2021年10月10日日曜日

イノベーター・マインドセットに必要な8つの特徴

オンライン授業の甲斐あってか、感染者が減少し緊急事態宣言も明けてようやく学校も落ち着いてきた頃ではないでしょうか。11台のICT端末が配られることによって革新的なことができた学校がある一方、何もこれまでと変われなかった学校もありました。私たち教師は子どもたちに求めている創造的な学び以上に、教師自身が創造的にならなくては、何も変えられない実態が浮かび上がっています。

 



ジョージ・クロース著 白鳥信義・吉田新一郎訳『教育のプロがすすめるイノベーション 学校の学びが変わる』では、イノベーターのマインドセット(心の持ち方、考え方)は、能力、知性、才能が開発され、それが新しくてより良いアイデアの創造につながる思考様式とし、このイノベーターのマインドセットが教育に関わる全ての人にとって必要であるといいます。イノベーターのマインドセットにおける8つの特徴★が、ご自分がどのように実践しているのか、取り入れられそうか、振り返ってみてください。

 




    共感的

自分自身がこのクラスの生徒になりたいか?

共感的な教師は、教室の環境と学びの機会を教師の視点ではなく教師中心から学習者中心へと転換し、子どもの視点から考えられるということです。

 

    問題発見/解決者

問題を見つけることは、学びの大切な一部である。

よりよい問題解決者になる手助けは、より良い問題発見者をどのように育てられるかということです。教師は子どもたちに問題を提示してしまうために、本来子ども自身が見つけなければならないことを丸ごと経験できていません。

 

    リスクテイカー

学習者のニーズを満たすために、授業をよりよく教える方法はあるのだろうか?

革新的な教え方と学び方にはリスクがもちろん伴います。一人一人の生徒のニーズを満たすためにはリスクをとることが必要です。実践に伴うリスクは必要不可欠であり奨励されるべきものです。

 

    ネットワーク

全てのアイデアは、根源的にアイディアのネットワークです。

人々が積極的にアイデアを共有する教室ネットワークは、より良いアイデアが生まれます。アイディアを共有し、思考を明確にして、新しくより良いアイデアを作り出すことなのです。孤立はイノベーションの敵なのです。もっと学びを共有する必要があります。

 

    鋭い観察力

ひらめきはいたるところにあり、しばしば予期せぬ場所にあるものです。ただそのことに注意しておく必要があります。

効果的な学びの機会を作り出すには、教育分野以外で共有されているアイディアからも、学んでそのアイディアを生徒のニーズに結びつけていること。そのための観察力です。

 

    クリエイター

学びとは作り出すことであり、消費することではありません。知識は学習者が吸収するものではなく、学習者が作成するものです。

何かを作り出すことは、情報への個人的なつながりを深め、より深い理解をするための重要な鍵となり、この作り出すということが非常に重要なのです。

 

    回復力

それが出来ないという人は、それをしようとする人を妨害すべきではない

イノベーターのマインドセットを持っている人は、日々新しいものへの挑戦となるため絶えず反対され、問われ続けることとなります。人は新しいものや異なるものに対して身の危険を感じるものです。学校という環境は子どもの思考を広げることに挑戦し励ますために最適な場所であると同時に、彼らが挑戦して失敗しまたやり直すことのできる安全な場所でもあるべきなのです。

 

    振り返り

何がうまくいったのか? うまくいかなかったのか? 私たちは何を変えられるんだろうか? どのような質問が前に進むのに役立つだろうか?

どのような場面においても学びを再検討することで、微調整、修正、再発見することができる領域を見つけることが可能です。私たちが取り組んできた努力やプロセスに疑問を抱くことは、イノベーションにとても重要なことです。後ろを振り返ることは、前を向くために不可欠なのです。

 

“良い教師とは現行制度の制約内で生徒にとって革新的な学びの機会を工夫できる人これが私の信念です実際そうすることが不可欠だと私は思っています。”著者

 

何かを変えようとするには、制約はつきものです。情熱をもち、かつしたたかに取り組んでみましょう。イノベーションのマインドセット8つの特徴は、つまずいたときの私たちの支えとなってくれるはずです。私たち教師がモデルとして示すことだけが、子どもたちが得られるものですから。


