2022年10月23日日曜日

知識の積み上げが必要な教科において、一斉指導知識注入をどこまで手放していけるのか?

  以上は、ある小学校の先生とのやり取りの中で、彼が書いていたことです。

 本当に「知識の積み上げが必要な教科(小学校段階では、算国理社を指しています)」はあるのか、という(とてつもなく重要な)部分については、次回以降に取っておくことにして、今回は

 従来の一斉指導知識注入の授業か、それとも探究的な学習かの、二者択一ではなくて、この間に存在するより現実的な選択肢を紹介します。

 それにピッタリの本があります。『教育のプロがするメル選択する学び―教師の指導も、生徒の意欲も向上!』マイク・エンダーソン著です。

 その第1章「選択する学びの主要な効果」を読むと、選択肢を提供することが、生徒の学びのレベルを引き上げる最も効果的な方法の一つであることや、なぜ生徒の内発的動機づけを高め、それがどのようにして生徒の学びに好影響を与えるのか理解できます。

 エンダーソン氏はまず、選択肢を提供することで、二つの大きな課題を克服できると主張しています。その二つの課題とは、①「生徒を均一化して捉えること」と②「生徒の無関心」です。

    どんなクラスやグループをつくろうが、生徒たちの知識とスキルの差は存在し続けます。そのための対処法は、生徒に「適切なチャレンジを見いだす」ことです。それは、ロシアの心理学者の、レヴ・ヴィゴツキーが「発達の最近接領域(Zone of Proximal DevelopmentZPD)と名づけたものです。下の表に、わかりやすく示されています。

図化すると、次のようになります。(図の出典は、http://lifenavi-coach.com/archives/72991859.html

表でも図でも、真ん中ある時が、適切なチャレンジでよく学べ、かつ楽しいということです。(一方で、それ以外の部分は、簡単だったり、難しすぎたりして、やる気をなくし、苦痛です!★)

     無関心 ― 「生徒各自がもっているスキルや能力、あるいは知識などは多様です。どんなクラスにも、きわめて多様な興味関心や情熱をもっている生徒がいるものです」(エンダーソン、20ページ)。後者を活かすことができれば(ここでこそ、「見取りと子ども理解」が活かされます!)、生徒はより楽しく学ぶだけでなく時間を忘れて取り組むし、無関心の問題にも対処できます。扱う題材や扱い方(学び方や発表方法など)で選択肢が提供できれば、生徒の前向きな気持ちやオウナーシップ(自分事と思える意識)は高まります。ダニエル・ピンクは、『モチベーション3.0』の中で「コントロール(管理)は従順を生み、自立性は熱心な取り組みを生む」と書いています。「学校では、教師がほとんどのことにおいて何を(どう)すべきかをコントロールしています。私たち教師が授業を考えて教え、課題を出し、その結果を評価しています。一方、生徒たちは、ほとんどコントロールする権限を与えられない状況において、従順に課題をこなし続ける「働きバチ」だと思い込まされています。しかし、彼らに選択肢を提供すると活気づき、自らの学びを自分で考え、より多くの責任も取るようになるのです」(エンダーソン、24~25ページ)

  選択肢を提供することによって、生徒は「より適切なチャレンジの取り組め」「自分の強みや興味関心と関連づけ」「内発的動機づけが高まり」「(オウナーシップをもつことで)より多くの自立性、パワー、コントロールが提供され」「無関心にも対処することができる」ことを述べてきましたが、ほかにもさらなる効果があります。

 ・生徒はより深く豊かな学びに取り組む。

 ・これまで以上に、課題に集中しているところを見せてくれる。

 ・生徒の感情と社会性(SEL)の能力が高まる。★★

 ・協働的な学習の雰囲気が生まれる。

 ・教師は教えることがより楽しくなる。

 これだけの大きな効果があるのですから、「選択する学び」を使わない手はありません! 第2章以降は、それを実現するための具体的な方法が丁寧に紹介されています。生徒が選択する授業は、一つの授業の中でわずか5分間でできるものから、1学期間を使ってするものまで極めて多様です(表1を参照)。短いものから徐々に延ばしていってください。

