算数や数学が得意な人にはどのような特徴があるのでしょうか。これまで観察してきた生徒たちの中には、がりがり勉強して知識や解法パターンを暗記する子たちもいましたが、特に上手くいっている生徒たちは意図的にメタ認知を使っているように思います。
メタ認知とは、自己の思考や学習プロセスを意識的にコントロールする能力です。これにより、生徒たちは創造的で自立的になり、柔軟な問題解決能力を持つようになります。メタ認知を学ぶことで、生徒は好奇心旺盛で学習に熱心になり、多様な視点を受け入れることができるようになるのです。さらに、問題解決能力だけでなく、コミュニケーション能力や共感力、自己制御能力も向上しますので、取り組まない手はありません。
しかし、試験や成績に振り回され、学校や家庭、職場においてもメタ認知の重要性が奨励されることはあまりありません。では、このメタ認知を算数・数学の学習にどう取り入れられるのでしょうか。
ジョン・ハッティは、70,000件の研究と3億人の生徒からの調査をもとに、効果的な教育的アプローチを明確にしました。彼の研究によれば、メタ認知に取り組むことは0.75(0.4以上が効果的)という高い効果を持ちます。具体的方法についての詳細は示されていませんが、生徒が自分の進歩を報告することが非常にメタ認知的であると述べています。
ここで重要なのは教師の役割です。教育者のポール・ブラックとディラン・ウィリアムは、『学習のための評価(未邦訳)』というアプローチを提案し、生徒が現在どこにいて、どこを目指すべきか、そしてそのギャップを埋める方法を提示することが重要だとしています。これは、算数・数学ワークショップ「数学者の時間」においけるまさにカンファランスアプローチと呼ばれるものです。
ここに授業で効果的に使える9つの数学的ツールを紹介します。これらのツールはメタ認知を高め、算数・数学の学習に大いに役立ちます。たまたま数学的思考について調べていたところMathish.orgのHPで見つけたものですが、明日からの教室に大いに役立つものです。
メタ認知を高めるための9つの数学的ツール
①一歩、さがってごらん
馬鹿らしいと思うかもしれませんが、問題を声に出して読んでみることをお薦めします。問題から一歩下がって、この問題が私に何を「求めているのか」を考えることが大切です。ほとんどの人は問題を読んだら、すぐに「できそうだ」と考えるか、またはすぐにあきらめてしまうかのどちらかに陥ってしまいます。
②問題を絵にしてみよう
これはすべての問題に応用でき、この方法の価値についてはいくら言っても足りないくらいです! 数学が得意な人とそうでない人とを分ける脳の活動部位は、脳の視覚野に由来することがわかっています。早速、絵にしてみたり、触れるものに置き換えてみましょう。
③ 他の方法はない?
問題に対する別の解法を考えることです。生徒の解法速度に差が出てしまうときや、数学が優秀な生徒には特に効果的です。これにより、生徒が数学的な多様性をもって考えることができるようになります。多様な考え方により概念を獲得しやすくなります。
④ どうしてそうなるの?
「どうして、そうなるの?」という論理的な説明を繰り返し生徒に問い返します。「なぜ、そうなるのか」を知ることは、生徒が数学の問題の特徴を理解するために非常に重要です。特に女子は、男子よりもこのような深い理解を望む割合が高いことがわかっています。
⑤ 問題を変えてみよう
数や形を変えることで難易度を操作し、問題解決の柔軟性を高めます。つまり、問題を理解しやすく、計算しやすく、見やすくしてくれます。数学の得意な生徒がこっそり行っている数学的行動のひとつです。
⑥より小さなケースを試してみよう
より小さな事例に変えて問題を解くよう生徒に求めます。例えば、8×8のチェス盤にいくつの四角形があるかを求めるには、まず2×2、3×3、4×4のチェス盤を調べて、そこに隠れているパターンを見つけることから始めます。
⑦パターンとつながりをみつけよう
この問題に隠れているパターンや規則はありませんか。または、これまで習ってきたこととのつながりはありませんか。見つけてみましょう。これこそ算数・数学の美しさに触れられるよい機会です。
⑧予想してごらん
生徒に自分なりの予想を考えさせることです。数学における予想は、まだ証明されていないアイデアの段階のものです。科学ではこれを仮説と呼びます。数学においては、解き方を重視するあまり、多くの生徒は予想するような、自由に考えるゆとりや遊びの価値を見落としがちです。
⑨疑い深くなろう
数学ではどうしてそう考えたのか、その理由を共有することが非常に重要です。なぜ自分がこの解法を選んだのか、この解法の論理的なつながり、そしてなぜこれが有効なのかを説明・説得することはとても重要です。これは「推論」と呼ばれ、数学の本質です。この推論には3つのレベルがあります。最も低いレベルでは「自分自身」を納得させること、次に「友人」を、さらには自分の考えを「疑っている人」を想像して説得することです。算数・数学において、推論と疑うことは強力な対をなします。
これら9つの方法は、どんな数学問題にも役立つはずです。特に数学の授業においては、学習内容を教えることに夢中になるあまり、積極的に使われていないものがあったのではないでしょうか。学習者のメタ認知を磨くために、大きな力を与えてくれるものです。ぜひ使ってみてください。
この素晴らしいポスターは、
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で見られますし、印刷もできます!