イノベーターのマインドセットにおける八つの特徴(本書P.53より

https://georgecouros.ca/blog/archives/4783 (英語ソースはこちら)

2021年10月3日日曜日

学校の物語を語ろう 〜「ストーリーテリング」の力〜

高校の世界史の先生はストーリーテラーでした。ジンギスカーンを語れば、黒板の右から左へ、馬に乗って砂漠をかける姿が目に浮かんできました。ワクワクしました。時空を超える感覚というのでしょうか。その時のワクワクした気持ちが、私を教職に向かわせたと言っても過言ではありません。今でも、夕闇迫る教室の光景を鮮烈に覚えています。

ストーリーの力は強力です。マーサ・ラッシュも『退屈な授業をぶっ飛ばせ』★1で、ストーリーテリングにまるごと一章を割いているくらいですから。彼女は、物語の力を力説するストーリーテリング研究者の言葉を数多く引用しています:

「口頭によるストーリーテリングは、人間文化の中で最強のコミュニケーションの形と言っても良いだろう。(p.61)」(ウエイン州立大学クレイグ・ローニー)

「教材が、「覚えることリスト」のようにきっちりと整理され、凝縮された事実だけになってしまったら、生徒は学ぼうしとしなくなるだろう(p.73)」(ジョージア・サザン大学ディローレス・リストン)

ストーリーテリングが、人の心を揺り動かし、人を行動に誘う力をもっていることが、とてもよく表現されていると思いませんか。

このストーリーテリングの力を、学校と保護者・地域とのパートナーシップづくりに活用してはどうか。『学校リーダーシップをハックする』★2 の第5章では、そのような提案がなされています。

生徒に物語を語ってもらうことで、学校と家庭、地域の間のつながりを強化しようという試みです。学校は、基本的に受け身で、地域や家庭と積極的につながりをつくろうとしない傾向があります。そのような旧来の考え方を打ち破り、学校から主体的に情報を発信しようというのです。

学校での出来事や授業で学んだこと、できるようになったこと。そのようなことを、興奮気味に、生き生きと伝える生徒の声は、学校に関わるすべての人を変えてしまうくらいのインパクトがあるはずです。

これを実践している学校では、ポッドキャストやビデオキャストを利用して、学校の物語を配信しています。学校内での素敵な出来事を取り上げて、保護者や生徒に知らせる週一回の番組を作っている学校もあるそうです。もちろん、ニュースキャスターは生徒です。

「私たちは、情報提供を通して信頼関係を築いています。学校での出来事を知れば、保護者は子どもが受けている教育の質をより確実に感じることができます。一回でも自分の子どもが語る学校でのストーリーを聞けば、きっとあなたの活動を称賛してくれるでしょう。そして、あなたのねらいややり方を理解することで、一番の理解者になってくれるはずです。日々の学校でのストーリーを配信することが、学校コミュニティーを一つにまとめることにつながるのです。」( 『学校リーダーシップをハックする』原著,p.79)

生徒の映像を配信することに、不安を感じる人もいるでしょう。しかし、これまでに成功を収めてきた事例では、問題が起きているわけではないようです。コミュニティーと、これまでにない良い関係を築けるのであれば、リスクに見合う効果があるとさえ述べているのですから。むしろ、透明性が高まることで、陰湿な問題が起きにくくなるのかもしれません。

いずれにしても、学校で起きている素敵なことを、もっと多くの人に知ってもらう。学校のファンやサポーターを増やすためには、今すぐにでも取り組みたいことです。


★1 マーサ・ラッシュ著 (2020) 『退屈な授業をぶっ飛ばせ-学びに熱中する教室』新評論.

★2 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック5「生徒の声で語ってもらう―積極的にアピールして周囲の支持を高めよう」.


