2023年4月16日日曜日

一人ひとりを育てる『社会科ワークショップ』

 以前も書評を書いてくれた兵庫県の小学校の先生の北元さん(https://projectbetterschool.blogspot.com/2021/08/blog-post_22.html)が、今度は『社会科ワークショップ』の書評を送ってくれましたので紹介します。あなたも、書評や実践報告を送ってください。このブログや、姉妹ブログの「WWRW便り」や「SEL便り」で紹介します。

「自立した学び手を育てる教え方・学び方」というサブタイトルに惹かれて、この本を手にしました。

教師の発問に子どもたちが答え、想定と想定をやや超えた子どもたちの発言が板書に残っていく授業。そんな一斉授業に価値は認めつつも、何か物足りなさを感じている方には、お薦めの本です。

改訂版『読書家の時間』と同じく、この本には「ワークショップ」を進めていくための具体的な手立てが、実践と共にリアルに描かれています。折しも、昨年末の冬に大阪で、「社会科ワークショップ」を体験できるワークショップに参加することができたため、実践のイメージをもつことができました。

この本は、大きく三つのパートから構成されています。パート1は「社会科ワークショップがもつ可能性」、パート2は「社会科ワークショップの柱」、パート3は「社会科ワークショップで彩る1年間」となっています。

パート1には、執筆者の先生が「社会科ワークショップ」を実践されるに至った歩みが書かれています。一斉授業の物足りなさを感じつつも、「ワークショップ」とは何か、という疑問や学習として成立するのか、という疑念を抱いていた私には、共感できる部分でした。

それだけではありません。章の見出しのとおり「可能性」を大いに感じさせてくれる内容でした。子どもの「可能性」を引き出すことができます。教師として子どもを育てる教師に育つ「可能性」を感じさせてもらえます。具体的なことは、ぜひ本を手に取ってお読みください。

 きっと、感動を覚えパート2へと引き込んでいかれると思います。

 パート2には、具体的な実践方法とその理念、子どもや教師の育ちやぶつかる壁等が書かれています。例えば、学年会の様子なども再現されています。同僚の反発や不安を受け止めながら、理解を得て共に実践に向かっていく光景は、これから実践しようする自分にとっては両者の立場に立つことができ、心強いものでもありました。

このパートでのキーワードは、「探究のサイクル」「ユニット」「遊び場」「カンファレンス」「評価」だと、私は思います。

「探究のサイクル」については、大阪での研修会で体験することができました。ユニットは『玉川上水』でした。(ユニットと単元の違いが気になられた方もおられるかもしれませんが、この本を読むと解決できます。サイクルの回し方や指導の進め方についても同様です。)

体験して感じたことが、いくつかあります。

一つは、頭をフル回転させる必要があるということです。受け身の状態では、発表という目的に向かって調べたり考えたりすることができません。うかうかしていられない、という感覚です。学習に興味・関心をもつことが容易な子どもにとっては、刺激的で主体的な学習になると思います。

一方で、学習に乗り切れない子どもたちもいます。カンファレンスやペアの作り方に教師の指導性が発揮されてくるのだと思います。カンファレンスは、私なりの解釈をさせていただくと、一種の御用聞きだと思います。戸別訪問販売のイメージです。患者さんに合わせた治療をするお医者さんとでもいえましょうか。

もう一つは、コミュニケーション能力や社会性が必要とされるということです。

探究は、ペアで行うことが多いようです。ペアになった方は、初めてお会いする方でした。

一緒に探究や発表準備をさせていただく中で、自分のやりたいことや思いだけを押し付けていないか、この方が遠慮されているのではないか、という思いになりました。自分の他者へのアプローチの仕方に気付く機会となりました。このことは、教師の支援のもと、子どもにも経験可能なことだと思います。

また活動を共にすることで、その先生の発想の素晴らしさや得意なことだけでなく考え方にも触れることもでき、わずかな時間を共有しただけですが、お互いの距離が縮まった気がしました。

 子どもの関係性の築き方も一人ひとり多種多様であり、中にはペア活動が重荷になる子もいるかもしれません。しかし、だからこそ、その子への指導や支援の仕方が如実に教師に迫られます。本書の中にあった「授業で育てる」ということにもつながると思います。