★「一斉指導知識注入」型の授業の最大の欠陥は、「生徒を均一化して捉え」てしまうことで、どの生徒が「学ぶことが難しすぎる」状態や「学ぶことが簡単すぎる」状態にいるのかを無視してしまうことといえるかもしれません。また、「学ぶことは適度の難しさ」の状態にあったとしても、仲間や教師のサポートが得られないのでは、「一人でできる」ようにはなりにくいという問題を抱えたままになってしまいます。ZPDについては、https://wwletter.blogspot.com/search?q=ZPDをご覧ください。

 ★★このSELの大切さについては、すでに『感情と社会性を育む学び(SEL)』を今年3月に出していますが、今後半年間でもSEL関連の本を3冊出す予定になっています。

 また、一斉授業からの転換を後押しする(それも、生徒に選択を提供するという形で)『一斉授業をハックする―生徒の主体的な学びをもたらす学習センター(仮題)』の刊行を今年12月か、来年1月に予定しています。これは、教室内に(生徒の人数にもよりますが)最低でも4つぐらいの学習コーナーを設置して、生徒がその中から自分が学びたい場所を選んで学習するアプローチです。モンテッソーリ教育をはじめ、幼児教育では当たり前に実践されている方法を、中高でも実践できるように応用した本です。


2022年10月16日日曜日

『不安な心に寄り添う』を読んで

 私立桐朋学園小学校(東京都国立市)の有馬佑介先生が送ってくれたので、紹介します。

 ***

 本から特に2点のことを学ぶことができました。

 1.子どもたち(のみならず大人たち)には「不安」という状態があること

2.授業のなかで「不安」を取り除いていくために「子どもたち自身が学習をコントロールする」ことが大切である

1つずつ説明したいと思います。
読みながら、クラスの特定の子を思い浮かべていました。

その子は、授業中にフリーズしてしまうことがたびたびあります。

僕はその子のその状態をうまく概念化できなかったのですが、まさに「不安」こそ、その子の状態を言いあらわすのにふさわしいと感じました。

「不安」という考え、見方を自分自身がもてたことが、よかったことです。

そういうふうに概念化/一般化できたことで、あやふやな感覚で見ていた子どもの状況を、もう少し明確に見ることができるようになると感じました。

実はこれまで見てきた多くの子どもの中にも、この「不安」というものにとらわれていた子が複数いたように思います。

でも、そのときの自分は、それを「不安」という言葉、現象に表してあげることができませんでした。

他の誰にもおとずれることなんだと言ってあげられず、まるでその子だけがその状況に陥っているかのように考え、伝えてしまっていました。

「そこで初めて、私は『普通なのだ』と感じました」(231ページ)

これからは、「不安」を概念化することで、それにとらわれた子に、こんなふうに思わせるように接していきたいです。

 

この本には、「不安」を抱える子どもたちとどう向き合うかも書かれていました。

本に書かれていることは、これまでもしてきたように思いましたが、それは無自覚に行ってきました。

これからそこに、「不安を取り除く」という観点をもつことができるようになると思います。

授業においては、「ピット・ストップ」や「選択の時間」★★「カンファランス」★★★が参考になります。

この本で書かれていた授業を通じて子どもの「不安」を取り除いていく方法について、ひとつ共通点が見いだせました。

それは、「子どもたち自身が学習をコントロールする」ことです。

ひとつ気になったことは、私たち教員自身が「不安」にとらわれている場合、どうしても自分で学習(子ども)をコントロールしたがるように感じています。

つまり、不安な教員と不安な子どもはとても相性が悪いように感じました。

不安な状態の同僚がいることに敏感になりたいとも思いました。

 

◆割引情報: http://projectbetterschool.blogspot.com/2022/07/blog-post_24.html

 

 どんなに高性能なマシンであっても、レースを終えるまでに何度かのピット・ストップ(モーターレースでレースの間にマシンの修理や調整、給油などを行うことです)が必要です。インディアナポリス500アメリカ、インディアナ州で毎年五月に行われるモータースポーツイベントです。「インディ500」として知られています)でも、インディ・カーは平均で五回のピット・ストップが必要です。59~62ページで、数回のピット・ストップの提供の仕方が書かれています。

 ★★ 『あなたの授業が子どもと世界を変える!』や『教育のプロが進めるイノベーション』で紹介されている「才能を磨く時間」や「20%の時間」のことです。その教師バージョンは本ブログhttps://projectbetterschool.blogspot.com/2021/05/blog-post.htmlで紹介しています。

 ★★★ このブログの姉妹ブログのhttps://wwletter.blogspot.com/の左上に「カンファランス」を入力して検索すると大量の情報が得られます。一言でいうと、最も理にかなった教え方であり、教えることの醍醐味を味合わせてくれる教え方です。(今風にいうと「個別最適化」の教え方です。)さらに言えば、「見取り・こども理解」と指導を同時にやらせてくれる(ということは、「指導と評価の一体化」を実現してくれる)教え方です! ということで、この教え方中心の授業ができるようになると、生徒はよりよく学べますし、教師は教えることに楽しさを見出せます!

