2017年3月5日日曜日

3冊の比べ読み ~傾聴と問いかけ、自己認識による感情のコントロール~


 今回は、3週間前のPLC便り「質問とフィードバックの効果~学びを継続するための鍵~」の中で取り上げた、『最高の結果を引き出す質問力~その問い方が、脳を変える!』茂木健一郎(著)2016年[河出書房新社]と、『サーチ・インサイド・ユアセルフ~仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法~』Chade-Meng Tan(著),一般社団法人マインドリーダーシップインスティチュート(監訳),柴田裕之(訳)[英治出版]、そして、2月上旬に出たばかりの『好奇心のパワー~コミュニケーションが変わる~』Kathy Taberner & Kirsten Siggins(著),吉田新一郎(訳)[新評論]、これらの比べ読みをしてみました。 

■1冊目の『最高の結果を引き出す質問力』には、次のようなことが書かれています。
*「質問」とは、「自分自身との対話」であり、現状を少しずつ、しかし、結果的には大きく変えていく力であり、自分にとってのいい生き方・行動・思考を導き出す力である。

*組織や社会・世界・自分の人生を変えるためには、他人に言われたことをやるのではなく、どんなに小さなことでもよいから、自分自身の頭で考えて行動することが大切である。そのためには「質問力」を高めることが必要である。

*「質問力」を高めるための重要なステップは、(1)「感情力」:モヤモヤとした違和感を感じる力を高める →(2)「メタ認知力」:自分の感情や状態に気づく力を高める →(3)「論理力」:論理的にものごとを考える力を高める の3つである。

さらに、自分の置かれた現状や生き方・人生を変えるための「いい質問」や「質問力を高めるための具体的な方法・アクション」についても紹介されています。 

この本を初めて読んだとき、気づいたことがあります。それは、この本の視覚的な「読みやすさ」と「読みやすい本の構成」です。

節ごとの見出しがゴシック体などで強調されているだけでなく、本文においても、著者が重要だと考えている部分は、ゴシック体になっています。また、それぞれの章の最後のページに「〇章のポイント」と題して、その章で述べられた大切なポイントが箇条書きで示されています。私にとっては、一度読んだ内容をふりかえることができ、書かれている内容が頭に入りやすい構成だと感じました。さらに、本の最後には「現状を変えるための質問」の一覧が、「他人に向けた質問」と「自分に向けた質問」に分けて掲載されていて、実践へのガイドになっています。

■2冊目の『サーチ・インサイド・ユアセルフ』は、EQ(情動的知能)を高めるための瞑想や様々なエクササイズを配置した「研修プログラム」について、その内容と根拠を丁寧にわかりやすく解説した個人向けの「教本」といった雰囲気の本です。

EQの構造は、『EQ~こころの知能指数~』の著者ダニエル・ゴールマンによれば、次の5つの領域に分類されています。

 自己認識(自分の内面の状態、好み、資質、直感を知ること)
 自己統制(自分の内面の状態、衝動、資質を管理すること)
 モチベーション・動機づけ(目標達成をもたらしたり助けたりする情動的な傾向)
 共感(他人の気持ち、欲求、関心を認識すること)
 社会的技能(他人から望ましい反応を引き出すのに熟達していること)

これらの能力・スキルを高めることによって、創造性や建設的な協力関係、リーダーシップなどを高めることが可能となるというのです。 

この本の大きな特徴は、何といっても、EQの5つの領域のスキルを高めるために、瞑想やエクササイズの方法が具体的に示されていて、読者が一人で実践できるようになっていることです。とてもよい点であると思います。 

■3冊目の『好奇心のパワー』は、『最高の結果を引き出す質問力』及び『サーチ・インサイド・ユアセルフ』の内容と重なっている部分が多くあります。特に、パート2(好奇心を使って自分自身を理解する)~パート3(好奇心を使って他者を理解する)の部分は、『サーチ・インサイド・ユアセルフ』に書かれている内容と、かなり重複している印象を受けました。 

 しかし、大きな違いがあります。それは、本のタイトルにもあるように、「好奇心」に注目し、「好奇心」が自己理解・他者理解を促進するための重要な出発点、あるいは条件になっているととらえている点です。「好奇心」は、「かかわる対象について判断を下さずに、より深く理解するために探究すること、学ぶことの原点」です(8ページ~9ページ)。別の表現をすれば、「人・相手に対する敬意」です(212ページ~214ページ)。 

 『好奇心のパワー』は、二人の著者が、組織のリーダーを対象とした「コーチング」を行ってきた経験から導き出されたものです。コーチングは、「クライアントの話をよく聴き(傾聴)、感じたことを伝え承認し、質問することを通してクライアントの自発的な行動を促進するためのコミュニケーション(かかわり)が中心に据えられている人材開発の方法」です(まえがきⅲページ)。カウンセリングがベースにあります。この本の内容から考えると、特に、カウンセリングの中の「論理療法(理性感情行動療法)」あるいは「認知行動療法」が、コーチングにも大きく影響を及ぼしていることがわかります。 

 この本の中で最も印象に残ったのが、古いコミュニケーションの枠組みから新しいコミュニケーションの枠組みへの転換(表1 10ページ)です。「好奇心のスキル」によって、この転換が可能になるのです。 

 この本の特徴でもあり、読者にとって本文の内容を理解しやすくしている点があります。
・章の扉に、その章で扱う内容を象徴するような科学者や思想家、作家、歴史上の人物などの「言葉」と「好奇心のスキルによって回る好循環のサイクル」「好奇心のスキルによって得られる状態」の図が掲載されていて、章のガイドになっている。
・それぞれの章の内容に適した事例が書かれていて、「好奇心のスキル」の具体的なイメージをもつことができる。
・各章で学んだ「好奇心のスキル」を身に付けられるようにするために、章の最後に「さあ、試してみよう」という節が設けられ、実践への橋渡しの役割を果たしている。
 
 今回読んでみた3冊の本は、最新の脳科学や認知心理学、カウンセリング心理学、そしてコーチングの知見に基づいて書かれています。共通する部分は、自己認識力を高め自己理解・他者理解を深める「傾聴」と「質問」です。さらに、読者を実践に誘う具体的な方法論や質問も書かれています。ぜひ、学校や職場、家庭など、人とかかわるあらゆる場面で実践してみましょう!!

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