2025年6月1日日曜日

大きなボタンの掛け違えが、子育てでも、学校教育でもおきている!?

 7月に出版予定の『"しない"が子どもの自力を伸ばす――叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』(マイケリーン・ドゥクレフ著、築地書館)の共訳者の「訳者あとがき」は、

 SNS上で「#母親やめたい」という投稿をよく見かけます。

で始まっています。(「#父親やめたい」は、まだなさそうです! 「やめたい」と言うほどやっていないから?)教師も、母親と同じ状況にありますし、どんどんやめる人が増えています。母親と教師には、置かれている状況ややめたい理由に共通点が多そうです(いくら頑張って取り組んでも、これでいいということはないし、感謝されず、報われることもないなど?)。

 ヘリコプター・ペアレンティング(管理的な子育て)もフリーレンジ・ペアレンティング(自由放任の子育て)も、親にとっても子どもにとっても不幸というのが、この本を読むとわかります。それに対して、第3の方法である人類が20万年前から長年やってきたTEAMペアレンティングに転換できると、関係者は全員楽になるだけでなく、幸せにもなります。その成功間違いなしの方法について詳しく説明されているのが本書です。子育てにはもちろん、学校で行われている教育(授業)でも役立つと思って訳しました。なお、TEAMは、子育てと、会社や行政などの組織でも当たり前にやられ続けている「叱る、ほめる、コントロールする」の反対の共に過ごすこと、励ますこと、自立、最低限の干渉の4本の柱の頭文字をとっています(本は、これら4本の柱で構成されており、実際にこれらを実現するための方法が詳しく書かれています!)。

 3つのペアレンティングと4本の柱は、そのまま教師のティーチングに応用できます。

 3つのペアレンティング(特に、管理的な子育て)に関して、共訳者は次のように書いています。

 私自身、約二〇年間、学級担任や教科担任として、生徒の成長を願いながら、学校で働いてきました。自分の意見をもち、他者の考えに耳を傾け、自分で考え行動できる人になってほしい。そんな思いから、生徒の主体性を引き出そうと、本書の第2章の三つの習慣★(51~59ページ参照)さながら、❶教室にあらゆる教具を持ち込み、❷さまざまな活動を用意し、授業では生徒が失敗しないように先回りして指示を出し、活動状況を監視し、❸小さなことも見逃さず大げさに褒めたたえ、不適切な言動に対しては口うるさく注意してきました。けれどもその結果、私の思いとは裏腹に、生徒の主体性は育たず、生徒は反発し、私自身も疲れ果て、お互い思うようにならない状況に嫌気がさしてしまうこともありました。本書を読みながら、当時の苦々しい記憶がよみがえり、「私が生徒たちをコントロールしようとしていて、生徒はその支配に抵抗していただけだったのか」と気づき、愕然としました。教室で、成長につながらない無駄な「権力争い」を繰り広げていたのです。

★子育ての際の3つの習慣は、①いろんなおもちゃを山積みに、②学びの祭典(学びの楽しさを追求する場や活動)、③ほめて、ほめて、さらにほめまくる、です。これらの授業や学級経営への応用が、❶~❸に相当しています。

 この本は、この三つの負の習慣を、三つの正の習慣に転換するというよりも、公式(子どもに教える際の手順)に気づくように促されます。その公式とは

  練習+モデル+承認=スキルの習得(身につく形での学び)

です。私たちは、子どもたちが悪いことを学ぶ際にも、いいことを学ぶ際にも、この公式(手順)を使っており、そのことに気づけたら、悪いことには極力使わずに、いいことに使えるようになります。本の中では、本の中盤(85、122、163ページ)で3つの要素(ステップ)を詳しく紹介してくれた後、後半(216、327、379、386ページなど)では繰り返し思い出させてくれますから、読者も自然に身につけられるようになっています。

 以上のTEAM子育て(=授業)の「共に過ごすこと、励ますこと、自立、最小限の干渉」の4つの要素と、子どもに教える際の公式(3つの手順)がなんといっても、本書の2本の柱ですが、他にも子育て(=授業や学級経営)に参考になることがたくさん書かれています★★ので、『"しない"が子どもの自力を伸ばす――叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』を是非ご一読ください。

★★それらについては、次回以降に紹介していきたいと思っています。たとえば、その一つがアロ・ペアレンティングであり、それの教育への応用としてのアロ・ティーチングです。アロ・ペアレンティングとは、親以外の人たちが他人の子どもを育てたり世話をしたりすることを指す言葉で、特に動物の社会でよく見られますが、人間の場合も狩猟採集コミュニティーでは昔も今も行われています。吉田松陰の松下村塾も、緒方洪庵の適塾も、塾長のみが教えていたのではありません。先輩たちが後輩たちを教える仕組み(そうすることで、先輩たちも、よりよく学べる!)や、塾生同士の学び合いが中心でした。

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