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2023年4月9日日曜日

「考える教室」をつくるには

 新年度が走り出し、一年で一番忙しいこの4月。今年はどんな授業を大切にしようかな、子どもたちとどんなことをやってみたいかななど、想像していることだと思います。私は今年度、子どもたちと「考えること」を大切にしようとわくわくしているところです。

 

私たちは、子どもたちが考える力をもっていると本当に信じていますか? もしかして、ていねいに説明をして、こまかく指示をし、繰り返し練習したり、暗記することによってはじめて、子どもたちは考えられると思ってはいないでしょうか。

 

カナダにあるサイモン・フレーザー大学のピーター・リルジェダール教授は、算数・数学において"子どもたちは考えることができないか、考えないだろうという前提で成り立っている "と教師が子どもたちと低く見積もってしまっている点を批判し、“もし子どもたちが考えていないのなら、子どもたちは学んでいないのです”と、教え込み授業に対して痛烈に批判しています。

 

このような状況では、子どもたちが自発的に問題解決に取り組むことを期待するのはどだい無理な話。暗記ばかりしている子どもには、将来、難しい問題解決に立ち向かうための自尊心を育み、挑戦的で時には混乱するような課題にも取り組むことができません。

 

そこでリルジェダールは、10年以上にわたる研究や実験、400人以上の幼稚園から高校までの教師との協同研究により、教室が主体的に「考える教室」に生まれ変わるために必要なその変数・要素を見つけ出し、特定しました。それには課題の選び方、子どもたちの学び方や協力の仕方について、教室での活動の進め方などが提唱されています。ここにその一番効果的な最初に3つを紹介します。★

 



1. 考える教室では、考える問題から扱う

 

子どもたちに考えさせたいのであれば、問題解決のための優れた考える必要のある問題を用意することです。

 

6面体のサイコロを想像してみましょう。「1」は「6」の向かい側、「2」は「5」の向かい側、といった具合に反対側の面と合計が常に7であることに気づくはずです。では、この制約を受けない6面体のサイコロを自分で作るとします。何種類のダイスがつくれますか?

 

学年の初めには、子どもたちたちが解いてみたいと思えるような魅力的な問題を用意します。まずはカリキュラムとは関係の無い問題からはじめことで、考えるためのモチベーションを高め、自分自身に挑戦する意識を育てることが必要です。

 

これらの課題は慎重に順序立ててながら少しずつ難易度を上げていきます。教室の中に考える文化が育ち始めたら、問題を徐々に学習カリキュラムの課題におきかえ、ゆくゆくはカリキュラムの中でより多くのより長い時間を子どもたちが考えられるようにしていきます。つまり、最初に考えるおもしろさを味わえるようにするのは、深い学びにつなげるためこその回り道なのです。

 

2. 考える教室での共同グループの作り方

 

考える教室では、授業の最初にランダムな方法で授業中ずっと一緒に活動する3人ずつのグループをつくります。子どもたち同士のコラボレーションが機能すれば、学習に強力な影響を与えるからです。(Edwards & Jones, 2003; Hattie, 2009; Slavin, 1996)。

 

しかし、教師が意図的にグループを分けたとても(Dweck & Leggett, 1988; Hatano, 1988; Jansen, 2006)、子どもたち自身がグループをつくったとしても(Urdan & Maehr, 1995)、80%の子どもたちが「このグループでは、自分のやることは考えることではない」という意識を持ってしまうことが分かりました。

 

そこで、ランダムな3人グループ(そこでは役割がふられ、「記録係・発表係」「質問係」「司会」など)を作ったところ、それまで受動的だった学習空間を、学生が60分以上考え続ける能動的な思考空間へと変える大きな効果がありました。また、6週間以内に100%の子どもたちが「自分は考えるだけでなく、貢献する」という意識を持ってグループに入るようになりました。頻繁にランダムなグループ分けを行うことにより、教室内に生まれる社会的差別をも取り払い、知的な交流を高め、子どもたちの心理的ストレスも軽減し、算数・数学に対する熱意を高めることが示されたと報告されています。

 

3. 考える教室で子どもたちが活動する場所

 

伝統的な教室は、子どもたちが机について、ノートに書き込むスタイルです。この作業は、考えるためには最も不向きなやり方であることが判明しています。教室の壁面や黒板、窓などに垂直にホワイトボードを立てかけ、子どもたちが立って学習することが最適であることがわかりました。

 

しかもホワイトボードは消せるため(グループ内に確認しないと消すことはできないが)、

安心して発言もすることができます。教師や他のグループからも作業内容が見えるようにもなり意見が活発に交流されていき、子どもたちが学習から離脱するのを防いでくれる効果もあります。

 

また、調査の結果、直方体や前面に黒板のある教室配置は、受動的な学習を促進することがわかってきました。一方で、デフロンテッド・クラスルーム(子どもたちがあらゆる方向を向いて座る教室)は、子どもの思考を誘発するために最も効果的な方法であることが示されました。

 

 


リルジェダールは、これらの変数が合計14あり★、順序立ててを取り入れていくことで、「考える教室」を構築するための最適な教育法を提供しています。

 

どうでしょうか。子どもたちがつい考えたくなる魅力的な課題、毎回ランダムなグループ、そして立って意見交流ができるホワイトボードの活用など、これは算数・数学だけに限らず全ての教科においても活用できると思えませんか? 年度の初め、教科書を読みながら、「本当にこれでいいのだろうか」と慌ただしさの中にも逡巡するもやもやをつかまえて、授業変革の一歩を踏み出してみませんか。

 

 

20233月の記事

How to Turn Your Math Classroom Into a ‘Thinking Classroom’

https://www.edutopia.org/article/thinking-classroom-peter-liljedahl-math

2017年のEdutopia記事にもありますが、14要素は昔のものとなっています。

 

★★

他には以下のものがあります。詳しくはピーター・リルジェダールのHPが参考になります。https://buildingthinkingclassrooms.com/14-practices/

 

4. 考える教室では、教室環境をどう並べるか

5. 考える教室で質問にどう答えるか

6. 考える教室では、いつ、どこで、どのように課題が与えられるか

7. 考える教室での宿題のあり方

8. 考える教室で生徒の自主性をどのように育むか

9. 考える教室でヒントと発展問題をどう使うか

10. 考える教室でどのように授業を集約していくか

11. 考える教室での生徒のノートの取り方

12. 考える教室で評価するために選ぶもの

13. 考える授業で形成的評価をどう使うか

14. 考える教室での評価方法


©ピーター・リルジェダール

2025年3月9日日曜日

この問題、解けますか? 考えるための3種類の良問

ある風変わりな女性がホテルにやってきて、となり合った3つの部屋を予約しました。女性は受付係にこう伝えました。「もし私に連絡があるのなら、前日にいた部屋の隣の部屋に必ずいるので、直接、言いに来て!」

 

 受付係は特に気にしていませんでしたが、1時間後にその女性のクレジットカードが使えなくなっていることに気づき、女性を探さなければならなくなりました。しかし、受付係はあまりにも忙しく、1日に1つの部屋しか確かめることができません。はたして、受付係は何日以内に女性を見つけることができるでしょうか。

 

この問題に取り組むとき、子どもたちはどのように考えるでしょうか? 想像してみてください。まずは手始めに部屋を受付係が移動しながら、「きまり」を見つけようとするかもしれません。または、論理的に順序立てて評に整理をしながら、すべての可能性を試す方法を考えるかもしれません。

 

たとえどんな方法で考えたとしても、子どもたちは必ず試行錯誤を繰り返しながら解決策を見つけることになります。こういった考える機会こそ、算数・数学の授業で大切にすべきものではないでしょうか。

 

子どもたちが問題を解いてしまったらそれで終わりではありません。さらに考えてみましょう。もし、部屋が4つの場合はどうでしょうか? 5つの場合は? そこに「きまり」はみえてきませんか? 

