2005年にアップルのCEOスティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ★1 で、"Stay hungry, Stay foolish"と呼びかけました。直訳すれば「貪欲であれ、愚か者であれ」という意味ですが、ジョブズが言いたかったことは、「現状に満足するな、常識にとらわれるな」ということでしょう。自分自身の心や直感を信じて、真に情熱を注げるものに打ち込めというメッセージに、多くの人が心を動かされました。
一方、嫌なこと、辛いことでも、辛抱して努力すれば成長がある。そのようなメンタリティーを大切にしてきた日本人にとっては、少しまぶしすぎるくらいの言葉です。投資家の藤野秀人さんは、TEDでのプレゼン「投資の力で日本を根っこから元気に」の中で、日本人の勤労感に関する調査について、興味深い見解を披露しています。「できれば働きたいくない」と答えている若者が28.7%もいるというのです。彼はいくつかの調査結果をもとに、日本人は勤勉と言われてきているが、実は「働くことを「ストレスと時間をお金に換えることと」考えている」のではないかと述べています。苦行をもってして、何かを成し遂げようとしているのだと。★2
私たちは、意義も価値も見いだせないような業務に追いまくられる日常をなんとかしたいと思っています。もっと授業を深めたい、もっと子どもたちと向かい合いたい、もっと教員として成長したいと。でも、そのような気持ちは胸の奥にしまって、日々の仕事に追われている教員が多いのかもしれません。
学校として何かできることはないか。そのヒントとなるのが、「パッション・プロジェクト(大人も情熱を注げるプロジェクト)」です。
Passion project という言葉は、辞書にも載っていて、ケンブリッジ英語辞典によると「収益を目的とせずに、その作品が好きで、つくる価値や意義があるという理由で制作された作品、特に、映画のこと。(a piece of work, especially a film, that someone gets involved in because they love it or feel it is very good and important, not in order to make money)とあります。
Googleが始めた、仕事時間のうちの20%を自由に使って良いという考え方から、多くのクリエイティブなものが生まれてことはよく知られていますが、それに触発されて始まったのが、児童生徒による「ジーニアス・アワー(才能を磨く時間)」でした。これによって、学校の一部の時間を自分の好きなことに使うという運動が巻き起こりました。この時間は、生徒たちを猛烈に突き動かしたようです。★3
このジーニアス・アワーの教員バージョンが、パッション・プロジェクトなのです。
パッション・プロジェクトは、教員一人ひとりが、探究したいテーマに、情熱を傾けることができる、教員主体の学び方です。全員が一斉に同じテーマの研修を受けさせられるのとは異なります。この方法に移行した学校では、学校文化の変容を感じたと言います。個人の成長と学校の成長の両方を達成する、大きな力を持っていることが証明されたのです。
『学校リーダーシップをハックする』は、一つの章をパッション・プロジェクトに割いています。そこには、「研修を学校現場から切り離したものと捉えてしまうと失敗します。改善を急ぎすぎることで、多くの提案や命令は強制され、その結果、人々はオウナーシップをもてず、そのプロジェクトは撤退を余儀なくされるのです。私たちには、州や連邦政府レベルで起きていることをコントロールすることはできませんが、職場の教員の声を生かし、彼らの主体的な学びを生み出す方法を見出したのです。」(原著 p.118)と記されています。★4
まずは、校内研修の20%を、既存の枠組みから外して、教員に任せてみませんか。教員一人ひとりが情熱を注げるプロジェクトに取り組む学校。そんな魅力的な学校で、働いてみたいと思いませんか?
★1https://www.youtube.com/watch?v=UF8uR6Z6KLc
★2 https://tedxsapporo.com/talk/revitalize-japan-with-the-power-of-investment/
★3 Denise Krebs and Gallit Zvi (2020) The Genius Hour Guidebook - Fostering Passion, Wonder, and Inquiry in the Classroom, Routledge.(「才能を磨く時間ガイドブックー情熱、驚き、探究心を育てる教室作りー」) 『あなたの授業が子どもと世界を変える』および『教育のプロがすすめるイノベーション』でも紹介されています。
★4 近日発刊予定の『学校リーダーシップをハックする』第8章。パッション・プロジェクトを学校で実践するための具体的な提案がなされています。
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