2024年12月15日日曜日

「○○先生だから」から「私たちの学校だから」へ

 学校組織の中で、「○○先生だから」というフレーズをよく耳にする。「○○先生の学級だから…」「それは○○先生がいたからできた話で…」そんな会話をよく耳にする。しかし、私はこの「○○先生だから」という言葉を「私たちの学校だから…」という言葉に変えていきたいと考えている。「○○先生がいるからできること」ではなく、「私たちの学校だからできること」という考え方や文化を根付かせていきたいのだ。これは今、私が学校の組織づくりの中で重要だと感じているメンター/メンティー・チームの仕組みや初任者指導に関することにおいても同じである。

 「先生は大学院で学ばれていたからこんなに知識があって実践ができるのですね。」その言葉は嬉しくないと言ったら、嘘になる。もちろん学んできた自負はあるし、実践も計画を立てて試行錯誤しながら取り組み続けてきた。しかし、私が目指すところは「○○学校にはこんなに素晴らしい実践が根付いている」と言われる日がくることである。そのためには私がはじめた実践が効果的で意味のあることだと、多くの教員に知ってもらい、私がいなくなっても続けようと考え、取り組み続けてもらうことが重要だ。

 今、私が取り組んでいるのが正にこのフェーズ。自分がこれまで取り組んできた手立てを深め、学校の風土として根付かせるための1年である。これまでの研修との違いは大きく分けて2つある。

1つ目は今まで3年間をかけて私が計画を立てて取り組んできたメンター/メンティー研修を、4年目から2年目の先生方でなるメンターたちに計画し実践してもらう点だ。自分たちが初任者だったときに経験したメンター/メンティー研修の良いところは取り入れ、逆にこんなことしてもらえたら嬉しかったと思うところは変える。そんな初任者であるメンティーに寄り添った研修を行ってもらう。

2つ目は私が第三者としてメンターとメンティーそれぞれへのフィードバックを行うという点だ。経験はしているとはいえ、研修の計画実践に慣れてはいないメンターたち。そのメンターたちがより自分たちが取り組みたい内容を実践できるように、研修後に毎回フィードバックを行う。何がうまくいって、逆に思い通りに進めることができなかったのか。よりメンティーである初任者のためになる手立てにはどんなものがあるのか。次回の研修に向けて問いを与えながら、メンターたちの思考を整理し、次への計画の手助けを行う。

この計画→実践→フィードバック→計画の習慣がよりよい研修時間の設定につながる。この経験を繰り返すことで、私がいなくなってもつぎの若手が中心となってメンター/メンティー研修を実施し、毎年よりよいものへアップデートされていく。正に学校の風土として根付いていくという訳だ。

 初任者であるメンティーたちとは初任者研修のための個々に課題設定をし、それに基づいた年間計画を立てて、毎回必ず振り返りを行っている。その中にメンター/メンティー研修も位置づけているので、個々に振り返りを行い、それに対して私がフィードバックをしている。その振り返りとフィードバックの内容をメンターたちにも共有することで、メンターたちの価値付けも行っている。メンターたちがメンティーである初任者のことを思い、計画してくれた研修のおかげで、どれだけメンティーである初任者たちが学びを得ているのか。学校の組織づくりにメンターたちがどれだけ寄与しているのかを実感させることができるようにするのも、今の私の務めである。

 いつか訪れる今の職場からの異動。異動したあとの楽しみの一つとして、このメンターチームの行末がある。私がここまで計画し、実践し、根付かせようと努力してきたことがどの程度、学校の風土として残るのか。よりよい風土となっていくのか。そんなワクワクを楽しみに、私は日々実践に邁進していく。

  *****

以上は、8月18日、9月21日、10月6日、11月17日と続いている、埼玉で教務主任/初任者校内指導教諭をしている田所昂先生の第5弾です。

2024年12月13日金曜日

 イエナプラン20の原則が支える学校運営

 

かねてよりずっと見学したい学校がありました。それは長野県にある「しなのイエナプランスクール大日向小学校・大日向中学校」です。念願かない、見学させてもらうこととなりました。

いざ学校に足を踏み入れると、まず感じたのは、子どもたち一人ひとりの個性あふれる姿を自然に受け入れる温かい空気感でした。人懐っこく話しかけてくる子、自分のペースを決して崩さない子、それぞれが自分らしくありながら、互いを尊重し合っている姿が印象的でした。まるで「ちがいが当たり前」であるかのような空間がそこにはありました。

