2023年10月22日日曜日

『みんな羽ばたいて 生徒中心の学びのエッセンス』キャロル・トムリンソン著を読んで

 私立桐朋学園小学校(東京都国立市)の有馬佑介先生が送ってくれたので、紹介します。

 この本の「はじめに」の冒頭にはこう書かれている。

「本書は、生徒を中心に据えて、教師が思考、計画、実行、振り返り、修正のサイクルを回す、意図的で継続的な授業づくりを目標にしたもの」。

この本を説明するのには、この冒頭の言葉がしっくりくる。つまりこの本は「生徒を中心にする」ことについて、いったいそれがどういう意味なのか、それをすることで生徒はどうなるのか、そして、それをするには教師はどうしたらいいのか、それが書かれている本だと言える。

 「生徒を中心にする」ということは、多くの教員にとって、目標であり願いだろう。おそらく多くの教員が、自分の置かれた環境のなかで、それに向かおうともがいているのではないだろうか。私もそのひとりだ。

しかし、自分の現状を振り返ったときに、「自分は生徒を中心とした学びを作っている」と自信をもって言えるかというと、大いに迷いが生じる。本書はそんな教員に丁寧に寄り添ってくれる一冊だと感じた。 

私が良いと感じた本書の特徴を3点挙げたい。


 まず1点目は、本書が網羅的な内容になっていることだ。本書の章の構成は以下のようになっている。

1.「生徒中心」とは何か?

2.教師 生徒を尊重し、学びを整える

3.生徒 生徒ひとり一人の成長を促す

4.学習環境 生徒中心のクラスをつくる

5.カリキュラム 夢中で取り組める学びを提供する

6.評価 学びと成長のために評価を活用する

7.教え方 生徒中心の授業をつくる

 いかがだろうか。この一冊を読むことによって、どのように考えるか(マインドセット)から、具体的に授業や評価をどのようにしていけばいいのか、「生徒中心の学び」を実現するための道筋がひととおり書かれている。

マインドセットやカリキュラム、評価それぞれについて書かれている本は多くあるが、これだけ網羅的に書かれている本は多くはないように思う。

本書を丁寧に読み解いていくことで、多くのことを確認し、教員としての自分自身を多面的に更新できると感じた。

 

2点目は、本書の書かれ方だ。1点目に書いたように、本書は生徒を中心とするための教員の営みについて、様々な面からそれを説明しており、多くの引用がなされている。そのため、巻末の参考文献には多くの本が列挙されており、その数は実に100冊をこえている。つまりこの本は、子どもの学習に関する最新の理論のエッセンスを抽出して書かれていると言える。なんと贅沢なことだろうか。さらに、日本語訳の訳注にも50冊をこえる本の紹介がなされている。もし、この本を読んで、さらに自分が特定のことを深めようと思った時に、たとえば私はカリキュラムと評価についてさらに理解を深めたいと感じたが、この参考文献のリストが力を貸してくれると感じた。

また、引用が多くなされているものの、もちろんそこに筆者の捉えや考え、さらには実際の学校(小学校や中学校、幼稚園まで様々)での子どもたちの様子のエピソードが平素な文章で書き添えられており、決して簡単なことが書かれているわけではないが、ひとつずつのことをあざやかにイメージすることができた。

 

3点目として、最後に挙げたいことは、この本の持つ柔らかさだ。

正直、教育書、特に訳書を読むときは、どこか「できていない自分」が責められている気になるものが少なくなかった。しかし、この本はそう感じなかった。

リストの掲げ方からにもそれを感じた。例えばP.86-88「一人ひとりの生徒を肯定するための方法」のリストの最後にはこう書き添えられている。「あなたは、このほかに何を加えますか?」

冒頭にも書いたが、おそらく多くの教員にとって「生徒中心の学び」は目標である。本書では狭い瓶に例えられていたが、不自由な現場のなかで、それでも何とかそれに向かおうともがいているのではないだろうか。本書はそんな教員のできていないことを責めるのではなく、認めてくれている気がする。だからこそ、私は今自分ができていることを立ち止まって確認できた。そのうえで、経験や勘に頼っていて体系立てられていないこと、そしてこれからこの本を参考にやっていきたいことを落ち着いて考えることができた。この本のすごく素敵なところだと思う。

 

「生徒中心の学び」を叶えたい教員には、手にとることをすすめたい。

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