2023年6月18日日曜日

よりよい教師になるための「11の習慣」

 成功する人がもっている『7つの習慣』★(スティーブン・R.コヴィー著)を読んだことがありますか? まだの方は、一読の価値はあります。この本は、2000年以降、ティーンや学校や家族などを対象にしたたくさんのスピンオフ作品も出ています。

 今回紹介するのは、(上記の本とは一切関係ない)教師版です。

1. 教えることを楽しんでいる

 あなたが楽しんでいなければ、生徒たちも楽しめる(よく学べる)はずはありません。教科書をカバーするだけの授業ではなく、生徒たちが相互にやり取りし(話し合い)、夢中で取り組める工夫をしましょう。この点に関しては、『「おさるのジョージ」を教室で実現―好奇心を呼び起こせ!』や『あなたの授業が子どもと世界を変える』などが参考になります。

2. 違いを生みだしている

 教師として、あなたは大きな責任を担っています。その一つが、教えている生徒たちの違いを生みだすことです。どうやって? あなたのクラスにいるときは、安心安全であると同時に、特別な存在であると思えることです。あなたは、家庭や学校の外のことに影響をもつことはできませんが、教室のなかでは生徒たちにプラスの影響を与える存在であり続けてください。

3. 前向き

 可能な限りハッピーで笑顔のある雰囲気を発信(クラス中、学校中に伝染)し続ける存在であるようにしましょう。誰もが、その逆よりは、気分よく過ごせますから!

4. 個人レベルでつながる

 個人レベルでつながれるように、生徒こと(興味関心、こだわり、学習スタイル、家族)をよく知りましょう。もちろん、それには自分のことを伝えることも含まれます。同僚(や、いまの時代は同業者とネットで)個人レベルでつながれれば、いろいろな可能性も膨らみます!

5. 全力投球する

 生徒に全力投入しなさい/ベストを尽くしなさい、と教師はよく言いますが、自分は全力投球していますか? 生徒に、生徒の家族に、同僚に、学校に、自分のベストを提供してください。

6. スケジュール管理がうまい

 仕事が溜まってしまう状況は、ベストが尽くせない状況ですから、避けてください。計画を立てることはもちろんですが、前倒しで動くことも大切です。ジャーナル(メモ)を常に持って、思いついたアイディアをいつでも書きとれるようにしましょう。そうすれば、計画でそれを活かせます。

7. オープニングマインド

 あなたは、管理職、同僚、生徒や保護者から絶えず評価され、それに基づいたフィードバックを得ています(それが、常に全力投球する理由でもあるわけですが)。誰かが、あなたの授業やほかのことに対しての(主に、批判的な)コメントをしてきたら、心を広くもって聞いてください。そして、活かせると思ったところは活かしてください。(習慣11も参照)

8. 自分にも、生徒にも期待をもっている

 これは年度当初が肝心です。具体的な実例として、『イン・ザ・ミドル』の92~104ページと『「居場所」のある学級・学校づくり』(特に、56~7ページ)が参考になります。

9. 創造的である

 優れた教師は創造的ですが、すべてを自分で考えだす必要はありません。すでに、たくさんのいい実践が行われており、それらにアクセスして、ヒントをもらい、自分なりのアレンジを加えることも、十分に創造的な行為です。

10. 変化をすすんで受け入れ、活用する

 計画通りに進まないのが物事であり、それは特に教えることに言えることです。そんな時に大切なのが「柔軟性」です。何か予期しないことが起こって変更を余儀なくされた時でも、それを何とかいい方向に利用してください。

11. 振り返り(=修正・改善し)続ける

 いい教師は、よりよい教師になろうと常に振り返っています。何はよくて、何はまずかったのか? そして次回はどう改善・修正できるのか? 私たちは誰も授業での失敗経験があります。しかし、それを「失敗」と捉えるのではなく、「さらによくなるための学びの機会」と捉えればいいのです。この点に関しては、『あなたの授業が子どもと世界を変える』(https://www.yodobashi.com/product/100000009003252588/ で目次が見られます。特に、9列目の第9章ですが、ほかの章も魅力的なタイトルだと思いませんか?)を参考にしてください。

 あなたは、ほかにどんな習慣が浮かびますか? あなたが見習いたいと思った先生はいませんか? その先生は、どのような習慣をもっていたでしょうか? 最初から、全部の習慣を見習う(自分のものにする)ことは荷が重いですが、一つずつ押さえていくことならやれます。ぜひ、挑戦してみてください。

