2026年2月15日日曜日

コーチングが学校現場にもたらす変化 ― 教師・校長・生徒への影響の大きさ

以下は、エリーナ・アギラ―著の2013年3月に出た『The Art of Coaching: Effective Strategies for School Transformation』(邦訳タイトルは『教師のためのアート・オブ・コーチング~学校を変革する効果的な方法』福村出版、202512月の20~25ページ)からの抜粋です。この本では、コーチングの枠組みと、さまざまな教育関係者が活用できる数多くのツールが紹介されています。

それは、既存の日本の教員研修(校内も校外のセンター研修など)の多くが満たしていない成人教育などの理論や原則★を満たしていないのに対して、コーチングはそれらを満たしていることが違いを生み出しています。

コーチングは学校に何をもたらすのか? 

研究結果は何を示しているのか?

 教師が仕事に就いた後、より多くの知識、スキル、実践、サポートを必要としていることは、一般的に認識されています。『天才! 成功する人々の法則』の著者であるマルコム・グラッドウェルは、複雑なスキルを習得するには、意図的な練習(継続的な改善を促す練習)を1万時間行う必要があると計算しています。これは、学校で働く人々の約7年分です。ほとんどの教師と校長は、専門的な成長を望んでいます。彼らは、教育の専門職として、生徒の学びにとってより効果的なものとなるよう自分のスキルを磨き、その磨いた新たなスキルを実践することを通して、生徒たちがもっと学ぶ姿を見たいと願っています。

 教員研修がどのようなものであるべきかについては、意見が分かれるところです。伝統的に、教員研修は、たとえば新年度が始まる前の8月に3日間の研修を行い、その後おそらく年間を通して数回のフォローアップ・セッションを行うという形式で展開されてきました。このような教員研修は、ほとんどすべての教師が経験したことがあると思いますが、教師の実践に大きな変化をもたらすことはほとんどなく、生徒たちの学習意欲や学力を高める結果につながることもほとんどありません。教員研修に関する2009年の研究によると、教師が自分のスキルを向上させ、生徒たちの学習を改善するためには、ある分野で50時間近くの教員研修が必要です(参考文献15)。「単発の」教員研修の効果がないことに関する研究が積み重ねられるなか、効果的な教員研修の模索が進められています。

 コーチングは、教員研修の不可欠な要素です。コーチングは、クライアントの意志、スキル、知識、能力を構築することができます。なぜなら、コーチングは、他の教員研修では決して踏み込むことのできなかった、教育者の知性、行動、実践、信念、価値観、感情にまで踏み込むことができるからです。コーチングは、クライアントが大切にされていると感じることによって、新しい知識にアクセスしようという意識をもち、実際に実践できるような、安心した関係をつくり出します。コーチはまた、深い振り返りと学びが行われる条件もつくり出し、教師が実践を変えるリスクを取り、意味のある会話を促し、成長が 認識され周囲から喜ばれる環境を育むことができます。加えて、コーチはクライアントに癒しの場を提供します。たとえ喜びに満ちているはずのコミュニティーが困難な状況に陥っていたとしても、柔軟に対応することによって、そのなかで成長する可能性をもたらすことができます。

 校長は、コーチの雇用を検討するときに、コーチングの影響について次のような質問をよくします。「コーチングがどのように学校を変えることができるかについて、研究結果はどうなっているのですか?」「学校を変えるためのコーチングについて、最も効果的なモデルはありますか?」「コーチングによって生徒の学習意欲や学力が向上するという証拠はあるのですか?」

 コーチングで何ができるかを伝えることは、私たちコーチの責任です。しかし、初年度にテストの点数を50パーセント上げると掲げ、学校で働き始めることはできません。そのため、何を達成できるかを明確にする必要があります。幸いなことに、コーチングが教師の教え方を変え、生徒の成果を向上させるのに必要な条件を整えるのに役立つことを示す研究が増えています。これらは、コーチが自らの活動を方向づけるうえで、貴重な資料です。私たちの仕事は、教師と個別に取り組んで実践を改善することだけではなく、それ以上のものを目指さなければなりません。

 現在までのところ、コーチングに関する最も綿密で包括的な研究は、2004年にアネンバーグ財団によって行われた研究です。これは、コーチングの効果に関する強力な裏づけを提供するいくつかの調査結果を報告しています★★。第一に、報告書は、効果的なコーチングが協働的で省察的な実践(本書の340ページを参照)を促進することを結論づけています。教師が一人で取り組む場合よりも、コーチングを行う場合の方が、新しい知識やスキルをより効果的に、継続的に、そして一貫して自分の授業に取り入れることができます。 コーチングは、教師が自分の学びを振り返り、生徒に対する教師の教え方や教師同士の学び合いに活かす能力を向上させるように支援します。

 アネンバーグ財団の報告書から得られた二つ目の知見は、教師が学校で行っている日常の教育活動に統合する形で教員研修を行うと、学校の文化的変化が効果的に促進されるということです。つまり、効果的なコーチング・プログラムに必要な条件、行動、実践は、学校や教育システムの文化に影響を与える可能性があるということです。その結果、教え方の改善は、学校の文化や条件を向上させるためのより大きな努力に組み込まれることになります。

