2017年3月25日土曜日

イノベーターになる


Innovator's MindsetGeorge Couros/ Dave Burgess Consulting , Inc. (2015)という本の一節に次のような文があります。

Savvy leaders understand the need for innovation and, as a result, constantly reinvent their organizations. Starbucks, for example, started off as a business that focused solely on selling coffee beans. Today, it is the best-known "coffee shop" in the world. 

(有能なリーダーはイノベーションに対する必要性を理解しており、結果として、いつも組織が作り変えられる。たとえば、スターバックスはただコーヒー豆を売ることに特化したビジネスで始まった。今日、それが世界中で最もよく知られたコーヒーショップである。)

Innovationに対する理解が組織改革につながり、結果的に成功につながるということです。

最近、野球評論家の野村克也さんの『暗黒の巨人軍論』(角川新書2017)を読んだのですが、あの9連覇を成し遂げた川上哲治監督は、一見すると保守的と思われがちだけれども、実は「改革者」だったという話が紹介されていました。(同書p.83)今日では投手の分業制は当たり前ですが、「リリーフ専門」の投手を置いたのも川上さんが最初だそうです。

 
それから、話は少し脱線しますが、最近私の勤務先で「2020東京五輪応援企画」というイベントがあり、リオ五輪7階級メダル獲得の男子柔道監督・井上康生さんの話を聞く機会がありました。リオの前のロンドン五輪では史上初めて金メダルゼロという屈辱を味わい、そこから日本柔道復活の大役を任されたのが井上康生さんです。どんな指導をしたのか興味があったので、話を聞きに行きました。

そこで、わかったことは井上康生さんも実はイノベーターの一人だったことです。

井上監督は柔軟な発想の持ち主で、それまでの柔道界ではあまり顧みられてこなかった体力トレーニングに専門家を入れたり、科学的なデータ分析(対戦相手のそれまでの試合での映像分析なども含む)を取り入れたりして、組織改革を大胆に行ったそうです。

「柔道」も「JUDO」となり、「JUDO」には世界各地の民族格闘技(たとえば、ロシアのサンボやモンゴル相撲など)が流れ込んできており、もはやこれまでの柔道とは全く違ったものになってきているとのことでした。そういった新しい流れに対応していくためにも、これまでのやり方とは異なる「革新」が必要だというお話でした。

そうした革新の視点で見ると、学校はまだまだ旧態依然としているところがあるのではないでしょうか。小学校の英語教育、プログラミング教育等々、新しいものがどんどん教室へ入り込もうとしているのですが、肝心の教育活動や授業の根っこの部分がどうなのだろうと思ってしまいます。

 
たとえば、「変化を嫌うこと」「前年踏襲主義」、学校行事一つとっても、日付と担当者名だけが変わるだけで、昨年のものと全く同じ内容の行事があると思います。一人ひとりが、それぞれの仕事の中で、イノベーターとなって取り組んでいく、それこそが今求められているものの一つであると思います。

 
集団に埋没して、自分の目の前の仕事さえこなしていればよいという職場が企業においても決して少なくないようです。日本の企業はこれまで社員の勤勉さやチームワークという企業文化を売り物に、優れた製品を世界に送り出していました。ところが、その企業文化が足かせとなり、今や労働生産性や競争力において他国の後塵を拝する状態です。ある専門家によると、この苦境を脱するには結局は社員一人ひとりの「分化」によるしかないとのことです。(『なぜ日本企業は勝てなくなったのか』太田 肇・新潮選書2017)

子供たちを変えていくためには、まず教師が変わる必要があります。

それには、集団に埋没したり、群れたりするのではなく、一人の人間として自立し、子供たちのためにイノベーターとなって挑戦する教師であってほしいと思います。

4月からの新年度において、ぜひ校内のイノベーターになってみたらどうでしょうか。

2017年3月19日日曜日

「深い学び」について


以下は、ある出版社の編集者とのやり取りです。

私が1番今、気になっているのは「深い学び」という言葉についてです。
この部分があいまいになっているような気がしてなりません。
このままだと色々な「深い学び」が生まれそうです。