 もう一つは、総合的であるということです。私たちペアは漫才形式で探究したことを発表しましたが、台本を作る際に国語力の必要性を痛感しました。他のグループも様々な方法や内容で発表されましたが、そこには、数学的な処理の仕方や統計的なものの見方、図工などが発揮されていました。全身全霊で没頭する幼稚園の「遊び」が彷彿させられました。「遊び場」づくりがユニットづくりということに、納得がいきます。

 体験はしていませんが、パート2で私が最も大事に感じたのは、「評価」の項目です。

ばらばらな活動の中どうやって評価するのかは、誰しも抱く疑問でありワークショップの実践を躊躇させる大きな要因だと思います。しかし、この本を読むと、その引っ掛かりは見事に溶けていきます。評価の根本について問いかけられているからです。

「成績をつけることではなく、子どもたちに力をつけることが評価」「学習は自分のものであって、学習を改善するのは最終的に自分」という言葉が、私の心に鋭く突き刺さりました。サブタイトル「自立した学び手を育てる教え方・学び方」に通じています。

 パート3には、6年生と5年生の実例が紹介されています。子どもと教師の実態に合わせながら「社会科ワークショップ」が育っていく様子です。参考にしながら、自分の教室でのワークショップを自分の教室の子どもたちに合わせて作っていく必要を感じました。

 この本の奥底にあるのは、一人ひとりを育てることだと解釈しています。

 私自身は、今年度社会科学習を指導できる立場になるかどうかは、まだ分かりませんが、この本に書かれている発想は、理科をはじめ他教科にもそのまま応用可能なものばかりです。学級という集団の中で、個が互いに響き合いながら一人ひとりが育つ学習指導を目指したいと思います。

 『社会科ワークショップ』は、社会科の教え方の本を超えた「教師の仕事の本質」を

考えさせてくれる本です。

2023年4月9日日曜日

「考える教室」をつくるには

 新年度が走り出し、一年で一番忙しいこの4月。今年はどんな授業を大切にしようかな、子どもたちとどんなことをやってみたいかななど、想像していることだと思います。私は今年度、子どもたちと「考えること」を大切にしようとわくわくしているところです。

 

私たちは、子どもたちが考える力をもっていると本当に信じていますか? もしかして、ていねいに説明をして、こまかく指示をし、繰り返し練習したり、暗記することによってはじめて、子どもたちは考えられると思ってはいないでしょうか。

 

カナダにあるサイモン・フレーザー大学のピーター・リルジェダール教授は、算数・数学において"子どもたちは考えることができないか、考えないだろうという前提で成り立っている "と教師が子どもたちと低く見積もってしまっている点を批判し、“もし子どもたちが考えていないのなら、子どもたちは学んでいないのです”と、教え込み授業に対して痛烈に批判しています。

 

このような状況では、子どもたちが自発的に問題解決に取り組むことを期待するのはどだい無理な話。暗記ばかりしている子どもには、将来、難しい問題解決に立ち向かうための自尊心を育み、挑戦的で時には混乱するような課題にも取り組むことができません。

 

そこでリルジェダールは、10年以上にわたる研究や実験、400人以上の幼稚園から高校までの教師との協同研究により、教室が主体的に「考える教室」に生まれ変わるために必要なその変数・要素を見つけ出し、特定しました。それには課題の選び方、子どもたちの学び方や協力の仕方について、教室での活動の進め方などが提唱されています。ここにその一番効果的な最初に3つを紹介します。★

 



1. 考える教室では、考える問題から扱う

 

子どもたちに考えさせたいのであれば、問題解決のための優れた考える必要のある問題を用意することです。

 

6面体のサイコロを想像してみましょう。「1」は「6」の向かい側、「2」は「5」の向かい側、といった具合に反対側の面と合計が常に7であることに気づくはずです。では、この制約を受けない6面体のサイコロを自分で作るとします。何種類のダイスがつくれますか?