 

さらに!

 

もし17部屋あり、女性が30日間滞在する予定だったら、受付係は女性がホテルを出発する前に見つけることができるでしょうか?

 

ぜひ、今、考えてください! 

 

多くの中学校、高校の数学授業では、やり方を教え、それをもとに生徒たちが練習問題を解くという流れがまだまだ一般的です。また、最近の小学校ではこういった教師による教え込みは減ってきてはいますが、教科書ありきの個別最適という名の自学自習が求められています。

 

「方程式を解きなさい」「二次関数のグラフを描きなさい」といった問題は、手順さえ覚えていれば解けてしまいます。確かに、これらは数学の重要な概念を学ぶ上で欠かせませんが、このような問題ばかりでは、子どもたちは「考える」ことをしなくなります。なぜなら、それはすでに正解への道筋が決められているからです。算数・数学の本質は、未知の問題に対して、どのようにアプローチし、解決策を見つけるかにあるにもかかわらず。

 

では、考える力を育てるために、どのような「良問★」が必要なのでしょうか。

 

 

 

①  非カリキュラム型の思考課題

ひとつのアプローチとして、「非カリキュラム型の思考課題」があります。この課題は、学校の教科書に載っている問題とは異なり、公式や定理を単純に適用するのではなく、子どもたちが自ら考えたくなる問題です。

 

1から100までの数に、7は何回現れるのか?」

この問題は、単純な計算問題のように見えますが、実際に解こうとすると、どうやって数えるかを考える必要が出てきます。「70から79の間には10回出てくるな」「772回カウントするのかな?」、様々な試行錯誤が生まれます。

 

4分と7分の砂時計を使って9分を計ることはできるか?」

これは、単なる時間の計算ではなく、どのように2つの砂時計を組み合わせるかを考えなければなりません。このような問題を通じて、子どもたちは試行錯誤を繰り返し、数学的な思考力を高めていきます。

 

 

 

② 再構成されたカリキュラム型思考課題

既存の算数・数学の学習内容を活かしつつ、子どもたちがじっくりと考えられるように再構成した課題も効果的です。

 

100ドルを5セント、10セント、25セントのコインだけを使って作る方法はいくつあるか?」

この問題では、組み合わせの考え方や試行錯誤が求められます。単なる計算ではなく、パターンを見つけたり、異なる方法を試したりすることで、数学的な思考が鍛えられます。

 

252つ以上の数の和で表し、その積が最大になる組み合わせを見つけよう」

和と積の関係性を考えながら、試行錯誤をすることが求められます。「25124の和として表すと積は24」「1213なら積は156」といった具合に、いろいろな組み合わせを試していく中で、最適解を導き出すことになります。

 

こういった良問を通じて、子どもたちは算数・数学の知識をただ覚えたことを練習問題に使うだけでなく、知識を使うことでこそ、概念そのものを深く理解することができます。

 

 

 

③ 直接指導型のカリキュラム課題の工夫

教科書の問題であっても、指導方法を変えることで子どもたちの思考を促すことができます。例えば「因数分解をしなさい」という問題をそのまま出すのではなく、「数を分解するさまざまな方法を考えてみよう」と解法の自由度を持たせることで、子どもたちの思考を広げることができます。そして、計算練習を10問やるよりも多様な方法を考えるほうが効果的です!

 

36をできるだけ多くの方法で分解してみよう」

子どもたちは「6×6」「9×4」「18×2」など、いろいろな方法を試します。もしかしたら3口の計算も考えるかも知れません。この過程で、因数分解の意味をより深く理解し、単なる公式の適用ではなく、構造的な視点から数学を捉えられるようになります。

 

「一次方程式を解きなさい」ではなく、「この方程式の解は何を意味しているのか考えてみましょう」と問いかけることで、子どもたちは計算結果の背後にある意味を考えるようになります。単なる数字の操作ではなく、算数・数学が実生活とどのように結びついているのかを意識することができるようになってくるのではないでしょうか。

 

 

 

授業に良問を取り入れることは、決まり切った解法がない中で子どもたちが多様に問題解決することを求めます。どの方法が効果的かを考え、順序立てて思考する論理的思考力が養われていきます。何よりも、自分の考えがそのまま解決につながる「あぁ!とけた!」といった数学的経験は、「考えることのが楽しさ」を実感させてくれるのではないでしょうか。そしてそれは、子どもたちから「算数・数学って、分かっている問題をただ繰り返し解くんじゃないから好きになった」という声が聞けるようになってくるはずです。

 

算数・数学の授業を「解き方を覚える場」から「考える場」に変えることは、決して難しくありません。課題の選び方を少し工夫するだけで、子どもたちの思考の深さは大きく変わります。「この問題、どうやって解けばいいんだろう?」と本気で悩み考える瞬間こそ、算数・数学の本質が生きる瞬間ではないでしょうか。★★

 

 

 

★最初に示した問題のように、じっくりと多様に考えるにふさわしい課題をここでは良問とも呼んでいます。

 

★★今回の記事は、Peter LiljedahlBuilding Thinking Classrooms in Mathematics』に感銘を受けて、第1章を参照に、良問の視点からまとめ直したものです。

 

以前のPLC便り『「考える教室」をつくるには』では、上記の本の概要についても紹介しています。

https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html?m=1

2016年2月14日日曜日

思考力が身につく授業とはどんな授業?

ある先生とのやり取りで、「●●を学ぶことによって思考力や人間性が育つような授業をしたい」という発言がありました。(●●は教科です)
 同じことを願っている先生は(教科に関係なく)多いのではないかと思い、この願いを実現する方法を紹介したいと思います。

 しかし、その前に、「思考力」と「人間性」は日本の教育界ではよく聞く言葉ですが、それらの意味は明快になっているでしょうか?
 文科省は、もう15年だか20年ぐらい前に、これから大切なのは「思考力、判断力、表現力」だと言ったような記憶があります。
 各学校が掲げている学校教育目標の3つか4つの一つには、「考える子」(ないし、そのバリエーション)が必ずといっていいぐらい含まれています。
 いずれにしても、何をすれば思考力が身につき、考える子を育てることができるのかは、依然としてはっきりしていないのではないでしょうか?
 ネット検索で「思考力」を見てみたら、「思考力は考える力であるが、それでは「考える」とはどんな働きであるか。 心理学では、思考という働きは、観察や記憶によって頭の中に蓄えられた内容をいろいろ関係づけ、新しい関係を作り出す働きとみなされている」とありました。あなたのイメージに近いでしょうか?