出典: https://www.edutopia.org/discussion/11-habits-effective-teacher

 

★「習慣」ではなくて「特徴」を使ってしまうと、なかなか身につけられるとは思えませんが、習慣なら不可能ではありません! なお、私にとってこの本の最大のヒットは、6つとか7つの自分について書ける手帳(スケジュール表)をもつ、というところでした。自分の自分。夫としての自分。父親としての自分。仕事人としての自分。地域住民としての自分。市民(ここには県民・国民も含まれる)としての自分、そして地球市民としての自分。これら7つの自分にバランスよく日程が組めるようになりたい/なるべき、というものです。実際、そういう手帳も売っています! みんながこのスケジュール表を埋められるようになったら、ワークライフ・バランスはもちろん、「働き方改革」などと言う必要もなくなると思いませんか?

 また、このブログの左上に「習慣」で検索したら、次のようなのが出てきました。https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E7%BF%92%E6%85%A3

 

2023年6月11日日曜日

学びの本質を問う 〜ChatGPTの教育利用と見せかけの理解にだまされないために〜

 

対話型AIChatGPTが近年、大きな注目を集めています。このAIは非常に自然な文章生成を実現し、人間が投げかける質問の意図を理解しているかのように反応してくれます。さらにその応用範囲は驚くほど広く、翻訳から数学問題の解答、プログラム作成、さらには小説の執筆までこなすことが可能となります。専門的なプログラム言語での指示を必要とせず、日常の自然言語で指示を出すだけでAIが適切に応答してくれるため、これによりAIとのコミュニケーションが一層簡単になりました。

 

ChatGPTは自然な言語を生成する能力と、人間が求めた答えを追求する能力の二つの側面を持ち合わせているようです。これは具体的な文脈に応じて適切な言葉を使用し、あたかも相手の意図を理解しようとする姿勢を示しています。これらの特徴は今後の教育現場におけるAIの活用において大いに期待できる要素といえるでしょう。

 

しかし、AIはこの人間が意図することを、本当に理解しているのでしょうか?

 

対話型AIChatGPTが教育現場でどのように扱われるべきか、大きな議論のテーマとなっています。ちょっと前にもある小学生がChatGPTを使って読書感想文を書いたという事例が話題となりました。この子は、この新たなツールに興味津々で手を伸ばしたのでしょう。その担任は、「書き方を模倣するだけでも学習になる」とAIの利用を認めていました。ただし、単に文章を書き写すだけでは、真の学習にはつながらず、それだけでは不十分でしょう。書き手の意図をもって修正するプロセスこそが学びであり、成果物である読書感想文を完成させることが教育の目的ではないからです。

 

しかし、今やこのAIの普及という流れを止めることは困難といえます。ここで重要なことは、教育の本質を見失わないことです。学びは本来、自己向上のためのプロセスであり、それは個々の自己責任によって進められるべきです。chatGPTの規制があっても抜け道を探す生徒や学生たちの行為や、規則を破ろうとする欲求は、人間の持つ自然な傾向です。結果として、その行動が自身に損をもたらすかどうかは、個々の判断に委ねられることとなります。もし、AIの活用が取り組むべき作業を楽にし、それが良いと感じるなら、それもまた一つの選択肢となるかもしれませんが。

 

『世界』20237月号で紹介された対談「わかりたいヒトとわかっているふりをするAI」には、慶應義塾大学教授の今井むつみさんと言語学者兼作家の川添愛さんの間で行われ、AIの能力とその限界についてこれらの深い洞察が語られていました。

 

大規模言語モデルであるChatGPTは、ネット上から取得した膨大な文章データを学習し、「この単語の次にはどんな単語がくるのか」を予測します。それにより、私たちはAIが我々の要求を理解していると感じますが、chatGPTは単に機械が膨大なパターンを学習して、そのパターンを再現しているだけです。実はChatGPTには個々の単語の意味を理解する能力がありません。それよりは、繰り返し指示を受け、回答された文章が望ましいものに近づくように微調整することで強化学習を行っているだけのことです。

 

重要なことは、このAIが「意味論」、つまり言葉と現実世界を関連付けるレベルの理解を持たないという点です。それは単に単語を自然に並べ、人間の質問の意図に合った答えを生成するだけです。ただし、この非対称なプロセスがなぜうまく機能しているのかは、興味深いところですが。