しかし、それは決して子どもだけではありません。教員一人ひとりが自分の個性や意見を活かしながら、学校運営に主体的に関わっていることが伝わってきたからです。学校づくりについて語る教員たちの姿は、そこに関わるすべての人が「この学校をつくっているのだ」という誇りを共有していることを物語っていました。

この学校では、イエナプラン教育の重要な特徴である「マルチエイジ」(異学年混合)が取り入れられています。設立当初は本来の3学年混合で実践していたものの、現在は2学年混合に転換したそうです。初めてのマルチエイジでは、どんな子どもも初学者でした。そのため、本来の先輩が後輩を支えてあげるその文化をつくるのが大変難しく、子どもたちは落ち着かない様子も見られたそうです。そこで先生方で話し合ってまずは2学年の異学年集団から始めることになりました。この決断は大変大きなものでしたが、結果として子どもたちの生活の安定につながったとのことでした。

その一方で、2学年の中でもマルチエイジの利点はしっかりと活かされています。異なる学年の子どもたちが共に過ごし、学び合うことで、年齢の違いや経験値の差が自然に教育の一部となるのです。例えば、「初心者」として新しい学びに挑戦する姿、「リーダー」として集団を導く経験。そして、ときにはその役割を脇に置いて自由になれることもありました。それぞれが、自分の立場を通じて責任感や協力の大切さを学んでいます。このような多層な経験が、単一学年では得られない幅広い学びをもたらしていると感じました。

こうした学びの形を支えるのは、教員たちの柔軟なサポートと、子どもたちに寄り添う姿勢です。それは、サークル対話のグループリーダーと呼ばれる教師の姿に顕著に現れていました。サークル対話では、教師と子どもという枠を超え、参加者全員が対等な一人の人間として尊重されます。この場では、意見を伝えることも、相手の言葉に耳を傾けることも大切にされており、学校全体に「聞き合う文化」が根付いていることを強く感じました。

イエナプランの理念をただそのまま取り入れるのではなく、現場の状況に即した柔軟な運営を通じて、子どもたちが最も豊かに学び、成長できる形を模索し続ける。その姿勢に、学校全体の本質的な強さを感じてしまいます。

これらの実践を支えているのが、イエナプラン教育の「20の原則」です。

https://japanjenaplan.org/jenaplan/rule/

この原則は、「どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。」という、人間の本質を示す理念から始まります。そして、「どの人も自分らしく成長していく権利を持っています。」と続きます。これらの理念を支えるために、どのような社会や学校が求められるのかが、具体的に語られています。

 

これらの原則は、学校運営や教育活動において一貫性のある指針を提供しており、その中には本質的で普遍的な理念が含まれています。重要なのは、これらが単なる理想論にとどまらないということです。学校の日常生活に深く根付いており、教員たちは迷いや課題に直面したとき、「原則に立ち返る」ことで次の行動や判断の道筋を見出しているのです。

職員室を訪れた際にも、学校全体での対話の重要性が印象に残りました。その日の朝もある教員が「もっと話し合いたい」という声があったことを聞きました。教員たちが「どんな学校をつくりたいのか」「どんな子どもを育てたいのか」といった本質的なテーマについて共有する時間を意識的に確保していることは、他校においても大いに参考になる取り組みだと思いました。

 

見学を通じて、現在の学校現場の状況についても考えさせられることがありました。多くの学校では、職員会議が計画の確認だけで終わり、本質的な議論が行われる機会が限られています。また、働き方改革の影響で、教員同士が深く語り合う時間が十分に取れなくなっている現状もあるでしょう。教育現場においては、目の前の子どもたちにどう成長してほしいのか、そして学校や社会、さらには世界全体がどう変わるべきかについて話し合う場が必要です。このような対話を促進し、全体の方向性を示すリーダーとしての校長の役割も、これからの学校運営には欠かせないと感じました。

 

「しなのイエナプランスクール」は、近い将来、中高等学校の設立も予定していると聞きました。この新たな挑戦がどのような形で進むのか、非常に期待が膨らみます。学校運営には常に困難が伴いますし、時には迷いが生じることも避けられません。しかし、この学校で感じたのは、一人ひとりの教員が原則に立ち返りながら、学校や子どもたちの未来を信じて挑戦し続ける姿勢でした。

教育現場は、日々の忙しさの中でさまざまな問題に直面します。しかし、そこに立ち止まることなく、少しずつ理想の教育に近づいていく。そのプロセスこそが教育の本質ではないでしょうか。「しなのイエナプランスクール」で見た取り組みは、私たち自身が教育の未来を考えるきっかけを与えてくれるものでした。

