今回は「実験や観察」の記録を取ることを考えます。
以前紹介した「発見ボックス」のなかには、「調査シート」「科学的発見シート」といった記録用紙が入っています。「調査シート」には、自分の探究テーマとそれに関連する「問い」を一つ記入することになります。また、「科学的発見シート」には、自分の問いや探究活動の記録を記入することになります。このシートの記入と合わせて、各自のジャーナルに気づいたことなどを書きこみます。
ジャーナルの記入は、自分たちの探究を振り返って、自分の観察や冒険について書きます。最初の問いは答えられたか?びっくりした観察結果があったか?何が発見されたか?このテーマで次の探究をするとしたらどのようになりそうか?などについて書いていきます。(『だれもが<科学者>になれる!』新評論・2020年・85ページ)
この「書く」ことについては、このブログですでに何度も取り上げられている「ライティング・ワークショップ」を参考にするのがおすすめです。
それだけでなく、探究大会の運営も教師たちがやるのではなく、生徒たちの手で行われているということです。日本でも、地区の理科研究発表会などが開かれていますが、運営は教師中心です。生徒はあくまで発表者に過ぎません。(もし生徒の手で運営されている地区がありましたら、それはすごいことです。残念ながら私の住む県ではもう何十年もその状態のままです。)
生徒にできることは生徒に任せる、これが今日の教育の基本です。
さらに、この探究活動の仕上げとして、「科学読み物を書く」という課題を設定することが『だれもが<科学者>になれる!』には紹介されています。この活動は「サイエンス・コミュニケーション」につながる大切な学びだと思います。「サイエンス・コミュニケーション」とは、科学者が一般の人々に科学の内容をわかりやすく伝える活動です。イギリスの科学者ボドマー卿がとりまとめた1985年のロイヤル・ソサエティ(王立協会)のリポートがその重要性を最初に指摘したようです。(イミダス『時事用語辞典』より)
以前ここでも紹介したことのある、分子認知科学が専門の石浦章一さんもこの「サイエンス・コミュニケーション」の重要性をその著書で指摘しています。科学者が市民に対してわかりやすく科学を伝える「アウトリーチ活動」★はもちろんのこと、博物館や科学館で開催される〇〇講座や自然観察会、またテレビの科学番組なども「サイエンス・コミュニケーション」の場になります。
そこで活動する人たちのことを「サイエンス・コミュニケーター」と位置づけることができますが、先ほどの「科学読み物を書く」ということも当然そのなかに含まれます。理科の授業のなかで、わかりやすく科学の内容を伝えることを続けていれば、「科学リテラシー」★★を有する人が増え、科学と社会の望ましい関係を築くことが可能な基盤をつくることができると思います。その意味で、「探究力を育む理科の授業」の成果物である「レポート」や「科学読み物」のもつ重要性は計り知れないものがあると言えます。
★「国民の研究活動・科学技術への興味や関心を高め、かつ国民との双方向的な対話を通じて国民のニーズを研究者が共有するため、研究者自身が国民一般に対して行う双方向的なコミュニケーション活動」のことです。(文部科学省・「科学技術・学術審議会」学術分科会・学術研究推進部会(第10回)平成17年6月7日資料より)
★★単に科学的な知識を知っているだけではなく、社会における科学の役割を理解して、その知識を個人や社会のために使える能力のことです。
0 件のコメント:
コメントを投稿