 

古くから「AIは身体が必要だ」という主張があります。これは学習には五感と身体を通じた経験が必要であるという意味です。AIの進化と可能性を理解するためには、これらの違いを理解し、人間とAIがどのように異なるかを認識することが重要です。この認識はAIをより効果的に利用し、その限界を認識する上で重要となるのです。★

 

例えばヘレン・ケラーの学習過程は、現在のAIを理解するための示唆に富むエピソードです。彼女がポンプから出る冷たい水に触れた瞬間、「water」という指文字で学んでいた綴りが実際の水を表していることを理解した瞬間です。それまでの彼女の状況は、現在のchatGPTの状況とよく似ています。つまり、言葉が何かを表すものであるというメタ的な認識を持てていなかったのです。

 

ChatGPTは、人間がある問題を解決するためにどのような論理的な考え方を経てきたかを理解する能力を持っているように見えます。しかし、これは単に大量のデータから得た手がかりを使って、人間が次に何を期待するかを予測しているだけにすぎません。chatGPT自体が人間が答えた通りの推論を内部で行っているわけではありません。

 

人間が意図を理解するとき、私たちは文化的な慣習や常識を適用し、言葉以外の情報も大量に動員して理解を深めることが必要なのです。しかしchatGPTのようなAIは、この人間固有の推論過程を持つことは今のところできていません。言葉と実世界の間の深いつながりを理解し、体験する能力がAIにはないからです。AIの進化と可能性を理解するためには、このような人間とAIの間の基本的な違いを理解することが重要なことなのです。

 

子どもたちに対しては、ChatGPTのようなAIが答えを全て持っているという誤った認識を育てないように注意が必要です。子どもたちが自分自身で思考し、直感を育む能力を阻害する可能性があるからです。一方で、十分なスキルと知識を持つ人々にとって、ChatGPTは作業効率を大幅に向上させる道具となることでしょう。しかし、その使い方によっては、AIは諸刃の剣ともなりうるということを忘れてはなりません。これらのことを踏まえ、我々はAIを適切に使いこなすための理解と教育が必要だと言えます。そして、その過程でAIがどのように人間による制御を受けているかを常に意識することが重要となっていきます。

 

みなさんはどのようにAIの活用/禁止を考えていますか。よかったら教えてください。

 

 

 

★「記号設置問題」

言語を学ぶときには、生活を通して感覚と共に獲得することを「記号設置問題」といいます。具体的な感覚と抽象的な記号体系がどうつながっているのかを明らかにしようとする試みです。人間は、物事を感じ取ることなく学習することは基本的にできません。人間は日常的に数を表す言葉を使いますが、その実体を直接視覚化することはできないのです。

 

例えば、「五つのリンゴ」や「三つのアメ」など具体的な物体を数えることは可能ですが、""そのものを視覚的に捉えることはできません。""は具体的な物体から抽象化された概念です。初期の学習は、感覚に基づく知覚から始まりますが、それから推論を用いて、単一の記号の意味だけでなく、記号全体が形成するネットワークや文法を自己発見していきます。3歳から5歳の間に、子どもたちはすでにかなりの知識体系を築き上げます。自分で発見するからこそ理解し、納得できます。これは「記号設置」という考え方の一部であり、それは自分が何を学び、どのように学び、そしてなぜ学んだのかを理解する過程を含んでいます。この自己発見と理解の過程はAIにとって高いハードルとなります。AIは抽象的な概念を理解し、それを自己の経験や知識と結びつける能力を持たないからです。それは、人間が経験から学び、新たな知識を作り出す能力があることと対比しているのです。

 

 

 

 

 

2023年6月4日日曜日

学校にはアンラーンが不可欠

私の周りでも、教員をやめたいとなげく人が増えてきたように感じます。日常的な職場や上司へのぐちといったレベルではなく、真剣に職を辞したいというのです。私の家族に、中学校の教員がいますが、4月から今までに、すでに講師が一人やめ、退職を考え始めた教諭も複数人いるらしいのです。

教員を志す学生も減っているようです。教員採用試験の志願倍率も驚くような低い数字に留まっているようですし、文部科学省も「教師不足に関する実態調査(令和4年1月31日公表)」★1 をやらざるを得なくなっています。教員確保のために、涙ぐましい努力を続ける地方自治体について、マスコミなどで報じられない日はないほどです。★2

