2023年3月12日日曜日

SELで教師と生徒との信頼関係をむすぶ

 一年間、大変おつかれさまでした。私たちはお互いをねぎらう間もなく慌ただしいまま、一ヶ月後には新しい年度が始まります。けれども、その準備は期待と希望にあふれ、ふんわりと嬉しい時間でもあります。

 

 新しい子どもたちとの出会いや教師との信頼関係づくりについて学ぼうと、今月刊行されたマリリー・スプレンガー著、大内朋子・吉田新一郎訳『感情と社会性を育む学び(SEL)子どもの、今と将来が変わる』(新評論2023)を読みました。

 




 SEL(social Emotional Learning)の視点から効果的で具体的な手法が紹介され、自分にもできそうだ、これは効果的な方法だ、と思えるものを見つけたので紹介します。

 SEL(social Emotional Learning)とは、感情に向き合う力であるEQ(感情知性)と、社会性にかかわる力のSQ(社会的知性)を育む学びです。共感する力、自己認識、自己管理能力などからなる自分と他者の感情と向き合って対応していく力(EQ)と、社会認識と人間関係の構築、維持、修復などの社会性(SQ)を学ぶことが含まれています。

 

 本書は教育実践の紹介にとどまらず、脳科学の見地から感情や社会性についての説明がなされているのが特徴です。人々がお互いを思いやったり、信頼したり、友達になりたいと思ったりするときの脳の活動では、脳内物質のオキシトシンが放出され、人とのつながりを感じます。対照的に、ストレスを感じるとコルチゾールが放出され、人々はストレス反応を起こします。

 

 たとえば、生徒がイライラしているときは、感情をつかさどる「大脳辺縁系」が活性化されます。このとき、論理的思考をつかさどる脳の部位とのつながりがブロックされてしまうことを知っていれさえすれば、学習を始める前に、自らを落ち着かせる方法をとることが大切だと気づけるはずです。落ち着くための時間をとる選択ができるようになります。

 

 自分自身と子どもたちの頭の中で起こっていることや、理想的な脳の状態を理解することによって学びに最適な状態をつくりだすことができるのです。人との安心したつながりを感じられるようになることで、脳が放出する様々な化学物質を常に正しく制御する力を高めていけるということです。

 

 

「あなたが信頼できる人だと、生徒たちにも感じてもらう必要があります。あなたが一人ひとりを意識していると感じてもらうことが大切なのです」「あなたに対して肯定的な感情を抱いていない生徒は、あなたが十分に注意をむけていない生徒たちであって、学習内容や成績だけでなく、親身になって意識してほしいと願っている生徒たちなのです。 思春期の中高生と関係を築くにあたって、簡単にはいかないこともあるでしょう。日々、生徒たちが、心の傷やストレスを乗り越えていくためには、彼らの生活にかかわりのある大人たち、教師が最後の砦となりますし、なくてはならない存在なのです」

 

 このようにサラ先生がマーサー校長からフィードバックをもらう場面では、教師が生徒と信頼関係をむすぶことの大切さが話されています。(海外の校長の仕事は日本と異なり、教員を育てることが管理職の大切な仕事だと理解されています。)

 

 以下に、教師と生徒の信頼関係をむすぶ方法を2つほど紹介します。本書にはまだたくさんの効果的な実践が紹介されています。

 

1.    教師が弱さを見せることで、心理的に安全な学習環境をつくる

寝不足で疲れていることやイライラしている状態を教師が認めること。授業で取り組んでいない問題をテストに出してしまった、試験問題を間違えて作成してしまったなど、教師自らが脆弱性を示し、非を認めることが、弱音を吐けること、吐いていいこと、そして受け止めてもらえる安心感を育みます。

教師が「今、私は自分の頭の中で話されていることを話します」と伝え、今、起きていることに対して教師自身が考えている内容を生徒に説明します。「私は〇〇さんが教師もしくはクラスメイトにイライラして、このような行動をとっているのかもしれない。でもそれは本当に正しい解釈なのだろうか? と考えています」と生徒に伝えるのです。第三者の視点を挟むことは、生徒自身が自らの思いを話しやすくする助けとなります。

 

2.    教室の入り口で生徒に挨拶をする

朝、教室の入り口で生徒の名前を呼び、生徒とアイコンタクトを取り、あいさつをします。握手やハイタッチ、親指を立てるなど親しみを込めた身振りをしてみます。今日はどんな気分かを尋ねてみたり、頼み事をしてみたり、やる気が出るように声をかけたりもできますこれらのことは教師として生徒に会うことを心から楽しみにしているからこそできること。一人ひとりの生徒のためにすることなのです。

 

クラス内の人間関係を構築し、維持し、修復するための対策によって、学習への参加が33%向上するとともに、問題行動が75%減少し、より質の高い集中した授業時間が増えたと報告されていることが紹介されています。

 

私たちは人間関係の中で生きています。生徒に必要なのは親身になってくれる1人の大人であり、その人との出会いによって人生が変わります。生徒が困難な状況に向き合うときには、肯定的な方法で対応することが大切なのです。

授業以外の取り組みの紹介をしましたが、読み進めていくと日々の授業を通して、子どもたちは感情や社会性を学べてしまうこともわかります。この春、ためしてみる実践群が紹介されていました。ぜひ、ご一読を。

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