2024年12月1日日曜日

教員にとっての絶望の時代が来る前に私たちにできることはあるか

子どもの頃、私にとって、教員という職業は輝いて見えました。教壇に立ち、若者たちと、共に悩み、語りあう。そのような姿にあこがれていたのです。学園青春ドラマ『飛び出せ!青春』(昭和47年)などが全盛期を迎えたころ、思春期を過ごしたからかもしれません。学校というところは、どこか牧歌的で、のびやかで、大らかなところであり、あこがれでした。

しかし、今の教員は、まるで絶望の淵にいるかのようです。教員志願者の減少についての学生アンケート★1 の結果は衝撃的なものでした。その自由記述の回答を読んで、本当の絶望的な気持ちになりました:

「両親が教師ですが、人生のほとんどの時間を仕事に充てていて、自分の家庭を大切にする余裕がないことが何より辛いと思います。何か家族イベントがあるごとに謝っていて、何のための人生かと思うことがよくあります。教師は、教師になった人の人生を踏みにじる仕事です。(大学生・2年)」

「やりがい搾取」という言葉も出てきました。ものすごい言葉ですね。

「一言で言えばやりがい搾取。それを現職の大半が受け入れてしまっている構図。教師たちは、気付けば抗う余裕と時間が無くなり、自分らがとんでもない職場で働くことを自覚できないまま、「生徒のため」の奴隷とされてしまっている。改善したい(されてほしい)が、事なかれ主義の管理職やベテラン教師が多く蔓延る学校ほど、改善など夢のまた夢なのだろう。(大学院生・2年)」

教員にとっての絶望の時代が訪れようとしているのかもしれません。

このような現状を目の当たりにして、2021年3月文部科学省は、教師のバトンプロジェクトを立ち上げました。★2 このプロジェクトは教員が若年層に仕事の魅力を伝えることで、教員志望者の増加を目的としたプロジェクトでした。SNSを使った、教員の声を広く伝える試みは、当初は好意的に受け止められていましたが、教員の労働環境の切実さを訴える声が目立ち過ぎ、炎上気味になったことも記憶に新しいところです。

この試みは、必ずしも意図した結果が得られたわけではないですが、とても貴重なものだったと思います。

教員の成り手がいないことは、もう立派な社会問題です。日本という国の未来を傾かせる危険性さえもっている。

教員不足の原因は、教員の労働環境、教員給与の低さ、社会的な評価の低下など実に様々なものがあり、どれか一つが決定的要因であるということはなさそうです。複合的かつ長期的に形成されてきた、教職に対するネガティブなイメージが、社会の隅々までひろがり、共有されてしまった。残念なことです。

それに対して、実に多くの提言や取り組みが試みられ始めています。労働環境の改善、給与水準の引き上げ、教員養成課程の充実、リタイア教員の再活用、教員の研修とサポートなどです。特に、教職調整額の引き上げが一つの対策として話題になっていますが、特効薬になりえないと思えます。私の知っている現職の教員たちは、口をそろえて「そこじゃないだろう!」と言います。本質的な解決策にはならないでしょう。

この問題に対して、我々現職の教員にできることはないでしょうか?例えば、

◉古いものをアンラーンする。「教師が、土日休んでどうするんだ?」といった、長い時間をかけて形成され、へばりついて離れなくなった、教育観、労働観、価値観などを捨て去る。スポーツの時に水を飲んではいけないと言った考え方は、完全にアンラーンできています。自分の信条を疑うのは、容易ではありませんが、一歩踏み出すことはできる。

◉安心でき、信頼できる仲間を探す。自分の所属するところが、心安らげない場所であることは、とても辛いものです。心から安心できる職場、信頼できる仲間のいるチームづくりに自ら貢献しませんか。仲良しクラブではなく、お互いが切磋琢磨できる緊張感とプロ意識のあるチームを。

◉学び手の学ぶ力を信じる。教員のなり手が減ったとしても、子どもたちの学びを持続させるための、全く新しい発想も必要でしょう。例えば、AIを大胆に取り入れるといったことも一つの方法。そもそも子どもたちが、自ら主体的に学び続ける姿勢を身につければ、教師が手取り足取り、教える必要はなくなる。

◉授業の魅力化。結局のところ、授業が楽しくて、刺激的であることが、もっとも中核にあることかもしれません。ワクワクするように授業に参加した生徒たちは、その環境を生み出した教員をある種のロールモデルととらえ、あこがれる。自分もそのようなワクワクする体験を創り出す側に回りたいと思う若者が増える。それが、教員志望につながる。

◉教師自身が、楽しく元気に学び、生き生きと働く姿を見せる。教師が輝いている姿を見せること。教師が常にポジティブな姿勢を示すこと。個人的にはこれが、誰にでもできる対策ではないかと思います。確かに、そのような大らかさや闊達さを奪う状況が存在していることは分かるけれど、それでも、前向きなマインドセットを維持することはできるはずです。

即効性を期待できる方法は見当たりません。しかし、政治や行政任せにせずに、自らの手で、学校の危機を救うためのアクションを起こすことはできる。ぜひ、我々にできることから始めませんか。皆さんからのアイデアも送ってください。共有しましょう。


★1 「なぜ教員志望の学生は減少しているのか?学生アンケート結果から」
室橋祐貴、日本若者協議会代表理事, 2022/4/17
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/07449a732fdf1693321cbe7388cda2545e82ce17

★2 「#教師のバトン」プロジェクトについて、文部科学省
https://www.mext.go.jp/mext_01301.html