2021年10月3日日曜日

学校の物語を語ろう 〜「ストーリーテリング」の力〜

高校の世界史の先生はストーリーテラーでした。ジンギスカーンを語れば、黒板の右から左へ、馬に乗って砂漠をかける姿が目に浮かんできました。ワクワクしました。時空を超える感覚というのでしょうか。その時のワクワクした気持ちが、私を教職に向かわせたと言っても過言ではありません。今でも、夕闇迫る教室の光景を鮮烈に覚えています。

ストーリーの力は強力です。マーサ・ラッシュも『退屈な授業をぶっ飛ばせ』★1で、ストーリーテリングにまるごと一章を割いているくらいですから。彼女は、物語の力を力説するストーリーテリング研究者の言葉を数多く引用しています:

「口頭によるストーリーテリングは、人間文化の中で最強のコミュニケーションの形と言っても良いだろう。(p.61)」(ウエイン州立大学クレイグ・ローニー)

「教材が、「覚えることリスト」のようにきっちりと整理され、凝縮された事実だけになってしまったら、生徒は学ぼうしとしなくなるだろう(p.73)」(ジョージア・サザン大学ディローレス・リストン)

ストーリーテリングが、人の心を揺り動かし、人を行動に誘う力をもっていることが、とてもよく表現されていると思いませんか。

このストーリーテリングの力を、学校と保護者・地域とのパートナーシップづくりに活用してはどうか。『学校リーダーシップをハックする』★2 の第5章では、そのような提案がなされています。

生徒に物語を語ってもらうことで、学校と家庭、地域の間のつながりを強化しようという試みです。学校は、基本的に受け身で、地域や家庭と積極的につながりをつくろうとしない傾向があります。そのような旧来の考え方を打ち破り、学校から主体的に情報を発信しようというのです。

学校での出来事や授業で学んだこと、できるようになったこと。そのようなことを、興奮気味に、生き生きと伝える生徒の声は、学校に関わるすべての人を変えてしまうくらいのインパクトがあるはずです。

これを実践している学校では、ポッドキャストやビデオキャストを利用して、学校の物語を配信しています。学校内での素敵な出来事を取り上げて、保護者や生徒に知らせる週一回の番組を作っている学校もあるそうです。もちろん、ニュースキャスターは生徒です。

「私たちは、情報提供を通して信頼関係を築いています。学校での出来事を知れば、保護者は子どもが受けている教育の質をより確実に感じることができます。一回でも自分の子どもが語る学校でのストーリーを聞けば、きっとあなたの活動を称賛してくれるでしょう。そして、あなたのねらいややり方を理解することで、一番の理解者になってくれるはずです。日々の学校でのストーリーを配信することが、学校コミュニティーを一つにまとめることにつながるのです。」( 『学校リーダーシップをハックする』原著,p.79)

生徒の映像を配信することに、不安を感じる人もいるでしょう。しかし、これまでに成功を収めてきた事例では、問題が起きているわけではないようです。コミュニティーと、これまでにない良い関係を築けるのであれば、リスクに見合う効果があるとさえ述べているのですから。むしろ、透明性が高まることで、陰湿な問題が起きにくくなるのかもしれません。

いずれにしても、学校で起きている素敵なことを、もっと多くの人に知ってもらう。学校のファンやサポーターを増やすためには、今すぐにでも取り組みたいことです。


★1 マーサ・ラッシュ著 (2020) 『退屈な授業をぶっ飛ばせ-学びに熱中する教室』新評論.

★2 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック5「生徒の声で語ってもらう―積極的にアピールして周囲の支持を高めよう」.


