私は仕事でずっと教員研修に関わってきました。より良い研修を企画し、実施できるようになるために、いろいろと調べたり、勉強もしました。参加する先生方が、成長し、生き生きと教室に立てる、そのような研修を実施したいとずっと思ってきたのです。
「講義を聞くだけの研修で良いのか?」という問題意識は、結構早くからあって、いろいろな方法を模索してきました。ワークショップの形式を取り入れたり、教室での実践研究の質を高めるためにアクション・リサーチを導入したりしたのです。さらに、教室での実践をサポートすることのできるメンター的な立場の人を育てる必要があると考え、プロのコーチを招いてコーチングについて学んだり、ミドル・リーダー的な立場の人たちと、ブッククラブをやって、メンタリングについて学んできました。
これまでの取り組みは、一定の成果はあったと思うし、その手法や考え方について賛同を得ることもでき、注目もされました。
しかし、月日を重ね、改めて振り返ってみると、果たしてどれだけの効果があったのか。教員の実践や生き方を変えるだけのインパクトがあったのか、自問してみると、到底合格点をつけることはできないと思えてきます。残念ながら。
何が欠けていたのだろうか。今一度、振り返ってみることで、これからの教員研修の改革に役立つのではないかと思います。
アメリカの経営学者ドナルド・カークパトリックが考案した、研修の成果を評価するモデルが参考になると思います。カークパトリックは、教育や研修の効果を4段階でまとめていて、受講前後の変化を投資効果として評価する必要性を説いています。各レベルは次のように説明されています。★
レベル1 反応・刺激(Reaction)
参加者が、研修を好ましい、面白い、仕事に役に立ちそうであると感じる。
レベル2 学び(Learning)
参加者が、研修後に職場に帰って、必要な知識、スキル、態度、自信、仕事への専心などを得たと感じる。
レベル3 行動変容(Behavior)
参加者が、研修で学んだことを、職場に帰って、実践に移す。
レベル4 結果(Results)
参加者が、研修で学んだことに加えて、必要なサポートと結果に対する責任意識がセットで整って、目標とした結果がもたらされる。
実に興味深いレベル分けです。これまでに実施されてきた研修の多くは、レベル1止まりではないでしょうか。楽しく話を聞いて、刺激を受ける。職場に帰ってからも、その刺激が維持され、学びが継続すれば、レベル2まで到達するかもしれません。レベル3まで進むには、研修の中に、中長期的な、職場におけるアクション・リサーチのようなものが組み込まれていなければ、到達できないかもしれません。
問題は、どうすればレベル4に到達できるかということでしょう。そのためには、研修を受けるだけでは不十分で、サポートと結果責任の両方が必要(the support and accoutability package)だと述べています。
一つは、研修後の継続的なサポートが不可欠であるということです。やりっぱなしの研修では効果が低い。どれだけ、受講者に向き合い、必要なサポートを続けられるかが、重要なポイントになるでしょう。さらには、受講者をサポートできる人材を育成する必要もあります。コーチングなどを学び、受講者と共に成長していこうとする人材です。近年、退職校長などがサポート役で配置される事例が見受けられますが、いずれは、教員のサポートを専門的に行うコーチのような存在が必要となるかもしれません。
次に、結果に対する責任を負うということ。これは、サポートとセットになっていないと意味がない。結局のところ、研修の受講者である教員が、どれだけの主体性をもって、自分の学びに関与するか。与えられたり、強制されて実施するレベルでは、成果は期待できないということでしょう。
教員にとって真に実効性のある研修の創造。日本の教育の、今後の最重要課題の一つだと思います。
★ このモデルは1950年代に考案されたものですが、そのモデルのアップデートを試みた研究を参照して考えてみます。James Kirkpatrick and Wendy Kirkpatrick (2016) Four Levels of Training Evaluation (『研修評価の4レベル』), ATD Press.
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