 

2024年12月1日日曜日

教員にとっての絶望の時代が来る前に私たちにできることはあるか

子どもの頃、私にとって、教員という職業は輝いて見えました。教壇に立ち、若者たちと、共に悩み、語りあう。そのような姿にあこがれていたのです。学園青春ドラマ『飛び出せ!青春』(昭和47年)などが全盛期を迎えたころ、思春期を過ごしたからかもしれません。学校というところは、どこか牧歌的で、のびやかで、大らかなところであり、あこがれでした。

しかし、今の教員は、まるで絶望の淵にいるかのようです。教員志願者の減少についての学生アンケート★1 の結果は衝撃的なものでした。その自由記述の回答を読んで、本当の絶望的な気持ちになりました:

「両親が教師ですが、人生のほとんどの時間を仕事に充てていて、自分の家庭を大切にする余裕がないことが何より辛いと思います。何か家族イベントがあるごとに謝っていて、何のための人生かと思うことがよくあります。教師は、教師になった人の人生を踏みにじる仕事です。(大学生・2年)」

「やりがい搾取」という言葉も出てきました。ものすごい言葉ですね。

「一言で言えばやりがい搾取。それを現職の大半が受け入れてしまっている構図。教師たちは、気付けば抗う余裕と時間が無くなり、自分らがとんでもない職場で働くことを自覚できないまま、「生徒のため」の奴隷とされてしまっている。改善したい(されてほしい)が、事なかれ主義の管理職やベテラン教師が多く蔓延る学校ほど、改善など夢のまた夢なのだろう。(大学院生・2年)」

教員にとっての絶望の時代が訪れようとしているのかもしれません。

このような現状を目の当たりにして、2021年3月文部科学省は、教師のバトンプロジェクトを立ち上げました。★2 このプロジェクトは教員が若年層に仕事の魅力を伝えることで、教員志望者の増加を目的としたプロジェクトでした。SNSを使った、教員の声を広く伝える試みは、当初は好意的に受け止められていましたが、教員の労働環境の切実さを訴える声が目立ち過ぎ、炎上気味になったことも記憶に新しいところです。

この試みは、必ずしも意図した結果が得られたわけではないですが、とても貴重なものだったと思います。

教員の成り手がいないことは、もう立派な社会問題です。日本という国の未来を傾かせる危険性さえもっている。

教員不足の原因は、教員の労働環境、教員給与の低さ、社会的な評価の低下など実に様々なものがあり、どれか一つが決定的要因であるということはなさそうです。複合的かつ長期的に形成されてきた、教職に対するネガティブなイメージが、社会の隅々までひろがり、共有されてしまった。残念なことです。

それに対して、実に多くの提言や取り組みが試みられ始めています。労働環境の改善、給与水準の引き上げ、教員養成課程の充実、リタイア教員の再活用、教員の研修とサポートなどです。特に、教職調整額の引き上げが一つの対策として話題になっていますが、特効薬になりえないと思えます。私の知っている現職の教員たちは、口をそろえて「そこじゃないだろう!」と言います。本質的な解決策にはならないでしょう。

この問題に対して、我々現職の教員にできることはないでしょうか?例えば、

◉古いものをアンラーンする。「教師が、土日休んでどうするんだ?」といった、長い時間をかけて形成され、へばりついて離れなくなった、教育観、労働観、価値観などを捨て去る。スポーツの時に水を飲んではいけないと言った考え方は、完全にアンラーンできています。自分の信条を疑うのは、容易ではありませんが、一歩踏み出すことはできる。

◉安心でき、信頼できる仲間を探す。自分の所属するところが、心安らげない場所であることは、とても辛いものです。心から安心できる職場、信頼できる仲間のいるチームづくりに自ら貢献しませんか。仲良しクラブではなく、お互いが切磋琢磨できる緊張感とプロ意識のあるチームを。

◉学び手の学ぶ力を信じる。教員のなり手が減ったとしても、子どもたちの学びを持続させるための、全く新しい発想も必要でしょう。例えば、AIを大胆に取り入れるといったことも一つの方法。そもそも子どもたちが、自ら主体的に学び続ける姿勢を身につければ、教師が手取り足取り、教える必要はなくなる。

◉授業の魅力化。結局のところ、授業が楽しくて、刺激的であることが、もっとも中核にあることかもしれません。ワクワクするように授業に参加した生徒たちは、その環境を生み出した教員をある種のロールモデルととらえ、あこがれる。自分もそのようなワクワクする体験を創り出す側に回りたいと思う若者が増える。それが、教員志望につながる。

