今日の教え方・学び方のイノベーションの視点の一つは「個別化」です。ただ、言うのは簡単ですが、実行するのは容易なことではありません。
3年前から家族で学習塾を開いているのですが、その塾のコンセプトは「個別学習」です。「個別最適化」はICT教育において盛んにPRされていますが、その子の学びの特徴や学びの内容、また性格に応じたサポートのあり方など考えればきりがありません。しかし、ボランティアではないので、どこかで妥協することも必要です。したがって、いつも理想と現実のはざまを行ったり来たりしている状況です。「個別最適化」で、参考になる文章に出会いました。
『英語と日本人』(江利川春雄・ちくま新書2023)です。(同書279ページ)
「個別最適な学びとは各自がコンピュータでAIドリルを解くなどの究極の習熟度別授業だ。これを先行実施した諸外国の研究では、教育効果が乏しいことがわかっている。学習者同士のつながりを断ち切り、孤立させてしまう。脳を最も活性化させ、学びを深めるのは、人間同士の協同的で探究的な活動である。
これらを知った上で、デジタルやAIを外国語学習に慎重かつ限定的に活用する必要がある。」
その通りだと思います。デジタル教材はどの教科でも限定的に使うというスタンスが望まれます。ただ常に学習を変革していくという姿勢は大切です。
「学習は変革につきものだ。うまくいっても、いい気になると、昨日通用したものが明日も通用するという錯覚に陥る。」(『教育のプロがすすめるイノベーション』第1章7ページ・新評論・2019)
まさにその通りで、ある子どもにうまくいったからといい気になっていると、別な子どもにはさっぱり通用しないということがよくあります。まさに使いまわしが利かないのが一人ひとりの学習です。同書15ページには次のような記述もあります。
「教師にとって毎日問われなければならないことは、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか」ということです。」
今でも、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか」というフレーズは常に自分自身に問い続けていることです。このような問いかけこそ、イノベーションのスタートであると、同書にも書かれています。(14ページ)
また、その部分には「奉仕する」という言葉が出てきます。そこの訳注には、「日本の教育界で、『教師が生徒に奉仕する』という感覚はまだ希薄だと思いますが、単に「かかわる」や「接する」と訳してしまっては、教師自身が絶えず挑戦し、変わる必然性は見えてこないと思いますし、この言葉が原書のキーワードの一つであることからも、この聞きなれない言葉を使うことにします。」とあります。この「奉仕」という視点は、教師としての使命感に通じる大切なポイントです。
また「教師自身が絶えず挑戦」ということもイノベーションに通じるものであると思います。『変わらないために変わり続ける』とは、生物学者・福岡伸一さんの有名なフレーズですが、教師も学校も、「変わり続ける」必要があるのではないでしょうか。福岡さんによると、ヒトの体を構成する原子は、1年もするとすべて入れ替わるとのことです。原子レベルで言うと、1年前の私と今の私は別人なのです。ですから、人は自身が変わろうと思えばいくらでも変わることのできる存在という見方もできます。そう考えると、面白いですね。
イノベーションというと何か全く新しいものをつくり出したり、新しいことをやるといったりしたイメージが強いですが、たとえば、「授業で自分がしゃべる場面を減らして、子どもたちの発言を聞く」というところからスタートすることでも充分だと思います。
そうした際にはぜひ自身の「質問・発問」を見直してみるのが良いですね。質問・発問を考えるならば、『たった一つを変えるだけ』『質問・発問をハックする』(どちらも新評論)がとても参考になります。
0 件のコメント:
コメントを投稿