2022年10月9日日曜日

認知心理学者が教える最適の2つの学習法「分ける」と「思い出す」

授業や学習場面において、どのような学び方が最も効果的な方法を理解し、使いこなせていますか。それにはあまりにも多くの情報があり、一体どれを選んで良いのかときに迷ってしまいませんか。

 

私たち教員は勘や経験で教育方法を選んでしまい、残念ながら教育実践が研究成果に基づいていないことが多々あります。今回は、ヤナ ワインスタイン (), & 4 その他『認知心理学者が教える最適の学習法ビジュアルガイドブック』(2022 東京書籍)より研究に裏打ちされた最適な2つの学習法を紹介します。この本はビジュアルガイドブックとあるだけに、視覚的にもわかりやすく整理されていますのでおすすめです。

 



心理学の研究からわかった最も支持されている学習方法は「学習時間の分散」と「検索練習」の2つあります。「学習時間の分散」とは試験前の詰め込み勉強ではなく学習時間を分けて勉強する方法です。また、「検索練習」は記憶から情報を思い出す方法であり、生徒が自分自身にテストをし、記憶を取り出し、確認をします。これは、教科書を読み直すよりもはるかに学習効果が高い方法です。

 

「学習の分散」は、学期を通して、または1コマの授業で、学んだことを再確認させたい時に効果を発揮します。例えば、宿題を遅らせて出して、少し前に教えた学習内容について生徒が復習できるようにしたり、簡単な復習を別の授業で扱ったりするもします。また、いつ何を勉強するのか計画するときに役立つ方法は、インターリーブ(交互配置)と呼ばれ、学ぼうとしている学習内容をいくつか選び、それらを混ぜ合わせます。学習する内容を切り替えたり、学習する順番を変えたりすると様々な観点を混ぜ合わせて学習することができるからです。

 

「検索練習」は教室のどのような活動にも取り入れることができます。重要な事は確実に情報を思い出せるようにすることです。なぜなら、記憶は思い出すたびに再構築、強化されます。生徒がテストに答える時、単に記憶を確認しているのではなく、記憶を強化しているのです。例えば、定期試験や小テストを頻繁に実施すると、検索練習を促進することができます。また、記憶を頼りに覚えていること全てを白紙に書き出したり、記憶を頼りコンセプトマップを作ったりすることも効果的で、記憶から情報を思い出す活動はすべての検索型の学習です。

 

これ以外にも、精緻化(なぜ、どのように、質問したり、説明する方法)、具体的(抽象的な概念を学ぶ際には、具体例を使って説明させる方法)、ディアルコーディング(言葉と図を組みあせる方)、なども挙げられます。あり、11章では教師向けに教室実践の方法も紹介されていますので、参考にしたいことばかりでした。

 



 本書P.149より

 

このようにエビデンスのある学習法を用いるときは、すぐに全員にあてはまるものとは、限りません。生徒が身につけるには時間や多くの支援が必要なこともあるからです。しかし、こういった知見を有効に使って、生徒の学びを効果的にすることができます。今年度もいよいよ半年が過ぎようとしています。学びとじっくり、向き合うためのたしなみとして、「学習時間の分散」「検索練習」を活用してみませんか。

 

2022年10月2日日曜日

オーディエンスのヒエラルキー

私たちは、何かを書くとき、読み手のことを思い浮かべて書きます。★1  書きたいこと、伝えたいことが、心の中に湧き上がってきて、それを誰かに伝えたいと思って書くのです。話したいこと、言いたことが、生まれてきて、猛烈に誰かに伝えたくなって話します。それが、表現することのもっとも根底にあるエネルギーのはずです。

しかし、今の学校教育で行われている、書くことや話すことは、多くの場合、先生が点数(評価)をつけることが目的になってないでしょうか。先生が、唯一の「読者」であり「聴衆」「オーディエンス」になっているのです。

