去年の12月に『教師のためのアート・オブ・コーチング』という本を出したのがきっかけで、その著者のエリーナ・アギラ―さんがあちこちに書いた無料で読める記事(ブログ等)を読んでいます。ここで紹介するのは、彼女が17年前の2008年9月23日に書いたものです。この記事から、彼女がカリキュラムの統合に大きな価値を見出していたことがわかります。
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カリキュラムを統合することには、大きな意義があります。ある教科で身につけた力を別の教科でも使って練習でき、その結果として本当に使いこなせるようになるからです。★ また、私たちが社会で経験していることに近い、より「本物の学び方」にもなります。さらに、難しそうに感じたり、自分には関係ないと思ったりしてしまう教科に対しても、生徒の興味を引きつけるきっかけになります。
そして、とても幸運な場合には、カリキュラムの統合が、生徒が自分の「情熱」を見つけるきっかけになることがあります。夢中になれることを見つけると、生徒はさまざまな困難を乗り越え、高校を卒業し、大学へ進んで自分の夢を追いかけようとします。私が働くカリフォルニア州オークランドでは、こうした成果は、文字どおり「一つの命を救う」ことにつながるのです。
教科横断的な学びの意義を語ろうとすると、私は真っ先にジョージのことを思い出します(ここに出てくる生徒の名前はすべて仮名です)。もし、ケイコ・スダ先生が彼に7年生のときビデオカメラを手渡していなかったら、彼はどうなっていただろう――そんなことを考えずにはいられません。
カリキュラム
ケイコ・スダ先生は、ジョージが 7年生だったときの数学と理科の担当教員でした。彼女には、カリフォルニア州の7年生向け基準の一部として、細胞生物学を教えることが求められていました。スダ先生と私が共に教えていた ASCEND School(https://www.ascendtk8.org/) では、教師が「広く浅く」ではなく 深い学びを重視したユニットを開発すること、そして 学んだ知識を別の文脈へ応用できるように指導することが奨励されていました。(学校については、https://www.edutopia.org/little-school-that-did と https://www.edutopia.org/video/students-learn-make-difference を参照。)
スダ先生は、「HIV/AIDS は私たちに身体的・社会的にどのような影響を与えるのか?」という探究質問を軸に、1学期間の
HIV/AIDS 研究ユニットを設計しました。生徒たちは免疫系や細胞生物学について学び、HIV/AIDS と共に生きるとはどういうことかを探究しました。
学習のまとめとして、生徒たちは 脚本執筆・監督・制作・編集・出演まで自分たちで行う映画をつくり、この探究質問に答えました。あるクラスは HIV と共に生きることの社会的側面を描き、もう一方のクラスは 免疫系で何が起こるのかを表現しました。
学びの証拠
優れた教師は、ユニット(単元)の途中と終了後の両方で学習状況を評価しています。そして、その評価は
学びの証拠 に基づいて行われる必要があります。スダ先生が行った形成的評価と総括的評価★★は、生徒たちが科学の基準を十分に習得していることを証明するものでした。しかし、これは物語の始まりにすぎませんでした。
その学期のあいだ、私は生徒たちが
HIV に関する知識を別の領域へ応用している様子を目の当たりにしました。スダ先生の隣の仮設教室で、私は同じ生徒たちに歴史と英語を教えていました。その学期のテーマは
ペスト(黒死病)で、生徒たちはこの疫病が中世ヨーロッパの社会・経済・政治・宗教の構造をどのように変えたのかを探究しました。
学習を始めて間もない頃――彼らが HIV の学習を始めて数週間後のことです――生徒のひとりが最初に投げかけた質問が、「ペストのとき、誰がスケープゴートにされたの?」というものでした。彼女は、HIV 陽性者が直面してきた状況を理解したうえで、別の疫病でも同じようなことが起きたのではないかと推測したのです。そして、その推測は正しく、まさに
深い学びが起きている証拠でした。
私のクラスでのまとめのプロジェクトは、ドラマ(劇)の上演でした。生徒たちは、スダ先生と学んだ概念をペストの理解に応用しながら、このプロジェクトのために脚本づくりや演技のスキルも磨き上げていきました。
私自身がウイルスについてより深く理解できるようになったのは、スダ先生と生徒たちが作った映画のおかげです。ネスターが演じた「HIV 細胞」の恐ろしい描写は、HIV がどのように働くのかを、私の脳に永遠に刻みつけました。映画『One Strike』の中で、彼は縛られて動けない免疫細胞の上に不気味に浮かびながら、こう宣言します。「お前はこれから俺の宿主だ。中に入り込み、お前の核を乗っ取ってやる。」このセリフは、印刷物で読んだときには決して覚えられなかった情報なのに、私の脳のどこかの受容体にしっかりと結びついてしまったのです。