2021年9月26日日曜日

「どうでもいい仕事」の放逐を

 

このタイトルのオピニオンが2021830日付・日本経済新聞に掲載されました。筆者は同社上級論説委員・西條郁夫さんです。

この記事の最初の部分で、文化人類学者デヴィッド・グレーバーによる「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」(邦訳・岩波書店)によるどうでもいい仕事を分類した5つの類型を次のように紹介しています。 

▼誰かを偉そうにみせるための取り巻き(=ドアマンや受付係)

▼雇用主のために他人を脅迫したり欺いたりする脅し屋(ロビイストや顧問弁護士)

▼誰かの欠陥を取り繕う尻拭い(バグだらけのコードを修復するプログラマー)

▼誰も真剣に読まないドキュメントを延々とつくる書類穴埋め人(パワーポイントを量産するコンサルタント)

▼人に仕事を割り振るだけのタスクマスター(中間管理職) 

 確かに、なるほどと頷いてしまうものばかりです。このような仕事が多くなればなるほど働く意欲も低下するわけです。これは企業ばかりでなく、学校にも当てはまることでしょう。

この2年近くのコロナ禍で、学校では感染症対策やオンライン授業への対応を始めとする授業改善などに関連する多くの仕事が加わってきました。せっかく、働き方改革という名のもとに、いくらか改善の兆しが見えたところで、現状はまた以前に逆戻りという感じではないでしょうか。

 しかも増えた仕事が自分たちで取り組もうと決めてやり始めたものならばいざ知らず、上からの指示の名のもとに付け加わった仕事ですから、なおさら疲労感は大きいと思います。先ほどの記事の最後はこう締めくくられています。 

 テレワークの普及など仕事の形は刻々と変化するが、大切なのは「ブルシット・ジョブ=どうでもいい仕事」を減らし、意味の実感できる仕事を増やすこと。これが働き方改革の本丸だ。 

 まさにその通りです。学校で意味の実感できる仕事とは、授業に関連することだと思いますから、そこに多くの人がかかわれる学校体制づくりを教育委員会や学校の管理職は何よりも優先してやってほしいものです。

2021年9月19日日曜日

新刊紹介『挫折ポイント』  

協力者の一人の佐藤可奈子さん(中学校の国語科教師)が、以下の紹介文を書いてくれました。

 

*****

 

「生徒がやる気をなくした瞬間や努力をしないと決めた瞬間」これを「挫折ポイント」とする。(「はじめに」より)

想像してみましょう。やる気をなくした生徒を前にした教師(私たち)は、どんな行動をするでしょう?

*やる気をなくしているなら、何を言っても無駄だから無視する。

*授業(仕事)の邪魔をしない限りは、放っておく。

*大きな声で叱る。

*事情を聴いてみるが「別に」と答えられて会話がおわる。

*背中をトントンとして参加を促す。

*レベルを下げた教材を渡す。

*課題に取り組む際に、一言二言会話を交わしてアドバイスする。

*評価を下げて、損を実感させる。

 

とりあえず、こうした対応をしておけば、時間が過ぎて授業が終わります。

生徒は授業を受けた(理解した)ことになり、教師は学びの保障をしたアリバイができ、すべての思わしくない結果は生徒の「やる気」の問題だったということに……教室でよくある場面ではないでしょうか。

「これ以上、どう関わればいいの?」

「やる気のない生徒に、何かを求めても無駄。」

「会社ならクビでしょ。社会で通用しないよ。」

そう思った方は、本書を読んでみる価値があると思います。

 

本書は“ごきげんな教室”をつくり、生徒と教師の成長を支援する方法や考え方を教えてくれます。

 

私のお薦めの読み方は「おわりに」から読むことです。

そこには、やる気をなくした生徒を前にした教師の、よくある姿が描かれています(私も、もれなくその一人です)。エピソードから「挫折ポイント」で展開される教師と生徒の関係は、互いの間に大きな認識の違いを生んでいることがわかります。

「おわりに」―P237L4「協力的な生徒はみんな努力家であり、協力的でない生徒は怠けていると捉えていた。」この記述には、ハッとさせられます。果たしてこの捉え方で生徒の成長はあるのでしょうか…?

 

「おわりに」を先に読むことで、読み手が問いを持ちながら、本書で語られることのゴールをイメージし、各章の内容を理解できる、理解しようとするだろうと思います。

「おわりに」を読んだ後は目次へ飛び、興味のある内容を選んで読んでもいいでしょう。どの章から読み始めても意味が分かる内容になっていると思います。

教育界の旬で言えば、第7章で取り上げられているICTツール、第5章で取り上げられている評価方法、形成的評価については、私たちの認識を変えたり生徒との関係や授業をよいものにしたりするヒントを与えてくれるでしょう。

きっと、手法を学ぶだけでなく、概念や考え方を学ぶことができます。これまでとは異なる、子どもへの目線、考え方を得られることでしょう。

 