2021年9月26日日曜日

「どうでもいい仕事」の放逐を

 

このタイトルのオピニオンが2021830日付・日本経済新聞に掲載されました。筆者は同社上級論説委員・西條郁夫さんです。

この記事の最初の部分で、文化人類学者デヴィッド・グレーバーによる「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」(邦訳・岩波書店)によるどうでもいい仕事を分類した5つの類型を次のように紹介しています。 

▼誰かを偉そうにみせるための取り巻き(=ドアマンや受付係)

▼雇用主のために他人を脅迫したり欺いたりする脅し屋(ロビイストや顧問弁護士)

▼誰かの欠陥を取り繕う尻拭い(バグだらけのコードを修復するプログラマー)

▼誰も真剣に読まないドキュメントを延々とつくる書類穴埋め人(パワーポイントを量産するコンサルタント)

▼人に仕事を割り振るだけのタスクマスター(中間管理職) 

 確かに、なるほどと頷いてしまうものばかりです。このような仕事が多くなればなるほど働く意欲も低下するわけです。これは企業ばかりでなく、学校にも当てはまることでしょう。

この2年近くのコロナ禍で、学校では感染症対策やオンライン授業への対応を始めとする授業改善などに関連する多くの仕事が加わってきました。せっかく、働き方改革という名のもとに、いくらか改善の兆しが見えたところで、現状はまた以前に逆戻りという感じではないでしょうか。

 しかも増えた仕事が自分たちで取り組もうと決めてやり始めたものならばいざ知らず、上からの指示の名のもとに付け加わった仕事ですから、なおさら疲労感は大きいと思います。先ほどの記事の最後はこう締めくくられています。 

 テレワークの普及など仕事の形は刻々と変化するが、大切なのは「ブルシット・ジョブ=どうでもいい仕事」を減らし、意味の実感できる仕事を増やすこと。これが働き方改革の本丸だ。 

 まさにその通りです。学校で意味の実感できる仕事とは、授業に関連することだと思いますから、そこに多くの人がかかわれる学校体制づくりを教育委員会や学校の管理職は何よりも優先してやってほしいものです。

2021年9月19日日曜日

新刊紹介『挫折ポイント』  

協力者の一人の佐藤可奈子さん(中学校の国語科教師)が、以下の紹介文を書いてくれました。

 

*****

 

「生徒がやる気をなくした瞬間や努力をしないと決めた瞬間」これを「挫折ポイント」とする。(「はじめに」より)

想像してみましょう。やる気をなくした生徒を前にした教師(私たち)は、どんな行動をするでしょう?

*やる気をなくしているなら、何を言っても無駄だから無視する。

*授業(仕事)の邪魔をしない限りは、放っておく。

*大きな声で叱る。

*事情を聴いてみるが「別に」と答えられて会話がおわる。

*背中をトントンとして参加を促す。

*レベルを下げた教材を渡す。

*課題に取り組む際に、一言二言会話を交わしてアドバイスする。

*評価を下げて、損を実感させる。

 

とりあえず、こうした対応をしておけば、時間が過ぎて授業が終わります。

生徒は授業を受けた(理解した)ことになり、教師は学びの保障をしたアリバイができ、すべての思わしくない結果は生徒の「やる気」の問題だったということに……教室でよくある場面ではないでしょうか。

「これ以上、どう関わればいいの?」

「やる気のない生徒に、何かを求めても無駄。」

「会社ならクビでしょ。社会で通用しないよ。」

そう思った方は、本書を読んでみる価値があると思います。

 

本書は“ごきげんな教室”をつくり、生徒と教師の成長を支援する方法や考え方を教えてくれます。

 

私のお薦めの読み方は「おわりに」から読むことです。

そこには、やる気をなくした生徒を前にした教師の、よくある姿が描かれています(私も、もれなくその一人です)。エピソードから「挫折ポイント」で展開される教師と生徒の関係は、互いの間に大きな認識の違いを生んでいることがわかります。

「おわりに」―P237L4「協力的な生徒はみんな努力家であり、協力的でない生徒は怠けていると捉えていた。」この記述には、ハッとさせられます。果たしてこの捉え方で生徒の成長はあるのでしょうか…?

