今月第2週でも取り上げられた『一人ひとりをいかす評価』を今回も参考資料とします。
さて、そのときも話題になったフィードバック(feedback)とは、生徒の考え方や実際の行動に対して評価を行うことです。
もともとフィードバックという言葉は、ITや工学の分野で使われていた用語で、入出力のあるシステムで、「一度出力されたものを入力側に戻して、その後の出力の制御を行う」という意味が、ほかの分野でも広く使われるようになりました(私が教師になった1970年代の終りには、教育工学に注目が集まり、「フィードバック」という用語が使われた記憶があります)。
授業に関連する評価には、単元の初めに行う診断的評価、単元の学習中に行う形成的評価、そして単元の終りに行う総括的評価の3種類の評価が知られています。診断的評価では、生徒がその単元を学習する前にどの程度の予備知識があるのかを把握して、適切な学習計画を立てるために必要なものです。これについては、『教科書をハックする』(新評論)を参考にしていただくとよいと思います。
さて、「形成的評価」をここでは取り上げます。形成的評価がもつ特徴と目標について専門家の共通の見解として『一人ひとりをいかす評価』で次のように紹介されています。(同書90ページ)
ディラン・ウィリアムは、評価は、指導の次のステップを決めるために、教師が生徒のパフォーマンスについての証拠を集め、解釈し、そして使ったときの方が、証拠もなしに決めたときよりもどれだけ好ましいかという程度に応じて、形成的である度合いも決まるとしています。言い換えると、評価は「証拠が生徒のニーズに見合った指導に使われた場合に」形成的になるのです。
この最後の「証拠が生徒のニーズに見合った指導に使われた場合に」の文言はじっくりと噛みしめたいものです。たとえ教師がフィードバックしたつもりでも、生徒のニーズに合わず、学習が改善されなければ「形成的評価」とは言えないという点が重要です。さらに生徒の到達度を向上させるツールとして大切であることが同書91ページに記載されています。
多くの専門家たちが、形成的評価の効果的な使用は、生徒の到達度を向上する最も強力な授業で使えるツールであると言っています。ハッティは、800以上の項目のメタ分析の結果、「形成的評価の設定」が分散値0.90でランキングの最上位にあるとしています。
ちなみに、「習熟度別グループ編成」は0.12で、0.30以下はほとんど価値がないとのことです。もういい加減に日本も習熟度別編成という役に立たない制度はやめて、形成的評価をさらに徹底させるような施策を考えたほうがよいように思います。
教師と生徒の両方に役立つ形成的評価はそのフィードバックが両者にとって効果的なものである必要があります。その点について、『一人ひとりをいかす評価』(C.A.トムリンソンほか/北大路書房・2018年)の96ページには、効果的なフィードバックがもつ特徴として次の点をあげられています。
・明瞭である
・信頼関係を築いている
・具体的である
・焦点が絞られている
・一人ひとりの違いをいかす
・タイムリーである
・フォローアップを引き出す
こうした特徴をいかす形成的評価の方法として、「見える化シート」「出口チケット」「小テスト」などがあげられます。(同書105-106ページ)宿題もこの手法のなかの一つと言えますが、そこにはこう書かれています。
「一般的に宿題は生徒たちがまだ習得していない知識や理解やスキルを練習する機会を提供するものでなければならない。」
この宿題に関しては、『宿題をハックする』(新評論・2019年)が参考になります。同書の79ページから始まる「ハック4」では、「生徒のニーズにあわせた特別仕様にする」として次のように述べられています。
「生徒が理解している少し上のレベルを教師が提供することによって、生徒は飛躍的に伸びます。もし、理解のギャップが大きすぎると、生徒はフラストレーションを起こしてしまい、すぐにやる気をなくしてしまいます。」
宿題がよい結果をもたらすか、その逆になってしまうかは、授業中の形成的評価によって、どの程度生徒の学習の様子を的確に把握しているかによるわけです。個々の生徒のニーズを無視して、どの生徒にも同じ宿題を与えていては、「学びから逃避する」生徒を生み出すだけです。
宿題は小中学校ではまだ当たり前のように日常的に出されることが多いようですが、形成的評価の観点からも、その効果的活用という点からも再考されるべき課題です。
ここまで、形成的評価について書いてきましたが、単元(ユニット)の最後の評価である総括的評価については、次回(11/26)に譲ることにします。
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