教員の働き方改革はここ数年の大きなトピックです。部活動のあり方も大きな問題として取り上げられていますし、教員の待遇、特に、給与制度のあり方についても、やっと本格的に議論が始まったところです。残業代支給なのか、教職調整額のアップか、手当増かといった問題です。現状の問題解決のために、いろいろな選択肢があがってきてますが、果たして根本的な解決策は出てくるのでしょうか。

ある現職教員が、ブログで教員をやめようと思った理由をあげています。★3

・自分のやりたいことに十分時間をとることができないから
・時間外勤務が長すぎるから
・給料の仕組みに不満があるから
・教員でない選択肢も見えてきたから

現在の学校という職場や働き方への不満や疑問だけでなく、すでに他の選択肢を視野に入れている点が、やや気になります。私のような古いタイプの人間には、教職を志したら、生涯教育に身を捧ぐといった考え方が染み付いているのかもしれません。

この問題への特効薬は、そう簡単に見つかりそうにはありません。また、大きな制度改革が終わるまで、じっと待ちますか?

いや、まずは、自分たちができることから始めるしかないと思います。

まずすべきことは、アンラーン(unlearn)することではないかと思います。

アンラーンという言葉を、柳川範之さんがとても分かりやすく説明してくれています。★4

「「アンラーンを分かりやすく言い換えるとすれば「これまでに身につけた思考のクセを取り除く」です。「思考のクセ」というのは、環境に適応してパターン化した思考のことです。」

パターン化された思考のくせが柔軟が発想を妨げるといった事例は、特に、学校の場合、顕著ではないかと思います。子どもたちのことを考えて、リスクを取ることに躊躇しがちです。学校教育が、保守的になりがちなのは、当然といえば当然なのかもしれません。

それが積み重なって、やることが増えすぎで、もう学校は完全に「機能不全」に陥ってしまっているかのようです。

このままでは、学校は大変なことになってします。みなさんは、どこからアンラーンを始めますか?★5

★1  https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf

★2 「「教員不足」でピンチ!名古屋市で初めての事態 公立学校の教員が配置基準を15人下回る 「ペーパーティーチャー」を現場に呼び戻せるか」

https://news.yahoo.co.jp/articles/4e23ce35ae0ce2fad7ed9705f7e8473c7c7be69d など多数

★3 「教員をやめたいと思った理由【現役教師が語る、ブラックな職場・闇】」https://nottiyblog.com/my-reason-of-retire/

★4  柳川範之「新しい学びの技術「アンラーン」が、今こそ必要な理由」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00424/011700001/

★5  教師の学びは、校内研修や学校外での研修など様々な形があります、従来の学び方を「上書き」することが中心で、学んできたことをアンラーンすることにはほとんど貢献していません。アンラーンに貢献するのが、一連の教育ハックシリーズです。興味ある一冊を手にとって、みなさんのアンラーンの取り組みをスタートさせませんか。

https://www.shinhyoron.co.jp/wp/wp-content/uploads/20211108-books_that_create_new_lessons.pdf

2021年冬以降の本は、   https://www.hanmoto.com/bd/search/author/%E5%90%89%E7%94%B0%E6%96%B0%E4%B8%80%E9%83%8E/order/desc で見られます。


2023年5月27日土曜日

生徒を知る

 生徒理解とよく言いますが、これは教師にとって一番大切にしなければならないものだと思います。そのためには、日々の学校生活を漫然と過ごしていては決してうまくいかないものです。日常的な観察と一定の方法が必要です。

前回取り上げた『「居場所」のある学級・学校づくり』(新評論・2022)でも第2章「居場所は信頼関係で育まれる」において、「方法10・生徒を知る」ための具体的な方法を示しています。

「毎朝の挨拶」「未完成の文章」一対一のミーティング」などがそれです。「未完成の文章」とは、「私は、先生が〇〇〇をしているときは好きじゃありません。」「私の学校での最高の経験は〇〇〇です。」のように、〇〇〇のところを生徒に記入させて、生徒について知るための手がかりを得るというものです。あいさつのしかた一つをとっても、生徒の特徴をつかむことができるわけです。

「一対一のミーティング」も大切な活動です。今は学校生活が非常に過密で、なかなかゆっくりとしゃべる時間も取れないのが現実だと思います。以前、あるところで知り合いになった先生は、週に1回はクラスの生徒全員と言葉を交わす機会をつくっていると話されていました。自分で決めて、意識してやらないと決して実現しないことです。 