 

「おわりに」を先に読むことで、読み手が問いを持ちながら、本書で語られることのゴールをイメージし、各章の内容を理解できる、理解しようとするだろうと思います。

「おわりに」を読んだ後は目次へ飛び、興味のある内容を選んで読んでもいいでしょう。どの章から読み始めても意味が分かる内容になっていると思います。

教育界の旬で言えば、第7章で取り上げられているICTツール、第5章で取り上げられている評価方法、形成的評価については、私たちの認識を変えたり生徒との関係や授業をよいものにしたりするヒントを与えてくれるでしょう。

きっと、手法を学ぶだけでなく、概念や考え方を学ぶことができます。これまでとは異なる、子どもへの目線、考え方を得られることでしょう。

 

本書のお薦めをもう一つ。各章末の「ルーブリック」が大きな刺激と学びを与えてくれます。

授業や子どもを理解したり授業を構成したりするための評価基準として機能することはもちろん、初期段階では自身の授業や考え方のチェックリストとしても使えると思います。

アメリカの教育現場で使われているルーブリックを、これほどまでに具体的に、豊富に示している訳本は、日本ではなかなかお目にかかれません。本書だけでなく、註釈で紹介されている多くの書籍と関連付けながら読むことで、「挫折ポイント」で何もできずに生徒を放置してきた自分と授業を変える必要性に気づくことでしょう。

 

手を付けられそうなところはどこでしょう。まず一つ、興味を持てた「ルーブリック」をもとにして行動してみてはいかがでしょう。

多くの教師が“ごきげんな教室”を作り、生徒と教師の学びと成長を支えるファシリテーターとなれたら、「挫折ポイント」にいる子どもたちも顔を上げて、自分の学びに向き合えるのではないかと感じます。

 

本書の「教師」「生徒」を「教え手」「学び手」に読み換えると、一般社会での人材育成に当てはめて読むことができます。「挫折ポイント」に至ることは子どもに限ったことではなく、大人も当たり前のように経験します。「教師」と「生徒」という関係性で考えるのではなく、「人」と「人」が学び、成長する時に必要な環境や資源を整備して、挫折の放置を止める。学校だけでなく、大人や社会も“ごきげん”になれるのではないでしょうか。

 

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2021年9月12日日曜日

デジタルテクノロジーの効果的な使い方

新型コロナウイルスデルタ株の猛威により新学期のスタートは、首都圏を中心に分散登校、時差登校が続いています。すでにクラスを二分し、半数の子どもたちをリアル登校、もう半数をオンライン参加としたハイブリッド授業が再来週まで続く小学校もあります。

 

子どもたちはもの珍しさもあり、デジタル機器を使った授業に楽しく取り組んでいるようです。とはいうものの、今後も続くとなると子どもの集中力は持たず、このような遠隔学習で本当に理解が進むのでしょうか。

 

教員の負担を考えると、登校している子どもたちが使った道具や教室への消毒作業、そしてリアル授業の準備と併せてオンライン参加をしている子どもたちに向けての資料作り、感染予防で休んでいる子どものケアなど、さらなる準備に悲鳴も聞こえてきそうです。

 

コロナ禍におけるGIGAスクール構想により、これまでICT後進国だった日本としては一人一端末が完備されることは大変好ましいことです。環境場整備されると一見、一人ひとりの学習が保障されるように映りますが、本当にこういったデジタルテクノロジーが子どもたちにとってよりよい道具となっているのでしょうか。

 

オンライン授業による子どもたちの生活リズムや心身に与える影響への問題、長時間の画面視聴による視力の低下が8歳〜10歳に多いことなどは常々、指摘されています。小学生の発達段階において言語認知ひとつとっても、果たしてどのような影響が与えているのか不安が残ります。デジタルテクノロジーを使っていれば良いのではなく、その使い方の質が問われているのです。

 

 

 

バトラー後藤裕子『デジタルで変わる子どもたち 学習・言語能力の現在と未来』(ちくま新書)に、そのよりよい使い方のヒントが紹介されています。

 