 

学年の初めには、子どもたちたちが解いてみたいと思えるような魅力的な問題を用意します。まずはカリキュラムとは関係の無い問題からはじめことで、考えるためのモチベーションを高め、自分自身に挑戦する意識を育てることが必要です。

 

これらの課題は慎重に順序立ててながら少しずつ難易度を上げていきます。教室の中に考える文化が育ち始めたら、問題を徐々に学習カリキュラムの課題におきかえ、ゆくゆくはカリキュラムの中でより多くのより長い時間を子どもたちが考えられるようにしていきます。つまり、最初に考えるおもしろさを味わえるようにするのは、深い学びにつなげるためこその回り道なのです。

 

2. 考える教室での共同グループの作り方

 

考える教室では、授業の最初にランダムな方法で授業中ずっと一緒に活動する3人ずつのグループをつくります。子どもたち同士のコラボレーションが機能すれば、学習に強力な影響を与えるからです。(Edwards & Jones, 2003; Hattie, 2009; Slavin, 1996)。

 

しかし、教師が意図的にグループを分けたとても(Dweck & Leggett, 1988; Hatano, 1988; Jansen, 2006)、子どもたち自身がグループをつくったとしても(Urdan & Maehr, 1995)、80%の子どもたちが「このグループでは、自分のやることは考えることではない」という意識を持ってしまうことが分かりました。

 

そこで、ランダムな3人グループ(そこでは役割がふられ、「記録係・発表係」「質問係」「司会」など)を作ったところ、それまで受動的だった学習空間を、学生が60分以上考え続ける能動的な思考空間へと変える大きな効果がありました。また、6週間以内に100%の子どもたちが「自分は考えるだけでなく、貢献する」という意識を持ってグループに入るようになりました。頻繁にランダムなグループ分けを行うことにより、教室内に生まれる社会的差別をも取り払い、知的な交流を高め、子どもたちの心理的ストレスも軽減し、算数・数学に対する熱意を高めることが示されたと報告されています。

 

3. 考える教室で子どもたちが活動する場所

 

伝統的な教室は、子どもたちが机について、ノートに書き込むスタイルです。この作業は、考えるためには最も不向きなやり方であることが判明しています。教室の壁面や黒板、窓などに垂直にホワイトボードを立てかけ、子どもたちが立って学習することが最適であることがわかりました。

 

しかもホワイトボードは消せるため(グループ内に確認しないと消すことはできないが)、

安心して発言もすることができます。教師や他のグループからも作業内容が見えるようにもなり意見が活発に交流されていき、子どもたちが学習から離脱するのを防いでくれる効果もあります。

 

また、調査の結果、直方体や前面に黒板のある教室配置は、受動的な学習を促進することがわかってきました。一方で、デフロンテッド・クラスルーム(子どもたちがあらゆる方向を向いて座る教室)は、子どもの思考を誘発するために最も効果的な方法であることが示されました。

 

 


リルジェダールは、これらの変数が合計14あり★、順序立ててを取り入れていくことで、「考える教室」を構築するための最適な教育法を提供しています。

 

どうでしょうか。子どもたちがつい考えたくなる魅力的な課題、毎回ランダムなグループ、そして立って意見交流ができるホワイトボードの活用など、これは算数・数学だけに限らず全ての教科においても活用できると思えませんか? 年度の初め、教科書を読みながら、「本当にこれでいいのだろうか」と慌ただしさの中にも逡巡するもやもやをつかまえて、授業変革の一歩を踏み出してみませんか。

 

 

20233月の記事

How to Turn Your Math Classroom Into a ‘Thinking Classroom’

https://www.edutopia.org/article/thinking-classroom-peter-liljedahl-math

2017年のEdutopia記事にもありますが、14要素は昔のものとなっています。

 

★★

他には以下のものがあります。詳しくはピーター・リルジェダールのHPが参考になります。https://buildingthinkingclassrooms.com/14-practices/

 

4. 考える教室では、教室環境をどう並べるか

5. 考える教室で質問にどう答えるか

6. 考える教室では、いつ、どこで、どのように課題が与えられるか

7. 考える教室での宿題のあり方

8. 考える教室で生徒の自主性をどのように育むか

9. 考える教室でヒントと発展問題をどう使うか

10. 考える教室でどのように授業を集約していくか

11. 考える教室での生徒のノートの取り方

12. 考える教室で評価するために選ぶもの

13. 考える授業で形成的評価をどう使うか

14. 考える教室での評価方法


©ピーター・リルジェダール

2023年4月2日日曜日

そろそろ破ろう「夢中になれる学び vs 基礎学力」という二項対立」

春のらんまん。すべてが新しく、光り輝いて見える季節。

学校にとって、新しい一年が始まる時です。ついこの間、評価をつけるのに、憂鬱な気持ちを抱えていたのが、うそのようです。新学期を、桜の季節においている国は、世界では少数派のようです。圧倒的に9月新学期が多い。日本は、農家の米による収入が税収が中心で、農家が現金に換えてから納税して、そこから予算編成をしていると、1月には間に合わなかったので会計年度が、4月スタートになり、それに併せて学校の新学期も4月になったとのこと。★1

