生徒理解とよく言いますが、これは教師にとって一番大切にしなければならないものだと思います。そのためには、日々の学校生活を漫然と過ごしていては決してうまくいかないものです。日常的な観察と一定の方法が必要です。
前回取り上げた『「居場所」のある学級・学校づくり』(新評論・2022年)でも第2章「居場所は信頼関係で育まれる」において、「方法10・生徒を知る」ための具体的な方法を示しています。
「毎朝の挨拶」「未完成の文章」一対一のミーティング」などがそれです。「未完成の文章」とは、「私は、先生が〇〇〇をしているときは好きじゃありません。」「私の学校での最高の経験は〇〇〇です。」のように、〇〇〇のところを生徒に記入させて、生徒について知るための手がかりを得るというものです。あいさつのしかた一つをとっても、生徒の特徴をつかむことができるわけです。
「一対一のミーティング」も大切な活動です。今は学校生活が非常に過密で、なかなかゆっくりとしゃべる時間も取れないのが現実だと思います。以前、あるところで知り合いになった先生は、週に1回はクラスの生徒全員と言葉を交わす機会をつくっていると話されていました。自分で決めて、意識してやらないと決して実現しないことです。
また、同書の「方法16」(92ページ)では、「生徒をよく観察する」を取り上げています。「こっそり観察」「静かな承認」「文書による承認」と、さまざまな方法で生徒をよく知り、それをもとにして生徒にフィードバックをしていきます。「文書による承認」はメールによる家族への連絡も含まれます。学級通信・学級だよりを発行している担任の先生も多いと思いますが、それもこの範疇に入るものです。
私もかつて中学校で担任をしているときに、毎日その日の夜に、一日をふり返って、生徒の行動や気づいたことをノートに記入していました。それをもとに、学級だよりの原稿を書きました。この「ノートに記入する」は、今ではスマホにメモするとか、ディジタルで簡単にでき、しかもそれをもとに編集することも容易です。使わない手はありません。
観察と言えば、朝の学級の時間に「健康観察」を多くの学校で行っていると思います。
今でもこの「健康観察」で思い出すのは、中学2年生を担任していたときのことです。
ある朝、健康観察をしていると、いつも快活な笑顔で明るい性格のAさんがとても深刻な顔をして、気持ちも落ち込んでいるようでした。私は、廊下にAさんを呼んで「何かあったの?」と聞きました。すると、Aさんは突然泣き顔になったので、私は立ち話で済む状態ではないと思い、相談室ですぐにその続きを聞きました。すると、大好きな姉が昨晩家出をしていまい、それで大変心配しているとのことでした。そのときに私に何かをすることができたわけではないのですが、それ以降Aさんは私のことを大変信頼してくれるようになり、学級活動の先頭に立って活躍しました。そのことがきっかけとなり、それまで以上に生徒を観察することを学級経営の柱の一つとするようになりました。もっとも、うまくいったことばかりではありません。「あのとき、もっとこうしていたら・・・」という自責の念に駆られたことも数えきれないほどありました。だからこそ「もっと学びたい」という思いが、さまざまな学びの機会へ自ら飛び込んでいく原動力になったことも事実です。
そもそも生徒を観察するためには、教師が主人公の授業を続けていては観察する余裕もありません。生徒が主役の授業を行うことで、教師は生徒の間をまわって、一人ひとりをよく見ることができるのです。教師が一人で頑張る授業から転換する必要があることは、このようなことからも求められているわけです。「生徒を知る」「生徒を観察する」ことの大切さを今一度見直してみたいと思います。
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