という内容のメールをもらったのがきっかけでした。
これは、今回の学習指導要領の改訂で、「主体的、対話的、深い」学びの3つを打ち出していることを踏まえての発言です。★

これに対する私の反応は、

悩み多いですね。

文科省が得意の中身のないキャッチーな言葉のひとつです。

私に言わせると「深い学び」など、存在しようがありません。
深い教え」をしているという教師(や学習指導要領の改訂に関わった人たちや教科書執筆者)サイドの錯覚はあり得ても。
学び」というのは、一人ひとり固有なものなので、同じものが起こりえるはずがありません。

私がお勧めできる子どもたちが学びやすい方法は、
1) ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップなどの作家や読書家になりきる学ぶ=作家や読書家のサイクルをまわし続ける学びと、その各教科への応用です。
  これによって、好きになる子どもたち、救われる子どもたちがグーンと増えます。
  (それだけでなく、知識やスキルをしっかり身に付けられる子どもたちが!)
  子どもたちには、繰り返しこそが大切なんです。その中で、自由に選択して、自分のものをつくり出し始めます。
  子どもたちが、繰り返しの中で主体的に取り組んでいるのを、教師は観察したり、確認したり、サポートしたりすることができますから、一斉授業から脱することも可能になります。
  個別ないしグループ対象のコーチングやカンファランスが可能になります。
  (逆に、自分ががんばって授業をしている限りは、一人ひとりに対応することはできませんから、一斉授業をやり続ける選択肢しかありません!)

2) もう一つはようこそ、一人ひとりがいきる教室へのアプローチです。
   一人ひとりが違うところからはじめない限りは、救われない子どもを生産し続けることを意味します。
  教科書をカバーするアプローチとは、そういうものです。

翌日の追伸: 3番目の方法を思いつきました。
(ベースの部分では、1番目や2番目と同じなのですが・・・・)
それは、教師に操られた学びではなくて、子ども一人ひとりが心底大切さや必要性を実感して、何か成果物を作り出すような学びです。その過程で試行錯誤することで、たくさんのことを深く広く学べます。
それを探究学習と言ったり、PBL(プロジェクト学習と言ったり、本当にある問題を扱う学習)と言ったりします。

これは、前に触れた「主体軸」と大いに関係があります。
日本の場合は、「主体軸」が一番弱い部分です。
そもそも、教師が主体的なモデルを示せるような状況になっていないことが致命的です。
そうは、思われませんか?

●●さん周辺の執筆者たちに、同じ投げかけをしてみたら、面白いかもしれません。
どういう反応ができるかで、その人を判断できてしまう恐ろしい質問です。


★ 質問者は、すでに「主体的、対話的な学び」の方は十分という認識があるので、まだ不十分な「深い学び」に頭がいっているのだと思います。
が、本当にそうでしょうか?
ここ数年出版されたアクティブ・ラーニング関連の本で、真の意味で「主体的、対話的な学び」を実現できているのを、どのくらいあげられますか?
上に書いた「深い学び」と同じで、教えるサイドの錯覚や思い込みがほとんどではないでしょうか? つまり、生徒の側からすれば、主体性や対話を強要されている、というものです。必然性など、まったく感じられないのに。(それだって、教師の一方的な授業を聞かされるよりはマシなので、受けはいいはずです!)あるいは、あくまでも活動としてやらされているだけ、というか。それをする限りは、生徒たちは教師の顔色を伺う授業が続くだけです。あるいは、「ごっこ遊び」としての授業が。
 このブログで繰り返し紹介してきた「学びの原則」を無視し続けています。
 と同時に、「理解する」ということに関する理解もです。

 「学びの原則」を押さえることや「理解する」とはどういうことで、それをどう実現するかの理解と実践なしに、「主体的、対話的、深い」学びを語ることはとてもおかしいです。


2017年3月12日日曜日

『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ ~ 「違い」を力に変える学び方・教え方』


 上記の本(キャロル・トムリンソン著、北大路書房)の発売予定が、大幅に前倒しになりました。3月28日だったのが、17日です。
 <ぜひ、紹介文の下の「蛇足」をお読みください。>

