これまで、数ヶ月にわたり、学ぶことのエンゲージメントについて考えてきました。★1 ここ数年、注目されてきてもいますし、これからの教育を考えていくうえで、キーとなる考え方だろうと思います。エンゲージメントが生じているかどうかが、主体的な学びの中核にあると言えるでしょう。
4月から二ヶ月くらいかけて、小中高の現職の教員と、ブッククラブをやりました。読んだ本は、サラ・マーサーとゾルタン・ドルニュイさんの著書『外国語学習者のエンゲージメント』★2 。翻訳版を二ヶ月くらいかけて、読みました。週に一章づつ読み、オンラインのドキュメントに記入し、それに対して、お互いがフィードバックを描き込み合う形で進めました。
先日、そのメンバーが集まる「英語教員CAFE」★3 で、この本についての、まとめのブッククラブをやりました。とても、白熱し、話題が尽きませんでした。なぜ、そのように盛り上がったのか、また、現在教壇に立っている先生方は、エンゲージメントについて、何を感じ、何を考えたのでしょうか。その時の議論からまとめてみると:
1点目は、エンゲージメントという観点から授業を見直すことは、自分自身の授業のあり方を根本から見直すきっかけになったということです。日々の業務をこなしながら、ブッククラブをやるのは、なかなか大変そうでしたが、多くの人が、どうしても読み続けたいと感じていたそうです。今やっていることが、本当に子どもたちにとって意味があるのか?長年、続けてきたことに、価値があったのだろうか?自分が信じて続けてきたことを、否定するのは勇気のいることですが、この機会にじっくり考えたいと思ったそうです。
2点目は、これまで学んできた、授業に関することを再確認することができたという点です。この本で、読んだことは、決して新しい考え方ではないと思ったそうです。動機づけや教室環境の問題など、従来、言われ続けてきたことがほとんどだったと感じたそうです★4。それらのことを、エンゲージメントという観点で、考え直してみることに、とても意味があったと感じたようです。
3点目は、子どもたちのリアルな声を聞くことの大切さを実感したそうです。今回、ブッククラブと並行して、出口チケット ★5 や経験サンプリング ★6 といった方法を使って、授業内でエンゲージメントを測定するデータをとる、ミニ・リサーチをやりました。今回は、あくまでパイロット的な調査だったのですが、みなさん、様々な気づきがあったようで、全員で継続してやっていきたいと思ったようです。どのような結果がでると、今から楽しみです。
同書の結びに言葉に「授業に対する学習者のエンゲージメントは決して偶然の産物ではない。」(p.236)とあります。これは、教員に対する厳しい激励でもあると思います。また、同時に、子どもたちが夢中で学ぶ教室を実現することは、不可能ではないという希望の言葉でもあるとも思えます。
筆者らは、エンゲージメントについて考えてきた中で、3つの大きな主題があったことに気づいたと述べています。
1 ポジティブな感情がもつ力
2 教育のパートナーとして学習者に権限を委譲すること
3 学習活動への積極的参加
先生方の探究の旅は、これからです。子どもたちが夢中になれる授業づくり。そのことに、参加した先生方がとても夢中になっているように見えました。それが、とても希望を感じさせてくれました。
★1 「PLC便り」におけるエンゲージメントに関する記事
2025年2月「エンゲージメントの周辺」
2025年3月「エンゲージメントを決定づける要因」
2025年4月「エンゲージメントを実現するための教師の行動」
2025年5月「教師の情熱と冷静のあいだ」
2025年6月「能力と困難の黄金比」
★2 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.)
★3 「英語教員CAFE」は、英語教員が、楽しく、ワクワク探究し続けることによって、子どもたちが、楽しく、ワクワク英語を学び続けることのできる英語教育の実現を目指して、小中高大の英語教員有志によって、2025年2月に創設された研究グループです。
★4 同書の章立ては次のとおり:
第1章 学習者エンゲージメントを取り巻くもの
第2章 学習者の促進的マインドセット
第3章 教師と学習者の信頼関係(ラポール)
第4章 ポジティブな教室力学(クラスルーム・ダイナミックス)と教室文化
第5章 タスク・エンゲージメントの喚起
第6章 タスク・エンゲージメントの維持
★5 1−2つの質問が書かれた、小さな紙や情報カードのこと。
★6 授業時間内で、10分ごとにチャイムを鳴らすなどして、その時点のエンゲージメントの深さを、生徒に自己評価してもらう方法。
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