本書では、言語習得や言語使用における身体の果たす役割の大きさが説かれています。ジェスチャーやうなずき、話し手に視線を合わすなどの言語非言語行動もスムーズに会話を進めるための重要な役割を果たしています。また、読書においては手が重要な役割を果たしていて、紙の媒体で読む場合には、効率よくめくれるように手で準備したり、手の位置が読みの視線を誘導する役割を果たしているなどの手の果たす役割は大きく、身体行為が読みの深さに影響を与えるのであると教えてくれます。だからこそ、学校で使っているデジタルテクノロジーも子どもにとって身体化されなければ、思考や学習には直接結びつかないことが指摘されています。

 

"デジタルテクノロジーは人間の認知機能の一部を肩代わりするものであることから、うまく使えば人間の認知機能を拡大する魅力的な道具にはなるが、明確なビジョンがないまま盲目的に依存すると、脳の分析能力や一つの物事を論理的に批判的に熟慮する力を低下させる可能性がある。(Restal,2012"(位置No.3028/3538)

 

子どもがデジタルテクノロジーをうまく使いこなすには、まず教師が適切なデジタルリテラシーを身につけることです。

 

“デジタルリテラシーとは、①自分の目的に合ったデジタルコンテンツを見つけ出し使えること、②目的に応じて自分でデジタルコンテンツを作ることができること(例えばブログを作ったり動画を作成するなど)、そして③デジタル機器アプリを使ってコミュニケーションや情報交換ができることだと言われている。教師が常に新しいアプリケーションやソフトに精通している必要はない。しかし、授業の目的に応じてふさわしいデジタルコンテンツを自信を持って使えるだけの最低限の知識とスキルは不可欠である。そして児童生徒の言語コミュニケーション能力を促進するために、言語習得の本質である身体性、社会性、感情情緒の伝達をどのようにフォローしながらデジタル機器を有効に使うべきかを模索する必要がある”(位置No.3157/3538)

 

 

 

このコロナ禍における現在、デジタル機器の扱いでは、家庭学習における漢字や計算練習などの記憶タスクを繰り返させるものが多くあります。これに対して本書では、「英語学習者の小学生に自らを紹介する動画を英語で作成し、安全性を確保したサイトへアップする課題を出したところ、子供達は少しでもいい動画にしたくて自ら何度も何度も練習を繰り返したり友達のアドバイスを得たりしながら動画を作成した」といった実践事例も紹介されていました。まさに、なんのために学習するのか目的を考えることです。

 

デジタルテクノロジーは両刃の剣であることを忘れてはいけません。ちょうど一年前にもコロナ禍におけるオンライン授業やICTデバイスの扱いに懸念を持って、「「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない」投稿しました。併せてご覧ください。

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/10/blog-post_11.html

2021年9月5日日曜日

「子どもたちが主人公」は実現しているか

「学校は子どもたちが主人公」。かなり使い古されたフレーズですが、日本中の多くの学校がかかげているスローガンです。とても共感できるものですし、ぜひ、そのような哲学のもとで、学校づくりを進めていってほしいと思います。

しかし、このような標語が頻繁に出てくるということは、未だに学校では、多くのことが「教師中心で回っている」ことの裏返しなのかもしれません。

『学校リーダーシップをハックする』では、生徒中心の学校のもつ基本的な哲学を次のように記述しています。★1

「生徒が学びに対して発言権をもち、学び方に選択権があり、幸せに夢中で学ぶ生徒を育てることが学校の役割だ、という哲学です。」

同書では、生徒中心の学校をつくるステップとして、1)意思決定のチームをつくり生徒をそのチームに加える 2)生徒が会議に参加することを奨励する 3)生徒が自らの興味やアイデアで、学びを進めるプロジェクトの時間などがある 4)生徒によるエド・キャンプ(参加者が自ら計画し、運営する学びの場)を始める といったプロセスを奨励しています。