3月から4月の短い春休みの間に、日本の学校は一年間の計画を立てることになります。もちろん、前年度一年間の振り返りや総括のうえに積み上げていくので、この期間だけでやっているわけではありませんが、ゆったりと、そして、じっくりと構想を練る時間はあまりないというのが実感かもしれません。

そこで改めて考えさせられるのが、夢中になる学びと基礎学力の関係です。中高の先生方と教育に関するブッククラブをやっていて、たびたび話題にのぼるのがこの二項対立なのです。新しい考え方や新しい手法が紹介されると、みなさん関心をもちます。「すばらしい!」と感嘆する方も多い。

しかし、決まって出てくる発言は、「うちの生徒では無理。まずは、基礎学力をつけないと。」という一言なのです。これは、まさにマーサ・ラッシュが、『学びに熱中する教室 − すべての生徒に主体的で深い学びを』の中で指摘していることです:

「標準学力テストの結果、低学力の学校であると判定された場合、決まって採用される方法は、知識中心の学習方法をより厳密に推し進めることである。主体性を重視した、アクティブ・ラーニングの方法が採用されることはまずない。これは、一つの学校の中でも起きることだ。低学力層の生徒にのみ、講義とドリル中心の学習をさせるのだ。低学力の生徒には、高度な思考が求められる学習に移行する前に、「基礎学力」を身につけされる必要があるという考え方が根強くあるからに他ならない。」★2

高校時代、日本文学史が得意な友人が、「二葉亭四迷というペンネームは、自身を「くたばって仕舞めえ」と罵ったことによるといったことや、『小説総論』を発表し、写実主義小説『浮雲』は言文一致体で書かれ、日本の近代小説の開祖となった。」いった知識をひけらかしていたのを思い出します。彼の知識には、驚きましたが、彼はどの本も読んだことはなかったのです。

そういった知識のことを「基礎学力」と呼んでいることが多いのではないかと思います。

今は、刺激に満ちた学びの場は、日常の中にあふれています。YouTubeを見れば、日常生活で疑問に思うことは、ほぼ解決できます。家庭内におけるDIYやものづくり、調理、掃除洗濯、もちろん、学校で学ぶ様々な教科に関すること。あらゆることに関して、完璧な解答が、とても分かりやすく、魅力的な形で提示されます。昨年末に発表されたChatGPTなどのAIの進化も驚異的です。教員や学校の役割も変わらざるを得なくなると痛切に思わされます。

もうそろそろ、「夢中になれる学び vs 基礎学力」という二項対立を超えて、新しいフェーズに入らなければ、手遅れになる思います。今年は、もう一度そのことを真剣に考えながら、実践を続けていきたいと思っています。


★1 「世界の多くの国々では9月入学が主流!4月に入学する国は少数派」https://benesse.jp/kyouiku/201504/20150406-4.html

★2  マーサ・ラッシュ (2020) 『退屈な授業をぶっ飛ばせ!: 学びに熱中する教室』新評論, pp.25-26.


2023年3月25日土曜日

失敗を恐れずに立ち向かう

「教育は、与えられるものから、自分たちでつくり出すものという考えに向かって進んでいく必要がある」(ステファン・ダウンズ)『教育のプロが進めるイノベーション』第2章 

近年教員採用試験の受験倍率が下がり、質の低下が指摘されているところですが、それに合わせたかのように教科書や教師用指導書が実に懇切丁寧になっています。教師用指導書には各時間の具体的な板書まで書かれています。これはまさに「与えられるもの」ですが、それに沿って授業をしていればいいという若手教員も少なくないようです。

先日、知り合いの小学校の副校長さんと話をする機会があったのですが、総合的な学習の時間はネット検索で簡単に調査活動を済ませて、それをサッとまとめて「はい、発表」というような授業が多いと嘆いていました。それを改善しようとアドバイスしてもその若手教員自身が総合のまともな授業を受けた経験がないので、具体的によい授業のイメージができないのだそうです。この「PLC便り」で取り上げられている本を手掛かりにして、ブッククラブをやったらどうかと提案してみましたが、それもなかなか厳しい状況のようです。 

