2023年8月26日土曜日

一人ひとりをいかす学習を実践するために

 

私の担当した前回(7/30)では「選択する学びの重要性」について述べて、最後に次のように書きました。 

選択肢の具体例が知りたい方は『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(北大路書房2017)へ進まれるとよいと思います。

そこでまず「一人ひとりをいかす学習」の原則についてふれておきます。同書の17ページに「一人ひとりをいかす教室の本質~八つの原則」が紹介されています。その八つの原則とは次のようなものです。

    学習環境は生徒と学習を積極的に支える

    教師は一人ひとりの違いにしっかり注意を払う

    カリキュラムは学習を支援するために構成される

    評価と指導は切り離せない

    教師は、生徒の多様性をもとに、内容や方法や成果物を変える

    教師と生徒は学習について協働する

    教師はクラスの到達基準と個人の到達基準のバランスをとる

    教師と生徒は柔軟に活動する

    は授業の土台となる部分として重要ですし、②⑥⑦⑧は授業運営上の欠かせないポイントです。そして、残る③④⑤は「一人ひとりをいかす学び」のカリキュラムマネジメントにおいて、核となるところです。特に、④「評価と指導は切り離せない」(一体化)の視点から、③カリキュラム設計は目標に合わせて、評価を考えるという、いわゆる逆向き設計(backward design)が効果的になります。そこで、その効果を最大限にするのが、「一人ひとりに合わせた」⑤の「内容・方法・成果物」となります。ここに「一人ひとりをいかす」学び方・教え方の特長が集約されることになります。

 ここまで書いてきて、「一人ひとり」で思い出したことがあります。それは「個」に着目した学びという点で、実は三つの類型があるということです。この点に関しては、『学びの中心はやっぱり生徒だ!(新評論2023)が参考になります。同書の16ページから25ページにかけて、「個別化された学び」「個人学習」「一人ひとりをいかす学習」の三つの違いについての説明があります。

 まず、個人学習は「一般的に生徒は、その教材を習得するまでの間、自らの学習ペースを自分で管理することになります。生徒は、コンピューターや教師が作成した評価に向けて、動画を再生したり、練習問題を解いたり、問いに答えたり、自分が行ったことに対するフィードバックをその場で受け取ることができます。」と説明されています。学びが人とのかかわりのなかから育まれていくという社会的な構成主義の考え方は捨象されています。学習内容の基礎的なことがらを習得するというレベルでは効果を上げるでしょう。

 続いて、「一人ひとりをいかす学習」は、同書22ページの説明では「この学習モデルでは、教師は生徒の現在の立ち位置から出発し、課題を与えたり、生徒が自分で課題を選べるようにすることでさまざまな学習体験が可能になります。」と紹介されています。

 最後に「個別化された学び」は、「生徒が自分の願いを追いかけ、問題を探り、解決策をデザインし、好奇心を追い求め、結果が生み出せるようになる生徒主体の革新的な教育モデル」(同書12ページ)と説明されています。ここで、最後の二つの違いについて、特に教師の役割が「個別化された学び」では、「質問やカンファレンス、フィードバックを通じて学びを手助けする」のに対して、「一人ひとりをいかす学習」では、「個々の生徒のニーズや好みに応じて指導を行う」とまとめています。(同書19ページの表1-1より)

 つまり、「一人ひとりをいかす学習では、教師が作成した実行可能な選択肢の範囲内で生徒自らが選択できるように促しています。」(22ページ)ということで、あくまで学習経験のデザインや管理は教師の手の中にあるということです。それに対し、「個別化された学び」は学び方や評価などについても生徒は教師に相談しながら学習を進めることができ、生徒の主体的な関与の範囲がかなり広いと言えます。これは自立した学習者を育てるという教育の目標の上位の姿をめざす方法と言えるでしょう。

 さて、まず自分の授業を改善したいと考える教師にとって、「個別化する学び」はややハードルが高いと言えます。そこで、現実的な提案をすれば、まず「一人ひとりをいかす学習」から入ることをお勧めします。

 でも「そうした取組をやりたくても時間がありません」という先生方は少なくないと思います。そこで、次の文章を紹介します。(現在翻訳作業が進行中の『Power Up(原著タイトル)の第9章「授業時間を考え直す」より)