校内の各種委員会などを含めて、学校運営協議会のような会議のメンバーに、児童・生徒が入っている割合は、どの程度でしょうか? 子どもたちは、どの程度の主体者意識をもって、そのような会議に参画しているでしょうか?子どもたちは、自分の学校について、オウナーシップをもっていると自覚しているでしょうか?そして、教員集団は、子どもたちの力を信じて、任せているでしょうか。大人の都合の良いように、主人公を演じさせられているように見えるのは私だけでしょうか。

しかし、これは無理のないことなのかもしれません。学校という教育制度自体が、長らく、規則に従い、従順な働き手を育てることが役割だったのですから。ジョン・スペンサー/A・J・ジュリアーニは、『あなたの授業が子どもと世界を変えるーエンパワーメントのチカラ』の中で、古い教育制度は「規則に従う人々を作り出すものであり、何をしたらいいかについて指示を待つことを意図してつくられたものです。この制度から卒業すると、あなたは何をするときも誰かの指示を待つことになります。」★2 と記しています。

教師は、「コントロール・マニア」になりがちだと言われます。生徒たちのために、あらゆることを、決定したがるものです。教材も、内容も、課題も、ねらいも達成目標も、進め方も、それらの活動への評価もです。そして、それらの決定権を手放そうとしません。それは、生徒たちにはそのような決定はできないと思いこんでいるからです。しかも、生徒の決定に任せるよりも、労力も少なくて済むと思っています。そして、それが生徒たちの「ため」であると、心から信じている教師も多いものです。

このコントロールを放棄するところから、生徒たちが主人公の学校づくりは始まります。

最近、エンパワーメント(empowerment)という言葉を聞く機会も多くなりました。「エンパワーメント」には、「力を与える」「権限を委譲する」という意味があります。生徒たちの力を信じて、失敗を恐れず、生徒たちに、任せところから始める必要がありそうです。今回紹介した2冊の本には、そのためのアイデアや考え方が数多く紹介されています。あなたの学校でできることから始めてみませんか。

教師のコントロールに依存しつづけるだけでは、生徒たちが主人公となる学校づくりは実現しないでしょう。生徒たちは、エンパワーされることによってのみ、潜在している能力が引き出されていくのです。


★1 近日発刊予定 『学校リーダーシップをハックする』 ハック6 「生徒を学校の中心に据える ー子どものための学校をつくろう」

★2 ジョン・スペンサー/A・J・ジュリアーニ (2020) 『あなたの授業が子どもと世界を変えるーエンパワーメントのチカラ』新評論. p.24

2021年8月28日土曜日

再読『歴史をする』

 最近のいろいろな出来事を見ていると、歴史から学ぶことの大切さを痛感します。

 そこで、再度『歴史をする』を読んでみました。

 この本の功績の一つとして、「Agency」ということばを私たちに教えてくれたことがあります。同書11ページの脚注によると言葉の意味は次のとおりです。 

 原語は「環境に影響を及ぼす力」という意味の「Agency」で、OECD(経済協力開発機構)の「教育とスキルの未来~Education 2030」では、それを「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をする能力」と定義されています。また、国際バカロレア(IB)では、エイジェンシーの要素として「オウナーシップ(主体性)」、「選択」「声」を挙げています。 

 「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をする」という点は重要です。たとえば、このことは近年特に問題となっている気候変動問題にそのまま当てはまる言葉です。

先月721日に経済産業省から2030年度を目途とした「エネルギー基本計画」が公表されました。その計画によると、2030年度に設定したCO2排出量の目標値が達成されたとしても英仏の現在の排出量よりも多いという何とも情けない目標です。その内容を見ていくと、全体の4割を占める産業界からの排出量が多いのが原因です。しかも、現在の排出量からの削減割合の多くを家庭からの部分に頼ろうとしています。特に、産業界の部分でびっくりするのは、鉄鋼業界が削減ではなく1%弱の「増加」という目標値になっていることです。これに経産省も環境省も合意しているわけです。

