●読者(千葉県の公立小学校に務めている津崎先生)からの質問:
最近考えていることについて、質問させてください。現在、吉田さんの関わったSELの本を読んでいます。そこで、数十年前からSELに興味をもたれている吉田さんにお聞きしたいことがあります。
日本の学習指導要領では、育成すべき資質・能力として、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力、人間性」の3つが挙げられています。
この3つを「認知能力」と「非認知能力」に分けると、「知識及び技能」と「思考力判断力表現力」→認知能力であり、「学びに向かう力、人間性」→「非認知能力」(=SEL)であると私は解釈します。
これからの時代はもはやテストの点数(IQ)の時代ではなく、感情知性や社会的知性のスキル(EQ、SQ)です。そう考えた場合、先に述べた3つの能力のうち、やはり「学びに向かう力、人間性」の育成がとても重要視されるべきだと思うのです。
その「学びに向かう力、人間性」ですが、実際に評価するとなった場合の評価の観点として、「主体的に学習に取り組む態度」があります。これは「学びに向かう力、人間性」のうち、評価できるものを取り上げたものです。
文科省は、「主体的に学習に取り組む態度」を2つの側面から定義しました。一つが「自己調整力」で、もう一つが「粘り強さ」です。この2つを次のように説明しています。
前学習指導要領における評価の観点「関心・意欲・態度」は、新学習指導要領で「主体的に学習に取り組む態度」へと発展的に変更された。「関心・意欲・態度」も各教科等の学習内容に関心をもつことのみならず、よりよく学ぼうとする意欲をもって学習に取り組む態度を評価する観点であったが、この点を「主体的に学習に取り組む態度」として改めて強調することとなった。そして、「主体的に学習に取り組む態度」の具体的な観点として、①知識及び技能を獲得したり、思考力・判断力・表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面(以下「粘り強さ」)、②①の粘り強い取組を行う中で、自らの学習を調整しようとする側面(以下「自己調整」)の二つの側面を評価する。
ここで疑問なのが、どうして自己調整と粘り強さの二つなのか、ということです。その理由はどこを探しても見当たらないのでモヤモヤしています。なぜなら、SELは『学びは、すべてSEL』のp31の図にあるように、もっと多岐に渡った側面が存在するからです。
吉田さんにお聞きしたいのは、現行の指導要領で示される「自己調整力と粘り強さ」で、主体的に学習に取り組む態度を育成できると思いますか?
●回答:
「関心・意欲・態度」であろうと、「主体的に学習に取り組む態度」であろうと、教師ないし教科書主導の授業で、それを生徒たちに期待することはかなりの難しさがあります。
そんななかで、「自己調整力と粘り強さ」は、絵に描いた餅以外の何ものでもないとしか思えません。(どうして、これら二つが選ばれたのかは、私にも分かりませんが、おそらくマスコミ等で取りざたされているというか、文科省周辺の研究者たちが大切と言っているからでしょうか?)
生徒たちは、教師がしている授業にしか反応できません。(その意味では、「主体的に学習に取り組む態度」や「自己調整力と粘り強さ」を生徒が示せる割合はほとんどありません。
さらには、教師はそれらをモデルで示すことが求められているのですが、「主体的に学習に取り組む態度」や「自己調整力と粘り強さ」をモデルで示せるレベルで身につけている人はいったいどのくらいいるでしょうか?
https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/11/blog-post_20.htmlで紹介している二つの表および文章を読まれて、〇〇さんはどのような印象・反応をもたれますか?
文科省のきわめて空虚な「言葉遊び」(あるいは、評価の観点としての「関心・意欲・態度」で失った30年?を、今度は「学びに向かう力、人間性」や「自己調整力と粘り強さ」でさらにウン十年と延ばすこと)にお付き合いするのではなく、実質のある、内容の伴った(実践と理論に裏打ちされた)本を読んで自分の実践を磨くことに時間を割いていただきたいです。
これまでも、そういう本をたくさん本ブログで紹介してきましたが(たとえば、http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html)、来月に出る学びの中心はやっぱり生徒だ! ベナ・カリック(著/文) - 新評論 | 版元ドットコム
(hanmoto.com) も、まさにそういう1冊です。
また、生徒も、教師も羽ばたけないで小さな瓶の中に閉じ込められた状態が続いている日本の教育で、7月に出る予定の本は『だから、みんなが羽ばたいて(仮題)』という生徒も教師も羽ばたけるための具体的な手立てが書かれた本です。上の本とセットにして読むと、生徒中心の学び(教師や教科書やテスト中心の勉強=生徒にとっては苦役の対極にある学び)はどういうふうにつくり出せるかが分かります★。
以下は、問われていない蛇足(主には、思考力についてのオマケ)です。
質問の最初に書かれていた「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」(関心・意欲・態度改めの)「学びに向かう力、人間性」は、教育の3本柱の知識、技能、態度を言い換えたものですが、文科省は「技能」の中身としてどんなものをあげているのでしょうか?★★
一般的にそれは、「思考力・判断力・表現力」を含めた多様なものですし、思考力も「ブルームの思考の6段階(暗記、理解、応用、分析、統合、評価)」によると、評価・判断を含んだ概念として捉えられています。また、2番目の「理解」も、オリバー・キーン著の『理解するってどういうこと?』やグラント・ウィギンズほか著の『理解をもたらすカリキュラム設計』を読むと、とても面白く深いものがあることに気づけます。
このように、日本ではほとんど「考える授業」がまだ行われていない現状も浮き彫りになってしまいます(これも、教師/教科書主導の授業の弊害の一つ?)。この点については、https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8Bをご覧ください。
先のURLで紹介した2つ目の表の「思考の習慣」https://bit.ly/3XZmfbh★★★には、学校のなかだけでなく、長い人生を生きていく際に欠かせない「考え続けるための習慣」がよくまとまっていると思われませんか? これらのうちのどれだけは学校や大学を卒業する時点で生徒・学生たちが身につけられるようにしているでしょうか?
★これら5月と7月に出る本2冊は、「主体的に学習に取り組む態度」や「自己調整力と粘り強さ」を実現させる(生徒が本当の意味で身につける/練習する)ために、最も参考になる本です。
★★私が一番先に思いつくのは、日本の教育界では軽視ないし無視されたままのクリティカルな思考、クリエイティブな思考(創造力)、コラボレートできる力(協働する力)、コミュニケーション力の4C(21世紀型スキル)です。それに最近は、シティズンシップとキャラクターの二つのCを加えて、6Cともいわれます。文科省が「人間性」を言い始めたのは、ここからきている? しかし、それを単に言うことと具体的に普及するためのノウハウをもっていることは、まったくの別物です! 4Cも6Cも、教師/教科書主導の一斉授業では練習できないものばかりです。
★★★この「思考の習慣」については、成績だけが評価じゃない スター・サックシュタイン(著/文) - 新評論 | 版元ドットコム (hanmoto.com)(この本のサブタイトルは、「感情と社会性を育む(SEL)ための評価」です!)の68~77ページでも紹介されています。
★★★★ 「認知能力」と「非認知能力」を分けるのは、http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlの(p31の)図の「認知調整(第4章)」にあるように必ずしもスパッと行くものではない気がします。
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