 いま、日本の教育界では「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が話題になっています。これに対応すべくこれまでの授業づくりをどのように改善していけばよいのかが、これからの関心事となってくることでしょう。しかしその一方で、教えることと学ぶことの本質を探究し続けていくことこそが、教育に携わる者にとってもっとも重要な課題であることを、しっかり見据えておかなければなりません。そして、この本質にかかわる課題の中には、「一人ひとりの生徒がもつ違いや多様性を大切にしながら、彼らの学びの可能性を信じて一人ひとりの成長のためにベストを尽くしたい」という、教師としてのいわば本能のような思いや願いが深く刻み込まれているのではないでしょうか。そうした思いや願いに理論と実践の両面で真正面から応えようとしているのが、本書です。
この本のメインテーマは、言うまでもなく、原書のタイトル(The differentiated classroom : responding to the needs of all learners, Second edition.にある differentiationです。辞書でdifferentiationを調べると、区別、識別、分化、特殊化、差別化、差を認めること、などの言葉を見つけることができます。しかし、日本の読者にとってはほとんど馴染みがない言葉だと思います。
 私たち3人の訳者は、翻訳を進めながら議論し続けた結果、最終的にdifferentiationに対して「一人ひとりをいかす」と表現することにしました。この「一人ひとりをいかす」という言葉の中に、生徒一人ひとりが多様な能力や可能性をもっていること、一人ひとりの興味関心、既有の知識・理解、学び方や学習履歴などの違いや多様性を大切にすること、一人ひとりの学習上のニーズに応じる質の高いカリキュラムや多様な教え方・学び方をデザインして実践することなど、本書で提案されているdifferentiationの奥深い意味を込めました。
      (以上、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ ~ 「違い」を力に変える学び方・教え方』の「訳者あとがき」より)


 詳しい目次は、http://comingbook.honzuki.jp/?detail=9784762829598 をご覧ください。

訳者による割引注文を受け付けます。

1冊(書店およびネット価格)2592円のところ、
訳者割引だと     1冊=2200円(税・送料込み)です。★
なんと、400円弱もお得です!

ご希望の方は、①冊数、②名前、③住所(〒)、④電話番号を
pro.workshop@gmail.com にお知らせください。

◆研修会(ワークショップ)
 本の内容を踏まえた研修会(ワークショップ)も可能ですので、開催を検討したいという方はご連絡(pro.workshop@gmail.com)ください。
 具体的には、
 自己チェック ~ 自分の価値観や立ち位置を明らかにする
 一人ひとりをいかす教師/教え方の基本原則と哲学
 具体的な事例を使って、通常の授業とDIの授業の「何を、どう、なぜ」を考察する
 具体的に使える方法を理解し、明日からの一人ひとりをいかす実践の準備をする
などが含まれます。


蛇足: 私がこの本を読んだのは1999年でした。あまりの内容のよさに、翌2000年には出版社数社に翻訳の可能性を打診しました。しかし、まったく興味をもってもらえませんでした。それが、2015年の末に奇跡的(?)に翻訳のGoサインが出たのです。こだわり続けることの大切さです!!(ちなみに、①『理解をもたらすカリキュラム設計』日本標準も、②『マルチ能力が育む子どもの生きる力』小学館も、③『「考える力」はこうしてつける』新評論も、2000年の出版社周りのときに一緒に提案したものでした。①は西岡加名恵さんが2012年訳してくれましたが、残念なことは普通の人が買えるような値段ではありません。②の『マルチ能力』は絶版になってしまいました。これら2冊をまだ読まれていない方は、ぜひ図書館で借りて、読んでください。③のみは購入可です。これら3冊はすべて、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を実現するためのとてもいい手立てと言えます。なお、2000年の出版社周りのときのリストには全部で10冊ありましたから、まだ6冊は日の目を見られない状態が続いています。ということで、私の「もがき」は続きます。
 なお、私が訳書にこだわる最大の理由は、まったく面白さのレベルが違うからです。そして、このブログでも繰り返し書いてきた、英語と日本語の100対2か3レベルの情報格差を埋めようとして、です。
 そんな中で、日本の先生たちはがんばっています!! しかし、これだけの情報格差があるうちは、なかなか面白い実践はままなりません。(それが、面白い本が日本で出にくい理由という具合に循環しています。)情報格差が埋まれば、よりよい実践の可能性が開けます。