これが未来への「責任ある行動」なのか、大いに検討する余地があります。今やSDGsに配慮しない企業は生き残ることができないと言われる状況になっているわけですから、国際競争力の点からもCO2削減は待ったなしの最優先課題です。「変われない」企業は生き残ることができないのと、同様に私たちも社会の変化に対応して「変わる」ことが求められています。しかし、この変革が難しいです。こうした変革のためにも、私たちは歴史から学ぶ必要があります。 

『歴史をする』の325ページに次のような一節があります。 

私たちは、誰もが、継続的に演じられている歴史というドラマへの参加者なのです。私たちは、歴史の影響を受ける者であると同時に、歴史に影響を与えるエイジェント(主体者/行為者)でもあるのです。現代においてもなかなかなくならない問題と一時的に生じる問題への参加を含む、日々の生活の総体として私たちは歴史をつくりだしているのです。 

気候変動問題も、まさに社会の一員として、この社会の抱える問題に主体者としてかかわっていくことが求められている一つの事例です。そうした主体者/行為者を育てるために教育のあり方を引き続き考え、実践していきたいものです。



2021年8月22日日曜日

「質問づくり」、早速実践してみました!

『たった一つを変えるだけ ~ クラスも教師も自立する「質問づくり」』(ダン・ロススタイン、ルース・サンタナ著)を読んで、早速、授業で実践したという兵庫県の小学校の先生の北元★さんが、実践報告を送ってくれたので紹介します。

 *****

 「子どもが問いをもち、主体的に追究していく学習を目指したい」とかねがね考えていました。しかし、教えたいこと(正確には、教えなければならないと誤解している教科書の内容)と、子どもたちのもつ問いがうまく嚙み合わないという中途半端なジレンマに悩み続けていました。

そんな折、偶然にふと目に留まったのが、本書です。『たった一つを変えるだけ』、一体何を変えるのかと興味をもちました。表紙や帯にある「自立」「民主主義」という言葉には、単なるハウツーではなく、教育の本質を語ってくれるのではないかという期待も抱きました。「質問づくり」には、家庭環境の格差に左右されない学習を保障するという理念も流れているように感じ、そこに共感をしました。

自分の世界観を変えてくれる本であり、謳い文句どおりの感覚も実感できたように思いますので、本の内容と拙い実践を報告させていただければと思います。

副題のとおり、「質問づくり」がこの学習活動の中心となります。「質問づくり」は、従来教師が行ってきた「発問づくり」に相当します。「発問」とは、教師が子どもに発する問いのことです。例えば5年の社会科なら「なぜ、こんなに苦労してまで耕地整理をしたのでしょうか?」というものです。教育界のいわゆる業界用語です。

本書の中でも指摘されているように、私のこれまで経験してきた研修でも、発問は非常に重要視されてきました。授業研究=主要発問の研究といってもいいくらいです。特に、勤務する市の研修では、どのタイミングで、どのようなフレーズを用い、どのような口調で発問をするかまで、入念に検討されることが多かったです。発問が子どもの思考活動を方向づけるからだと理解しています。そのような発問研究が教師を疲弊させるという本書の指摘もうなずけるものでした。

「質問づくり」は、子どもの思考活動を発動させるために教師が四苦八苦してきた「発問」を子どもたち自身が、自らに問うものとしてつくる活動だと理解しました。

本書では、「質問づくり」の過程と活用の仕方が、事例とともに分かりやすく書かれています。それぞれのステップが、子どもたちにとってなぜ必要なのか、その意義も説明されており、納得して実践にうつすことができました。子どもの「自立」のための教師の役割・立ち位置も明確に述べられています。自立や民主主義を体現するために必要な、「ルール」についても定められています。

「質問づくり」において、最も重要なことは「質問の焦点」を決めることです。「質問の焦点」は、子どもたちに学んでほしいことをもとに、教師が決めます。「質問の焦点」の良しあしが、子どもたちの学習を主体的にするか、自立的にするか、深い学びに誘うことができるかに、大きく影響します。本書でも、「質問の焦点」の言葉を変えたことによって、学習の質が高まった事例が紹介されています。