これらの情報源をつくる時間をいつとれるでしょうか? 答えは「徐々に」です。私は、年度初めに一つの単元について最初の二つのライティングのミニレッスンを作りました。 ~途中略~教師の中には、短い休み、あるいは夏休み中に一セットのビデオを作成し、次の休みにまた制作リストに追加する人もいます。他の教師のなかには、最初の一年ほどはオンラインにあるビデオのみを使用し、生徒がうまく活用できるのを確認したら、独自の資料の作成に着手している人もいます。

これは、反転授業に使用するビデオ映像(授業)をつくっていくという米国の教師たちの実践例なのですが、まさに「徐々に」なのです。いきなりすべての単元を用意しようとするのは不可能です。最初は1本、次の学期にまた1本と増やしていく、それも一人でやっていたら終りの見えない仕事になってしまいますが、同僚・研究仲間(校内・校外)と一緒に取り組めば、かなりの数が揃っていくはずです。ここに教師のネットワークの重要性があります。

途中の話がいささか長くなりましたので、具体的な授業づくりの手順は次回(9/24)にしたします。酷暑の中ですが、どうぞご自愛ください。

 

2023年8月20日日曜日

『SELを成功に導くための五つの要素――先生と生徒のためのアクティビティー集』

 標記(ローラ・ウィーヴァー&マーク・ワイルディング著)の訳者の高見佐知さん(未来教育研究所)が紹介文を書いてくれましたので、掲載します。


SELと教科学習に統合的に取り組む必要性

日本における10代後半から39才までの死因の第一位は自殺で、先進国において特異な状況にあることが指摘されています★。また、日本の児童生徒については、幸福度や不安に課題があることが、2018年のOECD教育政策レビューで報告されました。

そのような中、「心を扱う」こと、また心の特効薬である「楽しさ」「喜び」「ワクワク」に、日常的に目を向けることが求められ、これまで以上に、非認知能力やSELSocial and Emotional Learning=社会性と感情の学習)の重要性が注目されています。SELは、もはや学力を下支えする必須条件というだけではなく、SELに取り組むことそのものが、子どもたちの今の幸せと将来の幸せに直結していることがわかってきました。子どもたちが社会に出る前に、感情を受けとめ、絶望を乗り越え、さまざまな人とつながるスキル、助けが必要なときに適切に救いを求める手立て等を、経験を通して習得する必要があります。そしてその機会を、学校教育で豊かに提供しなければなりません。

 

本書をお薦めするポイント

本書は、クラスを安心して学びあえる「学びのコミュニティー」として創りあげ、SELSocial and Emotional Learning=社会性と感情の学習)と教科の学習を統合して取り組む方法について、エンゲージ・ティーチングとして体系化され成果が証明されたアプローチを紹介しています。このアプローチには、即効性と持続性があり、豊富なエビデンスが示されています。SELは発達段階をふまえ、クラスの信頼関係の状況を見ながら見通しを立てて取り組むことが重要ですが、その具体的な方法を「SELを成功に導く5つの要素」をふまえて体系的に知ることができます。

また、本書のもう一つの画期的な特徴は、紹介されているアクティビティーの多さですが、特に、「多様な生徒のニーズに対応するために、まず教師自身が自分を深く振り返り心穏やかに健やかに日々教えることと向き合うことが必要かつ重要」として、数多くの「教師用」のアクティビティーが具体的に掲載されていることが挙げられます。SEL for Educators、または教師のためのマインドフルネスともいえるそれらの内容は、まだ日本には紹介されていない情報で大変貴重であり、これからの教育界のみならず、大人の働き方と人生の充実全般にも、大きな意識改革を起こしてくれます。

 

本書を読んでいただきたい方

本書は、教師や教職志望の学生の方には必読書としていただきたい内容ですが、教育関係者だけではなく、子どもたちの幸せ、大人の幸せ、日本に暮らすすべての人々の幸せの向上を願う、保護者、地域の方、教育政策関係者の方など、「信頼できるコミュニティーを作りたい」「人を育て、自らも成長したい」「周りの人を幸せにしたい」という想いをもつすべての方々の参考になる内容です。

「ウェルビーイング」が世界的にも注目されるようになってきました。本書は、こころ、からだ、社会とのつながり、のすべてが良好な状態である「ウェルビーイング」な状態を作り出し、相互尊重と信頼に満ちた安全安心なコミュニティーを作るための具体的な方法を提供しています。