★ 中身の濃い内容なので、この値段でも十分に元が取れます。また、『理解するってどういうこと?』の場合と同じで(内容の濃さの中身は、2冊の本は大分異なります!)、訳者の努力によって原書の値段よりも安くなっています。それに加えての訳者割引ですから、超お買い得です。


2017年3月5日日曜日

3冊の比べ読み ~傾聴と問いかけ、自己認識による感情のコントロール~


 今回は、3週間前のPLC便り「質問とフィードバックの効果~学びを継続するための鍵~」の中で取り上げた、『最高の結果を引き出す質問力~その問い方が、脳を変える!』茂木健一郎(著)2016年[河出書房新社]と、『サーチ・インサイド・ユアセルフ~仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法~』Chade-Meng Tan(著),一般社団法人マインドリーダーシップインスティチュート(監訳),柴田裕之(訳)[英治出版]、そして、2月上旬に出たばかりの『好奇心のパワー~コミュニケーションが変わる~』Kathy Taberner & Kirsten Siggins(著),吉田新一郎(訳)[新評論]、これらの比べ読みをしてみました。 

■1冊目の『最高の結果を引き出す質問力』には、次のようなことが書かれています。
*「質問」とは、「自分自身との対話」であり、現状を少しずつ、しかし、結果的には大きく変えていく力であり、自分にとってのいい生き方・行動・思考を導き出す力である。

*組織や社会・世界・自分の人生を変えるためには、他人に言われたことをやるのではなく、どんなに小さなことでもよいから、自分自身の頭で考えて行動することが大切である。そのためには「質問力」を高めることが必要である。

*「質問力」を高めるための重要なステップは、(1)「感情力」:モヤモヤとした違和感を感じる力を高める →(2)「メタ認知力」:自分の感情や状態に気づく力を高める →(3)「論理力」:論理的にものごとを考える力を高める の3つである。

さらに、自分の置かれた現状や生き方・人生を変えるための「いい質問」や「質問力を高めるための具体的な方法・アクション」についても紹介されています。 

この本を初めて読んだとき、気づいたことがあります。それは、この本の視覚的な「読みやすさ」と「読みやすい本の構成」です。

節ごとの見出しがゴシック体などで強調されているだけでなく、本文においても、著者が重要だと考えている部分は、ゴシック体になっています。また、それぞれの章の最後のページに「〇章のポイント」と題して、その章で述べられた大切なポイントが箇条書きで示されています。私にとっては、一度読んだ内容をふりかえることができ、書かれている内容が頭に入りやすい構成だと感じました。さらに、本の最後には「現状を変えるための質問」の一覧が、「他人に向けた質問」と「自分に向けた質問」に分けて掲載されていて、実践へのガイドになっています。

■2冊目の『サーチ・インサイド・ユアセルフ』は、EQ(情動的知能)を高めるための瞑想や様々なエクササイズを配置した「研修プログラム」について、その内容と根拠を丁寧にわかりやすく解説した個人向けの「教本」といった雰囲気の本です。

EQの構造は、『EQ~こころの知能指数~』の著者ダニエル・ゴールマンによれば、次の5つの領域に分類されています。

 自己認識(自分の内面の状態、好み、資質、直感を知ること)
 自己統制(自分の内面の状態、衝動、資質を管理すること)
 モチベーション・動機づけ(目標達成をもたらしたり助けたりする情動的な傾向)
 共感(他人の気持ち、欲求、関心を認識すること)
 社会的技能(他人から望ましい反応を引き出すのに熟達していること)