◉教師自身が、楽しく元気に学び、生き生きと働く姿を見せる。教師が輝いている姿を見せること。教師が常にポジティブな姿勢を示すこと。個人的にはこれが、誰にでもできる対策ではないかと思います。確かに、そのような大らかさや闊達さを奪う状況が存在していることは分かるけれど、それでも、前向きなマインドセットを維持することはできるはずです。

即効性を期待できる方法は見当たりません。しかし、政治や行政任せにせずに、自らの手で、学校の危機を救うためのアクションを起こすことはできる。ぜひ、我々にできることから始めませんか。皆さんからのアイデアも送ってください。共有しましょう。


★1 「なぜ教員志望の学生は減少しているのか?学生アンケート結果から」
室橋祐貴、日本若者協議会代表理事, 2022/4/17
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/07449a732fdf1693321cbe7388cda2545e82ce17

★2 「#教師のバトン」プロジェクトについて、文部科学省
https://www.mext.go.jp/mext_01301.html

2024年11月23日土曜日

授業のあり方を見直す

 少し前になりますが、今年の923日付の『読売新聞』に、「デジタル教科書 巨額予算推進ありき」という記事が掲載されました。この記事は、「小中学校で英語を教える教員のうち、授業で紙の教材を使わず、「デジタル教科書」のみ使用している割合は3%にとどまることが財務省の調査でわかった。」で始まっています。続いて、「文部科学省はデジタル教科書の活用拡大を検討しているものの、多くの教員が紙の教科書を支持していることが浮かび上がった。」とあります。この記事の終わりは、「デジタル教科書をもっと活用していく」と文科省は前のめりで、中教審の作業部会も「デジタル推進」を鮮明にしたとまとめられています。★

 この記事はいろいろな受けとめ方があると思いますが、ICT活用は何も「デジタル教科書」を使うこととイコールではないはずです。「端末を一人一台」で整備したことは、何も紙の教科書をデジタル教科書に置き換えるためではないわけです。単に端末に置き換えるだけなら、「教科書をカバーする」これまでの授業と全く同じことになってしまいます。

 そこで、今回は9月に出版された『一人一台で授業をパワーアップ!』で原著から割愛した第9章の一部を紹介して、ICT教育のあり方を考えたいと思います。

 第9章のタイトルは「授業時間を考え直す」です。これまでは「ほとんどの授業は、対面している時間に学習内容を詰め込み(記憶し、理解する)、生徒を家に帰して自分だけで学んだことを練習する(応用する、分析する、評価する、創造する)ように設定されています。」(原著180ページ)という問題意識からスタートします。

「記憶」「理解」「応用」「分析」「評価」「創造」は、「ブルームの改訂された思考の分類法」で取り上げられた6つの思考です。これまでの授業では、思考レベルで言うと、低い方の「記憶」「理解」をもっぱら行い、それ以外の「より高いレベル」の学びを行う時間が確保できないことが多かったわけです。

そこで、「時間管理」の発想を大胆に転換して、「記憶」「理解」を映像コンテンツなどのその取扱い方を事前に指導した上で生徒に預け、家庭で学習してきてもらう方法が考え出されました。そして、家庭学習の翌日以降の授業では「応用」「分析」などの「より高いレベル」の思考を扱うという「反転授業」が生まれたわけです。

この点を『一人一台で授業をパワーアップ!』では次のような例とともに、紹介しています。

「国語の授業では、ライティングの指導をすべてオンラインで見られる動画などに移し、すべての作品づくりと編集(修正と校正)を授業の中心に置き換えました。教師がガイドする演習が授業時間内で行われ、指導の一部が宿題として課されるこの指導法は、反転授業またはブレンディッド学習★と呼ばれています。」(原著178ページ)

ライティングの指導に当たり、作品づくりやその編集作業を授業の中心にすえるために、「記憶」「理解」にあたる部分を「動画」の視聴で行ったわけです。これによって、「評価」「創造」まで含めた高次の思考を実現する授業となりました。その点を著者は次のように述べています。

「講義ベースの指導を教室の外に移したことによって、生徒が互いに協力し合い、学習を創造的に応用するダイナミックな活動を行う時間が増えます。その結果として、私の役割がよく言われる「舞台上の賢者」から、夢であった「脇役のガイド」という立場に明確に変わったことをとても好ましく思っています。」(原著178ページ)

