新学年がスタートして、子どもたちも先生方も新たな一年に心躍らせているのではないでしょうか。そこで、今回は学級経営について考えてみたいと思います。
資料として『学級経営の教科書』(東洋館出版社)と『「居場所」のある学級・学校づくり』(新評論)を比較することにしました。
『学級経営の教科書』(以下、『教科書』と称します)は、執筆のねらいを、「「学級」の意味を考えながら、学級活動をよりよく活用して子どもも先生も心地よく過ごせる(互いに力を発揮しあえる)「学級」を創造する「学級経営の教科書」を目指します。」と説明しています。前半は、学級経営の領域に関する解説、後半は学級活動を通じた学級経営の充実の視点が描かれています。
その前半の領域に関する解説ですが、筆者は「必然的領域」「計画的領域」「偶発的領域」の3領域に分かれると説明しています。最初の「必然的領域」とは、「一貫して毅然とした指導、人権に関する問題を扱う領域」とあります。これが「学級のあたたかさを創る」、言わば「土台づくり」の領域とのこと。そして、「学級経営の基盤は、自己と他者の人格を尊重する言動・行動を増やし、自己と他者の人格を傷つける言動・行動は許さない、という指導の徹底です。」と説明しています。これには、日本の小・中・高校の先生方の多くが同意されるように思います。また、学級崩壊を心配する管理職は、「毅然とした態度」で子どもに接するように求めることが多いのではないでしょうか。
この学級経営の土台となる「必然的領域」の次に、教師による計画的な指導・援助が入る「計画的領域」がきて、この領域の説明として、「学校や学級生活の「きまりごと」を調整し、浸透させ、学校や学級において、児童生徒が生活を過ごしやすくするための指導を行う」(同書58ページ)とあります。この「浸透」の部分に関して、IRRモデル(I(指導:instruction)→R(リハーサル:rehearsal)→R(強化:reinforce)の流れで指導する)(同書68ページ)を例示しています。
さて、ここまで概観してくると、このブログでたびたび紹介されている米国の考え方との違いを感じると思います。
最初に紹介した『「居場所」のある学級・学校づくり』(以下、『居場所』と称します。)を読むと、「教室内の環境整備」、「人と人との接し方における約束事」「教室での行動ルールの共有と実践」(同書10ページ)などは『教科書』の計画的領域に通じるものですが、どうも『教科書』の方は「教化」というニュアンスが強いように感じます。
それに対して、『居場所』では、教室内のルールを扱うときにも、「手続きや手順の選択と作成に生徒が参加する」(同書164ページ)と生徒の「声」を大切にしています。もちろんそれだけでなく、すぐあとに、「手続きと手順を教えるとき、一回言って終わりにしない」と付け加えています。また、「必要であれば全員が理解するまで繰り返し教える必要があります」(同書166ページ)と述べて、『教科書』でも示されている指導も厭わないことを述べています。
さらに、『居場所』では、「すべての手続きを分かりやすく」して、それでも必要な生徒がいれば、より具体的に「必要な詳細を説明する」「このような手続きと手順がある理由を説明する」とあります。ここには、生徒一人ひとりへの信頼感が指導の根底にあるように思います。そして、その信頼関係を構築することにかなりのエネルギーを注ぎます。これがすべての出発点と言ってもいいのかもしれません。さらに生徒だけでなく、保護者との信頼関係構築にも最大限の努力をします。
また、生徒のことをよく観察することはもちろん、教師である自分の行動について、「何を続けるとよいですか」「何をやめたほうがよいですか」「私はあなたのことを好きだと思いますか」などと、徹底して生徒の「声」を聴き、生徒から学ぶというスタンスを大切にしています。この点は重要です。
もちろん『教科書』でも、「きまりごとの習慣化」を達成するために、次のように述べています。
「授業ではこのきまりごとだけは大切に」という姿勢で丁寧に「みんなができている」ということを確認しながら、教育活動を行うことをしてみるとよいでしょう。(77ページ)
ただ、このきまりごとが何のために必要なのか、その手続きができた背景を説明する、あるいは話し合うところまでは求めていないようです。
要するに、方向性はほぼ同じ方向でも、その目標達成のために大事にするものがやや違うようです。『居場所』では、徹底して、児童生徒との信頼関係づくりを第一とし、「きまりごと」「約束事」を決めるにあたっても子どもに選択肢を与えて、子どもの「声」を大切にします。
「選択肢を与える」と「声を聴く」、この2点を学級経営の中に取り入れていくことで、生徒たちの成長はより確かなものになります。決して放任ではなく、「子どもを信じて、任せる」領域を可能な限り広くすることだと言えます。
また、『教科書』の第1部第3章の終りに「「黄金の三日間」を再考する」というタイトルのコラム(pp.84-86)があるのですが、そのなかで筆者は「厳しく徹底して指導するという「厳しさ」を方法として受け止めてしまう」危険性を指摘しています。そして、「教員になる前に「担任を受け持った学級の最初に、先生が大切にしていることを一つだけあげるとすれば、何でしょうか?」ということを聞いてみておくのも良いでしょう。」と教員志望の人に説いています。
それももちろん大切ですが、さらに、『居場所』に倣って、「子どもとの信頼関係をつくる」「子どもの声を聴く」「選択できることを大切にする」などを取り入れることで、その後の学級経営の展開が大きく異なってきます。またそれによって、『教科書』にある「偶発的領域」において、「問題解決と学校文化の創造」のための「児童生徒の自主的実践活動、自律や自治」が無理なく進められると思うのですが、いかがでしょうか。
文科省の施策のなかで、方向性は示すけれど、「後はみなさんよろしく」式のことがこれまでたくさんありました。学級経営も『教科書』で学ぶだけでなく、ぜひその足りない部分を『居場所』のような具体的な資料で補い、多くの教室で、子どもたちの居場所づくりを大切にして、生徒一人ひとりが人として尊重される学級経営が行われることを願いたいものです。
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