これらの能力・スキルを高めることによって、創造性や建設的な協力関係、リーダーシップなどを高めることが可能となるというのです。 

この本の大きな特徴は、何といっても、EQの5つの領域のスキルを高めるために、瞑想やエクササイズの方法が具体的に示されていて、読者が一人で実践できるようになっていることです。とてもよい点であると思います。 

■3冊目の『好奇心のパワー』は、『最高の結果を引き出す質問力』及び『サーチ・インサイド・ユアセルフ』の内容と重なっている部分が多くあります。特に、パート2(好奇心を使って自分自身を理解する)~パート3(好奇心を使って他者を理解する)の部分は、『サーチ・インサイド・ユアセルフ』に書かれている内容と、かなり重複している印象を受けました。 

 しかし、大きな違いがあります。それは、本のタイトルにもあるように、「好奇心」に注目し、「好奇心」が自己理解・他者理解を促進するための重要な出発点、あるいは条件になっているととらえている点です。「好奇心」は、「かかわる対象について判断を下さずに、より深く理解するために探究すること、学ぶことの原点」です(8ページ~9ページ)。別の表現をすれば、「人・相手に対する敬意」です(212ページ~214ページ)。 

 『好奇心のパワー』は、二人の著者が、組織のリーダーを対象とした「コーチング」を行ってきた経験から導き出されたものです。コーチングは、「クライアントの話をよく聴き(傾聴)、感じたことを伝え承認し、質問することを通してクライアントの自発的な行動を促進するためのコミュニケーション(かかわり)が中心に据えられている人材開発の方法」です(まえがきⅲページ)。カウンセリングがベースにあります。この本の内容から考えると、特に、カウンセリングの中の「論理療法(理性感情行動療法)」あるいは「認知行動療法」が、コーチングにも大きく影響を及ぼしていることがわかります。 

 この本の中で最も印象に残ったのが、古いコミュニケーションの枠組みから新しいコミュニケーションの枠組みへの転換(表1 10ページ)です。「好奇心のスキル」によって、この転換が可能になるのです。 

 この本の特徴でもあり、読者にとって本文の内容を理解しやすくしている点があります。
・章の扉に、その章で扱う内容を象徴するような科学者や思想家、作家、歴史上の人物などの「言葉」と「好奇心のスキルによって回る好循環のサイクル」「好奇心のスキルによって得られる状態」の図が掲載されていて、章のガイドになっている。
・それぞれの章の内容に適した事例が書かれていて、「好奇心のスキル」の具体的なイメージをもつことができる。
・各章で学んだ「好奇心のスキル」を身に付けられるようにするために、章の最後に「さあ、試してみよう」という節が設けられ、実践への橋渡しの役割を果たしている。
 
 今回読んでみた3冊の本は、最新の脳科学や認知心理学、カウンセリング心理学、そしてコーチングの知見に基づいて書かれています。共通する部分は、自己認識力を高め自己理解・他者理解を深める「傾聴」と「質問」です。さらに、読者を実践に誘う具体的な方法論や質問も書かれています。ぜひ、学校や職場、家庭など、人とかかわるあらゆる場面で実践してみましょう!!

2017年2月26日日曜日

好奇心を大切にする


25日のこのブログで紹介のあった『好奇心のパワー』(新評論)の内容についてふれてみたいと思います。


 
「第3章 聴き方を選択する」では、最初のページ(p.65)に次のような言葉が紹介されています。
   
「人間の欲求で最も基本的なものは、人を理解したい、そして人に理解されたいという欲求です。人を理解する最も有効な方法は、人が話すことを聞くことです。

                           ラルフ・ニコルス」

ここに書かれたことは、学校教育において最も大切なことの一つであろうと思います。もっと人を理解しようという営みが学校で行われていれば、無駄なトラブルや、最悪の場合命にもかかわるような悲劇が減るものと思います。生徒指導は子ども理解から始まると言われますが、まさに子供たちの発言に耳を傾け、子供を理解することが出発点です。そのための手掛かりとして、この本はお薦めです。

