に活かせそうなものはありましたか。私はさっそく「質問するとき以外手をあげないランダムくじ」を教室で採用し、すべての生徒が参加できるように工夫がはじまっています。2学期、がんばりましょう。

2022年9月4日日曜日

『不安な心に寄り添う』を読んで

 神奈川県立高校の佐藤陽亮先生(数学科)が感想を書いてくれたので、紹介します。


「教師は何らかの意図をもって生徒に声かけをしていますが、それが不安感を落ち着かせることにはならず、その言葉によってさらなる疎外感や孤独感につながってしまいます。(p.23)」


 これは、本書の第1章の引用です。教師は誰もが「生徒のために」と様々な前向きな声かけをしますが、その多くは先回りして「不安」を取り除こうとするものではないだろうか。そして、身近な一人の大人である私が誤ったアプローチをすることで、その「不安」をさらに大きくしてしまっているのではないだろうか。本書を通して、不安を抱いている生徒とのこれまでの向き合い方について振り返ることができました。


 突然ですが、ある生徒がお別れの際に私にくれたメッセージをご紹介します。

「私は数学がとても苦手で、他の子がすぐに理解して解けるようなとても基礎的なところから理解できないことも多かったのですが、そんなときも先生が一つ一つ丁寧に教えてくださったことで、心が折れずに、嫌にならずに数学を勉強し続けられたと思います」

 私はこれまで「丁寧に教えること」の大切さを今後も忘れないように、お守りとしてこのメッセージを大切にしてきました。しかしこの1年間を振り返ると、この生徒は「不安そうな表情をよく見せてくれた」おかげで、躓きそうなところをよく観察でき、授業の中でも「何かできることはあるか?」とよく尋ね、一緒にスモールステップの目標を立てて自ら実行できるようにサポートしてきました。そのようなサポートが偶然できたことは、不安であることを教師に分かるように示してくれたからだと気づきました。しかし、意識していなければ、日々一緒に過ごしている生徒の中には、このように向き合うことができていない生徒も多くいるはずです。


 本書では、不安に対する見方を変えるところから、その不安な心をサポートするための具体的な方法について、不安な生徒に直面したときのエピソードとともに述べられています。


 「生徒の不安を取り除いてあげたい」という感情を抱くことは自然なことだと思います。しかし、最も大切なことは生徒自身がその不安と向き合って対処できるようになることであり、感情的に生徒と関わって解決しようとしてしまうことは、この先同じ不安を抱えても対処できなくなってしまいかねないというループが起きてしまう可能性があると著者は述べています。生徒が不安を抱いているとき、保護者が冷静に判断して行動することは難しいです。身近な一人の大人である教師だけが、冷静によく見て、判断し、実行できる存在かもしれません。そして、その不安と戦うことができるのは、不安を抱えている本人だけです。そのことから、教師として生徒の心に寄り添うための準備をしておく必要があるのです。


 本書を読んだら、不安を抱いている生徒と向き合ったとき、「どうするか」という手立てをもつことができます。その手立ての準備があれば、「どうあるか」という教師としての在り方にも注力できるかもしれません。心の余裕があれば、教室で笑顔で過ごすことができます。教師が笑顔で寄り添ってくれるということが、生徒にとっての安心感につながるはずです。


 メッセージをくれた生徒との大切な日々を思い出させてくれた『不安な心に寄り添う』(クリスティーン・ラヴィシー-ワインスタイン著)と訳者に心から感謝いたします。


割引情報は、http://projectbetterschool.blogspot.com/2022/07/blog-post_24.html