SELについては、SELに興味をもち始めた方から、先進的な取り組みを進めておられる方まで、幅広いニーズに応えられます。SELとは何か、SELの何をいつどのような目的で実践すればよいのか、児童生徒の自己開示をどのように扱えばよいのか、SELでめざすべき全体像はどのようになっているのか等が、発達段階に応じてわかりやすく紹介されています。心豊かに関係づくりに取り組むこれだけの分量の内容を日々組み込んで実践すれば、教師も生徒も、人間関係を含めて毎日の暮らしがずっと充実したものになるはずです。取組例の多くは日本の教室でもすぐに試してみたくなる内容で、推奨される対象学年が明記されていることも取り組みやすい点です。

教職離れや教員不足が問題となっていますが、「どのようにすればよいのか」が具体的に分かれば、教職は、子どもたちの成長に日々寄り添える喜びあふれた素晴らしい仕事です。子どもたちの今の幸せのみならず、将来幸せな人生を送れるかどうかも教師の力にかかっています。子どもや保護者の不安や課題を日々受け止める教師という仕事は、大変な感情労働です。ぜひご自身の心にも優しく向き合い、おおらかに大きな見通しをもって相互尊重と信頼に満ちた関係づくりに取り組まれますよう、ぜひ本書を参考にしていただけたら幸いです。

 

●本書の章立て

1 Engaged Teaching エンゲージ・ティーチング:心から情熱と喜びをもって教えること

2 Cultivating an Open Heart おおらかで広い心を育む

3 Engaging the Self-Observer 自己を見つめる

4 Being Present 「今、ここ」に集中する

5 Establishing Respectful Boundaries お互いを尊重し合うための一線を設ける

6 Developing Emotional Capacity 感情の器を大きくする

7 The Learning Journey: Putting It All Together in the Classroom 学びの旅:教室ですべてを統合する

8 The Journey Is the Destination 旅そのものがめざす場所である

 

★『人口動態統計年報』 第8表 死因順位1)(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合2)、厚生労働省、2020

 

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2023年8月13日日曜日

沈黙の危機 『はだしのゲン』の削除と平和教育

私の勤めている学校では、平和教育の取り組みが重視されています。6年生では、東京大空襲の直接の被災者からその体験を伺う機会がありました。もう90歳の高齢の方でしたが、体験談は空襲の直後の困難な日々や、孤児としての生活の中での試練を描写していました。教科書だけでは知ることのできない、戦争の真実やその後の厳しい現実が子どもたちに伝わりました。特に、困難な状況下でも未来を信じて前に進む力強い物語は、子どもたちの心に深く刻まれました。


2学期には、広島市に住む被爆の影響を受けた世代の方々から、その時の体験談を直接伺う機会が設けられています。そして、修学旅行で広島を訪れることにより、子どもたちは戦争の痕跡を目の当たりにします。しかし、本校の教育の目的は、日本の被害だけを強調することではありません。日本軍が海外で行った行動や、その背景にある歴史もしっかりと学び取ることで、戦争の全体像を冷静に、そして公平な視点から理解することを目指しています。


このような経験を通じて、平和の価値やその重要性を再認識することができます。ただ知識を伝えるだけでなく、子どもたちが平和の尊さを感じ、その大切さを伝えることだと考えるようになれました。

公立小学校での勤務時代を振り返ると、平和教育に対する取り組みは、現在とは大きく異なっていました。当時の多くの地域や学校は、平和教育に対して消極的で、その背景にはさまざまな要因が考えられます。


一つには、戦争の事実や日本の加害行為についての教育が、地域や学校の間での論争や対立を生むことを恐れる声があったことが挙げられます。その結果、校内では「波風を立てない」ことが最優先となり、教職員間でも気を使い合う雰囲気がどこか漂っていました。このような状況の中で、子どもたちに日本の戦争に関する真実を教えることは、非常に難しいものです。私自身もそのような環境のため、平和教育に対する関心を持つことが難しかったのは事実です。今、もっと歴史から平和について学ぶべきだったと振り返って思います。



 

今年は教科書採択の年でもありました。教科書には、子どもたちが学ぶその内容があるため、多くの関心が寄せられます。しかし、時には偏った記述や、国に都合の良い情報のみが掲載されることがあります。特に、歴史に関する教科書記載は、その時代の社会的背景や国際関係によって、記述が変わることも少なくありません。