 
 質問の大切さは度々このブログでも取り上げてきましたが、この本の「第4章 好奇心を示すオープンな質問をする」では、どのような質問を投げかければよいのかがわかりやすい事例を通して語られています。最初のページ(p.87)に次のような言葉が紹介されています。

「賢い人は正解を言わず、よい質問をする

                    クロード・レヴィ=ストロース」

 レヴィ=ストロースは有名な人類学者ですが、さすがに良い言葉を残したものです。

教師は授業の中で、問題・課題に対する解答を教える場面がもちろんあるわけですが、いつもそうであっては子供の思考力は育ちません。「よい質問」で子供たちにじっくりと考えさせ、調べたり、話し合ったりして、考えを深めさせる必要があるわけです。

 
質問にもクローズドな質問とオープンな質問の二つのタイプがあるわけですが、これまでの授業ではこれしか正解がないというクローズドな質問が主流だったわけですが、21世紀になってからはオープンな質問の大切さに光が当たるようになりました。

実際、社会の中では、答えのなかなか見つからない問いがたくさんあるわけですから、このような変化は当然のことでしょう。

 
たとえば、再生医療や遺伝子工学などでは、これまで神の領域と言われてきた事柄にまで人間の科学技術が及ぶようになりました。クローン人間なども決して夢ではなくなってきたわけです。ただ、技術的に可能ならば何をしてもよいのか、このあたりの生命倫理の問題は今後ますます複雑になるものと思います。また、原子力の問題。福島の事故は未だに終息していませんが、国策として「原子力発電技術の輸出」を掲げている現状があります。あの事故の教訓を完全に学び取ったのかどうかわからない状況で、次に踏み出していくという科学技術と経済社会の有り様をどう考えるのか。学校で教えられている「理科」という教科にはそのあたりまでが学びの範囲に入るべきだと改めて思う次第です。

 
 先日、次期学習指導要領改定案が発表されました。例の「アクティブ・ラーニング」という文言が「多義性がある言葉だ」として「主体的・対話的で深い学び」に言い換えられました。そして、新聞報道では特に「カリキュラム・マネジメント」に対して、にわかに注目が集まったとありました。

 
このブログでも、再三「カリキュラム・マネジメント」の重要性については触れてきましたが、特に「ひと・もの・お金」という条件整備が整わない環境での「カリキュラム・マネジメント」は成果を生み出すことが難しいものです。

「教育課程論」の第一人者である安彦忠彦氏(神奈川大学特別招聘教授)も「その種の活動が可能になるような条件整備がよほど伴わなければ、空回りして所期の成果を挙げることは難しい」(日本教育新聞・平成29220日号記事)と述べています。同新聞の同じページには、埼玉県内の校長談が次のように紹介されています。
   

「当初は授業方法の大幅な見直しを求められると身構えたが、それを思うと、大きく変わる印象は受けない。正直、少し拍子抜けした感じだ。」

 
この感想をどう思われましたか? やはり、「アクティブ・ラーニング」という文言が消えてしまったので、こんな印象になってしまったのでしょうか。

しかし、よく考えると「深い学び」を追究するわけですから、これは大変な転換です。

しかも、「学習内容を減らさずに」です。内容を減らして、時間をかけて「深い学び」をやるというわけではないのです。そのためには、当然各学校での「カリキュラム・マネジメント」が必須だというわけです。

 
そのための創意工夫が必要です。「好奇心」という視点を組み込んでも面白いと思います。ある意味、「大変だけれども面白い」時代になったと考えてみたらどうでしょうか。

若い先生方にはぜひそんなInnovativeな気持ちをもって、日々の仕事に臨んでほしいと思います。

 

2017年2月19日日曜日

「好奇心」をもってしまっていいのですか?


