2017年7月2日日曜日

教科書とカリキュラムづくり


■教科書の進化

 日本の公立学校では、教科の学習・授業において、文部科学省検定済みの「教科書」を使用しています。現在の教科書は、30年前、40年前と比べると印刷もフルカラーになり、写真や図表もふんだんに掲載され、記述内容も詳しく、読みやすく書かれています。学習課題あるいは学習問題も囲みで示されています。学んだ内容に興味関心をもった子どもたちに応じるために、本の紹介や発展的な内容の読み物資料なども掲載されています。また、社会科や理科などでは、子どもたち自身が疑問に思ったことを自分たちの学習問題(問い)として、それを解決するための学習計画・調査計画・実験計画を立てて、探究学習を進めていく単元が設定されているものもあります。さらに、4年生で学習する消防署や浄水場、クリーンセンターなどの社会科見学と国語の新聞づくりの学習とが関連づけられているなど、横断的な学習、いわゆるクロス・カリキュラムも考慮されています。至れり尽くせりといった感があります。 

 このように、教科書は子どもたちの学びを、さらに教師の学習指導を強力に支援してくれるもの・道具に変わってきているようにも感じられます。 

しかし、教科書は、教科書会社(出版社)が執筆者とともに全国どこの地域でも使えるように作成したものです。いわば「レディメイド」であって、目の前の子どもたちに合わせて作成された「オーダーメイド」ではありません。まして、それぞれの学校の子どもの実態を考慮して、先生方自身が教科書を選択したわけではなく、いくつかの市区町村が集まって一括して採択されたものなのです。 

教科書が進化したぶん、先生方が目の前の子どもたちの実態・学習状況(興味関心やレディネス、学習スタイル、学習スピード、才能などの違い)に応じた「学習指導計画づくり・カリキュラムづくり」という教師本来の創造的・魅力的でやりがいのあることから、手を放してしまっているように思えてなりません。 

 教科書は、学習指導のための一つの資料にしか過ぎないはずなのに、私が知る範囲ですが、多くの先生方は教科書に書かれている内容を、教科書を使って教えています。先生方は、なぜ、創造的・魅力的でやりがいのある「カリキュラムづくり」に取り組まなくなったのでしょうか。教科書が進化したからでしょうか。 

■カリキュラムづくりを阻むもの

 教師自身によるカリキュラムづくりの前に立ちはだかる大きな壁は、次の3つだと考えています。

1.学校現場の多忙化

2.カリキュラムづくりという学校文化そのものの希薄化

3.目の前の子どもを中心に据えたカリキュラムづくりという視点の欠如 

 6月4日のPLC便りでも書いたとおり、てんこ盛りの状態の次期学習指導要領の移行期に向けて、学校現場は、多くの教育課題を解決するために多忙を極めています。

特に、小学校は、一人の学級担任が、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育、学級活動、道徳、外国語活動(英語)、総合的な学習の時間と、10教科以上の学習指導を行わなくてはなりません。これら、すべてについて、一人でカリキュラムづくりを行うのは、至難の業といえるかもしれません。中学校は、いじめの予防・克服など生徒指導や部活動の指導にエネルギーを注ぎ、教師の本務である学習指導・授業改善は二の次になりがちです。 

教科書が現在のように進化していなかった30年・40年前頃は、目の前の子どもの実態に応じたカリキュラムをつくることそのものが、「学校文化・教師文化」として存在していました。私も当時の校長先生から授業は、教科書(教科書に書かれている内容)を教えるのではなく、教科書で教える(教科書を活用して教える)教科書は、学習指導・授業の一つの資料に過ぎない。」「教科書どおりに授業を進めるのではなく、目の前の子どもたちの思考に沿った単元の学習指導計画になるよう工夫しなさい。と言われたことを覚えています。 

しかし、現在は、この当たり前だったカリキュラムづくりという学校文化・教師文化が希薄になってきているように感じられます。教科書がなく学校独自のカリキュラムを作る必要のあった「総合的な学習の時間」が削減された頃を境にして、教育委員会も、カリキュラムづくりの重要性をあまり強調しなくなりました。このため、都市部を中心に急速に増えている若い先生方の間で、カリキュラムづくりの重要性や進め方を知らない人たちが増えつつあるのです。 

そして、最も本質的な問題をはらんでいるのが3つ目の壁です。「目の前の子どもたちを中心に据えること」を忘れたカリキュラムづくりは、子どもたち一人ひとりの主体的な学びの実現にとって致命的です。教科書の最大の問題点は、ここにあるのです。 

■目の前の子どもたちを中心に据えたカリキュラムづくりを!!

 教師主導の授業を行うための教師側に立ったカリキュラムづくりではなく、目の前の子どもたち一人一人が「学びの主体者」として学習・成長していくことを第一に考えたカリキュラムづくりを進めていきたいものです。その実現のために参考になるのが、以下の3冊です。 

1.『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」~』ダン・ロスステイン&ルース・サンタナ(著),吉田新一郎(訳)[新評論]

2.『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ ―「違い」を力に変える学び方・教え方―』C.A.トムリンソン(著),山崎敬人・山元隆春・吉田新一郎(訳)[北大路書房]


1と2は、これまでPLC便りで何回も紹介されてきたものです。目の前の子どもたちを中心に据えたカリキュラムづくりを進めていく際、具体的な実践例が示されていて、とても役に立ちます。特に1は、教師による「教える」授業から、子どもたちの「問い」を出発点とした子ども主体の「学ぶ」授業へ、授業観の転換が図れる刺激的な内容です。3では、「逆向き設計」論 とそれを教科や総合的な学習において、具体的にどう活かして子どもたち主体の探究的な学習を創造していくかについて、実践例とともに詳述されています。 



★ 「逆向き設計」論では、 (1) 学習の修了時をイメージして「求められている結果(目標)を明確にする」→ (2)「承認できる証拠(評価方法)を決定する」→ (3)「学習経験と指導(学習・授業の進め方)を計画する」というように、学習・授業によって最終的にもたらされる結果・ゴール・目標から遡って学習・授業を設計することを主張しています。また、「逆向き設計」論では、「本質的な問い」「永続的理解(原理と一般化)」「(永続的理解を促進し評価するための)パフォーマンス課題 ★★」「パフォーマンス評価のためのルーブリック(評価指標)づくり」「ポートフォリオ評価法」が、カリキュラムづくりのための重要な要素となっています。


★★ 多くのパフォーマンス課題では、「作家の時間」や「読書家の時間」と同じように、新聞記者になって特集記事を書いたり、科学者になって実験計画を立てたり、国会議員になって経済政策を提言したりするなど、「○○になるアプローチ」が採用されています。

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