また、同書の「方法16(92ページ)では、「生徒をよく観察する」を取り上げています。「こっそり観察」「静かな承認」「文書による承認」と、さまざまな方法で生徒をよく知り、それをもとにして生徒にフィードバックをしていきます。「文書による承認」はメールによる家族への連絡も含まれます。学級通信・学級だよりを発行している担任の先生も多いと思いますが、それもこの範疇に入るものです。

私もかつて中学校で担任をしているときに、毎日その日の夜に、一日をふり返って、生徒の行動や気づいたことをノートに記入していました。それをもとに、学級だよりの原稿を書きました。この「ノートに記入する」は、今ではスマホにメモするとか、ディジタルで簡単にでき、しかもそれをもとに編集することも容易です。使わない手はありません。 

観察と言えば、朝の学級の時間に「健康観察」を多くの学校で行っていると思います。

今でもこの「健康観察」で思い出すのは、中学2年生を担任していたときのことです。

ある朝、健康観察をしていると、いつも快活な笑顔で明るい性格のAさんがとても深刻な顔をして、気持ちも落ち込んでいるようでした。私は、廊下にAさんを呼んで「何かあったの?」と聞きました。すると、Aさんは突然泣き顔になったので、私は立ち話で済む状態ではないと思い、相談室ですぐにその続きを聞きました。すると、大好きな姉が昨晩家出をしていまい、それで大変心配しているとのことでした。そのときに私に何かをすることができたわけではないのですが、それ以降Aさんは私のことを大変信頼してくれるようになり、学級活動の先頭に立って活躍しました。そのことがきっかけとなり、それまで以上に生徒を観察することを学級経営の柱の一つとするようになりました。もっとも、うまくいったことばかりではありません。「あのとき、もっとこうしていたら・・・」という自責の念に駆られたことも数えきれないほどありました。だからこそ「もっと学びたい」という思いが、さまざまな学びの機会へ自ら飛び込んでいく原動力になったことも事実です。 

そもそも生徒を観察するためには、教師が主人公の授業を続けていては観察する余裕もありません。生徒が主役の授業を行うことで、教師は生徒の間をまわって、一人ひとりをよく見ることができるのです。教師が一人で頑張る授業から転換する必要があることは、このようなことからも求められているわけです。「生徒を知る」「生徒を観察する」ことの大切さを今一度見直してみたいと思います。

2023年5月21日日曜日

スポーツ・インストラクターのプロフェッショナリズム

スポーツジムに通い始めて10年近くになります。やっているのは、FightDo(ファイドー)という格闘技系のエクササイズのみです。音楽に合わせて、パンチ、キックを繰り出す。それだけです。運動の強度やリズムが、合ったのでしょうか、すぐに脱落するだろうと思っていましたが、予想を超えて続いています。人間ドックの結果も、毎年改善を続けていて、今では要注意マークがほぼなくなりました。

自分の健康面だけでなく、当初から感じていたのは、インストラクターのプロフェッショナリズムでした。もちろん、会員数の維持のために、営業的な面が見えないわけではないですが、以前から、その姿勢には大いに学ぶことがありました。

例えば、単純なことなのですが、レッスン終了後に、必ず出口に待機していて、参加者一人ひとりに声をかけてくれます。彼ら、彼女らにとっては、当然のことなのでしょうが、我々は教室で、そのような姿勢をもっていただろうかと、自問することになりました。マリリー・スプレンガーさんの『感情と社会性を育む学び(SEL) ー子どもの、今と将来が変わる』には、教師と生徒の関係を築くために「教室の入口で生徒に挨拶をする」や「朝の挨拶と帰りの挨拶」(p.16-19)をしようというアイデアが紹介されています。★1

ジムの方針として、基本的に全員が実行しようという約束事はあるようですが、レッスンの質そのものは、インストラクターによって様々です。経験あるインストラクターと新人インストラクターの比較も、私にとっては、興味深い学びの対象でした。

昨日、6年前に県外に転勤していたインストラクターが、ジムのマネージャーになって帰ってきました。昨夜、久しぶりの登場ということで、顔見せで、若手インストラクターのレッスンの一部を担当したのです。