 教育の分野で、いまだに最も参考になる思考力の説明は、ベンジャミン・ブルームという人によって、もう60年も前の1956年に提示されています。一般的に「ブルームの思考の6段階」と言われています。
 それは、「暗記力-理解力-応用力-分析力-統合力-評価力」です。★
 2001年にはこれの改訂版として、最後の2つを入れ替えた「暗記力-理解力-応用力-分析力-評価力-創造力」が提示されています。★★

 いずれにしても、6段階で提示されることで、具体的に思考力を高めるためには何をすべきなのかが、かなり具体的にイメージできるのではないでしょうか? どういう投げかけや問いかけをしたら、それぞれに対応する力を育てることができる明快なので、とても便利なのです。

 最初の2つの暗記力と理解力を、一般的に低次の思考力、そして残りの4つを高次の思考力と捉えており、これまた一般的な授業では低次の思考力が8~9割を占めるのですが、よく学べる/身につく授業にするには、高次の思考力をそのぐらいに逆転しないといけないとも提案されています。

 その意味では、よく言われる「習得・活用・探究」は、その順番にやればいいというものではないということです。一般的には、習得(暗記・理解)してから、活用(応用)し、その上で探究(分析、評価、創造/統合)するものだと思いがちです。しかしながら、私たちは一番上ぐらいに位置づけられている評価から入ってしまうケースが結構多いのです。大人はもちろん、子どもたちも、です。要するに、これは自分に本当に価値があるのか?役立つのか?を瞬時に判断してしまい、もし答が「ノー」の場合は、適当にテストぐらいまでは「お付き合い」しますが、その後までは・・・ということになるわけです。結果的に、教師は「ちゃんと教えたのに、覚えてないの?」が口癖にならざるを得ないわけです。ちゃんと教えたら(高次の思考力さえつかっていれば)、忘れることはできないのに。

以上は、ある意味でテクニック的な部分についてでした。
より大切なのは、考えるに値する内容をそもそも扱っているのかという大きな問題があります。
思い出してください。算数・数学、国語、理科、社会のテストを。
問題の最後は、「考えなさい」で終わっていませんか?
でも、それらのほとんどの場合は、「答を出しなさい」であり、「覚えていますか?」のレベルのものが多いのではないでしょうか?
最初から低次の思考にしか向かないものを出題者側が扱っている結果です。


★ これについて詳しく知りたい方は、『「考える力」はこうしてつける』や『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』『効果10倍の学びの技法~シンプルな方法で学校が変わる!』などを参考にしてください。

★★ Anderson, L.W. (Ed.), Krathwohl, D.R. (Ed.), Airasian, P.W., Cruikshank, K.A., Mayer, R.E., Pintrich, P.R., Raths, J., & Wittrock, M.C. (2001). A taxonomy for learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom’s Taxonomy of Educational Objectives (Complete edition). New York: Longman.

2020年11月15日日曜日

答えよりも考え方へ 下書きアイディアを共有するラフドラフト思考

みなさんは学生時代の算数・数学の授業を振り返ってみると、どのような生徒でしたか? すぐに正解へ辿り着く賢い生徒でしたか? それとも正答を出せずに教室の中では、こっそりと過ごそうとしていた生徒でしたか? 

正解か不正解かを重視する授業では、数学が得意な生徒も苦手な生徒も失敗やリスク犯してまで深く考え、探究しようとしません。何も考えずに解法を丸暗記するのが落ち。しかし、算数・数学の授業そのものが、協力的な環境へと変化すると、生徒たちは自分のアイディアをより積極的に共有し、自信を持ってやる気を感じ、授業へ考える事へ参加するようになります。

 

デラウェア大学教育学部教授のアマンダ・ヤンセン氏は『ラフドラフト数学』で、これまでのような正答を求めるだけの算数・数学から、生徒同士がアクティブに考え合う、共有に重きを置いた新しい数学実践を提案しています。

 

ラフドラフトとは、下書きのことです。ラフドラフト数学は、生徒がその未完成で進行中の自分の考えを共有し、アイディアを修正するために話し合えるようにすることです。答えや計算の手順ではなく、自分の考えについて話してもらうことで、生徒同士が考える機会を増やすことができるのです。算数・数学の問題のラフドラフトを作成し、それらを共有し議論することにより「私のアイディアは重要なんだ」と、生徒はお互いの学習に貢献する喜びが生まれてくるのです。

 


 

 

デラウェア州の数学教師クリスティン・ヒューバード先生は、生徒にドット図をパッとTV画面に簡単に見せ、「いくつの点があるかを考えてください」と、何個の点があるのか尋ねます。すると生徒全員が8つあることを発表しました。「なぜそこに8つの点か、その数え方を共有してくれる人はいますか?」と質問し、生徒が点をどのように数えたのかその方法を検討するようにしました。ある生徒はホワイトボードやGoogleスライドを使い、様々なアイディアを共有しました。




 

その後、生徒たちはダイヤモンドのような形を何と呼ぶか質問し、議論しました。「この形には2組の平行な辺があるので、平行四辺形かもしれない」と提案します。その後、五角形や「まだ見たこの無い奇妙な四角形」など、複数の生徒がアイディアを出し合いながら、数学概念を理解するための探究的な対話に参加することで、クラスは正解へとたどり着きました。  

 

"生徒に数学に興味を持ってもらうためには、生徒が真の意味で探究する機会を提供する必要があります。教科書や教師ではなく、子供たちに質問をしてもらいたいのです。

★★

 

これらのラフドラフト思考を促す問題には、複数の解法や正解がある課題を設定する必要があります。複数の解法や正解がある課題は、数学についての議論を促し、考え方を見直す機会を与えてくれるからです。例えば、ドット図の多様な数え方、グラフから分かることや方程式の中で起こっているストーリーを一人ひとりのアイディアとして紹介し合うことができます。

 

最初に、ラフドラフト(まだ考え中の自分のアイディア)を他の人と共有すること。それには生徒が安心して、自分の考えを聞いてもらう安心感を醸成しなければなりません。最初のアイディアは大切であるけれど、最初に問題を解くことは期待されていないことを、生徒たちが事前に知っている必要があります。アイディアは完璧である必要はありません。何か新しいことを考え、それが自分にとって意味のあることなのかどうかを理解しようとするときには、まだうまく言葉にできないため流暢に伝えられるものではありません。

 

