私が学校に関わり始めた1980年代の後半、校内研修の前に校長室で話していると、多くの校長は口を揃えて「学校で実験はできない」と言っていたのを鮮明に覚えています。(今も同じようなことを言い続けているでしょうか?)
特に若手教師のことを考えた場合(ベテラン教師も、同じですが!)、実験をし続けないで、いったいどうやって学び続けられるのでしょうか?
常に、学び続けているモデルを生徒たちに示し続けることが教師の大切な役割ではないでしょうか?
そのためには実験というか、新しいことにチャレンジし続けることが不可欠です。
知り合いの先生方に、(若手)教師におすすめの本を共有してもらいました。それは、紹介者を導き、彼らの教え方を形成し、彼らの見方やあり方を挑戦し、彼らを強く動機づけた本です。
英語のオリジナル版では、14冊のタイトルに絞り込まれています(どういう基準で絞り込んだのかは、書かれていません!)が、日本版は回答してくれた先生方のリストをそのまま紹介します。なので、全部を読もうとしないでください(全部で何冊か、私ですら把握していません!)。また、味わう価値のある本が多いですが、これらを短期間で読もうなどとは思わないでください。長い教職の道を歩むなかで、ご自分の成長と共に読みたいと思ったものに手を伸ばしてみてください。
オリジナルのリストは、https://www.edutopia.org/article/essential-books-new-teachersでご覧ください。このなかで邦訳のあるのは、次の通りです。
・『世界最高の学級経営 : 成果を上げる教師になるために』ハリー・ウォン, ローズマリー・ウォン著、稲垣みどり訳、東洋館出版社
・『学ぶことは、とびこえること : 自由のためのフェミニズム教育』ベル・フックス著、朴和美ほか訳、ちくま学芸文庫
・『被抑圧者の教育学』パウロ・フレイレ著、三砂ちづる訳、亜紀書房
・『大学教師の自己改善 : 教える勇気』P. J. パーマー著、吉永契一郎訳、玉川大学出版部
ベル・フックスの本は、フレイレの本に強く影響を受けた本です。サブタイトルに「フェミニズム教育」とありますが、私はまったくそれを意識せずに読めました。フレイレのよりもおすすめぐらいかもしれません。
最後の本は、タイトルも訳も、いまいちです(『教える勇気』が原タイトルで、大学教師に絞っているわけではないです!)。アメリカでは、この本をベースにした研修プログラムに人気があるぐらいに普及しています。https://couragerenewal.org/)
これら4冊のリストからも、日米の大きな違いを感じます。
14冊のリストの傾向としては、フレイレ関連の2冊の本に代表される抑圧された/虐げられた/弱い立場にある者たちや言語・文化・人種の異なる生徒への対応の仕方を扱った内容が多いこと、学級経営が2冊、読むことが2冊、そして算数・数学が1冊。最後の算数・数学については、すでに本ブログで紹介しています。https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html
◆
日本の先生方のリストは、以下の通りです(リストが長くなるので、今回は5人に限定して紹介します)。「(若手)教師におすすめの本は?」というシンプルな質問によって、これだけたくさんのいい本に出合えました。答えてくれた先生方に感謝です!!(皆さんも、ぜひ身近な先生たちに同じ質問をしてください。そして、いい本に出合ったらpro.workshop@gmail.com宛に紹介をお願いします。)
A先生(中学校国語)
・「イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室」
何よりも、この本です! その他は、以下の本かな・・・
・「てん」ピーターレイノルズ
てん」は特別支援の子ども(情緒障がい、知的障がい)に好評でした。
最後の場面でワシテが男の子に「サインして」と言うことを推測できた子もいました。
・「おにいちゃんとぼく」ローレンス・シメル/ファン・カミ―ロ・マヨルガ
お兄ちゃんは目が見えないのですが、目が見えないとはどこにも書かれないです。でもわかるという本です。
・「まめまめくん」デヴィット・カリ/セバスチャン・ムーラン
からだの小さい子どもが自分の良さを見つけて生きていく本です。
・「特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方」 平熱(へいねつ)
この本は、特別支援学校にお勤めの現役教師がTwitterでつぶやいていた内容を端緒として、特別支援教育の考え方を平易に著したものです。
著者の発するフレーズで、私が好きなものは「特別支援教育は全人類に有効です」です。
気負わずに読める本です。今の若手はこれぐらいのものからでないと、学べないのではないかと思います。そういう意味でもおススメです。
絵本をおススメする理由も同じです。
ほぼ、生徒に近いと思っています。
B先生(小学校)
最初の質問 長田弘
ひとりで、考える 小島俊明
私たちは子どもに何ができるのか ポール・タフ
「みんなの学校」をつくるために 木村泰子✖️小国喜弘
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみか子
やさしく、つよく、おもしろく。 ながしまひろみ
1年1組せんせいあのね 鹿島和夫
WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢✖️SDGs
ミライの授業 瀧本哲史
世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ くさばよしみ編
いまを生きるあなたへ 贈る詩50 二瓶弘行編
灯し続けることば 大村はま
C先生(小学校、現在市内の社会教育施設に出向中)
『新編 教えるということ』 大村はま ちくま学芸文庫
『まるごと好きです』 工藤直子 ちくま文庫
『詩ってなんだろう』 谷川俊太郎 ちくま文庫
『遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる』築地書館
『理解するってどういうこと?』 新曜社
『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問作り」』新評論
『マインドセット学級経営』アニー・ブロック/ヘザー・ハンドレー著 佐伯葉子 東洋館出版社
『ジェネレーター 学びと遊びの生成』市川力 井庭崇 学事出版
『独学大全』 読書猿 ダイヤモンド社
『てん』ピーター・レイノルズ 谷川俊太郎訳 あすなろ書房
『ウエズレーの国』ポール・フライシュマン/ケビン・ホークス 千葉茂樹訳 あすなろ書房
『クリエイティブの授業 : "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために』オースティン・クレオン著 千葉敏生訳 実務教育出版
D先生(小学校、現在特別支援担当)~ 長い紹介文まで書いてくれました!!