本書のお薦めをもう一つ。各章末の「ルーブリック」が大きな刺激と学びを与えてくれます。

授業や子どもを理解したり授業を構成したりするための評価基準として機能することはもちろん、初期段階では自身の授業や考え方のチェックリストとしても使えると思います。

アメリカの教育現場で使われているルーブリックを、これほどまでに具体的に、豊富に示している訳本は、日本ではなかなかお目にかかれません。本書だけでなく、註釈で紹介されている多くの書籍と関連付けながら読むことで、「挫折ポイント」で何もできずに生徒を放置してきた自分と授業を変える必要性に気づくことでしょう。

 

手を付けられそうなところはどこでしょう。まず一つ、興味を持てた「ルーブリック」をもとにして行動してみてはいかがでしょう。

多くの教師が“ごきげんな教室”を作り、生徒と教師の学びと成長を支えるファシリテーターとなれたら、「挫折ポイント」にいる子どもたちも顔を上げて、自分の学びに向き合えるのではないかと感じます。

 

本書の「教師」「生徒」を「教え手」「学び手」に読み換えると、一般社会での人材育成に当てはめて読むことができます。「挫折ポイント」に至ることは子どもに限ったことではなく、大人も当たり前のように経験します。「教師」と「生徒」という関係性で考えるのではなく、「人」と「人」が学び、成長する時に必要な環境や資源を整備して、挫折の放置を止める。学校だけでなく、大人や社会も“ごきげん”になれるのではないでしょうか。

 

◆本ブログ読者への割引情報◆

 

1冊(書店およびネット価格)2640円のところ、

PLC便り割引だと  1冊=2400円(送料・税込み)です。

5冊以上の注文は     1冊=2300円(送料・税込み)です。


ご希望の方は、①書名と冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を 

pro.workshop@gmail.com  にお知らせください。

※ なお、送料を抑えるために割安宅配便を使っているため、到着に若干の遅れが出ることがありますので、予めご理解ください。また、本が届いたら、代金が記載してある郵便振替用紙で振り込んでください。

 


2021年9月12日日曜日

デジタルテクノロジーの効果的な使い方

新型コロナウイルスデルタ株の猛威により新学期のスタートは、首都圏を中心に分散登校、時差登校が続いています。すでにクラスを二分し、半数の子どもたちをリアル登校、もう半数をオンライン参加としたハイブリッド授業が再来週まで続く小学校もあります。

 

子どもたちはもの珍しさもあり、デジタル機器を使った授業に楽しく取り組んでいるようです。とはいうものの、今後も続くとなると子どもの集中力は持たず、このような遠隔学習で本当に理解が進むのでしょうか。

 

教員の負担を考えると、登校している子どもたちが使った道具や教室への消毒作業、そしてリアル授業の準備と併せてオンライン参加をしている子どもたちに向けての資料作り、感染予防で休んでいる子どものケアなど、さらなる準備に悲鳴も聞こえてきそうです。

 

コロナ禍におけるGIGAスクール構想により、これまでICT後進国だった日本としては一人一端末が完備されることは大変好ましいことです。環境場整備されると一見、一人ひとりの学習が保障されるように映りますが、本当にこういったデジタルテクノロジーが子どもたちにとってよりよい道具となっているのでしょうか。

 

オンライン授業による子どもたちの生活リズムや心身に与える影響への問題、長時間の画面視聴による視力の低下が8歳〜10歳に多いことなどは常々、指摘されています。小学生の発達段階において言語認知ひとつとっても、果たしてどのような影響が与えているのか不安が残ります。デジタルテクノロジーを使っていれば良いのではなく、その使い方の質が問われているのです。

 

 

 

バトラー後藤裕子『デジタルで変わる子どもたち 学習・言語能力の現在と未来』(ちくま新書)に、そのよりよい使い方のヒントが紹介されています。

 

本書では、言語習得や言語使用における身体の果たす役割の大きさが説かれています。ジェスチャーやうなずき、話し手に視線を合わすなどの言語非言語行動もスムーズに会話を進めるための重要な役割を果たしています。また、読書においては手が重要な役割を果たしていて、紙の媒体で読む場合には、効率よくめくれるように手で準備したり、手の位置が読みの視線を誘導する役割を果たしているなどの手の果たす役割は大きく、身体行為が読みの深さに影響を与えるのであると教えてくれます。だからこそ、学校で使っているデジタルテクノロジーも子どもにとって身体化されなければ、思考や学習には直接結びつかないことが指摘されています。