ラフドラフトの共有は、生徒がそれぞれのアイディアを紹介した後、グループで比較検討します。他の人との類似点を見つけることは、今の考え方を広げて深く考えるきっかけとなります。また、他の人のアイディアとの相違点に気づいた場合、その違いが重要かどうか、自分の考え方の間違えや修正する機会ともなります。これらは教師や生徒、そして生徒同士の対話によって、または文章に書き直したものを共有することによって、算数・数学におけるセンスメイキング(自分の学習への意味づくり)の能動的な学習プロセスを作り上げることができるのです。

 

授業の最後に、生徒達は、自分の考え、友だちの考えから、最終的に修正した自分の考え「ファイナル・ドラフト」を書き出します。それは、決して正答や解決方法の結果発表会ではなく、それまでの生徒の思考の変遷そのものが、価値あるものとして体験できるはずです。(そのためのワークシートは、P163。)

 


上:自分の考え

左下:他の人からの考え  右下:考え直したアイディア

 

“生徒が成果を発揮する必要がある(正確な答えを求めること)と感じている教室空間から、生徒が探究する教室空間へと変化していくことが、私の夢です。”P16より

 

教師は、生徒の考えに欠けているものを見つけることよりも、生徒の考えがどのように変化していくか、そのことに喜びを感じるようになることができるとヤンセン氏は語ります。

算数・数学を「共有の探究」として捉え直すことで、より多くの生徒がお互いの問題解決に貢献し、算数・数学の概念を共に考え合い理解する機会を得ることができるのです。生徒一人ひとりのアイディアには強みがあります。教師がラフドラフトの価値を強調し、生徒同士がそのアイディアの何に価値あるのかを指摘し始めると、誰もがみな数学的な強み(生まれつきの数学が苦手な人はいない!)を持っていると考えるようになってきます。

 

正答を直線的に求めることから、その途中のプロセスを仲間と共有し一緒に考え合うこと、深く考えることで、学びにエンゲージし(夢中になり)、間違えや失敗することに臆すことなく自信をもって考えるようになります。ラフドラフト思考は、算数・数学の授業を、生徒が声に出して話し合い、考えることそのものが心地よいと感じるような、魅力的な探究の共有の場にしてくれる強力なツールです。このような実践がより一般化されるためにも、邦訳が待ち遠しいところです。

 

     

Amanda Jansen Rough Draft Math: Rough Draft Math: Revising to LearnStenhouse Publishers (2020/3/17)

 

★★ 

Rough Draft Thinking Can Make Math Class More Inclusive 

https://www.edutopia.org/article/rough-draft-thinking-can-make-math-class-more-inclusive

 

2026年5月10日日曜日

考えることを楽しむ算数「数学者の時間」のはじまり

 新学期が始まってしばらく経つこの時期、算数の授業でも、子どもたちは少しずつ新しい学年の学び方に慣れてきます。教科書の問題を解き、答え合わせをし、新しい計算や考え方を身につけていく。もちろん、それは算数の大切な学習です。しかし、どこかで「また問題を解いて、また答えを出すのか」という感覚が生まれてくることもあります。できる子は早く終わり、苦手な子は遅れを感じる。算数が「できる/できない」という基準だけで語られてしまうと、考えることそのものの面白さが見えにくくなってしまいます。

そこで、毎年この時期に始めているのが、算数科の「数学者の時間」です。これは子どもたちが小さな数学者として、一つの良問にじっくり向き合う時間です。目指しているのは、単に問題を解けるようにすることではありません。問題と出会い、条件を整理し、試し、失敗し、もう一度考え、友だちと話し、やがて自分なりの説明や新しい問題をつくっていく。その一連の過程を通して、「考えることって面白い」と感じられる算数の時間をつくりたいのです。

最初の単元では、「川渡り問題」に取り組みます。オオカミ、ヤギ、キャベツを川の向こう岸に渡す有名な論理問題です。ただし、船には一度に一人と一つの荷物しか乗せられません。オオカミとヤギを一緒に残すとヤギが食べられてしまい、ヤギとキャベツを一緒に残すとキャベツが食べられてしまいます。この条件の中で、子どもたちは行ったり来たりしながら、最小の手順を探っていきます。



面白いのは、最初からすぐに正解へ向かう子ばかりではないということです。ある子はオオカミの絵を丁寧に描き始め、ある子は「わかった、7回だ」と答えだけを言いに来ます。またある子は、何から書き始めればよいのかわからず、じっと問題文を見つめています。一見するとバラバラな姿ですが、ここにこそ「数学者の時間」の大切な学びがあります。

答えだけを言いに来た子には、「どうしてそう考えたのか、その足跡を数学者ノートに残してみよう」と声をかけます。算数では、答えが合っていること以上に、自分の思考を可視化し、相手に伝わるように整理する「説明のアート」としての側面が重要だからです。また、絵に凝りすぎてしまう子には、「簡単な記号や言葉に置き換えると、もっと考える時間が増えるかもしれないよ」と伝えます。詳しいイラストからシンプルな図へと表現を変えていくことは、思考の道具を獲得していく過程そのものです。問題の意味がつかめない子には、おはじきなどの半具体物を使い、動かしながら一緒に条件を確認します。こうした個別のやり取りから子どもたちのつまずきを見取ることが、教師にとっても次の支援をつくる大切な時間になります。

「数学者の時間」では、一つの問題を解いて終わりにはしません。解けた子には、「条件を変えて、自分でも問題をつくってみよう」と投げかけます。ここから子どもたちは一気に夢中になります。登場人物や船の定員を変えながらオリジナルの問題をつくり始める姿は、これまでの「与えられた問題を解く人」から「問題をつくる人」への大きな転換です。元の構造を深く理解していなければ良い問題はつくれません。問題づくりは、算数の構造を深く見直す高度な学びなのです。

さらに、子どもたちがつくった問題はクラスで「出版」され、友だち同士で解き合います。自分の考えがクラスの学びの素材になる経験は、子どもにとって大きな自信になります。解いた後には、作者に「ここが面白かった」「この条件がよく考えられている」といったファンレターを書きます。互いの思考を認め合い、学びを祝福する時間が教室に流れます。

若い先生方に特にお伝えしたいのは、この実践は「自由にやらせる時間」ではないということです。むしろ、教師の見取りと支援が成否を分けます。丁寧な条件確認、答えだけでなく説明を求める声かけ、図や記号への橋渡し、そして友だち同士が「答えを教え合う」のではなく「一緒に考える」関係になれるよう支えること。こうした小さな手立ての積み重ねが、子どもの安心感につながります。

算数を学ぶ意味は、素早く正解を出すことだけではありません。条件を整理し、見通しを持ち、失敗を恐れず、自分の考えを言葉にする。これらはすべて、算数を通して育てたい大切な生きる力です。「数学者の時間」は、子どもたちにその力を実感させてくれるだけでなく、教師にも授業を違った角度から見直す機会を与えてくれます。教科書を進める日常の中で、ときには一つの問題にじっくり向き合い、子どもたちが考えることそのものを楽しむ時間をつくってみませんか。

興味のある先生がいれば、ぜひコメント欄にてお知らせください。最初の単元「川渡り問題」の3回分の授業実践のモニターを募集しています。子どもたちがどのように考え、どのように夢中になっていくのかを、ぜひ一緒に考え合えたらと願っています。

 

2018年9月23日日曜日

「書くこと」と「学ぶこと」の関係?!