これでは、本来の書くこと、話すことの本質から大きく外れてしまうかもしれません。「より高い点数をとること」に囚われた表現活動になってしまう恐れもありそうです。

この問題を考えるときに、「オーディエンスのヒエラルキー」という考え方が参考になりそうです。

これは、もともとは、アメリカの教育団体 EL Educationのチーフ・アカデミック・オフィサーであるロン・バージャーという人が提案したものです。★2 聴衆や読者にも、階層があって、そのレベルに応じて、生徒のモーティベーションや取り組みへの集中力が変化するという考え方です。

藤原さとさんが、各階層を分かりやすい日本語に翻訳してくれています。★3 階層の上に行くほど、モーティベーションが上がっていくことになります。非常に上手く日本語にしてくれていますが、原文の英語と比較すると、さらに明確になるので、オリジナルの表現も添えて、[注]という形でコメントも添えています。

オーディエンスのヒエラルキー

◉世界に対する実際のサービス

 (To be of service [注]少し分かりにくいですが、発表すること、表現することが、実社会に役立つという意味だと思います。serviceは、日本語の「サービス」のイメージとはやや異なり、貢献や業務、公務といった意味を含みます。)

◉プロフェショナル・専門家

 (To present to people capable of critiquing: [注] critiqueというのは、「詳細にかつ分析的に理論や実践を評価する」という意味です。

◉学校外の一般の人たち

(To present to a public audience beyond the school)

◉教師・保護者・他学年などの学校コミュニティ

(To present to a school community)

◉保護者

(To present to parents and peers: [注]原文ではpeersが入っています。保護者とクラスメートとほぼ同等のレベルにおいているということでしょうか。藤崎さんが翻訳に含めていない理由は分かりませが、日常性を離れるということが一つの要件と考えているのでしょう。)

◉教師(To fulfill a requirement: [注]原文は、成績をつける、単位を認定するといった意味合いですね。それを「教師」と翻訳しているのが言い得て妙。)


学校のプロジェクト型学習や探究的な活動の発表会に、外部の審査員や助言者を招聘するケースは増えてきていると思います。中高生が行政に政策提案をしたり、企業にアイデアを提案したりということも増えてきました。

私たちは、そのような発表の機会を企画する時に、オーディエンスのヒエラルキーの意義を再確認しておきたいものです。


★1  書くことが目的化してしまっている文章は世の中にはたくさんありますが。。。

★2  EL Educationのサイト

https://eleducation.org/resources/hierarchy-of-audience

★3 藤原さと(2020)『「探究」する学びをつくる』(平凡社) p.90

2022年9月24日土曜日

算数・数学は抽象的な概念を学ぶためのもの

 

週に何回か小学生と一緒に算数を学ぶ機会があります。そのなかで、算数は学んでいく上で大きなポイントがいくつかあることを改めて感じています。

まず、小学校1年生で学習する「繰り上がりのあるたし算」をやっていくのに必要な「たして10になる数」、たとえば3+□=10の□に入る数が何か、これがすぐに出てくると繰り上がりのあるたし算の計算がスムーズにいくわけです。ですから、1~9までの数字に何を足せば10になるのかをかけ算九九のように暗記できればその後の計算が楽になるということです。

それから、2年生で扱う「かけ算九九」があります。これができていないと小学校の後半及び中学校の数学が非常につらくなります。また、小学3,4年生で学習する小数も小数点の位置などをしっかり押さえておかないと先に進めません。また5,6年生で習う分数の四則計算も「通分」といった概念が理解できていないと正しく計算できません。

ただこのような計算技術が身につけばよいかというと、そうではなくて「計算の意味」を理解することもまた大切です。しかも子どもたちが自分で納得して、理解することがポイントです。そのために算数では、具体物の操作を通して理解するために様々な教具がこれまで開発されてきました。それによって、「具体」から「抽象」へと理解が進んでいくわけです。

そして最終的な目標と言うのは、「抽象的な概念・思考を学ぶ」ことになります。そして、小学校高学年以降の算数・数学は目に見える具体物への応用がなくても、抽象的な思考(想像力)を可能にする学問と言えるでしょう。このあたりのことについては、『数学にとって証明とは何か』(瀬山士郎・講談社ブルーバックス2019)が参考になります。この抽象的な思考力は人間の特長であり、人間の考え方の基礎となるものです。

