2023年11月5日日曜日

今こそ、授業を考え直し、新たな実践に踏み出す時!

 訳者の一人の飯村寧史さんが書いてくれた文章を紹介します。扱っている本は、『みんな羽ばたいて 生徒中心の学びのエッセンス』(キャロル・アン・トムリンソン著、新評論、2023年)です。


 日本の教育界は、数年来のコロナウイルス感染症の流行に伴い、授業のやり方、評価の仕方も大きく変化をすることとなりました。そして、ポストコロナの今、教育のあり方を模索しているところだと思います。一方では、ICTを使った授業への問い直し、旧来の在り方への揺り戻しがあり、また一方では、より一層ICTを用いた授業を進展させ、授業を変革していこうという方向性もあります。そして、多くの先生はその中道を行こうとし、従来の授業の良さとICTの良さを組み合わせた授業を模索しているのではないでしょうか。

 こういう時こそ、自分の授業(なおこのなかには、評価の仕方や学習環境のつくり方なども含みます)をもう一度見直し、考え直すことが大切だと思います。一体、生徒にとって何が大事なことなのか、自分が授業をどう考えているかを問い直すちょうどいいタイミングといえるのではないでしょうか。

 今回ご紹介する本書は、まさにあなた自身の授業を見つめ直すのに絶好の本だと思います。著者が長年にわたり実践してきた生徒中心の学びを語ることを通して、著者の教育にかける願いや考え方、そして実践例がふんだんに盛り込まれた著作です。(あまりにページ数が多くなってしまうため、一部を割愛せざるを得なくなるほどのボリュームでした。)この本の面白いところは、著者自身が、旧来の教育に疑問を持ち、悩み、生徒中心の学びに転換し、その正しさに確信を得てきたという、教師としての苦悩と変化の遍歴が読み取れるところです。本書を読めば、きっとあなたもご自分の教師人生と比較しながら、授業を考えることができるでしょう。

 私にとっては、特に第6章「評価」が印象に残っています。

 冒頭では、著者自身の悩みが描かれています。

 「私が生徒だった頃から変わらずにある、学校の代名詞とも言える「テスト・成績・通知表制度」は恐ろしいほどまちがったものに思えます。しかし、教師になった私はこの制度を継続していました。なぜなら、私にはそれに代わるだけの、筋の通った代案がなかったからです。」(228ページ)

 この文章を読んでいるあなたはどう思いますか?

 私は公立中学校教員なのですが、いまだに、この状態を抜け出せません。テストが嫌で学校を休んでしまう生徒、保護者に「テストで○○点とったらスマホを買ってあげる」などと言われている生徒、学校内の順位が気になる生徒、通知表の評定が高校入試に響くことを恐れている生徒など、この制度の犠牲になって嫌な思いをしている生徒を数多く見てきました。その都度、慰めの声をかけることはできても、この制度を変えることはできませんでした。なんとも空しい気持ちです。

 しかし、本書では、学問的にも、実践的にもこのような評価の仕方は百害あって一利なし、シフトするべきであると述べています。読んでいる私自身の「テスト・成績・通知表制度」に対するモヤモヤとした気持ちが晴れて、自分の疑問はやはり妥当なことだったのだ、と思えます。

 そして、真の意味での評価とは何か、そしてその方法はどんなものか、ということについて、十分に整理して説明を重ねていきます。特に、評価の種類の中でも、特に大事なのは形成的評価としています。日本では授業の際の「見取り」が大切だとよく言われます。そのことと共通する内容が書かれています。以下に抜粋します。

 「したがって、教師の関心は、「クラス全体の生徒」ではなく、一人ひとりの成長と幸福にあります。要するに、形成的評価とは、一貫して、持続的に、そして一瞬一瞬、学び続ける生徒たち一人ひとりを、教師が注意深く観察することなのです。」(249ページ)

 とはいっても、私などは、見取りというものについては、ぼんやりとしたイメージしか持っていません。実際に何をするべきかはピンとこないものでした。せいぜい、この生徒はできているな、この生徒はよくわかっていないな、といった、雰囲気で判断するくらいのものだと思っていました。

 しかし、本書を読めば、このような雰囲気の判断は、「非公式(インフォーマル)な形成的評価」という、評価の一部分にすぎない、ということがわかります。大事なのは、それを補う「公式(フォーマル)な形成的評価」、そして、教師、生徒からのフィードバックなのです。この辺りは、日本の学校でもぜひ補うべきものなのではないでしょうか。

 公式な形成的評価の例として、本書では「出口チケット」や「カンファランス」について説明されています。雰囲気だけではなく、一人ひとりの生徒にとって本当に必要なものは何かということをはっきりさせるためです。本当の意味での「見取り」をしたいというならば、ここまでやらなくては、と思わされます。しかも、これらは決して難しいことではなく、すぐに取り入れられるものです。(もちろん、手続きや声かけの方法については教師の側の理解と練習が必要ですが。)

 また、評価をしたとしても、その後の授業があまり変わらないのでは意味がありません。一人ひとりの生徒へのフィードバックが大切です。これについては、教師からのフィードバック、生徒同士のフィードバック(ピア・フィードバック)の方法が紹介されています。

 近年、「学び合い」が大切であり、有効な方法だということは、日本の学校でも浸透しつつあります。しかし、恐ろしいことに、次のような記述もありました。

 「もちろん、生徒間のピア・フィードバックが自動的に効果を発揮するわけではありません。ある研究によると、授業中に受けた口頭でのフィードバックの80%はクラスメイトからのものであるということがわかりました。また、この研究では、そのフィードバック情報のほとんどがまちがっている、と結論づけています。」(262ページ、ピア・フィードバックについては、本書以外に『ピア・フィードバック』を参照してください。)

 こうしてみると、生徒を見取ることや、学び合いを重視することといった、私たちが当然のものとして、信じて行っていることの危うさも見えてきます。私の場合は、本書を通して、評価についての考え方がより明確になりました。ぜひ、自分の実践に組み込んでいきたいものです。

 本書は、教師、生徒、学習環境、カリキュラム、評価、教え方、と、授業の幹となる要素から目を逸らすことなく、真っ向から取り組み、描こうとした、まさに著者の授業についての考え方を著したものといえます。

 表題にある「みんな羽ばたいて」は、生徒にも、教師にも向けられたメッセージです。どうか、本書を読んで、ご自分の授業を見つめ、明日からの授業で、あなた自身も、そしてあなたが目の前にする生徒も羽ばたけるように、考えてみてください!

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