 日本の教育は、残念ながら、書くことを学ぶ際にまったく活かせていません。
 「ノート指導」という言葉は存在しますが、そのほとんどは、教師が板書したものをどれだけきれいにノートに取れるかに集中しています。
 何が欠けているかというと、書くことを通して自分の思考を育てる部分です。
 それは、教師(大人全般)が会議やミーティング等で熱心に話者の言っていることをメモに取ることからも言えます。全員が熱心にメモを取るのですが、残念ながら、それをしている過程の思考はほぼゼロですし★、メモが読み直されることもほぼゼロなので、見た目にはみんな熱心そうに見えますが、その場から生まれるものは、限りなくゼロに等しい状態が続きます。(ということで、教室で起こっていることは、一般社会で常日頃行われていることの縮図に過ぎないということです!)

 『イン・ザ・ミドル』に、以下のような記述があります。

「書くことは、紙の上でひたすら考えに考え抜くことで、多くのやり方がある。書き手は何をするのか?」
自分の経験から、「書く」とは「紙の上で考える」ことだと学びました。書いたことを読んでそれについて考えるし、時には少し、時にはたくさん考え直し、さらに考えてもっと書き足します。考えが頭の中から順序良く、切れ目なく流れてきて、それを書きとめる、というようなものではありません。そうではなくて、書くことで、考えを発見するのです。意味を創り出すのです。書き手がすることは乱雑で複雑であると同時に、素晴らしいことでもあります。考えることができて、そのための時間をとれる人なら、誰でも書くことができます。さあ、できるだけ限りのブレインストーミングしてみましょう。みんなも話すし、私も話します。私が記録しますから、今から、書き手がすることを、どんどん考えてみましょう。161ページ)

 あるクラスでのブレインストーミングで出てきた結果が図版4-1です。
  
 ブレインストーミングが一段落すると、『イン・ザ・ミドル』の著者は、次のように生徒に話して締めくくりました。

書き手が実際にしていることがとてもたくさん出てきました。書くことは、楽しくって、大変で、直線的には進まないものです。書き手は、ここで挙げたいろいろなことの間を、行ったり来たりします。もちろん、ある時点で、ここでよしとして、迷うことをやめて、作品を世に送り出します。授業では、ここにリストされたことを上手に行う方法を教え、それを練習する時間も提供します。カート・ヴォネガット・ジュニアが言うように、作家とは、頭がいい人とは限らないけど、紙の上で考えることと時間の使い方、そして忍耐することを学んだ人たちなのです。162ページ)

・日本の作文教育は、こういう視点で行われているでしょうか?
・問題は国語の書く指導に止まりません。国語以外の教科で「書くこと」を、思考を深めたり、広げたりすることに活かせているでしょうか?
 ここまでは、書くことに焦点を当ててきましたが、まったく同じことが「読むこと」についても言えてしまいます。
・読むことを、思考を深めたり、広げたりするために活かさなければならないのですが、活かせているでしょうか? (これも、国語の読解の授業だけでなく、すべての教科で、です!)
・さらには、話すことや聞くことでも同じなのですが、やれているでしょうか?
 学ぶこと=書くこと、読むこと、話すこと、聞くこと=考えること、です。★★
・書くこと、読むこと、話すこと、聞くことを通して考えていなければ、いったいどうやって学んでいるというのでしょうか?

★ もっと言えば、メモを取ることが思考させない結果を生んでいるとさえ言えます! この方法を乗り越える方法については、『会議の技法』を参照してください。

★★ このことを私に気づかせてくれたのが、『「読む力」はこうしてつける』でした。

 以上のことを、私に考えさせるきっかけになった文章を以下に貼り付けます。(訳を付けないですみません。ひょっとすると翻訳ソフトを使うと、かなりの精度で日本語になるかもしれません。たとえば、https://translate.google.co.jp/?hl=ja の左側に下のコピーを貼り付けると、瞬時に右側に日本語訳が表示されます。)

Unfortunately, few teachers ever learn about writing’s "incredible" power to "enable thought to operate much more deeply" on everything we read and learn (Walshe, 1987). Although teachers realize writing’s general importance, most aren’t adequately aware of the fact that higher-order, analytic thought likely isn’t possible without engaging in some form of writing, or that we can literally "write our way" into a deeper understanding of complex texts or concepts that previously mystified us (Zinsser, 1988). Decades of research attest to writing’s unrivaled ability to facilitate understanding and help people evaluate, reconstitute, and synthesize knowledge. Writing enables students to generate their best thinking in its most effective form (National Commission on Writing, 2003; Sundeen, 2015).
That’s why writing and speaking constitute the most sought-after skill set in business and industry and why many corporate recruiters rank these abilities twice as high as managerial skills (Hurley, 2015). Writing plays a more significant role in the school systems in countries that score high on PISA than it does in the schools in the United States (Darling-Hammond, 2010; Ripley, 2013). But extensive student writing is a frighteningly low priority in U.S. schools.
Having students write across the disciplines could have more impact on college success than any other factor.

Reference: Demystifying Writing, Transforming Education (Writing enables deeper thinking and learning in every content area. Let’s teach it in every content area), by Mike Schmoker, in Educational Leadership, Volume 75, Number 7, April 2018, p.23.


2017年6月18日日曜日

いい「問いかけ」してますか?


あなたは、子どもたちにいい問いかけ(投げかけ)をしていますか?★
自分がすでに答えをもっているのではなく、本当に子どもの考えを聞くための。
理想的には、子どもたちにさらなる質問をうみ出させるような。

いま、Choice Words (by Peter Johnston)という本の翻訳をしています。
この本のテーマは、子どもたちに考えさせるだけでなく、「教師の発する言葉が、子どもの学びはもちろんのこと、主体性やアイデンティティーを含めた人間性★★を育てる」というものです。刺激満載の本ですので、来春の刊行をお楽しみに!!

問いかけ(投げかけ)は、複雑な必要はありません。
単純な方がいいぐらいです。
あなたの問いかけ=質問の持ち駒には、どんなものがありますか?

たとえば、以下の5つはどんな状況でもほぼ間違いなしの質問です。
(なお問いかけをする際は、同時に「考える間=時間」を十分に提供することをお忘れなく。ある意味では、問いかけと間は同じか、間の方が大事なくらいです。たとえいい問いかけをしたとしても、考える時間が提供されなければ、いい問いかけは台無しですから。)

①あなた(方)はどう思いますか(考えますか)?
②どうしてそう思う(考える)のですか?
③どうしてそれが分かるのですか?
④もう少し話してくれませんか?
⑤他にどんな質問が浮かびますか?

