2025年6月8日日曜日

答えのない教室――Thinking Classroomの実践から

昨年度刊行された梅木卓也・有澤和歌子著『答えのない教室 3人で「考える」算数・数学の授業』(新評論)は、カナダの教育研究者リリヤドール教授が15年以上にわたって築き上げてきた「Thinking Classroom」の理論と実践を、日本の現場に紹介する内容となっています。




 

PLC便りでも2023年にすでに「Thinking Classroom」のさわりは紹介してきましたが、本書は実際の授業実践となっています。

 

「考える教室」をつくるには

https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html

 

 

「答えのない教室」という日本語訳のタイトルには、正解を求めるのではなく、考えること自体を楽しむ授業への願いが込められています。とてもいいネーミング。教師に頼って正解を教えてもらうのではなく、自分の頭で考え、友だちと一緒に試し、話し合いながら答えを探していく。そんな思考が止まらない授業実践づくりのポイントが、本書では数多く紹介されています。

 

「子どもたちは本当に考えているのか?」

 

リリヤドール教授がカナダで行った調査によると、あるクラスの中で実際に考えていたのは全体のわずか2割。30人のクラスなら6人ほどが、授業中の15分間だけ思考に集中していたという結果が出ています。他の子どもたちは、教師の解説を待ち、問題を解く「ふり」をしていたのです。こうした現状に対する危機感から生まれたのが、「Thinking Classroom=答えのない教室」というアプローチです。

 

この実践では、いくつかの特徴があります。

 

①立って学ぶ

まず「立って学ぶ」という点です。多くの日本の授業では子どもたちは椅子に座ったままですが、この実践では、ホワイトボードの前に立って学びます。リリヤドール教授の研究によれば、座っていると「何かしているふり」がしやすく、教師の目から逃れがちですが、立っていると「何かをしよう」という意識が自然に芽生え、集中力が高まるという結果が出ています。

 

②ホワイトボードに書く

次に「ホワイトボードに書く」という点です。紙に書くと「きちんとまとめてから書こう」と身構えてしまうことがありますが、ホワイトボードは書いてもすぐに消せるため、「とりあえず書いてみよう」という気持ちになりやすくなります。間違ってもすぐに修正できるという安心感が、「考えてみよう」という意欲につながります。実際に使われるボードのサイズは、縦90センチ、横60センチが目安とされています。

3人で学ぶ

さらに「3人で学ぶ」という点も大きな特徴です。日本では4人グループが一般的ですが、Thinking Classroomでは、さまざまな実験を通じて最適な人数が「3人」であることが明らかになっています。2人では行き詰まりやすく、4人以上では受け身になってしまう子が出る傾向があります。3人だと適度な多様性がありつつ、全員が参加しやすくなるという利点があります。

 

また、グループの決め方も大切です。よくありがちな「仲の良い子同士」「同じ学力の子同士」での編成では、偏った役割分担が生まれたり、学びが固定化されたりしやすくなります。ランダムにグループを編成することによって、多様な考え方や立場に触れることを重視しています。

 

④問題はスモールステップ

授業で扱う問題も工夫されています。特徴的なのは「スモールステップの10問程度」を準備することです。教科書の問題は1問ごとのギャップが大きいことがありますが、Thinking Classroomでは、「数字を1つだけ変えた問題」など、小さなステップで無理なく思考を進められるような設計がなされています。最初の問題は誰でも解けるような簡単な内容にしておき、そこから少しずつ難易度を上げていくのがポイントです。

 

尚、生徒がつい考えたくなるような準備運動の問題があり、それについては今年の3月にすでに紹介したので、ぜひ挑戦してください。

PLC便り「この問題、解けますか? 考えるための3種類の良問」

https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/03/blog-post_9.html

 

 

これらの1コマあたりの授業は、教師の短い説明(510分)から始まります。最初は「自分たちがすでに知っていること」を確認し合いながら、その日の課題に取り組んでいきます。すぐに子どもたちはホワイトボードの前に立ち、グループで考え始めル時間が2030分。授業の終盤には、子どもたちが出した多様な解法を共有し、学びを深めていきます。他のグループから意見をもらう構造にすることで、思考の広がりが生まれます。

 

このような実践は、特別な環境がなくても、どの教室でも導入が可能です。もちろん、小学校で行う場合にはもう少し具体的な支援や配慮が必要になるかもしれませんが、考えることを中心に据えた授業を実現したい先生にとって、大きなヒントとなるはずです。

 

なお、今月には小学校での実践に特化した続編『答えのない教室 パート2』も刊行されました。答えのない教室の世界をもっと深く知りたい方は、ぜひそちらも読んでみてください。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