私の担当した前回(7/30)では「選択する学びの重要性」について述べて、最後に次のように書きました。
選択肢の具体例が知りたい方は『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(北大路書房2017)へ進まれるとよいと思います。
そこでまず「一人ひとりをいかす学習」の原則についてふれておきます。同書の17ページに「一人ひとりをいかす教室の本質~八つの原則」が紹介されています。その八つの原則とは次のようなものです。
①
学習環境は生徒と学習を積極的に支える
②
教師は一人ひとりの違いにしっかり注意を払う
③
カリキュラムは学習を支援するために構成される
④
評価と指導は切り離せない
⑤
教師は、生徒の多様性をもとに、内容や方法や成果物を変える
⑥
教師と生徒は学習について協働する
⑦
教師はクラスの到達基準と個人の到達基準のバランスをとる
⑧ 教師と生徒は柔軟に活動する
① は授業の土台となる部分として重要ですし、②⑥⑦⑧は授業運営上の欠かせないポイントです。そして、残る③④⑤は「一人ひとりをいかす学び」のカリキュラムマネジメントにおいて、核となるところです。特に、④「評価と指導は切り離せない」(一体化)の視点から、③カリキュラム設計は目標に合わせて、評価を考えるという、いわゆる逆向き設計(backward design)が効果的になります。そこで、その効果を最大限にするのが、「一人ひとりに合わせた」⑤の「内容・方法・成果物」となります。ここに「一人ひとりをいかす」学び方・教え方の特長が集約されることになります。
ここまで書いてきて、「一人ひとり」で思い出したことがあります。それは「個」に着目した学びという点で、実は三つの類型があるということです。この点に関しては、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』(新評論2023年)が参考になります。同書の16ページから25ページにかけて、「個別化された学び」「個人学習」「一人ひとりをいかす学習」の三つの違いについての説明があります。
まず、個人学習は「一般的に生徒は、その教材を習得するまでの間、自らの学習ペースを自分で管理することになります。生徒は、コンピューターや教師が作成した評価に向けて、動画を再生したり、練習問題を解いたり、問いに答えたり、自分が行ったことに対するフィードバックをその場で受け取ることができます。」と説明されています。学びが人とのかかわりのなかから育まれていくという社会的な構成主義の考え方は捨象されています。学習内容の基礎的なことがらを習得するというレベルでは効果を上げるでしょう。
続いて、「一人ひとりをいかす学習」は、同書22ページの説明では「この学習モデルでは、教師は生徒の現在の立ち位置から出発し、課題を与えたり、生徒が自分で課題を選べるようにすることでさまざまな学習体験が可能になります。」と紹介されています。
最後に「個別化された学び」は、「生徒が自分の願いを追いかけ、問題を探り、解決策をデザインし、好奇心を追い求め、結果が生み出せるようになる生徒主体の革新的な教育モデル」(同書12ページ)と説明されています。ここで、最後の二つの違いについて、特に教師の役割が「個別化された学び」では、「質問やカンファレンス、フィードバックを通じて学びを手助けする」のに対して、「一人ひとりをいかす学習」では、「個々の生徒のニーズや好みに応じて指導を行う」とまとめています。(同書19ページの表1-1より)
つまり、「一人ひとりをいかす学習では、教師が作成した実行可能な選択肢の範囲内で生徒自らが選択できるように促しています。」(22ページ)ということで、あくまで学習経験のデザインや管理は教師の手の中にあるということです。それに対し、「個別化された学び」は学び方や評価などについても生徒は教師に相談しながら学習を進めることができ、生徒の主体的な関与の範囲がかなり広いと言えます。これは自立した学習者を育てるという教育の目標の上位の姿をめざす方法と言えるでしょう。
さて、まず自分の授業を改善したいと考える教師にとって、「個別化する学び」はややハードルが高いと言えます。そこで、現実的な提案をすれば、まず「一人ひとりをいかす学習」から入ることをお勧めします。
でも「そうした取組をやりたくても時間がありません」という先生方は少なくないと思います。そこで、次の文章を紹介します。(現在翻訳作業が進行中の『Power Up』(原著タイトル)の第9章「授業時間を考え直す」より)
これらの情報源をつくる時間をいつとれるでしょうか? 答えは「徐々に」です。私は、年度初めに一つの単元について最初の二つのライティングのミニレッスンを作りました。 ~途中略~教師の中には、短い休み、あるいは夏休み中に一セットのビデオを作成し、次の休みにまた制作リストに追加する人もいます。他の教師のなかには、最初の一年ほどはオンラインにあるビデオのみを使用し、生徒がうまく活用できるのを確認したら、独自の資料の作成に着手している人もいます。
これは、反転授業に使用するビデオ映像(授業)をつくっていくという米国の教師たちの実践例なのですが、まさに「徐々に」なのです。いきなりすべての単元を用意しようとするのは不可能です。最初は1本、次の学期にまた1本と増やしていく、それも一人でやっていたら終りの見えない仕事になってしまいますが、同僚・研究仲間(校内・校外)と一緒に取り組めば、かなりの数が揃っていくはずです。ここに教師のネットワークの重要性があります。
途中の話がいささか長くなりましたので、具体的な授業づくりの手順は次回(9/24)にしたします。酷暑の中ですが、どうぞご自愛ください。
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