 教師が「舞台上の賢者」として、授業の中心になってしまう従来の授業スタイルではなく、「脇役のガイド」という立場になり、まさに「生徒が主役の授業」が実現したわけです。さらに著者は次のように続けます。

「適切なタイミングで適切な指導を提供できる私の経験は、ブレンディッド指導の利点の一つであり、一人一台端末で得られる贈り物の一つです。私の授業計画は、授業時間の開始時と終了時のベルによって決まるのではなく、生徒のニーズに耳を傾け、それに応じて計画を立てられる自由がありました。このやり方は、これまでとは異なる新しい時間管理の方法です。」(原著179ページ)

 まさにここで述べられていることが「一人一台端末」の良さです。単に教科書の知識をドリルするための使い方ではなく、「記憶」「理解」レベルを超え、最も求められている高度な「思考力」を鍛える方法がここにあります。さらに著者はこう続けます。

「一人一台端末によって教室を変革できるようになると、過去に教えることと学ぶことを束縛していた同じ時間というルールに従う必要がなくなりました。単に一連の授業の次の時間だから、あるいは生徒と一日に五〇分しか会わないからという理由だけで、学習活動を計画するのに何日もかける必要はなくなったのです。むしろ、授業の内外で行う学習経験の種類を融合し、「学校の勉強」と「宿題(家庭での学習)」の境界をあいまいにすることで、限られた対面の時間を最大限に活用して本当に教師のサポートと仲間の協力を必要とする授業を行うことができます。」(原著179ページ)

コロナ禍を経験する中で、私たちは「対面授業」と「オンライン授業」のそれぞれの意義を確認しました。限られた「対面授業」の中に、何を指導内容として盛り込むのか、これをもう一度考える必要がありそうです。

また、反転授業にしろ、ブレンディッド学習にしろ、事前に動画などの学習題材を用意する必要があります。授業改善をしたくても、このような資料をつくる時間がないと言われるかもしれません。その問いに対する答えとして、著者は「徐々に」と書いています。いきなりすべての単元の資料を用意することは不可能ですが、最初は一つ、次の学期は一つと増やしていくことは可能です。同時に、校内の同僚や地区の先生方と協働で作成していくことも考えられます。こうした学びのネットワークの大切さは、このブログでもたびたび強調されているところですので、ぜひそうしたつながりを積極的につくっていくことが大切です。

教職を志望する学生が減少し、さまざまな困難が押し寄せている学校において、こうした取組が一筋の光明になるものと思います。

★今年度は小学5年から中学3年までの英語と算数・数学の一部で本格導入が始まりました。

★★集団と個別、オンラインとオフライン、インプットとアウトプットなどの形式から、あるいはテキストや動画などのコンテンツまで、さまざまな学習要素を組み合わせて行う学習です。

2024年11月17日日曜日

先生方の変革

 先日のとある職員室での風景。何やら若手の先生方が、2人で相談しながら作っている。よくよく見ると先日終えたばかりのメンター/メンティー研修で使用した資料だった。何かお願いしたか、その時の記憶を呼び起こすが、そんな記憶はどこにもない。恐る恐る何をしているのか尋ねてみた。

 「こないだの研修の時間では取り上げきれない相談や悩みがあったので、こんな方法があるよリストを作ってます!!」3・4年目とは思えないほどの行動力。そして何も言わずともメンティーのことを考え、動こうとする、その姿勢。やってきたことが報われてきている。そんなことを感じた瞬間だった。

※※※※※※※※

 私が学び、考え、実行してきた本校における研修もいよいよ一番大切な時期に入ってきた。そもそもこの研修は様々な段階を考え、計画したところから始めたのだ。

   出会い:理論と実践の往還

    

   拡充:2年目を巻き込んだ研修

    

   成熟:メンターチームの組織づくり

    

   深化: 学校風土として根付き

①は、当時現職大学院生だった私の立場を活かして、大学院での学びを実践してみるという形で初任者教諭2人と時間をもった。当時を今振り返ると、2人には満足したものを提供できなかった。しかし、このなかで大切だと感じた要素があった。

「勤務時間内に行う」「メンターをメンティーが選べるようにする」「お互いに自分事で必要感のあるものにする」

※※※※※※※

 次の日。校内を私が巡回していると、職員室で話した4年目の先生が、初任者のクラスを後ろからじっと見つめていた。放課後、声をかけてみた。「何をしてたの?」と。

「この間の研修で出た悩みが実際どのレベルなのか、子どもたちの様子をみてみたくて。実態が分かれば、自分だったら、ということも考えやすいし、他の先生にも相談できるかなと思いまして…。授業をのぞいてました。」