 まちがっても、正解を求めるような問い方はご法度です。本当に生徒たちの考えに興味がないときはオープンな質問はすべきではないです(生徒たちに、教師が求める考えを答えるという「正解当てっこ」ゲームのマインドセットに戻してしまいますから)。

 以下、簡単な解説をつけていきます。

①の「あなた(方)はどう思いますか(考えますか)?」と問うことで、教師が話しすぎる代わりに、生徒(たち)に考え、そして自分の考えを表明してもらえます。教師は生徒の反応を基に、より適切な指導を行う可能性も開けます。

②の「どうしてそう思う(考える)のですか?」は、①の質問の後のフォローアップの質問で、そのように考えた理由や根拠を明らかにするチャンスを提供します。

③の「どうしてそれが分かるのですか?」と質問することで、質問によって考えたことと自分の経験、読んだこと、見たこと、聞いたことなどとの関連を考えてもらうことができます。

④の「もう少し話してくれませんか?」は、一回目の発言ですべてを言い尽くす人はほとんどいません。まだ言い足りていないと思った時や、何か大切なものが抜けていると思った時のフォローアップの質問として、とても貴重です。

⑤の「他にどんな質問が浮かびますか?」は、教師の頭の中にはなかったような考えや質問を生徒たちから出されるチャンスになります。

なお、教師がクラス全体に問いかけた後、それに答えられる生徒は限定的になりやすいものです(よほど、クラスづくりがうまくいっていないと?!)。それを乗り越える方法がいくつかあります。一つは、全体で出してもらう前に、ペアで話し合ってもらうことです。(この方法を、私は1980年代の後半に『ワールド・スタディーズ』(国際理解教育センター翻訳・発行)を通じて学びました。大人でさえ、4~5人以上の席で発表することは相当に勇気にいることです! でも、2~3人ならハードルは大分低くなります。まずは言い易い雰囲気の中で自分の考えを一度誰かに伝えた後だと、同じことを大人数に対して言うことはそれほどシンドクなくなります。)もう一つは、考える間を提供することにもなる「自分の考えを書き出させる」方法です。これなら、確実に時間が提供されますし、整理することにも役立ちますし、一回書き出しているので言い易くもなります。(臨機応変に、書き出したものとは若干違うことを言ってもいいという自由さというか、柔軟さも提供しています。)

 最後に、私のお気に入りの問いかけは、私が関わった本の何冊かで紹介している★★★「五つの思考の視点(5 habits of mind)」です。たとえば、『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』の80ページ、『たった一つを変えるだけ』の281ページ、『リーディング・ワークショップ』の163ページで紹介しています。(なんと、あとの2冊は訳書です! 著者は書いていないのに、訳者が付け加えてしまっています!!)


★ 私に、いい問いかけの大切さを教えてくれた本は、『ワールド・スタディーズ』という本でした。この本、あまりにも内容がいいし、自分だけが知っているのでは申し訳ないと思い、訳してしまいました。(ちなみに、「発問」と「問いかけ」は根本的に違います!)

★★ 人間性(character)には、本書および続編で扱っている多くの特性が含まれます。アイデンティティー、主体性(agency)、態度、ふるまい、心性(disposition)、マインドセット(思考の傾向~これについては本書の続編で詳しく触れます!)、パーソナリティー、気質(temperament)、価値、信念、社会的・感情的スキル(=マルチ能力の自己観察・管理能力と人間関係形成能力)など。ある意味では、学ぶことを通して得る知識やスキル以上に、各人の人生を左右するものとさえいえます。それらを、教室で、教師の言葉を介して、刺激を受けたり、練習したり、磨いていけたりするというのですから、とても心強いです。
 一方で、教師が意識することなく言葉を使っていると、負の影響を及ぼしかねませんから、とても恐ろしいものでもあります! この点についても、本書では扱われており、特に第8章(原書の80ページ)をご覧ください。

★★★ いいものは、繰り返し紹介します。その価値がありますから。最も頻繁に紹介しているのは、今回のテーマである問いかけとは直接は関係ありませんが、「学びの原則」です。でも、残念ながら私が紹介するぐらいでは、いっこうに普及しません。なので、もしあなたもいいと思えたら、ぜひ普及にご協力ください。これらが押さえられない限り、いい授業や研修は実現しないことを意味していますから。

参考: 

質問を分析する枠組に興味のある方は、
を覗いてみてください。


2019年2月9日土曜日

算数・数学がキライな人にすすめたい「考える楽しさ」をあじわえる1冊



学生時代、算数・数学のもつおもしろさを教えてもらえなかった。挫折した。今こそ、考えるおもしろさとその魅力とりかえしましょう。苦手だなって思う人にほど、読んでほしい1冊がこの『教科書では学べない数学的思考: 「ウーン!」と「アハ!」から学ぶ』です。もちろん、算数・数学教育にかかわる全ての人にも!

この本の特徴は、これまでのように読んで数学的思考の知識を増やす本ではなく、実際に紹介されている問題を試行錯誤し解こうとすることで、数学的に考えるとはどういうことなのかを実感し、考えることができる本です。




著者は数学的思考とは、「私たちが対処することのできるアイディアの複雑性を広げ、そして理解を押し広げてくれるダイナミックなプロセス」と教えてくれます。さらに、「だれもが数学的に考えられる」というメッセージには大変、勇気づけられます。

この本は考えて理解するための問題が紹介されています。著者が繰り返し述べているように「まだ試していないなら、いま試してみてください」、ページをめくれば何度もしつこく「試してみましたか?」と先に読み進めようと思考の節約をする読者を挑発してきます。

かくいう私自身も最初は手軽に情報収集をしようと読んでしまい、全く歯が立ちませんでした。しかし、次に紹介する問題をじっくりと解いてみることで、数学的に考える楽しさや解ける面白さに加え、解けない楽しさも味わえることができたのです。
数ある骨太の問題の中から、おすすめの問題を一つ紹介します。



私はこの問題を解くことを通して、
① 数学的思考はプロセス
② 数学的思考はたった二つ
③ 数学的思考はとても情的なもの
この3つを体感することができました。ぜひ、この問題に挑戦してみてください。特に算数数学に苦しんできた人ほど、その数学イメージが刷新されるはずです。★



① 数学的思考はプロセスである。

数学的思考とは、「帰納的思考」や「演繹的思考」、「類推的思考」といった難しそうな思考方法だけでは決してなく、考える作業をまるごと体験するそのプロセスにあります。
一般的に授業では学習者にわかりやすいように、きまり探しをする場面の授業(帰納)、説明する場面の授業(演繹)といったように部分、部分で切り分けて授業展開されていきます。学習者にわかりやすく細切れに練習をすればするほど、数学的思考は一連の思考のプロセスであることがみえにくくなってしまいます。そこでは教科書の内容はカバーできる一方で、数学的思考の本質である「問題を入り口から最後まで解いてみる」「悩みながらも考え続けながら解こうとする」「解けた、または解けなかったプロセスそのものを振り返る」といった考え方を身につけることができません。