たとえば「分数」を学ぶことは、その概念理解と、計算技術を学ぶことを通して、抽象的な経験をすることになります。また、数学の「証明」という分野もあらゆるものごとを論理的に判断する基礎力となります。算数・数学が嫌いという子どもたちも多いと思いますが、教師としてはこのような背景があることを理解して、指導に当たることが必要でしょう。 

現在では計算技術を身につけることは、AIで最適化されたコンテンツ学習をICT利用によって学ぶことで充分可能です。そして、先ほども述べたように、大切なのは「計算の意味」を子どもたち自身が納得する形で理解することです。それは子どもたちの問いを出発点として、小グループでの学びを中核に据えた授業によって可能になると思います。 

昔読んだ数学の本の中で、数学は中学→高校と進むにつれて、ちょうど山を登っていくように上に行くほど景色がよくなり、山の様子がよくわかると書いてあったことを思い出します。中学校での因数分解、平方根、二次方程式があまり興味を持てない内容だとしても、高校数学になるとそれらを活用した問題、さらには微分・積分に話が進むと一気に視界が開ける感じです。そんな面白さを子どもたちに味わってもらえるように、「計算技術」と「計算の意味」が納得できるような学びを大切にしたいものです。今、定期的に教えている小学生の子どもたちを見ていて日々そんなことを考えています。

 

 

2022年9月21日水曜日

教師が生き生きすれば、子ども(や社会全体)も生き生きするはず!

以下は、明日発売の『教師の生き方、今こそチェック! あなたが変われば学校が変わる』(アンバー・ハーパー著、新評論)の「訳者あとがき」からの引用です。

 あなた自身の、そしてあなたの職場の「働き方改革」は進んでいますか?

 最近は、これまでの教職員の働き方の現状を示す言葉として「定額働かせ放題」「やりがい搾取」などが広く聞かれるようになりました。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、教師の仕事が増えたことも大きく取り上げられています。さらに、中学校の土日の部活動を地域に移行するという大きな計画が始まっています。こうした背景があって、どの学校でも、いわゆる「働き方改革」を進めようという動きが強まっています。

 しかし、本当に「働き方改革」は進んでいるのでしょうか? ただ早く帰ることだけを「よし」としているのではありませんか? 本来は、それぞれの生活(人生)にゆとりをもち、有益な時間の使い方をすることが目的だったはずなのに、早く帰ることそのものが目的となっていることも多いのではないでしょうか? 本書は、そういう人にこそおすすめしたい本です。早く帰れるようになったからこそ、時間の使い方を考える必要があります。本書では、仕事と成長が両立できるようなあり方を目指しています。

現在置かれている環境に安住せず、成長を求めてチャレンジをしていくあなたの姿、それこそがあなたの目の前にいる生徒にとって一番のお手本になると思います。ぜひ、本書を読んで、書き込みなどをしていただくとともに、自分自身を振り返ってください。改めて時間の使い方を考えれば、きっとすばらしい成果が現れるはずです。

 また、学校での仕事量が減らず、人から割り振られる仕事が多すぎて困っている人にもおすすめです。本書では「ノー」と言うことの難しさについても書かれていましたが、日本ではさらにその傾向は一層強いように思われます。あなたも自分の人生を大事にして、上手に断ること、時間をかける必要がないと思われる仕事はやめるようにしてください。

このように、日本で働くすべての教師に向けて、働き方のヒントが段階を追って、具体的に書かれているのが本書です。言ってみれば、働き方改革ではなく「生き方改革」だと思います。本書を翻訳して、その思いを強く抱きました。ちなみに、タイトルやサブタイトルを原書とは異なる表現としました。

本書が多くの方の手に渡り、ご自身の生き方を少しでも変えるきっかけとなり、生き生きとした教師が増えれば、きっと日本全体がもっとよくなるはずです。そんなことを夢見て、本書の翻訳を仕上げました。

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飯村さんの奥さんが、各章にイラストを添えています。たとえば、

 

