以前も書評を書いてくれた兵庫県の小学校の先生の北元さん(https://projectbetterschool.blogspot.com/2021/08/blog-post_22.html)が、今度は『社会科ワークショップ』の書評を送ってくれましたので紹介します。あなたも、書評や実践報告を送ってください。このブログや、姉妹ブログの「WW&RW便り」や「SEL便り」で紹介します。
「自立した学び手を育てる教え方・学び方」というサブタイトルに惹かれて、この本を手にしました。
教師の発問に子どもたちが答え、想定と想定をやや超えた子どもたちの発言が板書に残っていく授業。そんな一斉授業に価値は認めつつも、何か物足りなさを感じている方には、お薦めの本です。
改訂版『読書家の時間』と同じく、この本には「ワークショップ」を進めていくための具体的な手立てが、実践と共にリアルに描かれています。折しも、昨年末の冬に大阪で、「社会科ワークショップ」を体験できるワークショップに参加することができたため、実践のイメージをもつことができました。
この本は、大きく三つのパートから構成されています。パート1は「社会科ワークショップがもつ可能性」、パート2は「社会科ワークショップの柱」、パート3は「社会科ワークショップで彩る1年間」となっています。
パート1には、執筆者の先生が「社会科ワークショップ」を実践されるに至った歩みが書かれています。一斉授業の物足りなさを感じつつも、「ワークショップ」とは何か、という疑問や学習として成立するのか、という疑念を抱いていた私には、共感できる部分でした。
それだけではありません。章の見出しのとおり「可能性」を大いに感じさせてくれる内容でした。子どもの「可能性」を引き出すことができます。教師として子どもを育てる教師に育つ「可能性」を感じさせてもらえます。具体的なことは、ぜひ本を手に取ってお読みください。
きっと、感動を覚えパート2へと引き込んでいかれると思います。
パート2には、具体的な実践方法とその理念、子どもや教師の育ちやぶつかる壁等が書かれています。例えば、学年会の様子なども再現されています。同僚の反発や不安を受け止めながら、理解を得て共に実践に向かっていく光景は、これから実践しようする自分にとっては両者の立場に立つことができ、心強いものでもありました。
このパートでのキーワードは、「探究のサイクル」「ユニット」「遊び場」「カンファレンス」「評価」だと、私は思います。
「探究のサイクル」については、大阪での研修会で体験することができました。ユニットは『玉川上水』でした。(ユニットと単元の違いが気になられた方もおられるかもしれませんが、この本を読むと解決できます。サイクルの回し方や指導の進め方についても同様です。)
体験して感じたことが、いくつかあります。
一つは、頭をフル回転させる必要があるということです。受け身の状態では、発表という目的に向かって調べたり考えたりすることができません。うかうかしていられない、という感覚です。学習に興味・関心をもつことが容易な子どもにとっては、刺激的で主体的な学習になると思います。
一方で、学習に乗り切れない子どもたちもいます。カンファレンスやペアの作り方に教師の指導性が発揮されてくるのだと思います。カンファレンスは、私なりの解釈をさせていただくと、一種の御用聞きだと思います。戸別訪問販売のイメージです。患者さんに合わせた治療をするお医者さんとでもいえましょうか。
もう一つは、コミュニケーション能力や社会性が必要とされるということです。
探究は、ペアで行うことが多いようです。ペアになった方は、初めてお会いする方でした。
一緒に探究や発表準備をさせていただく中で、自分のやりたいことや思いだけを押し付けていないか、この方が遠慮されているのではないか、という思いになりました。自分の他者へのアプローチの仕方に気付く機会となりました。このことは、教師の支援のもと、子どもにも経験可能なことだと思います。
また活動を共にすることで、その先生の発想の素晴らしさや得意なことだけでなく考え方にも触れることもでき、わずかな時間を共有しただけですが、お互いの距離が縮まった気がしました。
子どもの関係性の築き方も一人ひとり多種多様であり、中にはペア活動が重荷になる子もいるかもしれません。しかし、だからこそ、その子への指導や支援の仕方が如実に教師に迫られます。本書の中にあった「授業で育てる」ということにもつながると思います。
もう一つは、総合的であるということです。私たちペアは漫才形式で探究したことを発表しましたが、台本を作る際に国語力の必要性を痛感しました。他のグループも様々な方法や内容で発表されましたが、そこには、数学的な処理の仕方や統計的なものの見方、図工などが発揮されていました。全身全霊で没頭する幼稚園の「遊び」が彷彿させられました。「遊び場」づくりがユニットづくりということに、納得がいきます。
体験はしていませんが、パート2で私が最も大事に感じたのは、「評価」の項目です。
ばらばらな活動の中どうやって評価するのかは、誰しも抱く疑問でありワークショップの実践を躊躇させる大きな要因だと思います。しかし、この本を読むと、その引っ掛かりは見事に溶けていきます。評価の根本について問いかけられているからです。
「成績をつけることではなく、子どもたちに力をつけることが評価」「学習は自分のものであって、学習を改善するのは最終的に自分」という言葉が、私の心に鋭く突き刺さりました。サブタイトル「自立した学び手を育てる教え方・学び方」に通じています。
パート3には、6年生と5年生の実例が紹介されています。子どもと教師の実態に合わせながら「社会科ワークショップ」が育っていく様子です。参考にしながら、自分の教室でのワークショップを自分の教室の子どもたちに合わせて作っていく必要を感じました。
この本の奥底にあるのは、一人ひとりを育てることだと解釈しています。
私自身は、今年度社会科学習を指導できる立場になるかどうかは、まだ分かりませんが、この本に書かれている発想は、理科をはじめ他教科にもそのまま応用可能なものばかりです。学級という集団の中で、個が互いに響き合いながら一人ひとりが育つ学習指導を目指したいと思います。
『社会科ワークショップ』は、社会科の教え方の本を超えた「教師の仕事の本質」を
考えさせてくれる本です。
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