この4年目の先生は何を隠そう、①の時期に私とともに初めてメンター/メンティー研修を行った初任者だった先生である。心の中で、満足なものを提供できなかったことが残っていたので、自分がそこまでいつも考えて見てあげられなかったことや今のような研修が設定できなかったことなどを詫びると…

「こんな研修をやっている学校はないです。それもこれもあの年があったからかと思うとありがたいです。」お世辞でもそう思って、自主的に動き、考えてくれる先生が本当に頼もしい限りだった。

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②・③と毎年少しずつメンター/メンティー研修を繰り返し、研修を経験した先生方が次の年のメンターとなってくれることになった。メンター/メンティー研修のくくりとしてはその初任者がメンティーであり、若手の5年次まで、そして私がメンターとなる。私はここで、大きく考えを広げ、そもそも校内の初任者研修自体をメンター/メンティー・チーム化してしまおうと考えることにした。より多くのベテランからミドルリーダーの先生方に校内初任者研修の各研修担当になっていただき、それぞれの専門や分掌に合ったお話や指導をしていただいた。メンター/メンティー研修のなかでは、初任者と手立てや課題を考える際に、他の校内の先生方の実践や手立てを紹介したり、一緒に確認しにいったりすることも意識的に取り組むようにした。そうすることで、普段から初任者が職員室内になじみ、事案によって相談する相手を選べるように環境づくりを行った。少しずつ自分が描いた形が目の前にできてきている。あとはこの風土を根付かせること。今年度が始まる際、私の中で一番の課題として考えたことである。

※※※※※※※

 今年度第2回のメンター/メンティー研修は、3年目の先生が中心に企画・運営をしてくれた。なぜその先生が中心に運営しているのか、気になった私。先生に直球で聞いてみた。

「今まで、自分は参加して、言いたいこと言ってきただけなので。こんなことがやったらいいんじゃないか。これが必要なんじゃないか。少し考えてみまして。先輩方(4年目の先生2人)に相談しました。」

この先生は、私が教務主任となり初めてみた初任者である。先日の運動会の打ち上げ。ふらっと傍によってきた先生がこんなことを聞いてきた。

「私、成長できていますかね?」

 初任者時代は「辞めないでくれ!」と願っていた先生だった。しかし、今となっては学校の中心となって様々な仕事を任されている。思ったことをそのまま伝え、労うと

「先生に言われるといろんな思いがこみ上げます。いつも話を聞いてくださり、相談にのってくださりありがとうございます」と返してきた。

いえいえ。ありがとうはこちらがですよ。今年度のはじめ、初任者が初めての授業参観を前に、悩み、遅くまで残っていたとき、最後まで初任者に寄り添い、共に流れを考えてくれた先生。

「自分のことで精いっぱいです。」

そんなことを常々口にしていた先生が、学校のためにそして初任者のために考え、動いてくれるようになった。その事実が私の力となり、次の手立てへの活力となっている。今、まさに、本校では「先生方の変革」が起こっている。私も負けていられない。次の一手を打てるように、広い視野をもって、今何が必要かを考え、よりよい学校風土を培えるように今日も、子どもたちそして先生方との対話を重ねていく。

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以上は、8月18日、9月21日、10月6日と続いている、埼玉で教務主任/初任者校内指導教諭をしている田所昂先生の第4弾です。

2024年11月10日日曜日

ICT活用で生徒の学びを支援!一人一台端末の効果と教育の可能性


2022年以降、日本の公立校では一人一台の端末が導入され、ICTによる学習が日常となりつつあります。なぜこのような学習環境が必要なのでしょうか。学校現場にICTを導入することの意義と課題とは何でしょうか。ICTを活用した学びが教員と生徒にどのような可能性を提供するのか考えてみました。

 

ICTデバイスが導入されている主な目的は、生徒に情報を適切に扱うスキルやクリティカルな思考力を身につけさせるためです。ダイアナ・ニービーとジェン・ロバーツの著書『11台で授業パワーアップ!』では、「情報をクリティカルに評価し、効果的に情報を収集・処理し、共同作業で高品質な作品を作るスキル」が必要とされています。このスキルは、将来の大学生活や職場での成功に不可欠なものです。一人一台の端末があることで、こうしたスキルを日常の学びを通じて体得する環境が整い、ICTを通じて効率的かつ豊かな学習が可能となります。ICTの利用は、生徒が多様な学習方法を選択できる点でも有用です。テキストを音声で聞くことができるオーディオブックや、手先が不自由な生徒向けのタッチペンなどのサポートツールが、学習体験を多様化してくれます。