実際の問題解決場面では、自分できまりやパターンを見つけようと予想もするし、根拠を持って説明もします。解けないときには、これまで解いたことのあった似ている問題を探したりもします。問題を入り口から振り返りまでやってみること、そのプロセスこそが数学的思考でした。



② 数学的思考はたった二つでなりたってしまうこと。

これまでの数学的に考える方法には、帰納、演繹、類推だけにとどまらず、その思考方法はざっと数えただけで20以上もありました。★★これでは、携帯電話の決して使われることのない細かい機能のようなものです!多すぎて一体どの問題解決の場面で何を使っていいのか学習者には手に負えませんし、使いこなせる人はごくわずかな数学マニアだけでしょうか。

本書が示す数学的思考とは、シンプルな二つだけで成り立ってしまいます。「特殊化」とよばれるいろいろ試してみることと、「一般化」とよばれる筋道立てて説明をする、この二つの繰り返しで数学的思考を働かせて問題を解いていきます。

難しい帰納、演繹などの専門用語に頼らずとも、上で紹介した「ご婦人たちの昼食会」では絵に表して問題を解こうといろいろ試してみて(特殊化)予想をし、説明したり確かめてみる(一般化)といったプロセスの中で、問題解決し、どこが解けたっかけなのかを振り返りつつ、他の問題へも広げていく、そういった数学的思考を働かせることができてしまうことを教えてくれました。★★★



③ 数学的思考は感情的なもの。

算数・数学ギライの多くの人々が持つそのイメージには、論理的であるがゆえに直線的で、感情抜きの機械的な冷たいものがあるのではないでしょうか。実際に私たちが問題に取り組んでいるときは、「解けそう!」といった自信や、難しくて「うーん、これもう無理だ」といった気持ちに大きく左右されてしまうものです。

これまでの算数・数学の本では、あまり触れられてこなかったその心情面にも焦点を当て、分からないときの「ウーン」や、なにかひらめいたときの「アハ!」と添え書き(メモ)してしまうことで、自分の思考そのものさえも、解法のヒントとして活用することができてしまいます。さらには、自分の思考を一歩ふりかえりながら問題を解いていく、メタ認知の練習にもなっています。

上の「ご婦人たちの昼食会」問題でいえば、自分が今つまずいていることに気づくことがわかるようになり、冷静にそこまで取り組んだ解法を整理して、なにかひらめくことはないか冷静になることができました。

この本の数学的思考とは、弱音や喜びといった情的で人間的なものも受け止めて、解法にいかしていける。そんな、心の通ったものでした。




さて、これを読んでいるみなさんは、紹介した問題を挑戦してみましたか?やってみることで、より多くのことを学べるとはずです。「まだ試していないなら、いますぐ試してみてください」ね。

★この問題で求められている数学的思考ことはどんなことなのかは本書に譲ります。ぜひ、手にとってご覧ください。

★★日本では数学的思考の共通した定義づけはまたありませんが、数学的な考え方として教育課程部会の算数・数学ワーキンググループで参照にされていたのは片桐重男氏の数学的な考え方でした。それは約20以上の考え方があり、数学的思考を分類し特定することに意味はありましたが、多すぎるために、使いこなせるものとしては学習者に負荷が高すぎます。

教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ(第3回)資料 P18
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/073/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/02/19/1367186_12.pdf

★★★なぜ、日本では人気の帰納・演繹といった言葉を使わないのか訳者の吉田新一郎さんから著者にメールをしてもらいました。すると、著者のケイ・ステイスィーさんは、「証明が十分に演繹なとき、思考錯誤の段階で、全ての思考プロセスが要求されています。そこでは演繹、帰納、類推、そして私が知らない他の考え方ももちろんのこと」とありました。つまり、どうしてそれが正しいのかを証明し、説明しようとするプロセスで、演繹、帰納などの推論がすでにおこなわれているからでした。また欧米では、証明には「mathematical induction(数学的帰納法)」と呼ばれる演繹的数学テクニックもあり、言葉の混同してしまうことをさけるためでもあったようです。

2025年6月8日日曜日

答えのない教室――Thinking Classroomの実践から

昨年度刊行された梅木卓也・有澤和歌子著『答えのない教室 3人で「考える」算数・数学の授業』(新評論)は、カナダの教育研究者リリヤドール教授が15年以上にわたって築き上げてきた「Thinking Classroom」の理論と実践を、日本の現場に紹介する内容となっています。




 

PLC便りでも2023年にすでに「Thinking Classroom」のさわりは紹介してきましたが、本書は実際の授業実践となっています。

 

「考える教室」をつくるには

https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html

 

 

「答えのない教室」という日本語訳のタイトルには、正解を求めるのではなく、考えること自体を楽しむ授業への願いが込められています。とてもいいネーミング。教師に頼って正解を教えてもらうのではなく、自分の頭で考え、友だちと一緒に試し、話し合いながら答えを探していく。そんな思考が止まらない授業実践づくりのポイントが、本書では数多く紹介されています。

 

「子どもたちは本当に考えているのか?」

 

リリヤドール教授がカナダで行った調査によると、あるクラスの中で実際に考えていたのは全体のわずか2割。30人のクラスなら6人ほどが、授業中の15分間だけ思考に集中していたという結果が出ています。他の子どもたちは、教師の解説を待ち、問題を解く「ふり」をしていたのです。こうした現状に対する危機感から生まれたのが、「Thinking Classroom=答えのない教室」というアプローチです。

 

この実践では、いくつかの特徴があります。

 

①立って学ぶ

まず「立って学ぶ」という点です。多くの日本の授業では子どもたちは椅子に座ったままですが、この実践では、ホワイトボードの前に立って学びます。リリヤドール教授の研究によれば、座っていると「何かしているふり」がしやすく、教師の目から逃れがちですが、立っていると「何かをしよう」という意識が自然に芽生え、集中力が高まるという結果が出ています。

 

②ホワイトボードに書く

次に「ホワイトボードに書く」という点です。紙に書くと「きちんとまとめてから書こう」と身構えてしまうことがありますが、ホワイトボードは書いてもすぐに消せるため、「とりあえず書いてみよう」という気持ちになりやすくなります。間違ってもすぐに修正できるという安心感が、「考えてみよう」という意欲につながります。実際に使われるボードのサイズは、縦90センチ、横60センチが目安とされています。

3人で学ぶ

さらに「3人で学ぶ」という点も大きな特徴です。日本では4人グループが一般的ですが、Thinking Classroomでは、さまざまな実験を通じて最適な人数が「3人」であることが明らかになっています。2人では行き詰まりやすく、4人以上では受け身になってしまう子が出る傾向があります。3人だと適度な多様性がありつつ、全員が参加しやすくなるという利点があります。

 

また、グループの決め方も大切です。よくありがちな「仲の良い子同士」「同じ学力の子同士」での編成では、偏った役割分担が生まれたり、学びが固定化されたりしやすくなります。ランダムにグループを編成することによって、多様な考え方や立場に触れることを重視しています。