最近の東京オリンピックは賛否が分かれる大きなイベントでしたが、どのようにそれを記述するかは非常にデリケートな問題となります。多くの新しい教科書では、オリンピックの良い側面ばかりが強調されている現状も気がかりなところでした。

 

先日、NHKのクローズアップ現代「『はだしのゲン』はなぜ “消えた?」★でも、広島市の平和教育副教材から漫画『はだしのゲン』が削除され波紋が広がっていることが報道されました。『はだしのゲン』は、日本の戦争体験とその後の復興を通して、平和の大切さや家族の絆、人間の持つ強さと弱さを描いた作品です。原爆が投下された広島で、戦中戦後の苦難な時代を生き抜こうとする少年を描いた同作は、累計発行部数1,000万以上、世界各国で読み継がれてきました。そんな『はだしのゲン』が、なぜ平和教育の副教材から削除されたのでしょうか。





教材の内容や教材の選定は、時代や社会の背景、教育方針によって変わることがあります。広島市教育委員会が『はだしのゲン』を教材から削除した背景には、さまざまな要因が考えられます。NHKの番組で取り上げられたように、教育委員会からの公式の理由としては「現場で使いにくい」というものが挙げられていましたが、実際の背景には他にもさまざまな要因があったことを想像してしまいます。


副教材で削られた『はだしのゲン』の内容は、家族のため、ゲンは弟のしんじとともに街角で浪曲を歌い、お金を稼いだり、他人の庭先で鯉を釣ってその生き血を栄養不足の母に与えたりします。これらのエピソードは家族愛の深さを伝えるものとして、取り上げられていました。しかし、その場面だけではなく、戦争の悲惨さや平和の尊さを伝えるための教材としても有効な場面は他にもあります。ゲンの物語を通して、戦争の恐ろしさや平和の大切さ、そして人間の持つ希望や絆を学ぶことができます。教育委員会は、ゲンとしんじの浪曲が時代にあわず、子どもたちが理解しづらいと言う理由で削除したようです。


私も気になったので、改めてこの夏、『はだしのゲン』を読み直しました。『はだしのゲン』は、核爆弾の直接的な影響だけでなく、その後の生活の困難さを深く描写しています。私が小学生の頃に読んだとき、原爆の恐ろしさは印象に残りましたが、今、読み直してみると、それ以上に生き残った後の日常の厳しさが心に刻まれました。全7巻の中で、6巻にわたって特に原爆後のゲンの生活を中心にその多くが描かれています。彼が新たにむすんだ友情や愛情が、原爆症の影響で次々と失われていく様子は、非常に心を打つものがあります。このような作品は歴史の教訓として、戦争の実態やその後の影響を伝えるために、工夫をしながら大切な教材としても次世代にも読み継がれるものだと感じています。



 

平和は、単なる戦争の不在を意味するものではありません。それは、相互の理解と尊重、そして対話を通じて築かれるものです。近年、国際的な緊張が高まる中で、核兵器や原子力発電所の存在が再び注目されています。広島市で開催された5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、核軍縮文書「広島ビジョン」で全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現や核抑止の堅持に触れられた。核の抑止力に関する議論がなされましたが、核の存在が真の平和をもたらすのか、その問いは今も私たちに投げかけられています。


教育の場で、子どもたちと「自分にとっての平和」とは何かを考えることは、非常に価値のある取り組みです。それは、子どもたちが自分自身の価値観や考えを形成する上での大切なステップとなります。そして、その中で武力によらない平和の重要性を伝えることは、彼らが将来、多様な価値観や背景を持つ人々と共に生きていく上での鍵となるでしょう。


8月は、広島と長崎の原爆投下を追悼する月として、私たちは平和の大切さを再認識する時期です。平和教育の重要性を再確認し、関心をもつこと、話題にすること、疑問をもつこと、声を挙げることなど、未来の世代に平和の価値を伝えるための大切なステップとなるでしょう。私たちは、同じ過ちを繰り返しません。


★ NHKクローズアップ現代 202382()「はだしのゲン」はなぜ “消えた

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4811/

2023年8月6日日曜日

新しい価値観を選択するということ

私は、もう30年以上、学校で働いています。その中で、強く感じたことは、学校というところは、基本的に変化を好まないところであると言うことです。何か新しい提案をしても「反対!」「教師とは、できない理由を考える天才かもしれない。」と何度怒りに震えたことか。