 

"デジタルテクノロジーは人間の認知機能の一部を肩代わりするものであることから、うまく使えば人間の認知機能を拡大する魅力的な道具にはなるが、明確なビジョンがないまま盲目的に依存すると、脳の分析能力や一つの物事を論理的に批判的に熟慮する力を低下させる可能性がある。(Restal,2012"(位置No.3028/3538)

 

子どもがデジタルテクノロジーをうまく使いこなすには、まず教師が適切なデジタルリテラシーを身につけることです。

 

“デジタルリテラシーとは、①自分の目的に合ったデジタルコンテンツを見つけ出し使えること、②目的に応じて自分でデジタルコンテンツを作ることができること(例えばブログを作ったり動画を作成するなど)、そして③デジタル機器アプリを使ってコミュニケーションや情報交換ができることだと言われている。教師が常に新しいアプリケーションやソフトに精通している必要はない。しかし、授業の目的に応じてふさわしいデジタルコンテンツを自信を持って使えるだけの最低限の知識とスキルは不可欠である。そして児童生徒の言語コミュニケーション能力を促進するために、言語習得の本質である身体性、社会性、感情情緒の伝達をどのようにフォローしながらデジタル機器を有効に使うべきかを模索する必要がある”(位置No.3157/3538)

 

 

 

このコロナ禍における現在、デジタル機器の扱いでは、家庭学習における漢字や計算練習などの記憶タスクを繰り返させるものが多くあります。これに対して本書では、「英語学習者の小学生に自らを紹介する動画を英語で作成し、安全性を確保したサイトへアップする課題を出したところ、子供達は少しでもいい動画にしたくて自ら何度も何度も練習を繰り返したり友達のアドバイスを得たりしながら動画を作成した」といった実践事例も紹介されていました。まさに、なんのために学習するのか目的を考えることです。

 

デジタルテクノロジーは両刃の剣であることを忘れてはいけません。ちょうど一年前にもコロナ禍におけるオンライン授業やICTデバイスの扱いに懸念を持って、「「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない」投稿しました。併せてご覧ください。

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_11.html

2021年9月5日日曜日

「子どもたちが主人公」は実現しているか

「学校は子どもたちが主人公」。かなり使い古されたフレーズですが、日本中の多くの学校がかかげているスローガンです。とても共感できるものですし、ぜひ、そのような哲学のもとで、学校づくりを進めていってほしいと思います。

しかし、このような標語が頻繁に出てくるということは、未だに学校では、多くのことが「教師中心で回っている」ことの裏返しなのかもしれません。

『学校リーダーシップをハックする』では、生徒中心の学校のもつ基本的な哲学を次のように記述しています。★1

「生徒が学びに対して発言権をもち、学び方に選択権があり、幸せに夢中で学ぶ生徒を育てることが学校の役割だ、という哲学です。」

同書では、生徒中心の学校をつくるステップとして、1)意思決定のチームをつくり生徒をそのチームに加える 2)生徒が会議に参加することを奨励する 3)生徒が自らの興味やアイデアで、学びを進めるプロジェクトの時間などがある 4)生徒によるエド・キャンプ(参加者が自ら計画し、運営する学びの場)を始める といったプロセスを奨励しています。

校内の各種委員会などを含めて、学校運営協議会のような会議のメンバーに、児童・生徒が入っている割合は、どの程度でしょうか? 子どもたちは、どの程度の主体者意識をもって、そのような会議に参画しているでしょうか?子どもたちは、自分の学校について、オウナーシップをもっていると自覚しているでしょうか?そして、教員集団は、子どもたちの力を信じて、任せているでしょうか。大人の都合の良いように、主人公を演じさせられているように見えるのは私だけでしょうか。

