算数授業の子どもたちの様子を思い出してみてください。「答えがわかった! やり方がわかった! さぁ、次の問題へ」と、子どもたちはたんたんと、問題を消化することで終わっていませんか? 多くの子どもたちは、答えを知ることや計算ドリルを早く終わらせることに、とらわれてしまっていることのなんと多いことか!
算数・数学がもつおもしろさは、その問題を様々な角度から考え直し、算数・数学のもつ世界を自力で押し広げていくことにあります。それには、解き終わった後の「ふりかえり」が欠かせません。
問題を解決した後に、自分がどんなときに解決方法がひらめいたのか、そこまでの「ウーン!」や「アハ!」といった感情のゆらめきや、まだ不安だった解法が確信へと変わったきっかけ等を振り返ったりすることで、より深くその問題を理解することができます。また、自分のその特殊な解法が本当に、他の問題にも一般的に当てはまるのか確かめてみること。自分の意思で数値や条件を変えて新しい問題をつくったり、解いてみたりすること。他の子がどのような方法で解いたのかを紹介し合うことで、より多面的に問題を理解することができて、人とつながり、共有する価値が高まります。
これらのふりかえりを練習することは、子どもたちの算数の世界を拡げ、より高度な数学の証明世界へ入っていくことなのです。授業の最後に、感想やわからなかったことを聞き出してノートに記述させることは、数学的なふりかえりでは決してありません。
さて、算数・数学を深める「ふりかえり」を体験してみましょう。まずは下の問題に挑戦しましょう。
【問題 はい回る虫たち】
“ロス君は、トカゲとカブトムシとミミズを集めています。彼は、トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っています。全部で12の頭と26本の足があります。ロス君は何匹のトカゲを持っていますか?”
ジョン・メイソン リオン・バートン他(著)、吉田新一郎(訳)(2019)「教科書では学べない数学的思考「ウーン!」と「アハ!」から学ぶ」新評論 75頁より引用
ペンと紙を用意しましょう。今、やってみてください! ここから先は、解き終わってから読んでください。数学的思考を使った解法はPLC便りブログの下の欄に記入しておきます。一度、解いてみてから、解法を確認してください。★
できましたか? 多くの子どもたちは答えが出たことに安心して、答え合わせへと走ってしまいます。ここで終わりではありません。「ふりかえり」をやりましょう。
“振り返ることは、数学的思考を伸ばすためにも最も重要な活用であると言えます。何をしたのか振り返らないと自らの体験から学んだとは言えません。”同上70頁
問題を解き終わった後の「ふりかえり」には大きく分けて二段階あります。①最初にその問題を自分の特別なやり方(特殊化)で解いた方法の振り返りと、②さらにその問題を拡げて、その解いた方法を他でも使えるかという応用発展の振り返りです。これは以前のPLC便りで紹介した、「ためす(特殊化)」と「確かめる(一般化)」の法のことです。★★
一つ目「ふりかえり」は、メモを見ながら以下のことを確かめます。「計算」「計算があっていることを確実にする論証」「結論がもたらした結果が妥当かを見る」「解法が問題にあっているかどうか」そして、「鍵となるアイディアと節目」「予想と論証の関係」「解法〜より明確にできないか?」を振り返ります。ノートにメモを残しておくことで、自分の思考の筋道をたどることができます。記録することは、自分の考えを慎重に振り返り、そこから深く学ぶための材料となるのです。
(同上81頁 参照)
取り組みの間に、ひらめきのサインである「アハ!」や、つまずきのサインである「ウーン」をノートにメモしていると、ひらめいた鍵となるアイディアと節目を振り返りやすくなります。私のノートを振り返ると「トカゲとカブトムシの足を足して26本の式を見つけてみましょう」と書いてあります。ここから「アァ! 気が付きました。26本の足の中に、カブトムシの足のかけ算を見つければいいんだ!」と、ひらめいた節目がありました。
私はその後、条件文「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」にあてはまっていない事に気付いてしまい、あきらめかけます。しかし「系統的に」と予想をメモしていたことを思い出し、地道に作業をしていけば、答えにたどり着く感覚を持つことができました。今後、この順番に沿って「系統的」に確認していくことは、かなり強力に私を助けてくれそうな、有効な解法となりそうです。
もう一度、数値や計算が正しいのか、そして、答えの組み合わせは他にもないか気になり、トカゲの数を1匹から系統的に表にして改めて調べてみました。やはり自然数となる組み合わせは、カブトムシが1匹と3匹の2パターンしかなく、この答えが妥当であることが分かりました。
大事なことは、どのように解いたのか、その計画や解決プロセスに目を向けることです。それには、自分をモニターする「ふりかえり」は欠かせません。このように振り返って考える練習することで、考える道筋へと目が行くようになります。すると、他の問題を解いているときにも、これまで解いたことのある問題と感情や解き方がひらめくようにつながってくるのです。
二つ目の「ふりかえり」は、「結果の一般化によるより広い場面や状況」「解法への新しいルートを求めることで」「制約条件を変えることで」、新しい問題への応用発展です。「もし〜だったらどうなる?」と、条件文や数値、さらには求答文を変えることで、自分だけの問題づくりに活かしていきます。その新しい問題で、一つ目「ふりかえり」の解き方(特殊化:自分特有のまだ一般化されていない特殊な解法)を使うことで、本当に他の問題にも適用、応用することができるのか確かめて(一般化:どんな問題においても一般的に当てはまるパターン)いきます。