 

④問題はスモールステップ

授業で扱う問題も工夫されています。特徴的なのは「スモールステップの10問程度」を準備することです。教科書の問題は1問ごとのギャップが大きいことがありますが、Thinking Classroomでは、「数字を1つだけ変えた問題」など、小さなステップで無理なく思考を進められるような設計がなされています。最初の問題は誰でも解けるような簡単な内容にしておき、そこから少しずつ難易度を上げていくのがポイントです。

 

尚、生徒がつい考えたくなるような準備運動の問題があり、それについては今年の3月にすでに紹介したので、ぜひ挑戦してください。

PLC便り「この問題、解けますか? 考えるための3種類の良問」

https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/03/blog-post_9.html

 

 

これらの1コマあたりの授業は、教師の短い説明(510分)から始まります。最初は「自分たちがすでに知っていること」を確認し合いながら、その日の課題に取り組んでいきます。すぐに子どもたちはホワイトボードの前に立ち、グループで考え始めル時間が2030分。授業の終盤には、子どもたちが出した多様な解法を共有し、学びを深めていきます。他のグループから意見をもらう構造にすることで、思考の広がりが生まれます。

 

このような実践は、特別な環境がなくても、どの教室でも導入が可能です。もちろん、小学校で行う場合にはもう少し具体的な支援や配慮が必要になるかもしれませんが、考えることを中心に据えた授業を実現したい先生にとって、大きなヒントとなるはずです。

 

なお、今月には小学校での実践に特化した続編『答えのない教室 パート2』も刊行されました。答えのない教室の世界をもっと深く知りたい方は、ぜひそちらも読んでみてください。

 

2024年6月9日日曜日

算数・数学が得意になるためのメタ認知の活用

算数や数学が得意な人にはどのような特徴があるのでしょうか。これまで観察してきた生徒たちの中には、がりがり勉強して知識や解法パターンを暗記する子たちもいましたが、特に上手くいっている生徒たちは意図的にメタ認知を使っているように思います。

 

メタ認知とは、自己の思考や学習プロセスを意識的にコントロールする能力です。これにより、生徒たちは創造的で自立的になり、柔軟な問題解決能力を持つようになります。メタ認知を学ぶことで、生徒は好奇心旺盛で学習に熱心になり、多様な視点を受け入れることができるようになるのです。さらに、問題解決能力だけでなく、コミュニケーション能力や共感力、自己制御能力も向上しますので、取り組まない手はありません。

 

しかし、試験や成績に振り回され、学校や家庭、職場においてもメタ認知の重要性が奨励されることはあまりありません。では、このメタ認知を算数・数学の学習にどう取り入れられるのでしょうか。

ジョン・ハッティは、70,000件の研究と3億人の生徒からの調査をもとに、効果的な教育的アプローチを明確にしました。彼の研究によれば、メタ認知に取り組むことは0.750.4以上が効果的)という高い効果を持ちます。具体的方法についての詳細は示されていませんが、生徒が自分の進歩を報告することが非常にメタ認知的であると述べています。

 

ここで重要なのは教師の役割です。教育者のポール・ブラックとディラン・ウィリアムは、『学習のための評価(未邦訳)』というアプローチを提案し、生徒が現在どこにいて、どこを目指すべきか、そしてそのギャップを埋める方法を提示することが重要だとしています。これは、算数・数学ワークショップ「数学者の時間」においけるまさにカンファランスアプローチと呼ばれるものです。

ここに授業で効果的に使える9つの数学的ツールを紹介します。これらのツールはメタ認知を高め、算数・数学の学習に大いに役立ちます。たまたま数学的思考について調べていたところMathish.orgHPで見つけたものですが、明日からの教室に大いに役立つものです。




 

メタ認知を高めるための9つの数学的ツール

①一歩、さがってごらん

馬鹿らしいと思うかもしれませんが、問題を声に出して読んでみることをお薦めします。問題から一歩下がって、この問題が私に何を「求めているのか」を考えることが大切です。ほとんどの人は問題を読んだら、すぐに「できそうだ」と考えるか、またはすぐにあきらめてしまうかのどちらかに陥ってしまいます。

 

②問題を絵にしてみよう

これはすべての問題に応用でき、この方法の価値についてはいくら言っても足りないくらいです! 数学が得意な人とそうでない人とを分ける脳の活動部位は、脳の視覚野に由来することがわかっています。早速、絵にしてみたり、触れるものに置き換えてみましょう。

 

③ 他の方法はない?

問題に対する別の解法を考えることです。生徒の解法速度に差が出てしまうときや、数学が優秀な生徒には特に効果的です。これにより、生徒が数学的な多様性をもって考えることができるようになります。多様な考え方により概念を獲得しやすくなります。

 

④ どうしてそうなるの?

「どうして、そうなるの?」という論理的な説明を繰り返し生徒に問い返します。「なぜ、そうなるのか」を知ることは、生徒が数学の問題の特徴を理解するために非常に重要です。特に女子は、男子よりもこのような深い理解を望む割合が高いことがわかっています。

 

⑤ 問題を変えてみよう

数や形を変えることで難易度を操作し、問題解決の柔軟性を高めます。つまり、問題を理解しやすく、計算しやすく、見やすくしてくれます。数学の得意な生徒がこっそり行っている数学的行動のひとつです。

 

⑥より小さなケースを試してみよう

より小さな事例に変えて問題を解くよう生徒に求めます。例えば、8×8のチェス盤にいくつの四角形があるかを求めるには、まず2×23×34×4のチェス盤を調べて、そこに隠れているパターンを見つけることから始めます。

 

⑦パターンとつながりをみつけよう

この問題に隠れているパターンや規則はありませんか。または、これまで習ってきたこととのつながりはありませんか。見つけてみましょう。これこそ算数・数学の美しさに触れられるよい機会です。

 

⑧予想してごらん

生徒に自分なりの予想を考えさせることです。数学における予想は、まだ証明されていないアイデアの段階のものです。科学ではこれを仮説と呼びます。数学においては、解き方を重視するあまり、多くの生徒は予想するような、自由に考えるゆとりや遊びの価値を見落としがちです。

 

⑨疑い深くなろう

数学ではどうしてそう考えたのか、その理由を共有することが非常に重要です。なぜ自分がこの解法を選んだのか、この解法の論理的なつながり、そしてなぜこれが有効なのかを説明・説得することはとても重要です。これは「推論」と呼ばれ、数学の本質です。この推論には3つのレベルがあります。最も低いレベルでは「自分自身」を納得させること、次に「友人」を、さらには自分の考えを「疑っている人」を想像して説得することです。算数・数学において、推論と疑うことは強力な対をなします。

 

 

これら9つの方法は、どんな数学問題にも役立つはずです。特に数学の授業においては、学習内容を教えることに夢中になるあまり、積極的に使われていないものがあったのではないでしょうか。学習者のメタ認知を磨くために、大きな力を与えてくれるものです。ぜひ使ってみてください。