2020年6月7日日曜日

オンライン授業は、教師が頑張りすぎない!


 前は公立高校で家庭科を教え、いまは大学で小・中・高の家庭科教育法などを教えている京都の浅井由利子先生が、最近、挑戦していることについて寄稿してくれましたので、紹介します。

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 新型コロナ感染拡大により、4月から授業は対面授業をやめ、当面オンライン授業で行うことになり、緊急事態宣言が出されたあとは、結局、前期はすべてオンライン授業を続けることになりました。
大学ではmanabaというクラウド型教育支援サービスを使っています。これまでは、「コースニュース」で学生にお知らせを送ったり、レポート提出に利用したりするぐらいでした。
今まで積極的にmanabaを使ってこなかった私が、対面授業ができない状況になって、否応なく授業のやり方を変えざるをえなくなりました。

試行錯誤いろいろやってみて気づいたことを書いてみたいと思います。

1 「何のために学ぶのか」考える
 「フィンランドの教育」(10分)の動画を見たあと、ある学生は「私は、フィンランドの生徒は何のために勉強しているのか疑問に思った。フィンランドでは幸せになる方法を見つけるために学校がある。宿題もないし、授業数も少ないこの教育環境は、まったく勉強を強制されていないように思う。しかし、学力は高いので勉強はしているのだろう。つまり、幸せになるには勉強することが大切だと考えたのだろうか。私はテストでよい点を取るために勉強していた。よって、誰にも勉強することを強制されなくなっても私は勉強するのだろうかと不安に思った。私は日本の教育を受けてきたせいか、フィンランドの生徒の学びに対するモチベーションが理解できない」と書いている。
 また、別の学生たちは「正直私はなんだかよくわからないけど、よい学校に行けばみんなに褒められるし、何かと得なのかなと思って勉強してきた」「その場しのぎで覚えた単語はテストのあとは思い出そうともせず、新しいものを入れるために頭の容量をあけ、またつめこむのに必死だった」とこれまでの自分を振り返り、「学ぶ意欲を引き出すには時間と余裕が必要」「疑問を持って考える、学ぶということを小さいときからずっとしていれば、大人になっても生かせる大切な習慣になると思った」と書いている。
 今の日本の教育の問題をどうしたら変えていけるのか、教職に就く(かもしれない)学生たちと考えていこうと思った。

2 オンライン授業のメリット
   学生にとっては、自分のペースでゆっくり考えて書くことができる。
 私が課題を出してから、余裕を見て3日から1週間ぐらいかけて学習に取り組めるようにしています。だから、対面授業の時と違って、学生は自分の都合のよい時間に自分のペースで書き込みができる。ゆっくり考える時間があるというのは大きなメリットだと思います。学生は話し言葉と違って、文章を考えて書かなければならないので、初めは自分の意見を書くことに躊躇し、とても時間がかかっていたそうです。でも、今では、だんだん慣れてきて、プロジェクト機能を使って、グループで意見交換をするときなど、たくさん書きこみのあるグループもあります。

   教師にとっては、一人ひとりの意見やグループでの話し合いの過程を読むことができ、次の授業の計画を修正することができる。
 時間をかけて書かれた一人ひとりの意見を読むのは、これまで以上に読み応えがあり、楽しかったです。また、グループに分かれて話し合うような授業では、これまでは教室をぐるぐるまわって、どんな話し合いが行われているか把握しようとしていましたが、オンライン授業ではそれぞれのグループの記録があるので簡単に全体を把握することができました。それを読むと細かいところ(何が話題になっているのか、困っているところ、疑問など)までわかるので、今後の授業に生かせることが大きなメリットだと思いました。

3 生徒たちが相互に助け合うようにサポートする ー 教師が頑張るのではなく、生徒たちが頑張れるようにする(『成績をハックする』ハック4)
 たとえば、レポートを出題するとき、レポート機能の設定を相互閲覧可にしておくと、提出されたレポートを教師だけでなく、学生も全員が読めるので、それぞれがコメントすることができます。今までは、提出されたレポートにコメントをつけて返却することは、結構大変で、忙しい時には評価をするだけでコメントを書くことまではできていませんでした。
 それが、相互閲覧、コメント可にすると、学生同士で書き込むことができ、教師だけがコメントするよりも多様な視点のコメントが書かれるようになり、とてもよかったと思います。相互評価の仕方は「大切な友だち」★の形で書くようにしました。最初に教師がたくさんのコメントを書き込むより学生にまかせておくほうが自由な意見が出るような気がします。
 また、掲示板機能も気軽に使いやすいツールで、学生の意見が共有できるのでおもしろいです。教師が頑張って教えなければ!と気合を入れるより、学生同士の意見が活発に出るようサポートするようにしたほうがいいと気づきました。今は、手分けしていろんな授業方法についてネット検索して、いいものがあれば掲示板で紹介し、お互いに共有することをやっています。

4 成績の見方・考え方を変える(『成績をハックする』ハック1)
 「フィンランドの教育」を見て、考えさせられたことはたくさんありました。しかし、いざ、各グループで具体的な授業案を考えていくときには、わくわくする授業をつくろうと考えていたはずなのに、なぜか、教師が説明し、穴埋めプリントに記入するという従来の一斉授業になってしまうグループも出てきました。たぶんそれは、「評価」をどうするかということを悩んだ結果ではないかと思います。学生たちは「評価」=「点数をつける、学期末につける成績」だと考えていると思われます。そして、最終的に成績をつけないといけないのだから点数化しやすいものを授業案に入れておかねばと考えているのだと思います。
 私自身、評価については、ずっとモヤモヤしていました。昔、高校で教員をしていた時、テストの解答用紙の端っこに「私は1年間勉強してきて、このテストの点数には表れていないかもしれないけど、すごく成長したことが自分でとてもうれしいです」と書かれていました。点数をつけられるのはごく一部のもので、点数化できないものについてどのように評価すればいいのだろう。
 最近『教科書をハックする』の中の「学ぶための評価」について読み、「テストのために教える」のはやめ、競争ではなく、共有する学びをやっていきたいと思いました。そんなことを学生たちと一緒に考えていきたいと思っているところです★★。

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 ここで紹介された授業のほとんどは、ライティングとリーディング・ワークショップで実施されていることです。http://wwletter.blogspot.com/2010/05/ww.html 興味をもっていただけたら、https://sites.google.com/site/writingworkshopjp/teachers/osusumeのリストから、読んでみたいと思えるものから足を踏み入れてみてください。

 「フィンランドの教育」を見た学生たちのコメントを、あなたはどう読まれましたか? いつまでも、このような感想を言わせてしまうような教育をやり続けて、いいのでしょうか? 学生たちは、そういうのは御免だと思いつつ、そういう授業を自分がするための指導案としてつくってしまい、そしてやってしまうという悪循環も見事に描き出されています。その悪循環に終止符を打てるのは、いったい誰でしょうか?


★「大切な友だち」の具体的なやり方は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.htmlをご覧ください。

★★ 他にも、『一人ひとりをいかす評価』が参考になります。


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