多くの学校が夏休みに入り、ほっと一安心した頃でしょうか。休校中の学習の遅れを取り戻そうと、カリキュラムをぎゅうぎゅうまでに詰め込んだ1学期。これまでになかった多忙感の中で先生も大変お疲れのことだと思います。
しかし、本当に疲れているのは大人だけではありません。教師のカリキュラム・カバーに毎日6時間も!? そして夏休みを短縮してまでも! 勉強に付き合わされていた子どもたちのことを忘れてはいけません。子どもの権利条約31条「子どもの遊び、休む権利」について、文科省の方達に今一度、目を通してもらいたいものです。
私たちは、この期間中、子どもの声に耳を傾けようと努力できていたのでしょうか? そして、その声をカリキュラムに反映できたのでしょうか? 一方的な管理教育の中では、子どもが民主的に考えて社会を他者の手を借りながらもよりよくしていこうとする態度を育むことはできません。子どもが意見を表明したり、質問をする(なぜ、これほどまでに勉強に時間をかけてやらされるのか納得のいく回答をもらっていない!?)機会を増やし、子どもの声を聴き取っていけるといいです。
以前のPLC便りでは民主主義について考えました★。質問づくりを提唱するダン・ロススタインは「質問づくりは民主主義の練習」と訴えます。質問をすることは相手のことを知ろう・分かろうとする現れです。自分本位の考えから脱し、多様な価値観を理解しようとすることです。つまり、様々な人の意見を理解しようとすることであり、ここに民主主義の精神が宿ります。
もし、子どもたちの声を聴き取ろうと敬意をもってやりとりをするのならば、私たち大人がまず子どもが持つ興味へ一緒に面白がったり、子どもの考えや心の動きに好奇心を持てるようになる必要があります。この教師が持つべきマインドセットはこれまで紹介してきたワークショップ授業の作家の時間、読書家の時間、(数学者の時間、科学者の時間、歴史家の時間 ※現在執筆中)などのワークショップ授業には欠かせません。
ワークショップ授業にはカンファランス・アプローチと呼ばれ、一人ひとりの理解度に応じて、その学びをサポートする個別カンファランスがあり★★、教師の学習内容への専門性によってよりよく学習者をガイドすることができます。しかし、子どもが持つ興味それら全てに応じる専門性を身につけることは不可能であり、現実的ではありません。
私たち教師は常に知らないことに突きつけられ、専門性のないこともカンファランスをしながら子どもが学びを深められるようにする必要があります。この教師の専門性だけに頼ることなく(時にその専門的知識がありすぎることで縛られてしまい、目の前の子どもの実態が見えなくしてしまうこともあります)、一人ひとりの子を個別カンファランスし、子どもの声を聴き取ろうとすること、それが「好奇心のパワー」が必要なのです。
それには、子どものやっていることに感心を持つことでもあり、面白がる好奇心が必要です。そのための基本的な技術は欠かせません。キャシー・タバナー他著・吉田新一郎訳『好奇心のパワー:コミュニケーションが変わる』には、好奇心をもつための3つの強力な技術が紹介されています。
①「今、ここ」に集中し、相手に焦点を合わせる。
②聴き方を選択する。
③相手への興味関心を示すオープンな質問をする。
そして、何よりも私たちはまず相手に興味を持つことに失敗していることが多くあります。常にSNSを頻繁にチェックしてしまい、その代償に大切な人との時間を失ってしまっています。子どものしていることに、興味を持つこと。それには、「今、ここ」に集中することです。相手を理解しようと敬意を払うためにも、一度手を止めて集中することが必要なのです。そのための「今、ここ」に集中する6つのポイントがあります。
“しっかりと自分の中に取り込もうとすれば、今ここに集中し、聴くことができます。「ABSORB」は、以下の6つの単語の頭文字です。”
A=Attention(注目する)
B=Body Language and Tone of Voice(ボディー・ランゲージと声のトーン)
S=Stop and Focus(すべてを中断して、集中する)
O=Open to Understand Not Judging(評価を下すのではなく、理解する)
R=repeat through Paraphrase(相手の言ったことを言い換える)
B=Becalm the Gremlins(小悪魔を黙らせる ★★★)
『好奇心のパワー:コミュニケーションが変わる』P.40より
教師から、「今、ここ」の時間に敬意を払って関わってもうこと、聴いてもらえるだけで、ほとんどの問題は解決しているのです。子どもの声を聴く、興味関心によりそってカンファランスするには、やはり技術が欠かせません。
“私のコーチング人生の中で、これが最大の発見といえます。つまり、誰もが見てほしい、聴いてほしい、そして理解してほしいと思っているのです。これを達成するために、評価を下すのではなく、共感的に理解しようとすることがとても大切なのです。”
『好奇心のパワー:コミュニケーションが変わる』P.52より
子どもの声を好奇心もって聴くこと。子どもが安心して質問できること。そこから民主的な対話の一歩が生まれます。戦後75年の今日、私たちの教室の中に民主主義の根っこが育つこと、そして平和を願います。平和とは戦争がないことではりません。対立の解消はそれを避けることではなく、好奇心をもって対話で解決することです。
広島原爆の日に。
★
学校の中で安心して民主主義を学ぶ「質問づくり」
http://projectbetterschool.blogspot.com/2020/07/blog-post.html
★★
子ども一人ひとりの学習をサポートする個別カンファランスには、①その子の実態を理解し、②その学習とのゴールを差分を見定め、③ゴールに近づくためのよりよい方法を教師が提案し相談することが行われています。
★★★
話を聴いているときに別のことが思い浮かぶことがあります。それを著者は小悪魔と呼んでいます。著書には実際にやるべきチェックリストをつくることで解消される例が挙げられています。
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