所属する日本語学校では、昨年度コロナ禍で一気にオンライン教育へと加速しました。教育のパラダイムシフトと言われて久しくも、大きく代わり映えしなかった学校にICT化という意味でのイノベーションが起こったのは確かです。この本からの気づきもコロナ以前と今では少し違っていますが、「プロイノ」に書かれていることが今、さらに実感されるようになりました。
この本が目指しているのは「変化のための変化ではなく、教師と生徒が飛躍的に成長できるようにエンパワーする」学校づくりです。多くの気づきを得つつ、「話し合いのための問い」で自分と対話しながら、読み進めましたので、私の体験も交えて、読後感の一端をご紹介させていただきます。
●影響のある学びが第一、テクノロジーは第二(p.290)
これを読んで、これまで決して進んでいると言えなかった、所属校のICT化が約半年でできた訳が分かりました。それはコロナ禍で、オンラインでも双方向の学びを続けなければという教師の思いだったと思います。そのためにはGoogle ClassroomやZOOMを使い、全員参加で教師が必死に勉強しました。テクノロジーを使うことを目的とし、変化のための変化を望んでいる間はテクノロジーの活用は進まなかったのです。
●ICTは学びを加速化し、拡充し、作り直させる力を私たちに与えてくれます。(p.194)
しかし、使ってみて「ICTは単なるツール」でもないと感じています。オンライン授業になってから、音声指導等やりにくい面もありますが、一方で思ったより、やりたいことができている感じがします。在宅でみんながPCの前にいる状態では調べ学習も容易で、Googleスプレッドシートを使って、各自が調べたことの共有をしながら発表もできます。ICTはツールではあるけれど、グーテンベルグの印刷機以来の情報革命だと言われるのも今更ながら納得できました。「ICTは標準化するべきではなく、個別化するべき」(p.196)ともありますが、自立的な学びに移行しやすいと感じています。
●イノベーターのマインドセットは生徒たちへの共感からはじまります。(p.46)
テクノロジー関係から書いてしまいましたが、実は「共感(empathy」がイノベーションのキーワードです。これがないとイノベーションの必要性もありません。別の本になりますが、ブレディ・みかこさんによると、empathyはsympathyのような自然に湧きだす感情ではなく、自分と立場の違う人が何を考えているのか、どういう気持ちなのかを想像する知的な作業と言えるそうです。
学生が何に躓いているのか、どんな気持ちで授業を受けているのか、想像力を働かせるところから、解決すべき問題があぶりだされてきます。「自分がこのクラスの生徒になりたいか?」(p.40)自問する、「丸一日、生徒をシャドーイングする(後について同じ生活を送ってみる。)」(p.105)など、共感力を養う方法も紹介されています。
日本語学校から外国人の若者を日本の大学や社会に送り出す立場からすると、これから多文化共生社会に円滑に移行するためにも、日本人、外国人を問わず、この共感力の育成が決定的に必要になってくるものと思われます。
●振り返りを促すための質問(p.266)
①今日あなたが学んだ中で、さらに探究したいことは何ですか?なぜ、そのテーマを探究したいのですか?
②あなたが前に進むためのもっとも大切な質問は何ですか?
③あなたが共有したいと思う他の考えは何ですか?
この質問を読んで思いました。学ぶことはたぶん自分との対話なのかもしれません。「私は学ぶ」ポスター(p.273)には 「学ぶ」方法が10の動詞で明示されています。自身を含めて「学べ」と言われてもどうしていいか分からない学習者が大勢いるので、このような明示されたインストラクションは学習者の学びを助けます。
●よりオープンになれば、素晴らしいことが起こり得る可能性が飛躍的に増加する。(p.240)
秘密主義における第二のより厄介な問題は、目的が生徒を助けることではなく、学校自体を助けることにあるということです。(p.248)
NHKで「オープンシェア革命」という番組を見て、この潮流だと思いました。番組の中でトレバー・バウアー投手が語っています。
「共有しなければ、他人からフィードバックがもらえない。『こうじゃないのか?』という指摘や、『こうやってみたら?』という提案も得られない。共有をやめたら学ぶスピードが落ちる。それは損だと思う」
教育のイノベーションも常にうまくいくとは限りません。けれども、よりオープンにすることで、発展、成長が加速する可能性があります。試みや躓きを同時進行でシェアすることでイノベーションが早まるのではないでしょうか。本当はSNSなどで、全世界とシェアしたいところですが、そうもいかない現実があります。手始めに同じ研究会のメンバーでシェアしたりするのもいいかなと思いました。
「イノベーションか死か」(p.6)とは恐ろしい言葉ですが、学校法人も収入を得て組織が成り立つ以上、ユーザーである学生や社会のニーズに合わせて変わっていかなければ生き残れません。「プロイノ」はよりよい何かに向かって一歩踏み出そうとする人をエンパワーする本です。私自身も学習者に共感し、エンパワーすることを目指して、イノベーションを模索していこうと思いました。(日本語教師:髙橋えるめ)
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