プロのインストラクターの圧巻の指導を実感できました。どこが若手インストラクターと違っていたのでしょうか。

1 負荷をかけるタイミングが絶妙

「ここはちょっとしんどいぞ!」と思い始めると、そのタイミングで、ほんの少し負荷を上げる働きかけをするのです。「さあ、ここで手を後1センチ伸ばして!」といったアドバイスがくるのです。そこが絶妙なので、心拍数も維持され、さらには、少し上がり、汗も気持ちよくかける。一方で、新米インストラクターは、ただただ決まった動きをくり返すだけで精一杯という感じでした。

よく参加者を観察しているし、見極める力(評価)が抜群なんだと思いました。

2 説明が簡潔

若い新人インストラクターの順番になりました。彼は長々と説明していると、「全部説明するの!さあ、いきましょう」と静止して、曲を流し始めてしまいました。ちょっと強引な感じでしたが、参加者のことを思って、我慢できなかったのではないかと思います。実際、説明を聞いていた我々は、心拍数が落ち、汗もひき始めていました。参加者が、そう感じ始めたタイミングでの声がけだったと思います。

自分の動きに自信のない人は、やたら長々と説明します。プロのインストラクターは、モデルを示しながら、ポイントをずばり一言で言える、そのような傾向があると思いました。


3 やっていることの意味を説明し、理解させている

後半、参加者も汗だく、大いに盛り上がっているタイミングで、「わたしは、どんどんあおってますけど、故障がある人や自信のない方は、自分のペース良いのですよ。あおって、みなさんを乗せるのが私の仕事なのですから」と言いました。タイミングよく、全員が気合が入るように「あおってくる」のです。乗せるのがうまいとでもいうのでしょうか。

ただ、単に「あおっている」ではなく、そうすることで、多くの参加者が、集中し、夢中になれる。最大のパフォーマンスを発揮できる。そのために、「あおっている」のだと。参加者の「気持ちが乗るかどうか」は大きな要素なのですから。新人インストラクターは、大きな声を出したり、盛り上げようと努めてはいますけど、参加者の心に響くメッセージはなかなか出せないようです。

4 みんなが好きなことを知っている

参加者が、とても盛り上がる曲、盛り上がる動き(快適な突きと蹴りのコンビネーションなど)があります。私は、若い頃よく聞いた洋楽などが出てくると、たとえ疲れ切っていても、もう一度パワーが湧いてくるような気がします。心と体は一体なんだと感じます。

プロのインストラクターは、みんなが好きで、盛り上がるところを、確実に押さえていて、うまいタイミングでそれらを使うのです。


プロのインストラクターと新人インストラクターの違いを見てきました。分野は違えど、いろいろなところに、学ぶチャンスや素材はあるんだなあと思います。


★1 マリリー・スプレンガー(2022)『感情と社会性を育む学び(SEL) ー子どもの、今と将来が変わる』新評論. 

2023年5月14日日曜日

対話のパワー 「対話の5基礎力と」による職場の学習を深化


 

4月からはじまった新学期も早いので1ヶ月が立ちました。新たな学級や学年、学校が徐々に落ち着いてきた今、様々な学校行事の企画や運営がスタートしてきました。個人面談、宿泊行事、運動会など学校行事が相次いで行われる中、何かと忙しさに追われてしまいます。

 

本来ならば、日々の授業の準備や振り返りに十分な時間を確保したいものですが、現実はそうはいかないものです。この忙しさは身体だけに限定されません。何かに追われる日々は、時間だけでなく、心の平穏さも奪ってしまいます。この5月から6月にかけて、ちょうど職員間の緊張感も高まる時期でもあります。この緊張感は、多忙な仕事内容により互いへの配慮が欠けてしまうことが一因かもしれません。また、教員同士がお互いを深く理解し始める過程で葛藤が生まれ対立も増えていきます。それぞれがお互いを理解し、尊重することで、この時期を乗り越えることが重要です。

 

このような時期にこそ、互いに敬意を払いながら関わることが重要です。無意味な議論や論争ではなく、互いの立場を理解し、共に前進することが求められます。そのためには、「対話の力」が不可欠となります。

 

対話の場では、誰もが自由に思考や意見を表現できる環境が整っています。互いに学び、深く考える機会を得ることができます。対話の重要性は、意見の正しさを競うことではなく、相手の考えや思いを尊重し、聞き取ることにあるからです。その結果、誰もが安心して自身の意見を述べることが可能となります。新しいアイディアの創出、問題解決への道筋、これらはすべて、対話というスキルによって生まれます。これこそが対話の力であり、未来の成果を生み出す原動力となるのです。