 『好奇心のパワー』に対して、以下のような質問をもらいました。


『好奇心のパワー』の内容はとても面白そうですし、教育現場での活用に期待が持てそうです。
一つ質問です。
タイトルにもある、メインテーマとなる「好奇心」は、英語圏あるいは欧米文化の文脈と、日本では意味あいがだいぶ異なる印象を持っています。端的に言えば、英語圏ではどちらかと言えば、前向きで肯定的な意味で捉えられるけれども、日本文化あるいは日本社会では、否定はしないけれどもどちらかと言えば邪魔者、余計なこと、であり、好奇心を必ずしも肯定的には捉えていない印象を持ちます。
それを、本書の刊行に当たってはどのように考えておられたのか、翻訳の際や、編集に際し、何か配慮されたり工夫されたりしたところがあるのか、そこらへんを教えて下さい。

私の回答は、次のようなものでした。

確かに、日本の学校をはじめほとんどの組織で、嫌われるのが本質を突く(好奇心に基づいた)問いでしょうね。会議の席などで、それが出されることはご法度です。そういう暗黙の理解があるというか・・・・

しかし、日本社会が好奇心を肯定的に捉えない限りは、社会自体が浮かばれないことと同義です。
何せ、好奇心がなければ、何事も学べないことを意味するのですから。
(学校に入る前の子どもたちを見れば分かるように!)
アメリカには、「子どもたちは?で入って、!で出てくるところが学校」という言い方があるそうです。
日本の場合は、「小学校の1年生からすでに全員が先生の言う正解に右へならえ」です。
そもそも、教育を何のためにしているのかの「ボタンの掛け違え」をし続けている社会です。
創造力、協力、コミュニケーション能力を培うことなく、ひたすら従順を身につけるところとして存在します。

学びや創造力、協力、コミュニケーション能力だけでなく、変化や成長も拒否し続けることを意味します。

ある意味では、変化や成長を求められることが分かっているというか、こわいので、好奇心に満ちた本質を突く質問を歓迎しないんでしょうね。

それが、みごとなぐらいにhttp://www.tvu.co.jp/program/201701_wonderlesson/
に表されてしまっていました。 とくに前編。(部活と授業は連動しています! なにせ同じ人がやっていますから。)
現職の先生方には、このビデオを見てもらうことが、ひょっとしたら一番の気づきになると思います。思考停止のまま自分がしていることが何なのかに気づけますから。

さらにいえば、このテーマは
の第3章で詳しく論じられています。
アメリカでは、こういうことが常に省みられるわけですが、日本の場合は思考停止に陥っているので、教科書をカバーする以外の授業や指導案を磨いた上で行う研究授業以外は存在しない状態が続きます。
要するには、「学校ごっこ」や「正解当てっこゲーム」としての授業ばかりが横行しています。

最後になりましたが、
の図にあるように、本の最初のうちは「興味関心」と訳していました。

でも、授業や学校の中を含めて、私たちの社会には「無関心(=好奇心の欠如)の悪循環」が渦を巻いている気がします。




2017年2月12日日曜日

質問とフィードバックの効果~学びを継続するための鍵~


 5週間前のPLC便り「振り返りこそが学び/成長の鍵~年間を通して振り返る」http://projectbetterschool.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.htmlでは、子どもたちや保護者も巻き込んでの「振り返り」=「形成的評価」の重要性とその効果について、手紙形式やアンケートによるものなど具体的な方法論と共に紹介されていました。ぜひ、実践していただきたいと思います。 

 「振り返りこそが学び/成長の鍵」であると同時に、学ぶことに対しての興味・関心を高め、学び続けることを可能にするためには、学習者自身(子どもたちや先生方)が、「質問(問い)」をもつことと重要な他者(教師や親・家族、友人、メンターなど)からの「フィードバック」がなされることの二つが、重要ではないかと考えるようになりました。 

その一つのきっかけは、『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』Dan Rothstein & Luz Santana(著),吉田新一郎(訳)2015年[新評論]や 、『最高の結果を引き出す質問力』茂木健一郎(著)2016年[河出書房新社]、『GRIT~やり抜く力』Angela Duckworth(著),神崎朗子(訳)2016年[ダイヤモンド社]の3冊を読む機会があったからです。 