若手の強みは多少の失敗は許されるということです。もっといろいろなことにチャレンジしてほしいと思うのですが、「成長のマインドセット」をもった若手が少なくなっているように思います。私自身、30数年の教師歴のなかで、今から考えると本当に恥ずかしい失敗がたくさんありました。特に20代のころは、今の分類でいうと問題教員に入っていたかもしれません。組織人であるという自覚は全くありませんでしたし、自分のクラスのことしか考えていませんでした。

また、学級経営でも苦い思い出があります。当時、全国的に流行していた「集団づくり」を基調にした生徒指導法がありました。班会議や班長会議などを核として、生徒たちに民主主義を教えていこうというのがその基本的な考え方です。

私はこれこそ次代の子どもたちを育てていく最高の指導法だと思い込み、それに熱中しました。しかし、これは完全に私だけの思い込みで、生徒の実態や思いを全く考慮しないやり方でした。その結果、生徒の心を傷つけてしまったこともたくさんあっただろうと思います。その後、しばらく行政機関に出向する機会があり、学校を離れることで自分自身の実践を振り返ることができました。結果として、その後学校に戻り、生徒の願いや思いを大切にする指導法に転換しました。 

「失敗する自由があるということは、イノベーションにとっては重要です。しかし、そのプロセスにおいてより重要なのは、回復力とやり抜く力です。」

(『教育のプロがすすめるイノベーション』第2章、37ページ) 

失敗したあとに、そこから立ち上がる「回復力」と最後までやり通す「やり抜く力」が大切です。「回復力」とは、言い換えれば、「打たれ強い」ということでもあります。教師の仕事は思うようにいかないことがたくさんあります。そこであきらめずにまた立ち上がる力が必要になってきます。

そして、このクラスに必要なものは何か、この生徒に一番必要なものは何か、それを求め続けることです。その際に、今自分がやっていることはどのように生徒のために役立っているのか、あるいは役に立っていないのか、これを絶えずモニタリングしながら、チェックすることが求められます。

そうすることで、独善的な指導と距離を置くことができ、教師を続けていると陥りがちな「学校だけでしか通用しない論理」の罠にはまることもないと思います。

中学校で言えば、3年もやれば、その教科の指導法や校内分掌事務の仕事も覚えて、一通りのことはわかったような気になります。そこからまた謙虚に学び続けるのか、それともそのレベルで安住してしまうか、ここが教師としての分かれ道の一つのように思います。

ぜひ「与えられるもの」ではなく、自分たちでつくり出す教育を求め続けてほしいと切に願います。 

2023年3月19日日曜日

生徒の自己認識と、自分が必要とする支援を主張する(セルフ・アドヴォカシー)力を高める授業の実践に向けて

1月に出た『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』の著者のスター・サックシュタインさんは、「最終的には、生徒自身が必要とする支援の主張ができるようになってから学校を卒業してほしいと思っています」(98ページ)と、多くの教師が大切にしていることを代弁しています。

 この文章に後に、著者は、「この目標を達成するためには、まずは自分ができることと助けを必要とすることが何なのかについて、見極められるように教える必要があります。また、生徒との関係性を高めれば彼らの決断を支えられますし、彼らがより質の高い質問をすれば、自分が本当に必要としている手助けが得られるでしょう」と書き、さらに「評価とは、生徒が知っている事柄とできることを理解し、その情報を使って、生徒が成長を続けるためにカリキュラムの調節を行ったり、より的を絞った学習経験をつくりあげたりすることです。的確にセルフ・アドヴォカシー(=生徒自身が必要とする支援の主張・筆者補記)ができるようになれば、生徒自身が必要とするものを深く理解しますし、学習者としての自信がもてるような協力関係を教師との間で築けるようになります」(98~99ページ)と続けています。

 ここには、教えることと学ぶことの大事な要素が凝縮さる形で示されているのではないでしょうか? あなたの授業等は生徒のセルフ・アドヴォカシーを可能にする方向での実践になっていますか? それとも、逆方向になっていませんか? 教師が目標を達成するための助けとなるリソース(情報や人材)にはどんなものがありますか? それは、どうしたら得られるでしょうか?