 また、コーチングはデータを活用して実践に役立てる教師の増加にもつながりました。効果的なコーチングは、データが示唆する生徒や教師、学校教育に関する特定のニーズに対応し、学力差の解消や公平性の推進といった課題に的を絞った改善への努力を生み出します。アネンバーグの報告書は、データに基づくコーチング・プログラムが、個々の意見や時には対立する意見ではなく、証拠によって示された重要な重点分野や課題に焦点を当てることで、学校内で一貫した取り組みを可能にしていたことを発見しました。

 もう一つの重要な発見は、コーチングが学んだことの確実な実践と「相互の責任」(コーチとクライアントがお互いに進捗を確認し合うことで、責任感を共有し、成果を上げること)に貢献するということです。コーチングは、生徒と教師のニーズに対して、常に一貫して献身的に応じることを目的とすると同時に、コーチの提供する学びや支援が学校教育の日常的な活動やプロセスのなかに、自然に組み込まれている方法です。同僚たちがコーチの指導のもとに協力し、教え方と学び方の改善に責任をもつようになると、コーチングを通して得られた新しい学びをさまざまな場面で活用する可能性が高まります。

 最後に、アネンバーグの報告書は、コーチングが学校組織全体にわたる集団的なリーダーシップを支援することについても明らかにしました。コーチングの本質的な特徴は、コーチ、校長、教師の関係を利用して、行動、教え方、教科内容の知識などに変化をもたらすやり取りを生み出すことです。効果的なコーチングは、リーダーシップを各教員に分け与え、教師の教え方と学び方、生徒の学び方に焦点を当て続けます。ここに焦点を当て続けることで、リーダーシップスキルの育成、プロの教師としての学び、生徒の学習意欲の向上や学力を向上させる方法を目標とした教師への支援を促進します。

 学校におけるコーチングの分野が発展するにつれ、コーチングが生徒の学びに与える影響を明らかにすることができる質的・量的データを見つけ出し、収集することが非常に重要になってきます。私たちは、教師や学校のリーダーの実践に見られる変化を観察し、私たちの仕事が生徒の学びの改善につながったという証拠を集める必要があります。これは、刺激的で価値を確認できる取り組みです。私たちが効果的だと感じ、よい仕事をしていると客観的に知ることができるのは、こうしたデータのおかげなのです。そのためには、私たちの仕事の範囲を明確に絞り込み、クライアントがどのように成長したかについてデータを収集し、その結果を明確にする必要があります。

学校や教育委員会における非常に効果的で包括的なコーチング・プログラムは、コーチが体系的にさまざまな証拠を収集することによって、コーチングが教師、管理職、生徒に与える影響を明らかにします。

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 以上のように、学校教育におけるコーチングの存在は日増しに大きくなっています。これが書かれたのは2013年ですし、引用している報告書が書かれたのはさらに10年前の2003~4年のことです。その後も、コーチングの影響力は大きくなり続け、いまでは、「コーチング便り」の記事(https://note.com/coachingletter/n/nbce16f70c231)にあるように、その役割はかなり細分化されています。(「コーチング便り」https://note.com/coachingletter/m/ma24c24afc5bd はコーチングに関心がない方にとっても、教員研修をより効果的にするためのアイディアが詰まっていますので、是非たまに覗いてみてください。)

 

★これらについては、以下の記事ですでに取り上げていますのでチェックしてください。

https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/03/plc_18.html

https://projectbetterschool.blogspot.com/2016/07/blog-post_10.html

https://projectbetterschool.blogspot.com/2024/10/blog-post_27.html

https://note.com/coachingletter/n/n01366202289c?magazine_key=ma24c24afc5bd  など

★★ここのアネンバーグ財団の出典は、Annenberg Institute for School Reform. Instructional Coaching: Professional Development Strategies That Improve Instruction. Providence, RI: Brown University, 2004. https://x.gd/xEMWT です。この他にも、アネンバーグ財団は、Neufeld, B., and Roper, D. Coaching: A Strategy for Developing Instructional Capacity Washington, D.C.: The Aspen Institute Program on Education and the Annenberg Institute for School Reform, 2003.https://annenberg.brown.edu/sites/default/files/Coaching%20%281%29.pdf でダウンロード可]を出していました。最近も、https://annenberg.brown.edu/sites/default/files/rppl-building-better-pl.pdf を出しており、コーチングを含めた教員研修の改善に継続的に関心をもち続けています。それに対して、日本にはこういった公益財団がひょっとしたら教育で一番大切な教員研修に興味を示すということは残念ながらまだありません。

アネンバーグの報告書以外にも、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の巻末の訳者解説では、たくさんの報告書や教育委員会等による調査や普及のための資料が紹介されていますので参照してください。

出典:https://www.edutopia.org/blog/coaching-impact-teachers-principals-students-elena-aguilar

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