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2022年9月18日日曜日

サイクルを回し続けることで自立的な学びの姿勢を育てる『社会科ワークショップ』とは

『社会科ワークショップ』を中心になってまとめた横浜市の冨田明広先生が、その核である「探究のサイクル」の大切さについて書いてくれたので紹介します。


                    *****


 社会科ワークショップで学ぶ子どもたちは、自ら調べ、考え、表現し、問いを導き出していきます。どうしてそのような主体的な学習が可能なのでしょうか? 「探究のサイクル」を中心に説明し、社会科ワークショップの魅力についてご紹介したいと思います。


 一般的な社会科の授業というと、教師が問いや資料を提示し、子どもたちが調べたり考えたりして、意見を重ねていく活動が一般的です。このような学習ならまだ良い方で、教師が情報や資料を独り占めにし、それを少しずつ子どもたちに分け与えていくような授業も見られます。つまり、子どもたちが教師によって飼い慣らされてしまっているような学習です。これでは、主体性が育つどころか、受動的学習姿勢を主体的に身につけてしまうような(ないし、忖度するのが得意な)子どもが育ってしまいます。

 毎回教師の出す問いや資料によって子どもの学習が始まるのであれば、教師の問いや資料がないと学習をスタートすることができない子どもになります。主体性とは、教師の敷いた学習計画通りに従順に学んでいく力のことではありません。


(出典:『社会科ワークショップ』P83)

 社会科ワークショップでは、社会科の学習プロセスを「探究のサイクル」という図で説明しています。これが円環という形で示され、各ステップを往還しながら向上していくことがポイントです。自分のペースで次のステップに進むことができるので、じっくり取り組みたいところに時間をかけたり、残された時間によって簡単に済ませたりすることも、その子どもに任せられています。

 また、戻ることができるのもポイントです。私たち大人も、調べていたら新しい疑問が湧いてきたり、発表資料を作っていたら良い考えが思い付いたりすることがあります。子どもの頭の中で起こった思考のチャンスを、子ども自らが成果に変えていきます。教師が「まずはテーマを作りましょう」や「次に調べてまとめましょう」と明確に区切り過ぎると、子どもたちの学びのチャンスや可能性を制限してしまうことになります。

 学習プロセスが「1 単元の見通しを持つ」「2 〇〇について調べる」「3 〇〇について自分の意見を発表する」のような単線型(ないし、一方通行)の学習計画の場合、全員が同じ活動を行っていることで、教師にとっては一斉の支援を行いやすくなるメリットはあるでしょう。しかし、子どもにとってみれば、教師が学習進度を調整するために「待て!」を食らったり、もっと立ち止まって丁寧に理解したいのに「次!」と急かされたりすることを意味します。これでは主体者意識をもって学べる子はごく少数になることでしょう。教師の進むスピードと偶然に波長が合う子ならばよいですが、教師と波長を合わせることで過適応(忖度?!)してしまう子を育ててしまうことになるでしょう。

 さらに、サイクルがまた最初に戻ることにも良いことがあります。それは、最初にサイクルを回し始めた自分と、2回目や3回目にサイクルを回す自分との違いを感じることで、自らの成長に気がつけるということです。最初に心配しながらテーマを選んだり発表準備をしたりしていた子でも、次のサイクルを回す時には、少し余裕をもって問いをつくり発表に臨んでいるはずです。子どもは同じサイクルで学んでいるからこそ、自己の成長を振り返りに書き留めることができますし、教師もそれに気づいて子どもの変化を一緒に喜ぶことができます。毎回、学び方の違う打ち上げ花火のような学習方法では、自分の変化に気づく「自己評価の機会」をつくることは難しいでしょう。

 探究のサイクルを使って、行きつ戻りつしながら自分のペースで学び、学習の主体者性を育んでいくことができるのが、「社会科ワークショップ」をはじめとしたワークショップの教え方・学び方の魅力の一つであります。

 

 一つ一つのプロセスの詳細については、『社会科ワークショップ』第4章をご覧ください。具体的な子どもたちの活動を例に挙げて、紹介しています。


 さて、この探究サイクルを子どもたちが自分の力で回すことにより、教師には時間の余白が生まれます。今まで、子どもたち全員に向かって「さて、学習問題はこれです」や「今日みんなで考える資料はこれです」のような全体に向けての発問や指示を行う機会が激減するからです。また、学習を始める前に、自分で手に取れる本や資料のコーナーを設置します。つまり、学習環境から自分の意思で支援を受け取れるように場の工夫を行います。学習環境はもう一人の教師です。