 上で紹介した引用は、『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」に含まれているのですが、その「まとめ」の部分で、著者は次のようにも書いています(番号は、無視して読んでください。あとでコメントを付けたいので、便宜上付けています)。

人間としての、また学習者としての自分自身を知ることになる「自己認識」は、成長するにおいて欠かせない要素です。自分のことをよく知れば知るほど適切な判断ができるようになり、人生の方向性を決めるような困難な経験に対してもポジティブになれます。

生徒に自己認識のツールを提供し、彼らが言うことに耳を傾ければ、学習空間における公平性が高まります。③生徒の学習経験はそれぞれ異なっていますので、私たちは授業やそのほかの時間を使って、少しずつ違ったものを提供する必要があります。

④生徒が学習についてどのように感じているのか、どこで苦労しているのかを共有したり、彼らが必要とする支援の主張機会が多ければ多いほど、さらに上手な主張ができるようになるでしょう。自己認識を高められれば、今後の学習に対する取り組み方だけでなく、自己効力感を高めてくれることにもつながるのです。(103ページ)

 

 こういうことを踏まえた(あるいは、可能にする)授業を、日常的にできていますか?

①の部分は、アイデンティティーという言葉ないし概念に置き換えられると思いますが、日本の授業ではいったいどれくらい、個々の生徒のアイデンティティー★を意識した授業が展開されているでしょうか? 道徳の4本の柱の一つが「主として自分自身に関すること」なのですが、「善悪の判断,自律,自由と責任」、「正直,誠実」、「節度,節制」、「希望と勇気,努力と強い意志」などの(ほとんど「自立」とは反対概念といえる)「自律」がらみが中心で、「個性の伸長」が唯一挙がっています。しかし、「自分の特徴」に気づき伸ばすと言われても、残念ながら、大人だってピンときません・・・・★★

②のツールの部分は、SELの本が提供してくれますが、後者の「彼らが言うことに耳を傾ければ」の部分は、単にその方法に限らず、教師としての役割の見直しが必要になりそうです。それは、『私にも言いたいことがあります』『たった一つを変えるだけ』『一斉授業をハックする』そして、夏には出版予定の『聞くことから始めよう!― やる気を引き出し、意欲を高める評価(仮題)』マイロン・デューク著、さくら社などで方法についてたくさんの情報は得られますが、その根底にある教師の姿勢/スタンスというか、生徒との関係をどのように築きたいのかは方法と別次元の話です。

 さらに、③に至っては、すんなりと読めてしまうことと、それを日々の実践で行うことの間には大きなギャップがあります。 そもそも、あなたは「生徒の学習経験はそれぞれ異なっていますので、私たちは授業やそのほかの時間を使って、少しずつ違ったものを提供する必要があります」を受け入れますか? もし、受け入れるなら、日々の授業をどのように変えていきますか?(それとも、すでに、少しずつ違ったものを提供できていますか?) 変えるための情報やサポートはどのように入手しますか?

 ④は、ここまでのすべてを統合している文章と言えるかもしれません。自己認識を高め、セルフ・アドヴォカシーを繰り返しの練習をすることで徐々に上達することで、学習への取り組みも向上し、自己効力感が高まるという好循環が生まれるのです。日本で行われている多くの授業は、まさか、これとは逆の現象(つまり、悪循環)が起こっていませんよね? もしそうなら、早急に好循環に切り替える必要があります。

 

★アイデンティティーについては、SELのことを扱っている3冊の本(本書以外に、『感情と社会性を育む学び(SEL)』と『学びは、すべてSEL』)のほかに、言葉を選ぶ、授業が変わる! ピーター・H・ジョンストン(著/文) - ミネルヴァ書房 | 版元ドットコム (hanmoto.com)と、来月出る予定の学びの中心はやっぱり生徒だ! ベナ・カリック(著/文) - 新評論 | 版元ドットコム (hanmoto.com)が参考になります。

★★公式カリキュラムや隠れたカリキュラム等に関心のある方は、それらも含めて全部で5つのカリキュラムが紹介されている『学びは、すべてSEL』(特に、14~17ページ)がおすすめです。日本の道徳教育やSELの実践に関係なく、自己認識やアイデンティティー(あるいは、セルフ・アドヴォカシーも)を育めてしまう子どもはいるでしょう。しかし、一方にそうではない子どもたちもいますし、日本の道徳教育では難しい/無理という子どもたちもいるでしょう。しかし、そういう状態では、いけないはずで、誰もが身につけられるようにする必要があります!

