2020年6月28日日曜日

生徒をエンパワーする授業

今年のNHK大河ドラマの主人公は「明智光秀」ですが、当然織田信長も登場してきます。
 この時代のことを中学校の歴史教科書で確認してみましょう。

 「信長は、敵対する戦国大名を破り、全国統一をおし進めていきました。1575年、信長は長篠(愛知県)で甲斐(山梨県)・信濃(長野県)などを支配していた武田勝頼と戦ったとき、武田軍の突進を防ぐ柵を設け、大量の鉄砲を効果的に使って勝利しました。(長篠の戦い)これ以降、鉄砲が戦いの主要な武器となりました。」(帝国書院『中学生の歴史』94ページ)

 よく言われるように、それまでの戦のやり方が、鉄砲の登場で変わってきたことがわかります。それでは、その鉄砲について、どのような記述があるか見てみると、次のように書いてあります。
1543年、種子島(鹿児島県)に漂着した倭寇の船に乗っていたポルトガル人によって、日本に鉄砲が伝わりました。」

 この書き方ですと偶然、ポルトガル人がやってきて、鉄砲の技術を伝えたようになりますが、当時のヨーロッパでの兵器産業の隆盛という視点も加えると面白くなります。
このあたりの話は『対決! 日本史』(安部龍太郎・佐藤優/潮出版社2020)が参考になります。

安部「ヨーロッパでは、鉄砲製造の技術、大砲製造の技術はものすごく進んでいました。ポルトガルのリスボンにある軍事博物館に行ったことがあるのですが、1540年代の段階では口径40センチくらいの大砲が造られているのです。
佐藤「織田信長が生まれたのが1534年ですから、そのちょっとあとの時期ですね。」

ちょうど戦国時代を迎えていた日本の状況を知って、これは武器の市場として大量に売れると、ポルトガルは考えたのではないでしょうか。しかも、火薬原料の一つである「硫黄」がマカオや東南アジアに駐留していたポルトガル人のところでは不足していたそうです。その足りない硫黄を日本で供給できることがわかり、取引成立が成立したようです。
このように見てくると、実は日本史のこの部分だけ取り出してみても、日本の歴史は世界の動きと決して無関係ではないということがわかります。多角的に見ることで、当時の物資の流通や人の動きがわかるわけです。

また、教科書の記述では次の出来事は「キリスト教の伝来」となります。
1549年イエズス会の宣教師フランシスコ=ザビエルが鹿児島に来てキリスト教の布教を始めることが説明されるわけです。このイエズス会のねらいが布教目的だけでなかったことはその後の歴史を見ればわかります。先ほどの鉄砲伝来の話もそうですが、一つの事実だけを教えても何の面白みもありません。複数の事実がお互いにつながりのあることだったり、ある出来事が次に起きることの原因になったりしたという因果関係などが明らかになるとこうした学びは俄然面白くなります。イエズス会との蜜月を築いた信長が、その後なぜ袂を分かったのかなど、複眼的にものを見ていくと無味乾燥に思えた歴史の授業が楽しくなるわけです。

 『あなたの授業が子どもと世界を変える』(新評論/2020)の第12章「生徒をエンパワーする際の出発点」には「(1)一つのプロジェクトからはじめる」という項目があります。

「一つの選択をベースにしたプロジェクトからはじめるのがよいと思います。それであれば、事前の計画や振り返りを可能にするだけでなく、教えている間も修正が可能です。それは、二週間ぐらいの単元かもしれません。あるいは、長期休暇の前日や州の学力テストの最終日など、正規の授業としては使いにくい日を利用した、一日がかりのプロジェクトかもしれません。」(同書204ページ)

この事例はアメリカのものですから、日本とは事情が多少異なるかも知れませんが、日本においても何かの行事の前後にある「使いにくい時間」を活用する手が考えられます。今年は休校措置があったので、その学習の遅れを取り戻すために、かなり消化が目的の授業が増えそうですが、その中にあってもメリハリをつけた単元構成を工夫することで、時間を生み出すことは可能です。それが専門職である教師の仕事です。
経験の少ない若手の先生方も遠慮する必要はありません。若さというパワーでダイナミックな単元構成、あるいはプロジェクトを考案してください。それには、前掲書の『あなたの授業が子どもと世界を変える』に書かれている次の文章が参考になります。(同書208ページ)

「私が最初に選択を基調にしたクラスづくりに転換したときは、孤独に感じたものです。「浮いた存在」になりたくなかったので、リスクを回避する方法を取りました。・・・(途中略)・・・しかし、二年目に新任教師のハヴィエルに出会いました。私たちは親友になり、信頼できる同僚になりました。私たちは、成功したことや失敗したことを頻繁に共有しあいました。」

ぜひ、信頼できる同僚と協働して、子どもをエンパワーする授業を展開してください。

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