 

今回紹介する効果的な本は熊平美香『ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』(ディスカバー・トゥウェンティーワン 2023)です。ピーター・センゲの学習する組織理論をベースに多くの学習理論をわかりやすくまとめ、日本企業や教育分野での実践知を積み重ねてきた熊平さんの新刊です。

 

対話には5つの基礎力があります。

 

①メタ認知

メタ認知とは、自己の認知プロセスを視野に入れて理解することを指します。自身の思考がどこから生じたのかを振り返り、その背後にある自身の視点を深く理解することで、自己の内面を認識するのです。このプロセスは、自己理解を深め、より効果的な学習や問題解決へとつながる重要なスキルです。★

 

②評価判断の保留

対話の中で重要なスキルの一つが、評価判断の保留です。これは、自分の意見を一時的に横に置き、他者の意見に全力で耳を傾けることを意味します。自分の意見に固執したままでは、対話はただの忍耐試験になり、創造性は育まれません。評価判断を保留することで、多様な意見に触れ、新たな視点から学ぶことが可能となります。これは、共通理解を深めるための重要なステップであり、同時に個々の視野を広げる機会でもあります。

 

③傾聴

メタ認知と評価判断の保留が自己の視点に焦点を当てていたのに対し、傾聴は他者のメンタルモデルに注目します。これは、他者の考えがどこから生じ、どのような価値観や視点から物事を判断しているのかを理解するプロセスです。傾聴することは、相手の内面を理解することを意味しますが、必ずしも相手の意見に賛成する必要はありません。むしろ、異なる視点を持つ他者の考え方や感じ方を理解し、それに対する自身の理解を深めることが目指されます。このプロセスは、相手を尊重し、対話を深化させるために重要なスキルです。

 

④学習と変容

対話を通じて何を学び、自身の考え方にどのような変化が起きたのかを理解することが、学習と変容のステップです。これは対話の重要な成果であり、自己の成長と理解の深化につながります。しかし、学習と変容は自己の内面で起こるものなので、意識的にそれに目を向けないと自覚することが難しい場合もあります。そのため、対話の後には振り返りを行い、自身の学びと変化を確認することが重要です。これにより、自身の成長を実感し、次の対話へとつなげることができます。

 

⑤リアルタイムリフレクション

対話中に自己の内面で起きていることを現在進行形で振り返ることを指します。これにより、対話からより深く、そして多くのことを学ぶことが可能となります。これら5つの要素は順番に実施するものではなく、対話の中で同時に活用することが重要です。これらの実践を通じ、自身の内面で起きていることを意識し、それを活用することが、対話から最大限に学びを得るためには欠かせません。

 

 

 

職場で対立が生じたり、他者と意見が合わない状況が発生した場合、対話を促進するためにまず必要なのは、振り返りです。自分の考えや意見がどのような経験、感情、そして価値観に基づいているのかをメタ認知することから始めてみましょう。このように自己の内面を深く探ることで、初めて他者の視点や多様な意見を理解するためのマインドセットが整います。自己理解は他者理解への第一歩とも言えます。対話の中で自分自身と他者を理解し、建設的な関係性を築くことができます。

 

対話の基本力を身につけることで、多様な意見を共有し、それらを新たなアイディアに昇華することが可能となります。一バラバラに見える意見も、対話を通じて一つにまとめることができます。これは、意見の対立を恐れず、むしろ歓迎する姿勢があるからこそです。また、過去の成功体験に固執することなく、他者の視点から学ぶことができます。そうすることで、思考の枠組みを変えることが容易になり、一人一人の問題解決能力が向上します。周囲の人々と共に対話力を磨き、望む未来を自分たちの手で創り上げる実践を進めましょう。対話は、チーム全体の力を引き出し、新たな可能性を開花させる強力なツールなのです。

 

★メタ認知について

補足として、対話の基礎力を形成する最初のメカニズム、メタ認知について説明します。これは、自分の思考がどのように生まれてきたのかを自問自答し、自己の内面を上から見下ろすように俯瞰する行為です。意見はその根底にある過去の経験を通じて形成され、特定の視点やメンタルモデル(物事の捉え方)が必ず存在します。このメタ認知の過程では、自己の内面を客観的に、そして多面的、多角的に振り返ります。これにより、自己理解を深め、より良い対話のための基盤を築くことができます。

 