2023年3月12日日曜日

SELで教師と生徒との信頼関係をむすぶ

 一年間、大変おつかれさまでした。私たちはお互いをねぎらう間もなく慌ただしいまま、一ヶ月後には新しい年度が始まります。けれども、その準備は期待と希望にあふれ、ふんわりと嬉しい時間でもあります。

 

 新しい子どもたちとの出会いや教師との信頼関係づくりについて学ぼうと、今月刊行されたマリリー・スプレンガー著、大内朋子・吉田新一郎訳『感情と社会性を育む学び(SEL)子どもの、今と将来が変わる』(新評論2023)を読みました。

 




 SEL(social Emotional Learning)の視点から効果的で具体的な手法が紹介され、自分にもできそうだ、これは効果的な方法だ、と思えるものを見つけたので紹介します。

 SEL(social Emotional Learning)とは、感情に向き合う力であるEQ(感情知性)と、社会性にかかわる力のSQ(社会的知性)を育む学びです。共感する力、自己認識、自己管理能力などからなる自分と他者の感情と向き合って対応していく力(EQ)と、社会認識と人間関係の構築、維持、修復などの社会性(SQ)を学ぶことが含まれています。

 

 本書は教育実践の紹介にとどまらず、脳科学の見地から感情や社会性についての説明がなされているのが特徴です。人々がお互いを思いやったり、信頼したり、友達になりたいと思ったりするときの脳の活動では、脳内物質のオキシトシンが放出され、人とのつながりを感じます。対照的に、ストレスを感じるとコルチゾールが放出され、人々はストレス反応を起こします。

 

 たとえば、生徒がイライラしているときは、感情をつかさどる「大脳辺縁系」が活性化されます。このとき、論理的思考をつかさどる脳の部位とのつながりがブロックされてしまうことを知っていれさえすれば、学習を始める前に、自らを落ち着かせる方法をとることが大切だと気づけるはずです。落ち着くための時間をとる選択ができるようになります。

 

 自分自身と子どもたちの頭の中で起こっていることや、理想的な脳の状態を理解することによって学びに最適な状態をつくりだすことができるのです。人との安心したつながりを感じられるようになることで、脳が放出する様々な化学物質を常に正しく制御する力を高めていけるということです。

 

 

「あなたが信頼できる人だと、生徒たちにも感じてもらう必要があります。あなたが一人ひとりを意識していると感じてもらうことが大切なのです」「あなたに対して肯定的な感情を抱いていない生徒は、あなたが十分に注意をむけていない生徒たちであって、学習内容や成績だけでなく、親身になって意識してほしいと願っている生徒たちなのです。 思春期の中高生と関係を築くにあたって、簡単にはいかないこともあるでしょう。日々、生徒たちが、心の傷やストレスを乗り越えていくためには、彼らの生活にかかわりのある大人たち、教師が最後の砦となりますし、なくてはならない存在なのです」

 

 このようにサラ先生がマーサー校長からフィードバックをもらう場面では、教師が生徒と信頼関係をむすぶことの大切さが話されています。(海外の校長の仕事は日本と異なり、教員を育てることが管理職の大切な仕事だと理解されています。)

 

 以下に、教師と生徒の信頼関係をむすぶ方法を2つほど紹介します。本書にはまだたくさんの効果的な実践が紹介されています。

 

1.    教師が弱さを見せることで、心理的に安全な学習環境をつくる

寝不足で疲れていることやイライラしている状態を教師が認めること。授業で取り組んでいない問題をテストに出してしまった、試験問題を間違えて作成してしまったなど、教師自らが脆弱性を示し、非を認めることが、弱音を吐けること、吐いていいこと、そして受け止めてもらえる安心感を育みます。

教師が「今、私は自分の頭の中で話されていることを話します」と伝え、今、起きていることに対して教師自身が考えている内容を生徒に説明します。「私は〇〇さんが教師もしくはクラスメイトにイライラして、このような行動をとっているのかもしれない。でもそれは本当に正しい解釈なのだろうか? と考えています」と生徒に伝えるのです。第三者の視点を挟むことは、生徒自身が自らの思いを話しやすくする助けとなります。

 

2.    教室の入り口で生徒に挨拶をする

朝、教室の入り口で生徒の名前を呼び、生徒とアイコンタクトを取り、あいさつをします。握手やハイタッチ、親指を立てるなど親しみを込めた身振りをしてみます。今日はどんな気分かを尋ねてみたり、頼み事をしてみたり、やる気が出るように声をかけたりもできますこれらのことは教師として生徒に会うことを心から楽しみにしているからこそできること。一人ひとりの生徒のためにすることなのです。

 