私は1学期、小学校5年と6年の理科で、質問づくりを実践してみました。(理科が専門の教師ではありません。)「質問の焦点」づくりには、頭を悩ませましたが、発問のように苦しくはありませんでした。毎時間の授業の問いを考えなくてよいという気楽さがあったのかもしれません。

 1学期に「質問づくり」を実施した単元と「質問の焦点」は、以下のとおりです。

学年『単元名』

質問の焦点

5年『ヒトのたんじょう』

「おなかの中の受精卵」

5年『台風と気象情報』

「台風の動きと天気」

6年『ヒトや動物の体』

「食べ物のゆくえ」

「ヒトは呼吸する~酸素を取り入れ、二酸化炭素を出す~」

「血液は心臓から送り出され、心臓にもどる」

6年『植物のつくりとはたらき』

「植物が根から取り入れた水」

「植物には、根・くき・葉がある」

*使用教科書 啓林館 わくわく理科

  どの単元も、単元や単元の中の小単元の導入にあたって「質問づくり」をしました。従来行ってきた課題づくりと変わらないのかもしれません。実践全体をふり返って気がついたことを書きます。

<問題意識の耕しが必要>

 いくら、「質問の焦点」に頭をひねって、「これなら食いついてくれるだろう」と、いきなり焦点となる言葉だけを提示しても、子供は、本当に主体的になりませんでした。これは「食べ物のゆくえ」のところで痛感しました。実験や体験、観察、資料の提示、予想するなど、子どもたちがある程度教材に触れて、問題意識が耕されてから提示すると、グループでの質問づくりも活発だったように感じました。もちろん、この活動に対する慣れも働いたと思います。

<質問づくりの意義を納得することが必要>

 私にとっても、子どもたちにとっても、質問づくりは初めてでした。子どもたちによると、これまで課題づくりの経験が少ない、ということでした。受け身的な授業が多かったようです。そんな子どもたちに、なぜ質問づくりをしなければならないか、一番最初の時間は、こちらも緊張しました。「連れて行ってもらった道と、自分で調べたり尋ねたりしながら歩いた道、2回目ひとりで行けるのはどっちかな。」などと言いながら、「とにかく、やってみよう。やってからおいしいか、まずいか決めよう。」と、腰の重そうな子どもたちを励ましてみました。

 質問づくりのルールを知った後は、グループで質問をできるだけたくさん出す段階があります。こちらの「質問の焦点」を出すタイミングと質の問題もあり、最初は何を質問してよいのか分からないグループも半分くらいはありました。5年生は特に、「先生が指示さえしてくれれば、その通りにするのに、なんで自分たちで考えさせるの!」という空気もありましたので、「とにかくベストを尽くせばいい。いい質問やいい活動をしようとしなくていい。最終的に質問がゼロでも、あきらめずに時間いっぱいは考えよう。」と、励ましてみました。すると集中して頑張りました。予想以上に響いたのが不思議でした。

 できるだけたくさんの質問を考えた後は、質問の変換をします。閉じた質問(はい・いいえで答えられる問い)を開いた質問(答えが多様)に。開いた質問を閉じた質問に変換します。この操作の意味が、まだよく分からなかったのですが、子どもたちが質問を解決するのに行き詰っているときに、質問を再変換させることで解決の糸口が見えたことがありました。

 質問づくりの最後は、優先順位をつけて3つの大事な質問をグループで選ぶ活動です。そもそもの質問が少ないので、簡単に決まるチームもありました。4人チームだったため、一人ずつが選んだ一番大事な質問を、譲り合って選ぶというチームも多かったです。民主的ともとらえられますし、質問の焦点を解き明かすために本当に必要な質問という視点に欠けた選び方ともとれます。どのような選び方がよいのか、2学期は一度考えてもらおうと思います。