しかし、これは無理のないことなのかもしれません。学校という教育制度自体が、長らく、規則に従い、従順な働き手を育てることが役割だったのですから。ジョン・スペンサー/A・J・ジュリアーニは、『あなたの授業が子どもと世界を変えるーエンパワーメントのチカラ』の中で、古い教育制度は「規則に従う人々を作り出すものであり、何をしたらいいかについて指示を待つことを意図してつくられたものです。この制度から卒業すると、あなたは何をするときも誰かの指示を待つことになります。」★2 と記しています。

教師は、「コントロール・マニア」になりがちだと言われます。生徒たちのために、あらゆることを、決定したがるものです。教材も、内容も、課題も、ねらいも達成目標も、進め方も、それらの活動への評価もです。そして、それらの決定権を手放そうとしません。それは、生徒たちにはそのような決定はできないと思いこんでいるからです。しかも、生徒の決定に任せるよりも、労力も少なくて済むと思っています。そして、それが生徒たちの「ため」であると、心から信じている教師も多いものです。

このコントロールを放棄するところから、生徒たちが主人公の学校づくりは始まります。

最近、エンパワーメント(empowerment)という言葉を聞く機会も多くなりました。「エンパワーメント」には、「力を与える」「権限を委譲する」という意味があります。生徒たちの力を信じて、失敗を恐れず、生徒たちに、任せところから始める必要がありそうです。今回紹介した2冊の本には、そのためのアイデアや考え方が数多く紹介されています。あなたの学校でできることから始めてみませんか。

教師のコントロールに依存しつづけるだけでは、生徒たちが主人公となる学校づくりは実現しないでしょう。生徒たちは、エンパワーされることによってのみ、潜在している能力が引き出されていくのです。


★1 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック6 「生徒を学校の中心に据える ー子どものための学校をつくろう」

★2 ジョン・スペンサー/A・J・ジュリアーニ (2020) 『あなたの授業が子どもと世界を変えるーエンパワーメントのチカラ』新評論. p.24

2021年8月28日土曜日

再読『歴史をする』

 最近のいろいろな出来事を見ていると、歴史から学ぶことの大切さを痛感します。

 そこで、再度『歴史をする』を読んでみました。

 この本の功績の一つとして、「Agency」ということばを私たちに教えてくれたことがあります。同書11ページの脚注によると言葉の意味は次のとおりです。 

 原語は「環境に影響を及ぼす力」という意味の「Agency」で、OECD(経済協力開発機構)の「教育とスキルの未来~Education 2030」では、それを「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をする能力」と定義されています。また、国際バカロレア(IB)では、エイジェンシーの要素として「オウナーシップ(主体性)」、「選択」「声」を挙げています。 

 「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をする」という点は重要です。たとえば、このことは近年特に問題となっている気候変動問題にそのまま当てはまる言葉です。

先月721日に経済産業省から2030年度を目途とした「エネルギー基本計画」が公表されました。その計画によると、2030年度に設定したCO2排出量の目標値が達成されたとしても英仏の現在の排出量よりも多いという何とも情けない目標です。その内容を見ていくと、全体の4割を占める産業界からの排出量が多いのが原因です。しかも、現在の排出量からの削減割合の多くを家庭からの部分に頼ろうとしています。特に、産業界の部分でびっくりするのは、鉄鋼業界が削減ではなく1%弱の「増加」という目標値になっていることです。これに経産省も環境省も合意しているわけです。

これが未来への「責任ある行動」なのか、大いに検討する余地があります。今やSDGsに配慮しない企業は生き残ることができないと言われる状況になっているわけですから、国際競争力の点からもCO2削減は待ったなしの最優先課題です。「変われない」企業は生き残ることができないのと、同様に私たちも社会の変化に対応して「変わる」ことが求められています。しかし、この変革が難しいです。こうした変革のためにも、私たちは歴史から学ぶ必要があります。 

『歴史をする』の325ページに次のような一節があります。 

私たちは、誰もが、継続的に演じられている歴史というドラマへの参加者なのです。私たちは、歴史の影響を受ける者であると同時に、歴史に影響を与えるエイジェント(主体者/行為者)でもあるのです。現代においてもなかなかなくならない問題と一時的に生じる問題への参加を含む、日々の生活の総体として私たちは歴史をつくりだしているのです。 

気候変動問題も、まさに社会の一員として、この社会の抱える問題に主体者としてかかわっていくことが求められている一つの事例です。そうした主体者/行為者を育てるために教育のあり方を引き続き考え、実践していきたいものです。