2023年9月10日日曜日

評価には生徒の声を聞くことからはじめよう

新学期が勢いよくスタートしました。学期の初めに重要なのは、この学期でどのように評価を行うかを明確にすることです。私たちは、忙しくなってしまうと、生徒の声を聞くことや、生徒の評価への参加を忘れがちです。これが結果として、教師中心の評価方法をとってしまう原因となっています。

 

「アセスメント(評価)」という言葉の起源はラテン語で「隣に座る」という意味を持ちます。しかし、現代の学校では、子どもと共に評価をするのではなく、生徒を対象として評価する方法が主流になってしまっています。実は、学力の影響を最も大きく受ける要因は、学習者自身の自己評価なのです。学習者は自分の理解度や達成度を驚くほど正確に把握しており、彼ら自身が自らを評価するのが最も適切だということです。

 

こういった生徒中心とした評価方法について、日本での参考文献は残念ながら決して多くはありません。しかし、マイロン・デューク (原著), 山﨑 その (翻訳), 𠮷川 岳彦 (翻訳), 吉田 新一郎 (翻訳)『聞くことから始めよう!:やる気を引き出し、意欲を高める評価』(2023 さくら社)は非常に参考になる1冊です。




 

著者のマクロン・デュークは、「私たちは評価の全ての可能性を活用して、生徒を学びに引き込み、能力を引き出します。そのために、生徒の声を聞き、彼らの選択、自己評価、そして自己報告が欠かせません」と述べています。マクロン・デュークの核となる信念は、生徒の声を基盤に評価を始めるべきだということです。

 

1.       まず「学習の目標」を明確にすることからはじめます。

 

生徒に自己評価を促すためには、まず学習目標を明確にする必要があります。それは、何を達成するべきかという学習意図やその基準を子どもと共有し、彼らが理解することから始まります。

 

生徒は、自らの学習状況を最も正確に報告できる存在です。彼らの意見やコメントは説得力を持っています。したがって、中心の学習目標を設定し、それを生徒と共有することは不可欠です。明確な学習目標を設定し、それを生徒とともに構築することで、生徒が関心を持ち、最大限に活躍できる評価を実現できるからです。

 

過去の学習目標は、教えるべき項目が多すぎたり、一つの目標の中にも教えることが混在していたりと問題があったかもしれません。しかし、良質な学習目標は生徒の視点から明確にされ、具体的な内容で構築されるべきです。これは、授業の設計や学習の評価基準、成果報告の根拠として非常に重要となっていきます。

 

授業の目的は、それを生徒と共有することで初めて学習目標として成立します。生徒がその目標や内容を理解し、その方向に努力を始めることができるからです。以下の三点に焦点を当てて、学習目標の設定と共有を実現してみましょう。

  • 授業で獲得すべき知識(事実、概念、定義など)や技能(手順や方法)は何か。
  • 生徒が重要な概念を理解するための必要な条件は何か。
  • これらの知識や技能が学習の全体的な構造の中でどのように関連しているのか。 

2.       目標が共有されたら、パフォーマンス評価にルーブリックを使用します

 

ルーブリックの主要な目的は、生徒のパフォーマンスを一貫した基準で評価するためのツールを提供することです。これにより、生徒は何が求められているのかを明確に理解することができます。ルーブリックの利点は以下の通りです。

1. 教師の期待値を明確に伝える。

2. 作品作成の具体的な目標を提示する。

3. 作品の各構成要素を深く理解するのを助ける。

4. どのように自身の作業を改善できるかの指針を提供する。

5. 特定の成績を受け取った理由を理解するのを助ける。

6. 課題に対する期待やその構成要素を把握する。

7. 自らの学習プロセスや進行状況をより意識的に捉える。

8. タイムリーかつ詳細なフィードバックを通じて、作業の品質を向上させることができる。

 

 


 

3.       生徒の自己評価をうながします

 

多くの教師は、生徒の自己評価の正確さに疑念を抱くことがあります。生徒に自己評価をさせる場合、その正確性を確保するための取り組みは欠かせません。そのための要素として、以下の3つが考えられます。

 

  • 理解:生徒は自分に問われていることを十分に理解しているのか。
  • 記憶の取り出し:正確な評価を行うため、生徒は関連する情報や知識を均等にアクセスし、思い出せるのか。
  • 判断:生徒の結論は適切なデータに基づいて形成されているのか。

 

これら3つの要素を考慮することで、生徒の自己評価の正確性と信頼性を高める手助けとなります。

 


 

 

生徒が自己評価を行う前提として、自己表現の土台作りが不可欠です。本書で紹介されている「シェアリングサークル」は、生徒が自己報告を開始する最初のステップとして効果的な方法となります。これは生徒が自分の思考や感情を話す環境を整える手段だからです。シェアリングサークルでは、参加者への質問例に「あなたのお気に入りの映画や本は何ですか?その理由は?」など、日々の自分を語ることの積み重ねとなります。

 

シェアリングサークルを進める際の基本的なルールは以下の通りです。

  • 持ち物のルール:発言の権利は持ち物を持っている人にのみ与えられ、他の参加者は敬意をもって聞き手となる。
  • 発言の自由:ものを受け取った時に発言は強制されず、発言権は全員に均等に与えられる。
  • サークルの一貫性:一度サークルが開始されると、中途参加や退出は認められない。
  • 秘密の保持:サークルで共有された内容は、参加者間でのみ知られているものとし、外部には漏らさない。

 

 

 

生徒が自己評価のプロセスに関与し、その評価を他者に説明することは、生徒が学びを自分のものとして受け入れる大切なステップです。そして、その評価や学びを他者に説明する際に、生徒自身よりも適切に説明できる立場の人はいないはずです。自己評価の真髄は、生徒自身がその学びを深く理解し、他者に共有する能力を育てることにあります。

 

生徒が自己評価を行うと、学びの経験がより意味深くなります。彼らは自分の進捗や課題を認識し、それに基づいて次のアクションを選択することができるようになります。また、自分の意見や感じたことを他者に伝えることは、コミュニケーション能力や自己認識の向上にも寄与します。

 

このような自己評価のプロセスを通じて、生徒は自らの学びをコントロールし、それを社会的なコンテクストで共有する能力を磨くことができます。その結果、彼らは自分の学びや経験を他者と共有することの価値をより深く理解するようになり、教育の真の意味を掴む手助けとなります。

 

新学期、ぜひ本書をはやめに手に取って評価について準備の一助にしてください。

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