2026年6月14日日曜日

主体性とは、揺れながら相談し続ける力

 主体性という言葉は、教育や保育の中でとても大切にされてきました。その意味を「自分で選ぶこと」「自分で決めること」「自分から行動すること」とだけ捉えてしまうと、子どもの姿を少し狭く見てしまうのではないかと感じています。

 

自分で選び、決め、行動することは大切です。しかし、子どもはいつもはっきりとした意思をもって動いているわけではありません。やりたいけれど不安。入りたいけれど怖い。友だちと同じようにしたいけれど、自分のやり方も捨てたくない。そうした揺れの中にいることがたくさんあります。





 

久保健太さんの『写真と動画でわかる!主体性が湧き出ちゃう保育』を読んで、特に大事だと感じたのは、主体性を二つに分けて考える見方です。一つは「感じる主体性」です。「やりたい」「やりたくない」「なんかいい」「なんか嫌だ」といった感覚が、その子の内側に湧き出ている状態です。もう一つは「考える主体性」です。湧き出てきた感覚を自分なりに確かめながら、するかしないかを決めたり、どのように表すかを調整したりする働きです。

 

これまで主体性というと、後者の「考える主体性」が中心に語られてきました。大人が選択肢を用意し、子どもが選ぶ。子どもが自分で決める。自分から行動する。それは確かに主体性の一部です。ただ、それだけでは、まだ行動として表れていない子どもの内側の動きを見落としてしまいます。

 

冷たい海を前にして立ち止まっている子がいるとします。入りたい。でも冷たい。楽しそう。でも怖い。その子は何もしていないように見えるかもしれません。実際には、世界を感じ、自分の体の声を聞き、自分の中に湧いてくる感覚と向き合っています。そこにも、主体性はあります。

 

主体性を大切にする教育とは、子どもにただ選ばせることではありません。子どもの中から何かが湧き出てくる時間を保障することです。迷う時間、立ち止まる時間、試す時間を奪わないこと。そして、大人がすぐに「こうしなさい」「こっちが正しい」と決めず、その子が何を感じているのかを一緒に受けとめること。

 

子どもが没頭しているときにも、この二つの主体性は重なっています。最初のアイデアが次のアイデアを生みます。やってみたら、また別の考えが出てきます。最初に大人が用意した選択肢をきっかけにしながらも、子どもの中から新しい選択肢が生まれていく。そこでは、「感じること」と「考えて表すこと」が絡み合っています。この状態こそ、主体性が豊かに働いている姿だと教えてもらいました。

 

もう一つ大事なことは、主体性を自己発揮だけで考えないことです。主体的であるというと、自分の思いをどんどん出すことのように思われがちです。実際の子どもの育ちはそれだけではありません。「やりたい」というアクセルだけでなく、「今は止めておこう」「相手はどう感じているだろう」というブレーキも、自分で預かれるようになっていくことが大切だからです。

 

誰かに止められるから我慢するのではなく、自分で感じ、自分で考え、自分で調整する。これは、自己抑制でありながら、同時に主体性の働きでもあります。主体性とは、何でも自分の思い通りにすることではありません。自分の願いと、相手の願いと、その場の状況を感じながら、どうするかを考えていく力なのです。

 

その意味で、主体性は一人で育つものではありません。人との関係の中で育ちます。自分の自由を感じると同時に、相手の自由も感じる。自分のやりたいことを出しながら、友だちのやりたいことにも触れる。そこでぶつかったり、迷ったり、相談したりする。その中で、少しずつ自分たちの決まりをつくっていく。ここに、主体性の育ちがあります。

 

大人は、つい先回りして答えを渡したくなります。「こうすればいいよ」「そこは違うよ」「こうした方が早いよ」と言いたくなります。もちろん、安全に関わる場面では大人の介入が必要です。しかし、子どもの試行錯誤まで奪ってしまうと、主体性が湧き出る余地は小さくなります。

 

主体性とは「自分で決める力」だけではなく、「揺れながら、自分や他者や世界と相談し続ける力」かもしれません。自分の中のさまざまな声と相談する。隣にいる友だちの声と相談する。ここにはいない人の声とも相談する。その中で、自分たちで決めていくことが、主体的に生きることなのだと考えています。

 

教育の中で主体性を大切にするとは、子どもに任せきることではありません。大人が導きすぎることでもありません。子どもの揺れを信じ、関係の中で共に考え、必要な支えを差し出しながら、決まりや学びを一緒につくっていくこと。主体性は、個人の内側に最初から完成した力としてあるのではなく、安心して感じ、迷い、試し、失敗し、誰かと笑い合う関係の中で、少しずつ湧き出てくるものなのだとこの本から学びました。

 

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