クラス内の人間関係を構築し、維持し、修復するための対策によって、学習への参加が33%向上するとともに、問題行動が75%減少し、より質の高い集中した授業時間が増えたと報告されていることが紹介されています。

 

私たちは人間関係の中で生きています。生徒に必要なのは親身になってくれる1人の大人であり、その人との出会いによって人生が変わります。生徒が困難な状況に向き合うときには、肯定的な方法で対応することが大切なのです。

授業以外の取り組みの紹介をしましたが、読み進めていくと日々の授業を通して、子どもたちは感情や社会性を学べてしまうこともわかります。この春、ためしてみる実践群が紹介されていました。ぜひ、ご一読を。

2023年3月5日日曜日

学校にとっての「広報」ーその難しさと意義


私の職場がある町は、「よってたかって教育」という言葉を掲げ、学校だけでなく市民全員でよってたかって地域の子どもたちを育てようといった取り組みを進めています。

この考え方を下支えしているものの一つが、「香美教育コラボレーション会議」という集まりです。地教委、町に一校だけある高校と特別支援学校、そして、大学。すべての教育機関の有志が集まって、お互いの実践の交流や教育問題についての議論を続けています。

月一回の集まりが、相互理解の場となっています。2月には、一年間の振り返りをしました。全員が、Google Documentに自分なりの振り返りを記入し、それをみんなで眺めながら、じっくりと語り合うことができました。「この会議から得られる情報は、学校運営のヒントになる。有効な会議である」「多くの人と連携し、勇気がもらえて頑張るしかないと思わせてくれる会議である」といった声が聞かれ、来年度も継続していくことになりました。この会議が、お互いの学び合いの場になっているのです。アクション・ラーニングの場というのは、こういうものではないかと思います。★1

その振り返りの議論で、もっとも盛り上がったというか、全員が課題と感じたのは、「広報」の問題でした。

「こんなにも頑張っている学校がある。もっと多くの人に知ってもらいたい」
「素晴らしい実践をしているのに、それを効果的に発信できていない」
「個人情報やプライバシーの問題があって、情報発信には慎重になってしまう」
「地方紙などのマスコミを使うのが上手い学校もあるが、そうでない学校もある」
「もっと高校の入学希望者を増やさないといけない」
「山間部の小中学校は存続の危機にある。山村留学なども考えたい」

いろいろな意見は出ましたが、決め手となるようなアイディアはなく、次年度の最優先の共通課題として、取り組むことになりました。

この会議のあと、学校にとっての「広報」とは何か考え続けています。

高校や大学であれば、進学希望者を増やすための重要な手段と言えるでしょう。存続の危機に瀕した山間部の学校も少しでも多くの生徒も呼び込みたいと考えるかもしれません。今日、田舎にある地方自治体の多くが定住促進のための課をもっていて、移住者を呼び込むための涙ぐましい努力を続けています。山間部の学校の特色ある教育に惹かれて定住を希望した家族もあるようです。

ただ、これらは広報の一側面に過ぎないでしょう。

「学校のストーリーを語る究極の目的は、宣伝でもなければ、罪悪感をもたせてコミュニティーの人たちを学校に巻き込むことではありません(p.119)」★2 という指摘が、この問題の本質をついているのではないかと思います。

学校にとっての広報は、決して学校の宣伝ではない。ましてや、校長や学校の実績をひけらかすことも、目的ではないはずです。

学校の「透明性」を保つことによって、教師と保護者がより良いパートナーシップを築く。これこそが、学校にとっての広報の重要な役割ではないでしょうか。学校がやっていることを、知ってもらうことです。

生徒自身が語る学校のストーリーは多くの人を惹きつけます。それが、より良い学校コミュニティーづくりに役立っていく。学校を取り巻く人たち、学校を応援してくれる人たち、そのような人たちと信頼を築き、より良い学校づくりのために協働していく。

そういった視点から、もう一度、学校の情報発信について考えていきたいものです。


★1 「アクションラーニングとは」 https://www.jial.or.jp/about/detail/

★2  ジョー・サンフォリポ&トニー・シナシス(2021) 『学校のリーダーシップをハックするー変えるのはあなた』新評論,. なお、この引用の後半部分はやや分かりにくですが、同書の脚注には「地域や保護者が子どもたちを学校に任せっきりにしていることを匂わせて、その引け目から渋々協力を引き出すようなことでしょうか」とあります。