今日はまず物理学の話から入ります。
物理は今日では素粒子物理や核物理など、一般の人々に分かりにくい高度な専門領域が中心になっています。この素粒子物理学は湯川秀樹や朝永振一郎といったノーベル賞受賞者が出たことで、日本の得意分野の一つと言えるかもしれません。この2人の先生にあたる物理学者がいます。仁科芳雄という人で、この人がいなければおそらく湯川さんも朝永さんもノーベル賞をもらうような研究はできなかったでしょう。
しかし、一般には仁科芳雄の名前はそれほど知られていません。太平洋戦争中の日本の最高研究機関は理化学研究所、通称「理研」でしたが、仁科さんもその一員でした。戦後、理研の所長に仁科さんが就任するのですが、その一番の仕事は理研の存続でした。
東奔西走するなかで、仁科さんは「理研」を「科研」というペニシリン製造会社へ変えることにより、理研の存続に成功しました。しかし、約300人の研究員や従業員に給与を支払うための資金繰りに走り回るうちに、病をえて、昭和26年(1951年)に亡くなってしまいます。
理研は今日、国立研究開発法人として存続していますが、遺伝子工学や新元素の発見など創造的な科学研究を続けています。昨年の新元素発見で、その名称が何になるか注目していましたが、「ニホニウム」(nihonium)に決まりました。個人的には「仁科芳雄」の名前を入れてあげればよかったのにと少し残念な思いをしました。
さて、先ほどの湯川秀樹の研究仲間の一人に武谷三男という物理学者がいました。彼は研究を進めていくための方法論として独自の「三段階論」というものを提唱しました。
それは次のような考え方です。
自然自体に階層的な構造があるために、人間の認識も次の3つの段階を経ていくというものです。
①現象の観察や実験結果を記述して知識を集める「現象論的段階」
②ある現象について、それがなぜ起こるのかを説明する実体的な構造を知り、このモデルにより法則性を得るという「実体論的段階」
③さらに普遍的な実体とそれらの間の相互作用の法則の認識である「本質論的段階」
武谷さんは古典力学を再度学ぶ中で、ケプラーやガリレオ、ニュートンが果たした役割を見事にこの3段階論で説明してみせました。(興味のある方はぜひ武谷三男『物理学入門』ちくま学芸文庫に収録されており、今日でも入手可能ですので読んでみてください)
この武谷さんとは業績分野が異なりますが、物理学者で科学哲学者でもあったポパーというイギリスの科学者がおりました。彼の研究の一つに、現実を捉える見方の一つとして「3つのワールド論」というものがあります。
ワールド1:物理的対象・出来事の世界
ワールド2:心的対象・出来事の世界
ワールド3:客観的知識の世界
ちなみに「科学理論」などはワールド3に入るようです。
武谷とポパー、二人の考え方の切り口や見ているところは違うのですが、2人とも自然界や世界を3つの窓から見ようとしているという共通点を発見して、かつて驚きを覚えたことがありました。そういえば、湯川さんの中間子論も思考の大胆な飛躍そのものです。
その同じ湯川でもドラマ『探偵ガリレオ』(東野圭吾)の中の福山雅治演じる「湯川学」の決め台詞を思い出す方も多いのではないでしょうか。『実に、面白い』
「主体的・対話的で深い学び」が次期学習指導要領の中核とも言えるものですが、この「実に面白い」を子供たちに実感させることができたら素敵なことです。複数の事柄が実はお互いに関連があったり、類似点があったりすることに気付いた時に、『Aha!』という体験ができるように思います。これは、理科でも社会でも、その他の教科でも、総合的な学習でも可能です。あるいは複数の教科で横断的に行うことも。
そのような創意工夫があちこちの学校で出てくることを期待したいものです。
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