 大事な3つの質問を選んだあとは、調べ学習を行いました。本市では4月より一人一台のタブレットが導入されたので、インターネットを使った調べる子どもがほとんどでした。教科書の内容も理解させたいという気持ちも強く働き、教科書も資料として必ず目を通してから他の調べ方をするように声をかけてしまいました。「NHK for school」の動画やクリップを活用している子どももいました。これまでだと、教師の用意した動画を一斉に視聴していましたが、自分たちのこだわる角度で、自分で選んで視聴できたのは、情報の選択と活用の経験になったのでよかったと思います。

 子どもたちの選んだ問いにはユニークなものもありました。中には、単元の目標・教科書の内容と一見つながらないものも一つや二つではありませんでした。これまでの私は、そのような問いが生まれないように前もって活動を仕組んだり、疑問を修正するように誘導したりしていましたが、「質問づくり」では、教師が注文をつけてはいけない、と理解したので、好きなようにさせていました。個々のカンファレンスの中で、教科書の内容と結びつけるような働きかけもしましたが、その子の心には響かないようでした。

 ある6年の女子が消化の学習でつくったのが「就寝前に食べてよいものは何か」という質問でした。どうやら就寝前のおやつがやめられないが、自分のスタイルやダイエットを気にしているので生じた質問のようです。その子にとっては、自分事の質問であり、解決したときには、とてもうれしそうでした。

 いわゆる学力の低いといわれている彼女は、質問づくりの学習の楽しさを味わえたのか、その後も意欲的に調べ、血液の流れの学習では、肺胞の働きをみんなに説明することもありました。しかし、テストでは期待していた力を発揮できませんでした。表面的には分かりませんが、彼女は「質問づくり」の学習に失望も覚えたのではないかと危惧しています。

 もちろん、これは「質問づくり」が悪いことを意味するものではありません。理科のテストは、学年が採用している業者テストを行わずに、自作問題を用いたのですが、出題が教科書の内容理解のテストの域を超えられていなかったものと思われます。

・評価とは何か。

・テストで評価できることは何か。

・テストの仕方に工夫ができないか。

・理科学習の本当のねらいは何か。どんな概念を身に付けてもらいたいのか。

・教科書とどう付き合えばいいのか。

 私自身の教育観・授業観を再構築し直す必要があります。単なる教科書の内容を教えるための「質問づくり」であれば、従来のやり方の方がましかもしれません。

 「質問づくり」をしたことで、自然現象を見る目が変わってきた。見える世界が違ってきたという実感をもてたとき、「質問づくり」の意味を子どもたちは見いだせると思います。

 

<主体的な学習と深い学び>

 質問づくりが面白い、という子どももいました。その子どもは「?➡!➡?➡!➡?➡…」サイクルを、どんどん自分で回していくことができるのです。

 私の目標は、自立して学ぶ子どもを育てることです。私のイメージする「自立して学ぶ子」とは、自分で問いを見つけ、ときには一人で、あるときは仲間の力を求めながら、あるいは、自分が助け舟となりながら、自ら解決に向けて探究していく子どもです。その過程で、自分の見方・考え方を見直し、再構築していく子どもです。

 質問づくりは、チームで課題に取り組むので、各自の責任や役割、協調性や助け合いが自ずと生まれる学習だと思いました。これは、実社会の中で必要とされる能力でもあると思います。したがってこれからも続けていきたい手法です。

 しかし、注意しなければいけないのは、それが形式化・パターン化しないことだと感じました。質問づくりさえしていれば、子どもに学びが生まれると思うのは間違いだと思います。

最終的に学んでほしいことへ歩むための手段の一つに過ぎない、と考える必要があると思いました。

 どこで、どのように、何をねらいとするかに応じて、縦横無尽に変貌自在に「質問づくり」を取り入れたいと思います。

 

★ 北元先生の自己紹介は、「兵庫県の公立小学校教員。今年の3月、偶然図書館で目にした『オープニングマインド~子どもの心をひらく授業~』に、考え直し学ばされることが多く、吉田新一郎氏の訳読本や著書を読み始めた。子どもが本気で主体的に学ぶ授業をすることが、ここ数年来の課題であり目標」です。