深い学びの証拠は、生徒たちが
ASCEND School を卒業し、高校へ進んだあとにも現れました。9年生になったマリアは、HIV に感染した若い女性を描いた詩を書きました。何千もの応募作品の中から、彼女の胸を打つ詩は、作家アリス・ウォーカーが主催するコンテストで賞を受けたのです。
映画づくりが足場になるということ
しかし、カリキュラム統合の力を示す圧倒的な証拠として私の心に浮かぶのは、やはりジョージのことです。ジョージにとって、ケイコ・スダ先生のクラスで映画をつくった経験は、人生で初めての「映画制作との出会い」でした。その瞬間から、彼はすっかり魅了されてしまったのです。幸運なことに、彼はオークランドの高校で、自分の情熱を追いかけるための大きな支援を受けることができました。4年間で彼は3本の映画を制作し、映画制作の授業で他の生徒に教え、さらには映画づくりのガイドまで書き上げました。
その数年間、ジョージは個人的に非常に辛い喪失体験をいくつも経験しました。いとこや同年代の若者たちが学校を辞め、ギャングに入り、子どもをもつ姿を見て、「もう全部投げ出したい」と彼が私に漏らしたことは一度や二度ではありませんでした。そんな彼を支え続けたのは、「映画監督になりたい」という思いだったのです。
2008年6月、ジョージは高校を卒業しました。そしてその秋、カリフォルニア大学サンタバーバラ校に進学し、映画制作を学ぶことになりました。高校の卒業式では、彼は映画監督になるという決意を語りました。移民である彼の父親は、ひとり息子の卒業を見守りながら涙を流していました。
「息子さんが映画を学ぶことについて、どう思われますか?」と私は父親に尋ねました。
彼は肩をすくめて言いました。「あいつは自分の情熱を見つけたんだ。私は嬉しいよ。父親として、これ以上望むことがあるだろうか。」
ケイコ・スダ先生の見事な教科を統合するユニットのおかげで、科学が好きではなかったジョージは 7年生の細胞生物学の基準をしっかり習得し、文章力を伸ばし、社会的・対人的スキルを育て、そして彼を高校から大学へと突き動かす生涯の情熱を見つけたのです。
そして、これはたったひとつの物語にすぎません。まだまだ続きがあります。
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あなたは、授業を通してどんな物語をつくり出していますか?★★★
出典: https://www.edutopia.org/integrated-studies-authentic-education
★逆に言えば、こういう機会が提供されないと、単に暗記だけ(そのほとんどは、忘れ去られる運命?!)の授業で終ってしまう可能性が高いことを意味します。
★★形成的評価は、成績(総括的評価)に使われることなく、生徒の学びと教師の指導を改善するために行われる評価のことです。評価で大切なのは、圧倒的に形成的評価の方で、3つの評価をあえてウェートづけると、診断1、形成8、総括1ぐらいが理想と思います。しかし、現在日本で行われている評価のウェートづけは診断0、形成0、総括10ではないでしょうか? それが、生徒の学びも教師の指導もよくならない原因になっています。
★★★ここで紹介されている授業のアプローチととても似た方法を、紹介者自身2000年ごろにオーストラリアで聞いたことがあります。読み書きに熱心ではないアボリジニー(原住民)の生徒たちが多い学校で、動画の制作をしたというのです。読み書きにはまったく興味がもてない生徒たちも熱心に取り組みました。面白い動画の制作には、上にも書いてある「脚本執筆・監督・制作・編集・出演」の最初のステップのためにたくさんの資料を読んだり、そして脚本を執筆することをしなければならないのです。それ(読み書き)自体を目的に設定したら、取り組まない生徒たちも、自分たちの動画づくりのためなら何の文句も言わずに、嬉々として取り組んだそうです。この目的から手段への転換は、ある意味、コペルニクス的な転換です。あなたも、ぜひ挑戦してみてください!
このアボリジニーの動画作成のベースになっている資料は、http://68.77.48.18/RandD/New%20Basics%20Project/NewBasicsrichtasksbklet.pdf です。他にも、「New Basics Queensland」で検索すると関連情報が得られます。
なお、生徒たちが自分の物語をつくり出す授業の参考になる本には、
・『あなたの授業が子どもと世界を変える』
・『子どもの誇りに灯をともす』
・『プロジェクト学習とは』
・『教室から実践するデザイン思考 ― 児童・生徒とはじめる探究と創造のツール』などがあります。
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