ただし、このような態度を理解できないわけではありません。対象が子どもたちですから、「新しいことを試みて失敗してしまったら、大変なことになる。」「これまでに、ある程度の成果をあげてきた方法を今更捨てられない。」と思うのは、無理もないことかもしれません。

この保守性は、学校に限らないものかもしれません。日本の社会では、あまり変化を好まない国民性が培われてきた側面はある。最近でも、マイナンバー・カードへの拒否反応★1 や、 日本のデジタル化の遅れ★2 についても、たびたび報道されています。 

ただ、ゆっくりではあっても、日本人の価値観も変わりつつあると感じることもあります。

ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を活用した食品や化粧品の開発・販売で知られる株式会社ユーグレナ。同社は、18歳以下のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を公募して、採用しています。★3 同社のホームページによると、この職を創設した理由は「事業を通じて環境や健康の社会課題に取り組んできた私たちユーグレナ社。地球のこれからについて子どもたちと語り合う中で、現在の経営陣だけでは「不十分」と気付かされました。未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい、と。」CFOの業務は、「会社と未来を変えるためのすべて」とのことです。

子どもたちに権限を委譲することの意義を見出そうとする試みだと思います。

ソフトウェア開発「アステリア」(東京都渋谷区)は、2015年夏から「予想最高気温が35度以上の猛暑日」には、社員にリモートワークを勧めてきたそうです。★4 驚きなのは、コロナ禍前から、すでにこの発想をもっていた点です。コロナ禍で、在宅勤務を余儀なくされ、それがきっかけで在宅勤務を推奨するようになったわけではなく、純粋に業務の効率化や生産性を考えて導入しているのです。現在では、出社する人は少数だそうです。親の介護で地方に帰らざるを得なくなった人も仕事を続けられたり、居住地を問わない採用活動によって、新卒・中途の採用数も増えているそうです。さらに興味深いのは、社員が顔を合わせる「リアル」の場面も大切にしていること。軽井沢に建てた「リゾートオフィス」で仕事をする際は、社員が2人以上いれば、ワインセラーのワインとビールは飲み放題だそうです。この会社の基本方針は「個人が生産性を高められる働き方を選択できる形」だそうです。

一人一人に最適化した働き方があるのだという信念が感じられます。

学校を休むことに対する意識の変化もでてきているようです。読売新聞オンラインの記事「旅行を理由に欠席、皆勤賞の廃止…「学校休むことは悪」の意識に変化」では、家族旅行に行くために、平日に子どもを学校を休ませることについての親の迷いを議論をしています。★5 さらに、愛知県では、2023年度から公立学校で、子ども版有給休暇のような制度を導入していることも紹介されています。「公立学校に通う児童・生徒が、保護者らとともに校外で体験や探究の活動を行う日を「ラーケーションの日(校外学習の日)」として、年3日まで登校しなくても欠席扱いにならないという制度です。

「物理的に出席すること」と「何かを主体的に学ぶことと」は異なるという考え方が、芽生えているようにみえます。

このような事例を見てみると、新しい生き方や考え方を選択することが、とても素敵なことのように思えてきます。新しいことに踏み込むには、かなりの大胆さや勇気が必要なように思えるかもしれませんが、古い考え方に固執し、そこに留まることのマイナス面も大きい。いや、そちらの方が大きいのかもしれません。

私は、新しい未来を創り上げる方を選択したいと思います。



★1  豊 璋「マイナカード「反対」の「意外な落とし穴」…! 韓国の「住民カード」と比べてわかった、日本の「マイナカード」の本当の“光”と“闇”」
https://gendai.media/articles/-/113163?imp=0


★2  岩本 晃一『日本はなぜデジタル分野で世界に大きく遅れたか』独立行政法人経済産業研究所
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/s20_0012.html

★3 『第3期CFO誕生』ユーグレナ社ホームページ https://www.euglena.jp/cfo/

★4  『”暑いのにまだ出社しているの?” コロナ前から「猛暑テレワーク」導入企業の今「効率性低下を理解して」』
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f257f2113bee0358de7f1f39dd38c784ccc05b9

★5  「旅行を理由に欠席、皆勤賞の廃止…「学校休むことは悪」の意識に変化」読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/otekomachi/20230609-OYT8T50073/