“最も魅了する問題は自らが生み出した質問です。〜 また、最も面白くやりがいのある問題は、一見極めてたいくつな結果を一般化しようと試みたときに生まれるものですから、とても興味深いといえます。”同上 75頁
26(足の本数)と12(頭の数)がより大きな数字に変わった場合、この問題をどのように解くことができるのでしょうか? 扱う足の数が260本だとしたら? もしこれが「トカゲ・カブトムシ・クモ」だとしたらわくわくしませんか? クモは足が何本になるのだろう? パターンやきまりが見えてきそうです。または駐輪場にある自転車とオートバイの車輪の数でも表現できそうです。この自分で新しくつくった問題にも「系統的」に解くことが使えるのでしょうか? きっと表にして解いていくことで、この鶴亀算のパターンに気付くのではないでしょうか。
このような問題の応用発展について、教科書では上手にステップアップしていけるように毎時間、編まれています。しかし、これは学習者自身が自分で「ふりかえり」をして、つくりだすそのプロセスに意味があります。同じように、「わり算の問題を二種類つくろう(等分除と包含除)」では、子どもたちの思考は、ただ「あてはめてみる」だけのことで、そこに自分なりの挑戦が生まれず、わくわくしません。
「自分で数字を変えてみたら、おもしろい決まりをみつけたよ」「これなら、どんな時にも答えは出せるはず」「もし、こうなったらどうだろう?」と、さらに知りたくなる。そんな子どもを育てていきたいものです。そのためには、「ふりかえり」の前段階でその問題の良さや解くコツやひらめきく節目わかっていると、応用発展しやすくなります。
学びとは知識の吸収で終わらせるのではなく、ものごとを本当に理解したいという願いを持ち、飽くなき追求を楽しむプロセスそのものなのです。問題を解いて終わりにせず、振り返り、さらに応用発展していくときに、子どもたちは、まだ見ぬ数学世界を求める冒険者となっていくのです。
あなたが、来週から授業で扱う学習内容の中に、「ふりかえり」の応用に値する問題はありますか? もしあるとすれば、子どもたちが自由にふりかえりを使い、算数・数学を探求する機会を与えられそうですか?
★ 解答
計画段階から進めましょう。この問題では「何匹のトカゲを持っていますか?」が求めることです。問題条件から分かっていることには「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」「トカゲの数+カブトムシの数<ミミズの数」「全部で12の頭と26本の足がある」です。これらの条件から、使えそうなことはなんですか?
ウーン。悩みます。私はミミズには頭はあるけれど(どちらが頭なのかは、よく知りませんが)、足がないことに気付きました。トカゲは足が4本、カブトムシは足が6本あることを思い出しました。これらは使えそうです。
私の予想は、頭の数と足の数を式で表してみると、何かきまりが見えてきそうだと考えました。頭の数の計算は、トカゲの頭+カブトムシの頭+ミミズの頭=12頭 です。
ミミズは足が0本です。トカゲの足の数である4の何倍+カブトムシの足の数である6の何倍<ミミズの頭 が成り立てばいいんですね。これなら、私にも、小学生にもできそうです。系統的に一つずつやっていけばいいだけですから。
トカゲとカブトムシの足を足して26本の式を見つけてみましょう。もし、トカゲ1匹ならば、4本×1匹=4本 26本―4本=22本 カブトムシは22本÷6本 割り切れません! カブトムシの足が小数点になってしまいます。五体満足出なければならないから、自然数になります。アァ! 気が付きました。26本の足の中に、カブトムシの足のかけ算を見つければいいんだ!
さっそくやってみます。6本×1匹=6本 6本×2匹=12本 6本×3匹=18本 6本×4匹=24本 アァ!この6本×4匹=24本はダメですね。これだと、トカゲの足が2本しかなくなってしまいます!
足の数からカブトムシが1匹、2匹、3匹のときと絞られました。それぞれ確かめてみます。
カブトムシが1匹の場合。6本×1匹=6本 足の総数は 26本―6本=20本 トカゲの数を求めると 20本÷4本=5匹 アァ!これだ! カブトムシが1匹、トカゲが5匹なら足の数は26本になります。ミミズの頭の数を□の式で表すと 1頭+5頭+□頭=12頭 ミミズは6匹だ! できた! トカゲ5匹、カブトムシ1匹、ミミズ6匹 です。
しかし、条件文に「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」とありますので、トカゲとカブトムシを足すと 5匹+1匹=6匹 ミミズは6匹ですので多くはありません。ウーン! 他に答えがありそうです。 諦めそうですが、カブトムシの数に戻って、もう一度考え直してみます。
カブトムシが2匹の場合。6本×2匹=12本 足の総数は 26本―12 本=14本 トカゲの数を求めると 14本÷4本=わりきれません! この組み合わせはダメでした。
カブトムシが3匹の場合。6本×3匹=18本 足の総数は 26本―18 本=8本 トカゲの数を求めると 8本÷4本=2匹 アハ! 割り切れました。
さっそく、条件文に照らし併せて確認してみます。「トカゲとカブトムシを足した数よりも多くのミミズを持っている」とありますので、トカゲとカブトムシを足すと 3匹+2匹=5匹 12頭―5頭=7頭 アハ! ミミズは7匹です! トカゲとカブトムシの合計よりもミミズが多くなりました。
答えは、ロス君は、トカゲを2匹持っていた!です。
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https://projectbetterschool.blogspot.com/2019/03/blog-post_10.html
同じことは、他教科でも言えますね!
返信削除例外はあるかな?