『子どもにいちばん教えたいこと―将来を大きく変える理想の教育』
2007年出版ですが、今でも瑞々しさを取り戻すことができるような本です。エスキス先生の教育実践本で、追試のために詳細に書かれているわけではないのですが、本当にこういう教室をつくることができたら、教師として幸せだろうなあと読み返しました。ロサンゼルスの貧困に苦しむ子どもたちの先生にであるエスキス先生は、シェークスピアを上演したり、ブッククラブをしたりして、子どもたちに豊かに生きる喜びを与えていきます。文章から『作家の時間』や『読書家の時間』を実践していることが読み取れます。
『シンプルな方法で学校は変わる―自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう』
これの前身である『効果10倍の(学び)の技法』で、狭かった僕の教師の視野が一気に広がったように思います。逆説的ですが、「先生とはこうあるべきだ」という自分の認識に気がつくことが、まずは教師という仕事のスタートラインなのかもしれません。教師という仕事をつまらないものにしないで、もっと自由で豊かなものにするためのエッセンスが詰め込まれています。
『ありのままがあるところ』
人と深く関わる仕事は教師以外にもいろいろあります。仕事が違うと、人の見え方が大きく変わってくる。その視点の多様性を若いうちから知ることができたら、教師という仕事はまたひとつ違ったものになるかもしれません。この本の著者は知的障がい者施設で働いています。眼差しが心の底から優しい。その人の人生において、他者がどのように関わったら良いのか、根本から立ち戻って考えさせてくれる本です。人を幸せにできるのは、人だけなのかもしれません。
『やりすぎ教育: 商品化する子どもたち』
親や教師による不適切な教育ついて、強く警鐘を鳴らした本です。この本が『教室マルトリートメント』へと発展して行く基盤をつくったと思います。私たちは実は結構過酷な環境の中で仕事をしています。35人の人の学習、生活、社会性、体調管理、人生相談など、多種多様なケアを、たった一人で行うことが求められる仕事は、この社会には教師しかいません。カウンセラーも、高齢者介護も、スポーツトレーナーも、人数や職域を限定することで、仕事の品質を維持しています。そんな状況だと、やっぱり子どもたちを「商品化」させて管理しやすくすることになってしまいますよね。『〈叱る依存〉がとまらない』もおすすめです。
『おやときどきこども』
この本に出てくるエピソードは、塾の進路相談のような状況が多いです。著者は一言言えば、塾の先生。この著者の視点から見ると、子どもも保護者も、悩み苦しんで、喜んで、一息ついて、みんな深く深く考えているんだということを、思い起こさせてくれます。子どもの気持ちがわかる先生というのは、こういう方のことなのだと思っています。そして、自分自身も中学生の子どもをもつ保護者として、保護者の立場に立って、親の気持ちにも寄り添えるような教師でありたいと思っています。『君は君の人生の主役になれ』も優しさに溢れる本です。
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』
教室の子どもたちが「いい子症候群」か分かりませんが、教師としての自分自身が「いい子症候群」になっていないか、セルフチェックしてしまいます。著者は大学で心理学を教える先生です。著者の学生を大切にし、だからこそ、ちゃんと苦言を呈して伝えたいという強い思いに溢れています。これを読む方が若い方ならば自分を見つめるために、ベテランの方ならば不安な若者たちを励ますことができるように、著者の温かさを感じながら読んでほしいと思います。
E先生(高校・英語)
『モリー先生の火曜日』
『14歳からの哲学』
『子どもの誇りに灯をともす』
『みんな羽ばたいて』
『考えるとはどういうことか』
『人を伸ばす力』
『教えるということ』
『授業を磨く』
だったのですが、edutopiaの記事を読んで、
『非抑圧者の教育学』
『Teach Like A Champion』(これは2.0を読みました)
も確かにいい本だと思い出しました。フレイレは今読むともっと理解できるかもしれないと思いますので、読み直します。
他には、
『UDL学びのユニバーサルデザイン』
『読んでわかるリフレクション』
『プレイフルラーニング』
『プレイフルシンキング』
『たった一つを変えるだけ』
『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』
です。
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