この振り返りを行うために、認知の4点セットが必要です。意見、経験、感情、価値観です。自分の意見の背景に、どのような経験や感情、価値観が存在しているのかを知ることで、自分の内面をメタ認知にすることができます。 自分の意見がどのような経験や感情、価値観に基づくものなのかを知ることで、対話がより深いものになっていきます。なぜそう考えるのかを自分に問いかけてみましょう。基本的な問いとなります。どのような意見を持っていますか。その意見の背景にはどのような経験がありますか。その経験にはどのような感情が紐付いていますか。その意見の背景にはどのような価値観やものの見方がありますか。これは自分の内面を目玉にすると同時に、他者の内面も理解することも期待 されることとなります。

 

振り返りを行うためには、認知の4点セットが必要です。意見、経験、感情、価値観。自分の意見の背後にどのような経験、感情、価値観が存在するのかを理解することで、自分の内面をメタ認知的に把握することができます。自分の意見がどのような経験や感情、価値観に基づいているのかを知ることで、対話はより深い次元に達します。自己に対して「なぜそう考えるのか?」問いかけます。

・あなたがどのような意見を持っているのか?

・その意見の背後にある経験は何か?

・その経験に連動する感情は何か?

・そしてその背後にどのような価値観や視点が存在するのか?

 

これらのことを自問自答してみてください。このプロセスは、自己の内面を明らかにするだけでなく、他者の内面を理解するための鍵ともなります。

 

さらに振り返りに興味ある方は熊平美香『リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(ディスカバー・トゥウェンティーワン 2021)もおすすめです。




 

 

 

 

2023年5月7日日曜日

「個別化された学び」とはなんで、どうしたら実現できるのか

 共訳者の一人、かえつ有明中・高等学校の英語およびサイエンス科(プロジェクト学習)担当の田中理紗先生が新刊『学びの中心はやっぱり生徒だ!――「個別化された学び」と「思考の習慣」』の紹介文を書いてくれました。

 同じ年齢の子どもたちが、教室という場に集まり、全員が決められたことを同じように学ぶ。そんな工場のような、効率性を重視した仕組みが学校教育という場にそぐわないということに、私たち教員はずっと気づいていたのではないでしょうか? 変化と不確実性の時代の中で、日本の教育も少しずつ変わりはじめ、徐々に「個別化された学び」に類する取り組みや実践が広がり始めていることを感じています。

 実際に文部科学省のホームページでも「個別化された学び」に類する「個別最適な学び」に関する記述もあります。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01491.html

 ところが実際の学校現場では、「個別最適な学び」を含めたこのような取り組みが、うまくいっている事例が多いとはいえません。それはなぜなのでしょうか?

 実は本書で紹介されている「個別化された学び」は、文部科学省の「個別最適な学び」とは少し(だいぶ?)質感が異なります。というのは、実際のところ、学びを「個別化」しただけで、子どもたちが学びに向き合えるようになるかというと、必ずしもそうなるわけではないからです。

「個別化された学び」を本当の意味で実現していくためには、学びに対するより深い理解が必要です。カリキュラムはもちろん、教師と生徒の関係性、環境、フィードバック、そして今回の大事なテーマでもある「思考の習慣」https://bit.ly/3XZmfbhを育んでいくことがとても重要です。この「思考の習慣」は「習慣」という言葉の通り『身につけなさい!』と声をかけることによって身につけられるものではなく、まずは教師自身がモデルとなり、示していくことはもちろん、小さなステップを積み重ねながら、教室の中で少しずつ育んでいくものです。

 本書は「個別化された学び」を本当の意味で実現させるための「思考の習慣」をどのように育んでいくか、その第一歩を踏み出す、そんなきっかけとなる一冊です。近年の探究学習の広がりにより、生徒に「個別化された学び」の時間を提供しようとしても、「何にどう取り組んだらいいかわからない」と話す生徒がいたり、やる気がないように見える生徒がいたり、表面的な調べ学習で満足してしまったり、ということも皆さんの周りでも、起きているのではないでしょうか? そして、そもそもそのための時間や仲間をつくる難しさを抱えていたり、実施するための方法がわからずに躊躇したりしている教師の皆さんもいらっしゃるかもしれません。

そこで、「思考の習慣」を中心に考えていくことで、これらのことを解決するためのヒントがみつかるかもしれません。本書を使いながら、探究学習や「個別化された学び」について是非もう一度考え、そして新たなステップを歩み始める機会になることを祈っています。

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