2024年5月12日日曜日

問題づくりは、子どもたちがセンスをつくりだす

 今朝、私たち「数学者の時間」の研究チームの会議で興味深い議論が持ち上がりました。テーマは「子どもが問題づくりをする行為にどんな意義があるか」というものです。学校教育の現場では、各学習単元が進むにつれて、終わりには必ずテストが設けられています。理想的には、子どもたちはテストのためではなく、知識を深めるために学ぶべきです。しかし、現実は少し異なります。多くの場合、良い成績を得るために学ぶという、評価手段が目的化してしまっているのです。この問題は多くの教室で共通して見られる現象ではないでしょうか。

この問題に対して、子どもたちが自ら問題をつくり出すプロセスは、学びの動機を再び彼ら自身の内に向ける手段となり得ます。問題をつくることで、子どもたちは自分たちが学んできた内容を深く理解し、それを自分の言葉で表現する能力を養うことができます。これは、評価の目的化を避け、真の学びへと導くための有効な手段といえるでしょう。

この点から考えると「教育における評価の役割とは何か」、という問いが浮かび上がります。私たち「数学者の時間」のプロジェクトでは、評価とは単に学びの成果を測るものではなく、子どもたち自身が意味ある学びを創造する手段であると位置づけました。私たちのプログラムでは、良質な問題(良問と呼んでいます)に取り組むことだけに留まらず、その問題の特性を捉え、問題文や条件を自分なりにアレンジすることで、子どもたち自身が独自の問題を設計します。この過程は、子どもたちにとってただの問題解決以上のものになります。

問題作成を通じて、子どもたちは単に問題を解くだけでなく、問題の構造を深く理解し、その構造を利用して新しい問題を作り出す技術を身につけます。また、自らつくった問題を友人に解いてもらうことで、コミュニケーションや協力の場が生まれ、学びの楽しさを共有することができます。このプロセスは、「解けた!」という単発の成功体験から一歩進んで、学ぶ楽しさや仲間とのつながりを深める動機付けにもなります。

このように、自分で問題をつくる活動は、教室内での一方通行的な学びから脱却し、子どもたちが自分の学びに主体性を持ち、自信を深めるためのキーポイントとなります。算数・数学が、単なる知識の習得から子どもたち自身のものとして認識される変化、オーナーシップの獲得というパラダイム転換を促すことができるのです。問題づくりは、その可能性を広げる力を持っています。

発達心理学と教育心理学の分野で活躍したロシアの心理学者ヴィゴツキー(Lev Vygotsky)は、言語と思考の関係性を探求する中で「ミーニング」と「センス」の概念を重視しています。

「ミーニング」とは語義のことであり、言葉や表現が持つ一般的または辞書的な意味を指します。これは言葉が社会的にどのように理解されているかに依存します。例えば「ネコ」という言葉の語義は、四足歩行の哺乳類を指すことを社会的な共通認識としています。

一方で、「センス」とは、その言葉が個々の使用者にとって持つ具体的な意味や感覚を指します。これは個人の経験、文脈、感情的な状態によって変わります。例えば、ある人にとっての「ネコ」という言葉は、その人が育った家庭の愛猫を想起させるかもしれません。

学校文化の中では、語義を伝える事が多く、子どもたちにとって自分自身の意味をつくり上げるような「センス・意味づくり」の時間が少ないと感じています。もちろん、語義と呼ばれる知識を積み上げることは大切です。しかし一方で使いもしない知識をたくさん仕入れたり、受験のためだけの知識を子ども時代を犠牲にしてまでみにつけることに一度立ち止まって考えてほしいのです。

最近、重苦しい空気がただよっている教育現場。私たち現場の教育実践者から自由な実践に挑戦しながら、子どもたちに意味のある子ども時間を過ごせるよう、数学者の時間の実践は続いていきます。

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