『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』では、「生徒たちが輝く授業」=「ワクワクする授業、生徒が主役になる授業、教科書を結果的にカバーする授業」→「テストを過剰に意識しない授業、自分たちの質問に焦点を当てた授業」→「楽しい探求=自分の質問を解き明かす学び」→「テストが終わっても残る、身につく」、そんな子どもたち自身による主体的な学びが実現できるようにするための「質問づくり」の実際について、具体的に紹介されている魅力的な本です。★ 

『最高の結果を引き出す質問力』は、学生や一般社会人を対象に書かれたものです。質問とは、「自分自身との対話」であり、組織や社会・世界・自分の人生を変えるためには、他人に言われたことをやるのではなく、どんなに小さなことでもよいから、自分自身の頭で考えて行動することが大切である。そのためには「質問力」を高めることが必要であり、そのための重要なステップは、「感情力」:モヤモヤとした違和感を感じる力 →「メタ認知力」:自分の感情や状態に気づく力 →「論理力」:論理的にものごとを考える力 の3つである。自分の置かれた現状や生き方・人生を変えるための「いい質問」や「質問力を高めるための具体的な方法・アクション」について書かれています。 

 3冊目の『GRIT~やり抜く力』では、ビジネスパーソンやアーティスト、アスリート、ジャーナリスト、学者、医師、弁護士、大学生、士官候補生、グリーンベレーなど、様々な人々を対象にしたインタビュー調査やアンケート調査、心理学的実験の結果に基づいて、「やり抜く力」について述べています。パート1で「やり抜く力」とは何か?なぜそれが重要なのか?、パート2で「やり抜く力」を内側から伸ばすこと、パート3で「やり抜く力」を外側から伸ばすことについて、エビデンスとともに具体的な方法が、わかりやすく紹介されています。 

 この本の中で印象的だったのが、第10章「「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法」で紹介されているデイヴィッド・イェガーとジェフリー・コーエンという二人の心理学者が行った実験です。実験の目的は、「高い期待を伝えるメッセージと」と「惜しみない支援」を組み合わせた場合の効果を検証することでした。 

 実験では、中学校1年生を受け持っている教師たちが、生徒たちの作文に対して、「フィードバック」の言葉を書くように指示されました。「ここをこうしたら、さらによくなる」という提案とともに、いつも書いているような「励ましの言葉」を書くのです。それらの作文は回収され、無作為に半分ずつに分けられました。そして、半分ずつの作文には、それぞれ次のようなメッセージの書かれた付箋が貼られたのです。 

A:「あなたの作文へのフィードバックとして、いろいろコメントを書き入れました。」

B:「あなたなら、もっと作文が上手になると思うので、いろいろコメントを書き入れました。期待しています。」 

 もちろん、どちらの付箋が貼られているか生徒たちにはわからないようにするため、作文はフォルダーに入れたまま生徒に返されました。そして、生徒たちには「作文を手直ししたい人は、ぜひ翌週に再提出してください。」と伝えられたのです。 

 その結果は、Aの内容のメッセージを受け取った生徒の再提出率は40%であったのに対して、Bの内容のメッセージを受け取った生徒の再提出率は80%を超えていたのです。 

 つまり、生徒にとって「重要な他者(教師や親・家族、友人など)」から「高い期待」を込めたプラスのフィードバック、ストローク・はたらきかけを行うことによって、学びに対する意欲を高めることができるのです。このことは、子どもたちだけではなく、私たち大人・教師にとっても同じことがいえるはずです。 

 最後に、「質問」と「フィードバック」の二つを効果的に行うための具体的な方法は、これまでに何回も紹介されてきている「大切な友だち」のやり方です。授業だけでなく様々な学びの場で実践してみてください。http://projectbetterschool.blogspot.jp/2012/08/blog-post_19.html 


★ この本の第4章「生徒たちが質問をつくる」では、中学校や高校の理科における「質問づくり」の実際と問題への対処法について、事例を挙げてわかりやすく紹介されていて参考になります。また、「振り返る」ことの重要性についても、第8章「学んだことについて振り返る」を設け、「学びを促進するためのメタ認知思考」を高めることについて述べられています。