 これにより、教師にさらに余白が生まれます。その余白で教師が行うべきことが、カンファランスです。

 カンファランスとは、「教師が一人ひとりの子どもの様子を観察し、話をしっかりと聞くことでその子どもの学習状況を把握し、子どもにあった助言や指導を行っていく方法のことです。さらに、その助言や指導の成果を評価し、指導の仕方を調整しながら支援していきます。」(『社会科ワークショップ』P172より)です。

 社会科ワークショップでは、基本的に一人ひとりがそれぞれの興味関心や体験などに応じたテーマを設定します。それにより、学習の主体者性を涵養し、主体的な学習姿勢を経験していきます。しかし、これにはもちろん個に応じた指導が必要になります。子ども一人ひとりの学習状況を理解し、それに応じた支援を行っていくことが大切です。

 探究のサイクルは、年間を通じて回していくので、子どもたちは社会科ワークショップの学習の仕方に慣れていきます。また、カンファランスを通じて、知識以上に、「探究のサイクルを回す」という学び方についての助言や指導が行われるので、段々と自分だけの力で探究という学び方に熟達していきます。そして、子どもたちの振り返りも、「探究のサイクルがうまく回せたかどうか」という視点で行います。こうして、4月から始まって前期の終わりの10月頃には、探究のサイクルを中心に据えた社会科ワークショップでも安心して学べるようになり、本質的な問いを探したり、聞き手に届く発表になるよう工夫したりと、探究の質を高める方向へと舵を切っていくことになります。

 教師は、子どもを学習させるために支援をするのではなく、探究のサイクルを活かして動き始めた子どもたちが、自分の決めた目的地へと近づけるように支援をしていきます。もうすでに動いている子どもたちに対して、助手席からその子の自己実現へと方向性を指し示すように、子どもと同じ方向を向いて支援をしていくのです。


 大人も子どもも、私たちが経験する自然な探究では、誰にも教えられることなく、このサイクルを機能させています。探究したい事象との素晴らしい出会いがあり、心が動き、問いが起こり、体は自然とその事象を探し求めてしまいます。仮説はトライ&エラーを生み、「あんな時は? こんな場合は?」と抽象化させていきます。気づいたときには、子どもたちはまた新しい事象と出会い、初めて経験することへのワクワクで居ても立ってもいられずに、対象を自分なりに表現しようとしているはずです。そう、本質的には、探究のサイクルは生得的で本能的なものであるとも言えます。

 子どもの探究の質を、さらに磨いていくためには、自分自身を振り返る視点が必要で、その時の有効な言語の一つが探究のサイクルで使われている言葉になるでしょう。

 子どもたちの体験を大切にするユニットの場合には、サイクルは自然に起こるものなので、教師が探究のサイクルをあえて明示する必要がないですし、子どもの思考とはそぐわないものを示すことでかえって子どもには違和感しか感じられないかもしれません。3・4年生でサイクルを示すのであれば、言葉を優しくしたり、シンプルにしたりすることもできます。「記者になろう」や「観光親善大使になろう」などの専門家に成り切る設定にして、その仕事のプロセスから探究のプロセスを生み出すことも可能です。

 大切なことは、探究のサイクルは、子どもたちがいきいきと学習するために活用されたり、アセスメント(評価)を行う教師の視点の一つとして活用されることが大切で、子どもたちの学習を無理に定義付けたり、区分したりするために活用されてしまうことがないように気を付けなければなりません。


中学年の社会科ワークショップで冨田が活用した探究のサイクル


 探究のサイクルは、子どもの主体性を育み、教師を黒板の前から解放する、子どもにとっても教師にとっても主体者意識を高める仕組みとなります。それは、本来、生得的に人が持っている知的活動を表現したもので、学校という人工的なカリキュラムと自然でオーセンティックな(本物の)学習との橋渡しになる役割があるでしょう。子どもたちが、学校や教室で学習の主人公となれるように、是非とも、探究のサイクルを生かして学習環境を構築して欲しいと思います。


 サイクルの学び方は、特別支援学級でも効果を発揮しています。こちらも参照してください。

https://tommyidearoom.com/%e7%89%b9%e5%88%a5%e6%94%af%e6%8f%b4%e5%ad%a6%e7%b4%9a%e3%81%a7%e4%bd%9c%e5%ae%b6%e3%81%ae%e6%99%82%e9%96%93/