2023年5月14日日曜日

対話のパワー 「対話の5基礎力と」による職場の学習を深化


 

4月からはじまった新学期も早いので1ヶ月が立ちました。新たな学級や学年、学校が徐々に落ち着いてきた今、様々な学校行事の企画や運営がスタートしてきました。個人面談、宿泊行事、運動会など学校行事が相次いで行われる中、何かと忙しさに追われてしまいます。

 

本来ならば、日々の授業の準備や振り返りに十分な時間を確保したいものですが、現実はそうはいかないものです。この忙しさは身体だけに限定されません。何かに追われる日々は、時間だけでなく、心の平穏さも奪ってしまいます。この5月から6月にかけて、ちょうど職員間の緊張感も高まる時期でもあります。この緊張感は、多忙な仕事内容により互いへの配慮が欠けてしまうことが一因かもしれません。また、教員同士がお互いを深く理解し始める過程で葛藤が生まれ対立も増えていきます。それぞれがお互いを理解し、尊重することで、この時期を乗り越えることが重要です。

 

このような時期にこそ、互いに敬意を払いながら関わることが重要です。無意味な議論や論争ではなく、互いの立場を理解し、共に前進することが求められます。そのためには、「対話の力」が不可欠となります。

 

対話の場では、誰もが自由に思考や意見を表現できる環境が整っています。互いに学び、深く考える機会を得ることができます。対話の重要性は、意見の正しさを競うことではなく、相手の考えや思いを尊重し、聞き取ることにあるからです。その結果、誰もが安心して自身の意見を述べることが可能となります。新しいアイディアの創出、問題解決への道筋、これらはすべて、対話というスキルによって生まれます。これこそが対話の力であり、未来の成果を生み出す原動力となるのです。

 

今回紹介する効果的な本は熊平美香『ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術』(ディスカバー・トゥウェンティーワン 2023)です。ピーター・センゲの学習する組織理論をベースに多くの学習理論をわかりやすくまとめ、日本企業や教育分野での実践知を積み重ねてきた熊平さんの新刊です。

 

対話には5つの基礎力があります。

 

①メタ認知

メタ認知とは、自己の認知プロセスを視野に入れて理解することを指します。自身の思考がどこから生じたのかを振り返り、その背後にある自身の視点を深く理解することで、自己の内面を認識するのです。このプロセスは、自己理解を深め、より効果的な学習や問題解決へとつながる重要なスキルです。★

 

②評価判断の保留

対話の中で重要なスキルの一つが、評価判断の保留です。これは、自分の意見を一時的に横に置き、他者の意見に全力で耳を傾けることを意味します。自分の意見に固執したままでは、対話はただの忍耐試験になり、創造性は育まれません。評価判断を保留することで、多様な意見に触れ、新たな視点から学ぶことが可能となります。これは、共通理解を深めるための重要なステップであり、同時に個々の視野を広げる機会でもあります。

 

③傾聴

メタ認知と評価判断の保留が自己の視点に焦点を当てていたのに対し、傾聴は他者のメンタルモデルに注目します。これは、他者の考えがどこから生じ、どのような価値観や視点から物事を判断しているのかを理解するプロセスです。傾聴することは、相手の内面を理解することを意味しますが、必ずしも相手の意見に賛成する必要はありません。むしろ、異なる視点を持つ他者の考え方や感じ方を理解し、それに対する自身の理解を深めることが目指されます。このプロセスは、相手を尊重し、対話を深化させるために重要なスキルです。

 

④学習と変容

対話を通じて何を学び、自身の考え方にどのような変化が起きたのかを理解することが、学習と変容のステップです。これは対話の重要な成果であり、自己の成長と理解の深化につながります。しかし、学習と変容は自己の内面で起こるものなので、意識的にそれに目を向けないと自覚することが難しい場合もあります。そのため、対話の後には振り返りを行い、自身の学びと変化を確認することが重要です。これにより、自身の成長を実感し、次の対話へとつなげることができます。

 

⑤リアルタイムリフレクション

対話中に自己の内面で起きていることを現在進行形で振り返ることを指します。これにより、対話からより深く、そして多くのことを学ぶことが可能となります。これら5つの要素は順番に実施するものではなく、対話の中で同時に活用することが重要です。これらの実践を通じ、自身の内面で起きていることを意識し、それを活用することが、対話から最大限に学びを得るためには欠かせません。

 

 

 

職場で対立が生じたり、他者と意見が合わない状況が発生した場合、対話を促進するためにまず必要なのは、振り返りです。自分の考えや意見がどのような経験、感情、そして価値観に基づいているのかをメタ認知することから始めてみましょう。このように自己の内面を深く探ることで、初めて他者の視点や多様な意見を理解するためのマインドセットが整います。自己理解は他者理解への第一歩とも言えます。対話の中で自分自身と他者を理解し、建設的な関係性を築くことができます。

 

対話の基本力を身につけることで、多様な意見を共有し、それらを新たなアイディアに昇華することが可能となります。一バラバラに見える意見も、対話を通じて一つにまとめることができます。これは、意見の対立を恐れず、むしろ歓迎する姿勢があるからこそです。また、過去の成功体験に固執することなく、他者の視点から学ぶことができます。そうすることで、思考の枠組みを変えることが容易になり、一人一人の問題解決能力が向上します。周囲の人々と共に対話力を磨き、望む未来を自分たちの手で創り上げる実践を進めましょう。対話は、チーム全体の力を引き出し、新たな可能性を開花させる強力なツールなのです。

 

★メタ認知について

補足として、対話の基礎力を形成する最初のメカニズム、メタ認知について説明します。これは、自分の思考がどのように生まれてきたのかを自問自答し、自己の内面を上から見下ろすように俯瞰する行為です。意見はその根底にある過去の経験を通じて形成され、特定の視点やメンタルモデル(物事の捉え方)が必ず存在します。このメタ認知の過程では、自己の内面を客観的に、そして多面的、多角的に振り返ります。これにより、自己理解を深め、より良い対話のための基盤を築くことができます。

 

この振り返りを行うために、認知の4点セットが必要です。意見、経験、感情、価値観です。自分の意見の背景に、どのような経験や感情、価値観が存在しているのかを知ることで、自分の内面をメタ認知にすることができます。 自分の意見がどのような経験や感情、価値観に基づくものなのかを知ることで、対話がより深いものになっていきます。なぜそう考えるのかを自分に問いかけてみましょう。基本的な問いとなります。どのような意見を持っていますか。その意見の背景にはどのような経験がありますか。その経験にはどのような感情が紐付いていますか。その意見の背景にはどのような価値観やものの見方がありますか。これは自分の内面を目玉にすると同時に、他者の内面も理解することも期待 されることとなります。

 

振り返りを行うためには、認知の4点セットが必要です。意見、経験、感情、価値観。自分の意見の背後にどのような経験、感情、価値観が存在するのかを理解することで、自分の内面をメタ認知的に把握することができます。自分の意見がどのような経験や感情、価値観に基づいているのかを知ることで、対話はより深い次元に達します。自己に対して「なぜそう考えるのか?」問いかけます。

・あなたがどのような意見を持っているのか?

・その意見の背後にある経験は何か?

・その経験に連動する感情は何か?

・そしてその背後にどのような価値観や視点が存在するのか?

 

これらのことを自問自答してみてください。このプロセスは、自己の内面を明らかにするだけでなく、他者の内面を理解するための鍵ともなります。

 

さらに振り返りに興味ある方は熊平美香『リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(ディスカバー・トゥウェンティーワン 2021)もおすすめです。




 

 

 

 

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