前回に引き続き、「一人ひとりをいかす学習」をつくるにはどうすればよいかを考えていきます。まず、授業計画を立てるにあたり、その単元の目標を確認することから始めます。
例として、私自身はもともと中学校理科教師でしたので、中学校理科を取り上げることにします。単元は、中学1年生の生物分野とします。
1年生は入学後の最初の理科授業で、生物分野の「いろいろな生物とその共通点」からスタートすることが多いと思います。中学校学習指導要領・解説編「理科」では、目標として次のような内容を掲げています。
(1)いろいろな生物とその共通点
身近な生物についての観察,実験などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア いろいろな生物の共通点と相違点に着目しながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。
イ 身近な生物についての観察,実験などを通して,いろいろな生物の共通点や相違点を見いだすとともに,生物を分類するための観点や基準を見いだして表現すること。
続く説明の中で、次のように解説しています。
「ここでは,理科の見方・考え方を働かせ,身近な生物についての観察,実験などを行い,いろいろな生物の特徴を見いだして生物の体の基本的なつくりを理解させるとともに,見いだした特徴に基づいて生物を分類するための技能を身に付けさせ,思考力,判断力,表現力等を育成することが主なねらいである。」
ねらいの中の「生物の体の基本的なつくりの理解」は知識にあたります。「技能を身に付けさせる」は、顕微鏡やルーペなどの観察器具の正しい取り扱いということになります。最後の「思考力、判断力、表現力等」ですが、これは生徒の活動の様子からどう評価すればよいのでしょうか。それに対して、この解説では、「話合いや,レポートの作成,発表を適宜行わせることも大切である」と答えています。
さて、目標はつかめました。そこで、上記の目標が達成されたかどうかをどのように評価したらよいかという「評価」の問題に入ります。目標に対する評価をまず先に考えて、それから学習活動を考えることを「逆向き設計」と呼んでいます。かつては、まず「学習活動ありき」で、評価は後から考えればいいということで進んでいた時代もありました。
しかし、それでは目標に合った適切な評価が行われないことが多かったと思います。結局、中学校では知識理解中心で、ペーパーテストのみで評価していたように思います。
顕微鏡などの観察器具の扱いを評価するには、パフォーマンス評価が最も効果的です。これは、教師が一人ひとりの生徒を評価するやり方だけでなく、グループ内の相互評価も取り入れることもできます。また、最後の「思考力、判断力、表現力等」は先ほどの解説編にもあったように、「話合いや,レポートの作成,発表を適宜行わせること」も一つの方法です。特にレポート作成は一般的な成果物ですが、「思考力、判断力、表現力」を見ていくためには、これ以外にもさまざまな方法があります。
前回もご紹介した邦訳進行中の『Power Up』(原著タイトル)第7章のなかに次のようなアイディアがあります。
「ビデオ、ポッドキャスト、ウェブサイトとブログ、ディジタル・ポートフォリオ、マルチメディアのプレゼンテーションなどといったプロジェクトの種類ごとに、基本ルーブリックを補足するそのプロジェクト固有のルーブリックの基準が含まれています。また、生徒のプロセスの成績を考慮したステップも含めました。」
このなかには、すぐにはできないものもあるでしょうが、「プレゼンテーション」などは多くの学校で実現可能であると思います。たとえば、最後の「プレゼンテーション」を成果物として考えれば、次のような学習プロセスが考えられます。
(1) 全体構成・コンセプトを考える
(2) スライドの流れ(ストーリー)を考える
(3) 台本の作成(スライド下部にある発表者ノートに生徒は台本を書く)
(4) 画像の収集と編集
(5) 発表の練習をする
このように成果物(評価対象)を決めることにより、学習の流れを考えることができます。
「指導と評価の一体化」とはこのようにして初めて実現できるものです。
私も中学校で理科を教えていたころは、いつも指導のことばかり考えていて、評価は後回しでした。今思えば恥ずかしいことです。せいぜいペーパーテストで測ったつもりになっていただけでした。
さて、成果物の作成については、このような流れで進めることができますが、学習指導要領にある「知識・技能」については、どうすればよいでしょうか。「知識」の習得に関しては、『ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ』がヒントを与えてくれます。(同書111ページ)
「クナード先生はクラス全員を対象に語彙を「前倒しで教える」ことはしません。生徒の中には、すでにそれらを知っている子もいますし、教科書やクラスでの話し合いの中で学べる子もいるからです。」
生徒のレディネスが異なりますから、サポートの必要な生徒には、先生が直接教えています。それが必要でない生徒は先生があらかじめ用意した課題を個別に進めたり、小グループで学んだりするような形を取るわけです。このように一つの教室のなかで、課題ごとに場所を指定して「コーナー」をつくり、生徒はそれぞれ自分で、どのコーナーで学ぶかを選択できるわけです。
また、「技能」の目標である「観察器具の操作」などについても同様に観察器具や観察対象の種類によって、コーナーを設置することも可能です。
このようなやり方は現在の学校の環境でも充分に実現可能です。ぜひ、一つの単元、あるいは小単元で「徐々に」初めの一歩を踏み出してはいかがでしょうか。
次回(10/29)は評価の問題を取り上げたいと思います。
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