 

ICTの導入にはメリットが多くありますが、一方で、その効果や影響についても議論が必要です。昨今のヨーロッパ一部の国では、ICTデバイスを小学校中学年で使わない方針をとる学校が増えており、デジタル機器の使用が子どもの心理的・健康的な面に与える影響が懸念されています。教育の現場では、ICTがもたらす学びのメリットとリスクの両方を認識し、慎重に活用していくことが求められます。

加えて、テクノロジーの使用に際しての重要な視点として、Googleの教育エバンジェリスト、ジェイミー・カサップ氏は「テクノロジーはあくまでツールであり、学びに焦点を当てるべきである」と本書で述べています。ICTは教師に代わるものではなく、教師とテクノロジーが相互に補完し合いながら学びの深まりを支援するべきだという考え方が根底にあります。

 

ICTの最大の利点は、生徒個々のニーズに合わせた学習支援ができる点です。たとえば、読むのが苦手な生徒には、音声での読み上げ機能を提供することでテキストの理解を助けることができます。また、授業のホワイトボードの内容をデバイスで記録したり、段階的なチェックリストを表示して自分のペースで取り組むことができるなど、学習過程の自己調整をサポートします。また、特別なニーズを持つ生徒には、学習内容を補完するためにデジタルツールを用いたサポートも重要です。例えば、視覚に障害がある生徒には音声読み上げアプリを、聴覚に障害がある生徒には視覚的な手がかりを増やした学習教材を提供するなど、生徒それぞれに適した学びを実現できます。

本書においては、その実践について著者の具体的な事例をもとに紹介されています。ICTを使うことで、生徒同士が学び合い、協力して課題に取り組む環境が整います。リアルタイムで共有されたテキストにコメントを残したり、ディスカッションスレッドで意見を交換する「いっしょ読み」など、双方向性の高い学びが可能となります。これにより、生徒は他者の意見を尊重しながら自己表現を磨くことができ、チームワークや協働力が育まれます。また、授業内でフィードバックを受ける際にもICTは役立ちます。Googleフォームを用いた相互評価や、音声コメントを活用したフィードバックなどにより、すぐに生徒に応じたサポートが提供できます。こうした工夫により、生徒は自分の成長を実感しやすくなります。

 

一人一台端末の活用に不安を感じる教師もいるかもしれませんが、まずはICTを積極的に活用している教師とのつながりを作り、実際の授業見学やオンラインでの情報交換から始めてみる提案がされています。これによってICTの活用方法は多様であり、まずは身近なところから少しずつ取り組むことで、ICTがもたらす可能性を実感できるはずです。

 

ICTは、教育の現場において生徒一人ひとりの学びを支え、学習を豊かにするための有用なツールです。しかし、テクノロジーはあくまで「学びのための道具」であり、教師の存在や指導の価値は変わりません。教師と生徒がICTを有効活用することで、生徒の学びを深め、将来に向けたスキルの基盤を築いていくことがこれからの教育において重要です。各教員が自らの授業に適したICT活用方法を模索し、柔軟な姿勢で取り組んでいくことによって、ICTはさらに有効な教育ツールとなるはずです。あるのに使わないなんてもったいない!

2024年11月3日日曜日

日本の学校はソフトスキルとどう向きあうのか?

先日、ある会合で、地域の高校の校長が次のようなことを言っていました。

「近年、「連帯」が不足しているのではないかと感じます。どういうことかというと、我々の時代には、体育祭のようなイベントの最後にフォークダンスを踊ったり、ファイアーストームをやったりしたものです。あのような人と人とをつなぐようなものが欠けてきているんじゃないかと。」

この校長は、一人一人の個性を尊重し、特性を理解して、個に応じた対応が不可欠だということは分かる。その一方で、人と人とが切り離されているように感じてしまうと言いたかったとのこと。その場に居合わせた私たちは、(同世代でもあり)フォークダンスやファイアーストームという言葉に、思わず微笑んでしまいましたが、同時に、今の若者が抱える深刻な状況が垣間見える気がしたのです。

その発言に対して、大学の事務局に勤める参加者からも、興味深い発言がありました。

「コロナ禍が始まったころ、感染者の感染源をたどるために、一人一人に丁寧に聞き取りをしていました。感染源としてもっとも多かったのが部活動関連。部活動仲間は一緒に行動していることが多いことが分かった。次に多かったのが、バイト先での感染。一方で、もっと驚いたのは、感染源をたどれない学生がかなりの数いたことでした。まったく、他人と接触していない若者です。」

コロナ禍で、人と人との接触が大幅に制限されていた時期ではありましたが、よくよく聞いてみると、普段から食事も1人で食べることが多く、人と一緒にいることが少ないという学生がかなり多くいたことに驚いていました。

濃密なコミュニケーションをもてている若者と個の中に埋没してしまっている若者の間に大きな格差が生まれてきているのではないかと思えました。人との良い関係を築ける若者がいる一方で、それがうまく築けない若者がかなりいるのではないか。日頃、10代、20代の若者と接している人たちは、ある程度、そのような感覚をもっているのかもしれません。

近年、ソフトスキルの重要性が注目されています。★1

ソフトスキルとは、仕事をする上でベースとなる個人の性格特性や行動に関わるスキルのことで、コミュニケーション力、リーダーシップ、問題解決力、柔軟性、協調性などが含まれています。一方で、ハードスキルとは、資格や技術、専門知識など、教育や訓練で獲得した能力のことを言います。

ソフトスキルが求められる背景として、1) 働き方改革の進行 2)AIの進化 3) エンゲージメントの低さがあると指摘しています。1)は、ソフトスキルが生産性を向上させ、働き方改革の実現につながるということ。2)は、AIが進化すればするほど、AIにはない、強調性や柔軟性、創造性など、人間ならではの能力が重要になるということ。3)のエンゲージメントは、ここでは会社や仕事に対しての愛情や思い入れのことを指しています。同サイトの説明によると、「エンゲージメントが低い会社では、業績や定着率、社員のモチベーションの低下、組織の衰退などが起きていると言います。ソフトスキルが高まることで、仕事に対するモチベーションやチャレンジ精神なども向上しやすくなると言われています。」と述べています。

世界最大のIT企業の一つであるグーグルの人材の採用基準について論じた、エリカ・アンダーソンさんの記事は、この問題と大きく関連しているように思います。★2 この記事があげている、グーグルの採用基準のトップ5は次のとおりです。

5  専門知識(Expertise)
4  自分事として捉えられる/取り組もうとする姿勢、マインドセット(Ownership)
3  謙虚さ(Humility)
2  リーダーシップ(Leadership)
1  学ぶ能力(Ability to Learn)

このリストは、例えば、謙虚さといった項目が意外性もあり面白いですが(自分よりも素晴らしい考えをもっている人がいたら、率直にそれを認めるようにしようという意味のようです)、あげられた項目よりも、その順序がとても興味深く感じます。

プログラミングなどの専門知識がもっとも求められそうな企業において、主体性や謙虚さ、リーダーシップなどの方が上位にきているのです。そして、もっとも重視しているのが「学ぶ能力」。その説明の中に、ここで言う「学ぶ能力」をよく言い表している一節があるので引用しておきます。

すべての会社は、好奇心にあふれ、間違えたり、危険を犯すことをおそれず、バカバカしい質問でも平気で聞く、そうやって新しい能力を磨き、新しい解決策を見出していくことができる人材を求めているのです。そして、そうやって組織は成長し、未来に向けて伸びていいけるのです。」

(原文 Every company needs employees who are curious, who are willing to make mistakes and go out on a limb and ask dumb questions in order to develop new capabilities and new solutions - that's how organizations will thrive and grow into the future.)

我が国の学校教育は、長年に渡り、ハードスキルを追い求めてきたように思えます。ハードスキル一辺倒であったと言えなくもない。もちろん、授業以外の場面、例えば、部活動や学校行事などでは、ソフトスキルを育むことのできる場面はあったと思います。

このソフトスキルをどうとらえ、どう学校教育の中に組み込んでいくのか。これが、今後の重要なテーマの一つになるように思えます。


★1 ソフトスキルとは? 具体例一覧と鍛え方、ハードスキルとの違い, カオナビ

https://www.kaonavi.jp/dictionary/soft-skill/

★2 「Googleの人材採用基準とは?」

Erika Andersen, How Google Picks New Employees (Hint: It's Not About Your Degree), Apr 07, 2014.

https://www.forbes.com/sites/erikaandersen/2014/04/07/how-google-picks-new-employees-hint-its-not-about-your-degree/?sh=6ae1775f25e4